久保允誉氏

ニーズにあった接客ができるか
リアル店舗の存在感は
そこにかかっている
(株)エディオン
代表取締役社長
久保允誉氏
Masataka Kubo

昨2012年に「イシマル」「エイデン」「ミドリ」「デオデオ」を全国統一ストアブランド「エディオン」に変更。設立から10年を経て、エディオンは大きな節目を迎えた。大きな転機を迎えた家電業界の中にあって、自らの存在を再認識し、新たな事業展開にチャレンジしていく同社。2013年に向けての意気込みを、久保社長に聞く。

 

社員が同じ意識を共有し
連帯感をもったことが、
エディオン統一への
力になりました

 

社員の気持ちをひとつにして
「エディオン」へブランド統一

── 2012年、エディオンの10周年という節目の年にストアブランドを統一されました。まずその経緯と手応えをお聞かせください。

久保 2002年にデオデオとエイデンの持株会社としてエディオンを設立しました。当初はそのスケールメリットを活かしてバイイングパワーを上げる、サービスを強化する、物流の連携をしながらコストを下げるということを主眼においてまい進して参りました。その後近畿圏のミドリ電化、関東圏の石丸電気も一緒になりましたが、広島の第一産業を前身とするデオデオ、そして名古屋の栄電社を前身とするエイデンを含めてそれぞれ長く地域のお客様に親しまれてきた店名をもつ企業ですから、それぞれの店名はそのままとして取り組んで参りました。

ストアブランドの統一は、当初から10年をめどに行いたいという思いはありましたので、時間をかけて段階的に機構改革を行いながら、併せて、情報システムの統一や物流の統一などを進めてきました。そして、昨4月に人事制度の統合を終えたことにより全ての制度が一本化されました。また、昨4月1日には経営理念を、「効用の提供」と「完全販売」による「お客様第一主義の実現」に改めました。

── あらためて経営理念について、ご説明いただけますか。

久保 「効用の提供」とは、ただ商品を売るのではなく、商品のもつ価値を売るということ。テレビならば、お客様が買われるのはテレビで見られる映像コンテンツだという考え方です。また我々が販売している価値は、買っていただいた商品が壊れてしまったらゼロになる。ならばすぐに修理をさせていただき、常に最良の状態でお客様に使っていただくことこそ「完全販売」だということです。それをいかに少ない費用で実現するかも重要です。

「お客さま第一主義の実現」とは、お客様が叶えたいこと、困っておられることを理解し、お客様にしっかりとご説明して解決すること。ただマニュアルどおりに説明するのでなく、状況をみてとっさに対応できる社員であれば、本当にお客様に支持していただけます。

そして4月1日以降ずっと、毎週月、火、水曜日に店長会議を行ってきました。最初の3ヵ月は「効用の提供」とは、「完全販売」とは、「お客さま第一主義の実現」とは何か、具体例を挙げて徹底的に浸透させてきたのです。テレビ会議で店長に、店頭で実際何を行っているのか、展示は、接客は、また社員ひとりひとりが理解できるようどのように話をしているのかと尋ねました。身近なことについても、いろいろな話をしながら浸透させました。

たとえば清潔について、先代の母、私の祖母がいつも「我々は商品を通じて商売をさせてもらっている。だからピカピカに磨かにゃいけん。売り物には紅をさせ」と言っていたこと。また挨拶。紙屋町(広島)に本社があった頃、私がある朝入り口でお客様をお迎えしている横を社員が急いで通り抜けたので、大事な仕事を忘れていると注意し、あらためてお客様の前に戻して丁重にご挨拶をさせたことがありました。お客様は感激し、こういう会社なら信頼できると言ってくださったのです。

こういうことを朝礼や店長会議で実例を挙げて、ずいぶんと時間をかけて言い続けてきました。おかげさまで今は社員がしっかりと理解してくれています。

こうして社内の意識統一をすることに時間をかけたことで、連帯感が生まれ、全社員が同じ目標に向かって進んでいると実感しています。ストアブランドの統一にあたっていいスタートが切れたと思っています。

── セリーヌ・ディオンさんのコマーシャルも印象的ですね。

久保 私自身が彼女のファンでしたので、ダメでもともとと当たったところ、受けてくださったのです。CFではシンプルにエディオンをアピールしようと、歌で印象づけるかたちにしたのです。ピアノを入れるアイデアもありましたが、セリーヌさん自身がこの方がいいといってアカペラで歌ってくださって「私、セリーヌ・エディオン」というのはアテレコで入れるつもりでしたが、現場での録音です。彼女は耳が非常によく、すぐに日本語の発音を覚えてくださいましたから。

とにかく「エディオン」の名前を多くの方に覚えていただくため、大々的にプロモーションをしました。秋葉原のエディオンAKIBAに掲げた大きなポスターも効いているでしょう。

転機を迎えた家電業界
新たな価値をどう提供するか

久保允誉氏── タイミングを同じくして、家電業界そのものも大きな転機を迎えました。「効用の提供」がまさに重要視されるときですね。特にテレビ販売では、アナログ停波とエコポイントの追い風でなかなか価値訴求が実現できませんでした。お客様はデジタルテレビをお持ちなのに、まだブラウン管テレビと同様の使い方しかご存じありません。

久保 スマートテレビはこれからいよいよ本格化します。4Kテレビも出て、ビデオやカメラもこれに対応してきます。市場も変わってきますから、ますます商品の価値や機能をしっかりとお伝えしなければなりません。新製品をただ価格だけで訴求していたのでは、新しい商品の価値はわかってもらえず、市場も成長しません。

最近、アメリカでは総合スーパーで60インチのテレビがセルフで売れるようになっています。家電専門店に行かなくても、普段行っている総合スーパーで家電を買えばいいという意識の変化かと危機感を覚えています。さらにネット販売もセルフのようなもので、そちらにもお客様は流れていきます。家電専門店はお客様をそうしたチャネルにどんどんとられてしまう。だからこそ、ますます接客が大事だということがわかります。

アメリカの家電レポートを見ていると興味深い結果があります。ネットでの販売価格が2.5%安いと40%の方がそちらで買うそうです。そして5%安いと60%、20%安いと87%の方がネットで買うのだそうです。しかし小売店で接客を受けると、単価は13%上がるのだそうです。接客がきちんとできれば、お客様はいいものを買われ、単価が上がる。レポートでは、小売業の基本は接客であると締めくくっていました。

お客様にいかに効用を提供するか、お客様のニーズにあった接客ができるか、リアル店舗の存在感はそこにかかっていると思います。

── お客様ひとりひとり違うニーズ、違うお困りごとをお持ちですから、そこを見分けてきちんと対応できるスキルが必要ですね。

久保 私どもの店舗にご来店くださるお客様は45歳以上の占める割合が高く、シルバー層の方も多い。そういう方たちにとって近くで便利な店、親切な接客で丁寧にサービスを施してくれる店ならば、ご支持いただけると思っています。おかげ様で当社では、来店客数がこうした市況でもずっと右肩上がりで、レジ客数とともに二桁の伸びです。今後もしっかりした接客とリーズナブルな価格設定がポイントだと思います。

あとはいかに商品の垣根を取り払った展開ができるか。ネットワークの切り口でいろいろな商品がつながってきますので、そこを店頭ではどう表現し、社員はわかりやすく接客できるかです。

新事業を積極推進し
さらなる成長を図る

── 新たなカード戦略も展開されました。

久保 いままでの「エディオンカード」に加え、新たに「あんしん保証カード」を始めました。「エディオンカード」は、それまでのハウスカードがなかなか伸びなかった時に、お客様に本当に喜んでいただけるカードのあり方を追求し、どういう機能が必要かと社内で議論したところ、長期の保証サービスを安価で受けられるものがいいという結論になり誕生しました。現在では、会員数430万人と国内有数の流通系提携カードに成長しています。

そして次の段階として、お客様がもっと手軽に加入できるカードとして誕生したのがクレジット機能を持たない「あんしん保証カード」です。年会費は無料、3万円以上のご購入で3年、5万円以上のご購入で5年、10万円以上の冷蔵庫・エアコンは10年の保証がつきます。対象は21品目で、消耗品のポイントもつきます。

エディオンカードの平均単価は14,000円ほどですが、エディオンカード非会員の方は7,500円でした。それがあんしん保証カードを導入したことによって、平均単価が12,000円になりました。買い上げ率や単価が上がり、リピート率も上がった。非常に大きな効果がありました。2013年3月までに200万人の加入を見込んでいます。

次の段階としては、あんしん保証カードからエディオンカードへステップアップしていただく方策が必要です。それによってよりお客様の固定化が図られるものと思います。

── エコ・リビングソーラー事業の取り組みも興味深いですね。

久保 スタートして3年が経ちましたが、大きく成長しています。リフォームや太陽光発電システム、オール電化といった業務を手がけておりますが、合計しますと業界ベスト10に入る程になりました。

リフォームを注文される方は築10年以上のお宅がほとんどですが、一番多いのはトイレのリフォームです。トイレがきれいになると、3ヵ月くらいして次はお風呂、次はキッチンとご注文が連鎖するケースが多いのです。ひとつ直すと他の部分も気になるということなのですね。こうしてベースができると、前年比の伸びが大きくなります。2012年の10月、11月の伸びは前年比130%ほどになりました。その前年でも170%ほどだったのですが、引き続き好調に売上げを伸ばすことができています。

さらに伸長させるには、受注や施工の体制、ネットワークをどうつくるかが重要になります。トイレのリフォームなどは、ネットでの受注も予定しています。これまでは見積もりのため一度現地へのご訪問が必要でしたが、スマートフォンで写真をとって送っていただくと、ご訪問することなく簡単に見積もりが出せるというものです。

こうした新しい展開もしながら、連鎖商品としてリフォームを伸ばしていきたい。リフォームを一度ご注文されると、ほとんどのお客様は家電を当社で買ってくださるようになります。社員にお客様がつき、より固定化することができるのです。

さらに「エディスマ」というエネルギー管理システム事業も行っています。集合住宅向けの「BEMS」や一般家庭向けの「HEMS」など、電力使用量の監視・制御ができるサービスです。ネットを通じてパソコンやスマートフォン、タブレット等で電力使用状況を確認。また、太陽光発電システムとの連携や、電力使用状況に基づいた機器制御もでき、さらには電力消費データから、将来的には電力使用の最適化を図るための「省エネ・節電コンサルタントサービス」も提供していきたいと考えています。設置する機器費用の補助金認定も受けられますので、さらなる伸長を期待しています。

── リフォームという中では、ホームシアターもひとつの商材になりますね。

久保 大画面、高精細のテレビが伸びてきていますから、当然次は音、ホームシアターの需要も期待できます。リビングテレビをどう提案するかがポイントですね。

サービス事業はいろいろ行っています。10月からは新サービスとして、AV機器の配線まとめサービスやエアコンのクリーニングに加えて新たに洗濯機のクリーニング、ファンヒーターの使い始め点検や季節終わりに残灯油を抜いてフィルターや芯の掃除を行うお仕舞いパック≠ネども行っています。これらはネットでの販売や、店頭でもそれぞれのサービスを単独で販売するようにしました。修理もネットで受け付けています。商品のみならずサービスの販売へ、より効率よく展開していきたいと思っています。

また2013年度中にはリサイクル事業も始めますが、これは今後安定した事業になると見ています。数年前に知り合った外国の方がリサイクル事業関連の仕事をされていて、「都市鉱山」という言葉を教えてくれました。家電店が扱う商品にはゴールド、シルバー、銅、レアメタル、といった資源が含まれており、それを自社でしっかりリサイクルすればひとつの事業になるというのです。私はすぐ担当者に調査を指示し、その後、事業化することにしたのです。今後は、家電製品だけではなく、太陽光発電システム、リチウム電池など、いろいろなものを処理しなくてはならない大きなマーケットになっていくと思います。

思い切った手を打ち
先の読めない時代を生き抜く

── いよいよ2013年の幕開けですが、これからの1年間をどのように展望されますか。

久保 これは大変難しいですね。経済アナリストの方々などともお話をさせていただきますが、皆さん2013年は読めないとおっしゃいます。我々が今まで経験したことのない時代が来ると。

私どもも今の課題に対して早急に判断を下して対応していかなければなりません。ここで思い切った手を打たなければ、5年先の未来も描けないと思っています。当社は他社に比べて固定費が高くなっています。まず統合優先、ブランド構築優先でやってきましたから、今後は生産性、効率性の改善に向けて思い切った手を打ち、改善しなくてはと思います。

今はまだ政治の動向もどうなるかわかりませんし、経済対策も不透明です。消費税の問題もあります。ただ需要は7兆円くらい、2009年頃の水準でエコポイントなどのない通常ベースに戻っていると見ています。そういう中で、何に集中していくか、もう一度整理するいい年になると思います。

楽観視しすぎては危険ですが、必要以上に悲観することなく、新たな事業展開も交えて積極的にやって参りたいと思います。全社気持ちを新たに、エディオンとしての再スタートを切りました。力をひとつに、これからもお客様価値の創造にまい進して参りたいと思います。

◆PROFILE◆

久保允誉氏 Masataka Kubo
1950年2月18日生まれ。78年早稲田大学商学部卒業、同年4月第一産業(後のデオデオ、現エディオン)入社。81年常務取締役、87年専務取締役就任、91年6月代表取締役副社長を経て92年4月代表取締役社長に就任。2002年3月、株式会社エディオンを設立し、代表取締役会長に就任。2003年より代表取締役社長(現任)。また98年よりJリーグ サンフレッチェ広島の代表取締役社長を務め、07年に取締役会長に就任。

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