- マーケットを元気づけ、けん引する責務
若々しいスピリットが未来を引き寄せる
- ソニーマーケティング(株)
- 代表取締役 執行役員社長
- 河野 弘氏
Hiroshi Kawano
2012年4月にソニーマーケティング社長に就任した河野氏。ソニー・ファンづくりとエンジニアのこだわりのものづくり、両者の歯車を回す“現場力”の徹底強化を打ち出し、取り組みを加速する。グループを横断したコラボレーション企画や人的交流など、ソニーの強みを活かし、かつ、新しい時代に応えられるマーケティング体制も着々と強化。市場創造へリーダーシップを発揮する河野氏に、新しい年へ向けた意気込みを聞く。
ユーザー参加型の仕掛けが
これからますます重要になる
ソニー・ファンをつくる
現場力を徹底強化
── 4月1日に人事異動が行われ、ソニーマーケティングの社長にご就任されました。米国でのご経験も長いのですが、日本市場に対してはどのような印象を持たれましたか。
河野 本当に厳しい状況にありますね。そこで、ソニーが何を果たしていかなければならないのか。責任の大きさも痛感しています。今、市場に求められているのは変化≠ナす。それは、現在の延長線上では起こすことはできません。新しい動き、商品、提案が必要とされる中で、ソニーに寄せられる期待の大きさを強く感じています。
ソニーはメーカーですから、何よりまず、我々の想いをきちんと商品に込め、完成度を高めていくことが大切。そして同時に、ものづくりに対するわれわれのプライドを、マーケティングやセールスなど、現場に携わるあらゆる者が共有していかなければなりません。
商品に込められたエンジニアのメッセージをお客様にきちんとお伝えしていくために、販売店の皆さまには、商品の内覧会はもちろん、さらにその後にも、細かな商談を設けさせていただいています。地道で当たり前の活動ではありますが、非常に重要なことです。
就任以来、社員に対しては「ソニー・ファンをつくる活動に専念しよう」という話をずっと言い続けています。お客様に喜んでもらえることをやらなければならないはずが、デジタル化の流れの中で、いつしかマネージメントもだんだんと数字中心の見方になり、価値観まで変わってしまっています。もう一度、私たちが何をやらなければならないのかを再確認し、商品の持つ魅力をきちんとお伝えし、お客様がソニーを好きになっていただく活動を徹底して行っています。半年が経過し、ようやく現場の力もついてきたと感じています。
さらには、私たちが持っている強みであるゲームやミュージック、映画などグループ内にある色々な要素を、もっと当たり前のように連携してアピールできる体制も構築して参ります。
── 市場では商品の単品訴求からの脱却が指摘されていますが、ソニーグループでは色々なコラボレーションが実現できます。
河野 私がエレクトロニクスのソニーマーケティングと、ゲームのソニー・コンピュータエンタテインメントの両方を見る立場にもあることから、ゲームとエレキではすでにいろいろなことを始めています。
8月末には、爆発的な人気を集めるボーカロイドのキャラクター「初音ミク」を題材にしたゲームが発売されたのですが、同時に、ソニーミュージックからは初音ミクのCDアルバムが発売され、ソニーマーケティングからは初音ミクの書き下ろしイラストレーションを彫り込み、初音ミクの楽曲をプリインストールした特別仕様のウォークマンを台数限定で発売しました。初音ミクというスーパーコンテンツを中心に、ソニーグループそれぞれのアプローチを同時期に行い、話題を盛り上げたわけです。特別仕様のウォークマンは物凄い人気で、ミクの語呂合わせで3939台を3色、計1万1817台を用意したのですが、注文受付開始から僅か2時間ほどで完売してしまいました。
ハードウェアの視点からすれば、特別仕様にしたウォークマンは発売からかなり時間も経ている機種でしたが、初音ミクという付加価値が付き、そのメッセージがお客様に届いた瞬間に、あっという間に売れてしまうわけです。ここに、商品の売り方や価値の伝え方、ハードとソフトコンテンツを融合したパワーの生み出し方に、改めて認識すべき色々な要素が含まれています。発売から時間が経ると価値が下がるのは当たり前だと思っているのは、ハード側の人間が決めてしまったマインドセットでしかないのです。
── グループ内での人の交流も進められているとお聞きしました。
河野 ソニーマーケティングは、組織が非常にきっちりとしていて、自分に与えられた仕事はきちんとこなします。確かに、まじめでとてもいい面でもあるのですが、隣の人に口を出すといった面が、昔に比べると極端に少なくなってしまっているように思います。そこで、境界線をもう少し曖昧にしていくべきだと考えました。グループ間での人事交流もその一環になります。
大企業としてのメリットは存分に活かしつつ、スピリットだけはベンチャー企業の精神で臨んでもらいたい。ですから、若手にはもっと冒険をさせたいですし、すでに、いろいろなチャレンジをやりはじめています。一方ではまた、ソニーの成功体験を知っている、ソニーを支えてきたベテランも遠慮することなく活躍してもらいたい。このような組織内部を元気づけるような取り組みも、少しずつではありますがはじめています。
発見を次へと活かすのは
柔軟な受容力と対応力
── ソニーではグループの強みを活かし、マルチデバイスで楽しめるソニーエンターテインメントネットワーク(SEN)を展開されています。
河野 SENも現在のマジョリティはまだゲームで、ゲームのお客様がアクティブにゲームタイトルや追加アイテムをダウンロードされているのが実情です。しかし、とりわけ日本市場では邦楽がかなり充実してきていますので、音楽をマルチデバイスへ提供するサービスも、徐々に活発になってきています。ひとつの端末ではなく、タブレットでもスマートフォンでもプレイステーションビータでも楽しめる、お客様が手に入れたコンテンツの楽しみ方の幅が拡がるようなマルチデバイスの展開を、定着させていきたいと思います。
── ソニー初の4Kテレビも投入され大きな話題を集めているテレビ市場については、どのように展望されていますか。
河野 年末も引き続き厳しいですね。事業を考える上では特に、在庫の調整やそれに伴う価格などは、厳しい見方をしておく必要があると思います。しかし一方では、日本はきちんと付加価値をご理解いただけるマーケットで、当社液晶テレビ「ブラビア」でも、最上位のHX950シリーズが、かなり高価な商品になるのですが、こだわり層のお客様からの支持を獲得し、堅調な動きを見せています。価値を見出してくれるお客様がいらっしゃるのですから、やり様はいくらでもあると思います。
11月には世界初のフルサイズセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラ「DSC-RX1」を発売しました。お客様から高い支持を受けています。20万円以上する価格にいろいろな声も聞かれましたが、日本だからこそ出したくなるのです。お客様に価値が伝わり、認めていただければ、このような高価な商品でもきちんと売れていくことをモチベーションとして、取り組んでいきたいと思います。
── テレビの大画面化・高画質化の流れの中で、ホームシアターにも火がついて欲しいですね。
河野 需要を拡大するチャンスはあると思います。楽しみ方も、もっと拡がりがあっていいですね。例えば、ゲームも大画面でやると迫力が断然違ってきます。子ども楽しめるコンテンツですから、家に人が集まってくる。コンテンツの幅が拡がっていくことで、もっと面白い、注目の存在になってくると思います。
ソニーではヘッドマウントディスプレイを発売していますが、秋に開催された東京ゲームショウで、PS3と組み合わせてゲームが楽しめるようにして15台設置しました。すると、お客様からの反応は想像以上で、とても大きな反響をいただきました。購入されたお客様に対する調査からも、実に6割強の方がPS3と接続して使用されていることがわかりました。「ヘッドマウントディスプレイでゲームをすると迫力が全然違う」という声も多く寄せられています。
開発者は元々、映画というソースを楽しむことを想定して商品化したもので、もちろん、映画を楽しんでいらっしゃる方が多いのですが、実は、ゲームを楽しんでいる人がこんなにたくさんいる。自分たちの持つ固定観念に縛られていてはだめだということです。多様化する嗜好やライフスタイルに対し、提案にも幅広さが必要となります。それが、ソニーにはできるのです。
── 従来からある商品でも、捉え方やメッセージの出し方ひとつでまだまだ拡がる可能性があるわけですね。
河野 そう思います。お客様の声には色々なヒントが隠されています。商品のプランニングにも生かせることがたくさんある。すごく勉強にもなると思います。その発見をどうやって活かしていくのか。まさに腕の見せどころではないでしょうか。
「組織の境界をもっと曖昧にしよう」と言っているのも、ゲームとAVを取り上げただけでも、乗り入れられる領域、ソニーだからできる商品の組み合わせや提案がたくさんあるからなのです。8月には初音ミクバージョンのウォークマンで挑戦しましたが、お客様からポジティブな声、他のアイデアへの期待などいろいろな声があがってきており、ネットワークサービスに絡めていろいろなことを考えています。そこでキーワードとなるのが「UGM(ユーザー・ジェネレイテッド・メディア)」。ユーザー参加型の仕掛けが重要なポイントになってくると思います。もっともっといろいろなことを仕掛けていきたいですね。
── 厳しい市場環境だからこそ、けん引していく存在が必要です。お客様がソニーというブランドに求めているのは、まさにその部分ではないでしょうか。
河野 付加価値を認める日本というマーケットは大変恵まれていて、しかもそこで、ソニーはあらゆるカテゴリーで強さを発揮できています。ソニーというブランドのトータル戦略を語れるマーケットこそが日本市場であり、ここでしっかりやらなければなりません。さきほどの「DSC-RX1」をお取引先様の各社にご紹介したときにも、このように尖っていて値段が高い商品を、皆さんから「一緒に売りましょう」と言っていただき、大変心強く感じると同時に、ちょっと驚きました。
日本市場に問い掛けていく、チャレンジを行っていくためにも、エンジニアをモチベートしていかなければなりません。それをきちんと支えていくのが我々の仕事です。ブランドに関するいろいろな調査においても、最近、ソニーのランキングが下がってきていることは非常に由々しきことだと思っています。特に若者に対してもっとしっかりとしたアピールが必要です。会社ができて60年、70年と年を重ねてくれば、ブランドもだんだんシニアになってくる。そのような中でも、スピリットだけではいつまでも若々しくあり続けたいと思います。