新 晶氏

工夫を凝らして便利さ、楽しさ、
本当の価値を伝え、業界を元気に
シャープ(株)
執行役員 国内営業本部 副本部長
兼 シャープエレクトロニクスマーケティング(株)社長
新 晶氏
Akira Atarashi

テレビ販売の不振から苦戦が続く家電業界。エコポイント、アナログ停波の追い風の中、忘れられがちだった訴求の基本は、商品の価値を余さず伝えてお客様の気づきを呼ぶこと。自らこれを実践して市場を刺激し続ける新氏に、2013年に向けた意気込みを聞く。

 

単価の小さいものもしっかり売れば
積み重ねが大きな売り上げになる

 

「気づき家電」の存在感を
伝えていくことに商機あり

── 新社長は販売の現場、最前線でさまざまな工夫を凝らした展開をお得意としておられますが、昨今の手応えをお聞かせいただけますか。

 シャープは、上期に大きな赤字決算を発表し、皆様方にご心配をおかけしております。ただ私ども現場をあずかる販売会社は、商品を通じてお客様やお取引先様と関係する立場。家電業界全体で売り上げが厳しいとき、当社の商品で売り上げを足し算したいですし、そのためにお客様にどれだけシャープらしさを伝えられるかが大きな鍵になります。

テレビ販売が落ち込んで、今業界全体が苦戦していると言われています。しかし私は、いろいろな方策で活路は開けると思っていますし、それを実践しているところです。シャープではおかげ様で爆発的に売れている商品もあり、まだまだ元気を出して頑張って参ります。

こういう時代に重要なのは、お客様へ気づき提案し、新たな需要に応える家電をきちんと訴求すること。シャープではそういった商品をたくさん持っていますが、こういうものは特に、お客様の気づきを引き出す販売が必須、そうでなければなかなか買ってはいただけません。私どもが工夫を凝らすのはそこなのです。

たとえば旅行に行くと、お土産屋さんには必ず試食コーナーがあります。旅館では朝食に出した干物を売っています。何もしなければ売れないところを、こういう工夫でお客様の気づきを生み出しているのです。今の家電業界では、ともするとそういうことが忘れられてしまいます。

これまで家電の花形と言われてきた大型商品は、わかりやすい特徴をもっています。テレビは画面の大きさ、冷蔵庫は広さ、洗濯機は容量で、ある程度の使い勝手も想像できます。しかしたとえば調理家電はどうでしょう。オーブンレンジのヘルシオでつくった料理はどんな味か、カロリーはどれだけ下がるか、ただ商品を置いてあるだけではわかりません。店頭では実演もなかなかできず、お客様に商品の価値が伝わりませんが、我々がひとつひとつ見せていきたいと思います。

── 新社長お得意の、実演による価値訴求ですね。

 スロージューサーの例があります。ジューサーはもともと、夏が終わると棚の奥にしまわれがちな商品です。これを我々は、しまわずにいつも身近に置いて使う提案をします。鍋の季節に登場するおろし大根、大根をおろし金でおろすのは大変ですが、スロージューサーに入れるだけで簡単に出来上がります。ジューサーを棚にしまっていては取り出して使うのがおっくうになりますが、調理器具としていつも出しておけばいろいろな使い道があるのです。

11月の初旬に当社でお客様向けに行った合展では、私を含め社員全員で実演しました。スロージューサーに缶詰のコーンと牛乳を入れて、人の手で裏ごししたようになめらかなコーンスープをつくり、電子レンジで温めてお出ししたところ、お客様に喜ばれました。400世帯のご来場者のうち、2日間で半数の約200世帯に売れたのです。

夏に購入いただいたあるお客様は、いつもテーブルの上にジューサーを出して使っていただいており、ほこりをかぶらないようにと手作りのキルティングのカバーをつけておられる。こうなるともはや、お客様の生活になくてはならないものになります。その価値が伝われば、夏が終わっても1年中売れる商品になるのです。

当社には、この様な「気づき家電」が他にもいろいろあります。たとえば「プラズマクラスターチャーム」。これはポケットなど胸元に留めて使用しますが、その際クリップ部分にちょっとしたアクセントをあしらうと、ブローチのようなアクセサリーにも見えてきます。すごいアイデアだと思います。そんな風に販売した地域電気店様がありましたが、これも売り方の工夫で、楽しみながら販売されています。プラズマクラスターイオンが出てくるというだけでなく、本体をおしゃれに可愛らしくアピールすれば、商品の価値がまたぐっと上がる。スマートフォンをデコレーションする女性もたくさんおられますが、そういう感覚ですね。

訴求を間違えてもいけません。化粧水をセットして使える「プラズマクラスターミスト」という商品がありますが、これはプラズマクラスターイオンが出るものという訴求をまず大前提にするべきなのです。化粧水がミストになって出てくることを前面に出すと、女性向けだと思われて男性にそっぽを向かれてしまう。まずプラズマクラスターイオンを放出するプラズマクラスターチャームがあり、そこに5000円をプラスすればミストが出る機能もついて、プラズマクラスターミストが買えますよ、せっかくならこちらをいかが、と訴求する、これもひと工夫ですね。

実演によって売れるこうしたものは、実演によるアピールができなければ、お客様にその存在感や便利さをなかなか気づいていただけません。昨今の店頭では、いろいろなトラブルを懸念して実演販売の機会がなかなかありませんが、このままずっと尻込みしていては、何も売れなくなると私は思います。

エコポイント制度の追い風とアナログ停波で、テレビはずっと右肩上がりできました。しかし2011年7月を過ぎ、こうして市場が停滞してしまっている今は、次の方策を進めていかなくてはなりません。

日本の家電メーカーがやらなければいけないのは、日本のお客様目線にあったものづくりです。「気づき家電」のような、ちょっと使って楽しく便利な新しい製品をつくり、海外のメーカーには真似のできない価値を訴求していけば、活路は開けると思います。生活の中で役に立つ商品の存在が面白いのです。まだまだ普及していませんから、伸び代があります。そしてお客様に価値をきっちりと伝えることによって、途方もない伸びになると思います。メーカーはこういう商品をつくってはいますが、販売はともするとそういうものを見逃しがちなのです。しかしこういう提案ができる限り、家電メーカーは生き残れると思います。

テレビや冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの大型家電は、壊れたときや新居を構えるときでなければなかなか買われません。しかし、スロージューサーやプラズマクラスターイオン発生機のようなものは、日常の生活を楽しくする「気づき家電」です。こうしたものの存在感が、これからどんどん高まっていくと思います。また高齢化社会となっている日本では、年配のご夫婦お二人暮らしで使いやすいもの、そして使って楽しいものへのニーズも、今後ますます期待できると思います。例えば、ロボット家電COCOROBOは、こういうお客様にも大変人気です。

お客様の気づきを呼び
体感を伴う販売を

新 晶氏── 店頭も切り替えが必要です。

 私がやりたいのは、商品についてこんなに便利です、楽しいですと店頭でお客様にしっかりお伝えすること。さらにそれを、我々の代わりに売っていただいているお店の方々にきちんと説明すること。家電業界はそういうことをきちんとやる時間のないまま、エコポイントで走り続けてきました。売れていた時代はいいですがそうではなくなり、売っていく時代になった今は価値観を変え、売り方を変えないといけません。

小さいものでも、しっかり売っていけばいいのです。たとえばプラズマクラスターチャームのような単価2万円に満たないものでも、今では19インチのテレビと同じくらいの売り上げになります。こういうものに店頭で人員を配置しないのは、もったいないことです。

ものを買う時、お客様は品定めをしますね。スイッチを入れたり、触ってみたりして、いろいろ試して初めて買うかどうかを決めます。そういう時に店頭にあるのがモックアップでは、ほとんど何もわかりません。買いたい人は買ってくださいというような売り方だと、売れるものも売れません。そういうことを真剣に考えないと、家電メーカーは早晩だめになってしまうと思います。

品定め、実演販売、衝動買い、発見的購買という言い方がありますが、当社には「MSTNK作戦」という言葉があります。お客様に見て、触って、体感していただき、納得して買っていただくということです。社内ではそういう流れで営業の戦略を立てていくのです。ほかの業界ではどこも実践していることですね。車は試乗して、洋服は試着します。電化製品だけが、価格先行の売り方になってしまっているのではないでしょうか。値段に走る前に、楽しみ方を売ればいいのです。

気づきというのも大事です。あるご販売店では、今はほとんど需要がないと思われているFAXで売り上げを挙げています。今や店の隅に追いやられがちのFAXをエスカレーター前に展示し、レジ前にはロール紙を置いています。お客様がレジに並ぶ際にふとロール紙がなかったことを思い出される、またエスカレーター前で見かけて最新機種が安いから買おうかという気になる。つい手に取って見たくなる展示の仕方をしているわけです。これが発見的購買につながります。

こういうお店は、うまい演出によって稼いでいるのです。テレビが前年比以下でも、こういうもので補って、結果的に前年比アップを達成するわけですね。ひと工夫、ふた工夫で売れば、単価1万円のものを10人にご購入いただいて10万円の売り上げにできる。いつも10台売れていた冷蔵庫が9台しか売れなかったとしても、このおかげで売り上げをカバーすることができます。

ものの売り方をおろそかにしてはいけないのです。エコポイントもあって、これまで業界はテレビや冷蔵庫のような大物狙いばかりして、こういう気付き家電をしっかりと売ることを忘れてしまったと思います。ひとつひとつに着目して、工夫を凝らして売ることができれば、広い売り場面積も無駄になりません。そうなれば日本の家電業界は、家電メーカーの技術によってもう一度潤う、必ず潤うと私は思います。

商品を知る、お客様を知る
そこに工夫が生まれる

── 価値訴求を実現する売り方、そのアイデアを生み出すには、どうすればいいのでしょうか。

 生活することです。アイデアはそこから出てきます。私はいつも商品と向き合い、お客様目線で使う。すると実感が伴い、売り方や小道具のアイデアが浮かぶのです。

私は事業部長としてもの作りにも携わってきましたが、今も商品企画の途中段階でここを直せ、あそこを直せと事業部に言います。実際に営業の意見がとおった商品が出てきたら、何が何でも売らなくてはならないのですが、何より楽しい。だから売れるようになるのです。

以前は事業部がつくる、営業が売る、と役割分担が決まっていました。しかし営業としても、最初からいい形で商品にしたい。ですから発売前の準備期間には、事業部とともに徹底的なプロモーション活動も行います。もちろん出した当初はあまり売れない場合もありますが、それに対して色々なところを掘り下げ、さらにお客様目線を徹底していく。すると必ず売れていくと思います。

シャープはロボット掃除機もある、スロージューサーもある、プラズマクラスターイオン発生機もある。他のメーカーにはない商材をもっています。系列の地域専門店さんが、テレビが売れなくなりどうしようというとき、こういう商材の存在が大きいのです。だからシャープの地域電気店さんは、非常に元気です。

シャープの「モスアイ」パネルを搭載した液晶テレビは、発売以来、地域電気店さんでテレビの売り上げの5割を占める状況になっています。これは前モデルと10万円以上の価格差があるのですが、画面に映り込みがない、デザインがいいということでお客様に支持されます。地域電気店さんのお客様層も年配の方が多く、これからはきれいな画面で見たい、目が悪いから見やすい画面がいいというご要望が多いのです。

地域電気店さんでは、「モスアイ」テレビの画面のきれいさ、また音のよさをどんどん訴求して、お客様にご体感いただいています。テレビ不振と言われている昨今ですが、新しいテレビには新しい価値が生まれています。そこをしっかりと訴求していただき、これからも自信をもって売っていただきたいと思います。

◆PROFILE◆

新 晶氏 Akira Atarashi
1974年3月シャープ(株)入社。2003年6月シャープエレクトロニクスマーケティング(株)常務取締役 西日本広域第二統轄就任、2005年4月同社専務取締役 西日本広域第一統轄就任、2008年8月シャープ(株)健康・環境システム事業本部 副本部長 兼 国内営業統轄就任、2009年10月同副本部長 兼 冷蔵システム事業部長就任、2011年10月シャープ(株)執行役員 国内営業本部長就任。2012年4月より現職。

back