ペア ラスムセン氏

プラスオンとなる新しい市場をつくり
販売店とのWIN─WINを目指す
(株)グループセブ ジャパン
マネージング ディレクター
ペア ラスムセン氏
Per Rasmussen

調理器具や生活家電を全世界で展開するグループセブにおいて、日本での展開を担うグループセブ ジャパン。ティファールのブランドで昨今注力する家電製品は、日本のニーズを反映させ大きなヒットを生み出した。新市場の創出で日本での展開を推進する同社のラスムセン氏に、その意気込みを聞く。

 

日本のニーズに合うものを作れる会社は、
今後ますます成長し、他の追随を許さない

 

新たな市場をつくり
ナンバーワンを目指す

── 日本でのこれまでの歩みをご紹介ください。

ラスムセン グループセブは、世界で初めての安全弁付きのプレス成型圧力なべや、こびりつかないフライパンを手がけてきたフランスの企業です。いくつかの企業を傘下に入れて多数のブランドを擁し、調理器具や生活家電などをグローバルに展開しています。

日本では75年にセブ ジャパンを設立して圧力なべを導入しましたが、97年に社名をグループセブ ジャパンとし、現在はティファールとラゴスティーナの2ブランドを展開しています。当初はセブの調理器具や電気製品を展開していましたが、徐々に内容を整理して98年にセブをティファールにブランド統一しました。そこから売上げが増え、14年間で7倍になっています。

── 日本における主力製品は。

ラスムセン 「取っ手のとれるティファール」や圧力なべといった調理器具が売上げ構成比の2/3を占めており、主流と言えるでしょう。残る1/3が電気製品ですが、ここ5〜6年で拡大し、比率も上がっている状況です。

日本の家電市場は、ほとんどのカテゴリーで、大手の総合家電メーカーが2〜3社で70%ほどを占めている状態です。残りのシェアも、半分は低価格商品が占め、外国のメーカーはどう頑張っても入ることはできません。ですから私たちは新しいパイをつくり、その100%をとりたいのです。1年目は100%であっても、次の年からは他メーカーが参入してきますから、パイをどんどん大きくしながらマーケットシェアを守っていくのです。

私たちは電気ケトルで新しいパイをつくりました。今もナンバーワンシェアをキープしており、今後もこれを絶対に守っていくつもりです。電気ケトルはヨーロッパでは30年前から存在し、生活に溶け込んでいるものですが、日本にはありませんでした。日本のメーカーがつくったジャーポットが日本のコンシューマーのニーズに非常に合っていたからです。私たちはそこに違うニーズを想定し、電気ケトルを発売したのです。

そこで既存のジャーポットの市場を壊す、シェアを奪うという考えはありませんでした。最終的に残念ながらジャーポットの市場は下がってしまいましたが、むしろ維持されていればジャーポットのメーカーがケトルをつくる必要がなく、私たちも楽でした。そういうわけで、電気ケトルはティファールの電気製品を代表するものとなっています。

日本市場のニーズを満たす
独自の商品を展開する

── 日本になかった電気ケトルを、どのように導入したのでしょう。

ラスムセン 私たちがまず想定したのは、ヤカンの市場です。調理器具にとってガスコンロを奪い合うライバルですから。発売を決めてから3年間かけ、色々な調査をしながら製品を何度も作り替えました。

ヨーロッパの電気ケトルは、イギリスのヤカンの容量を基準とした1.7ℓが一般的ですが、日本では大きすぎます。そこで日本の100Wの基準でも早く沸かせるよう、まず本社の開発担当者が小さいものを作って出したのが最初です。

その次、2006年に導入した「アプレシア」が、私たちが長年かけた日本での調査の結果を踏まえ、日本市場向けに導入した自慢の商品です。これは0.8ℓの電気ケトルですが、開発の際想定したユーザー像は、新しいマンションに住んでいる35〜45歳の女性のイメージ。電気ケトルのユーザーは女性が中心、購入決定をするのもほとんど女性ですから、デザイン性を重要視しました。するとおのずと製品のプロポーション、大きさや高さが決まってきます。そこで形を定めていった結果、0.8ℓの容量になったのです。

おかげさまでこの商品は爆発的に売れ、これを皮切りに日本に電気ケトルの市場が誕生することになりました。そしてこれは今もなお、市場を代表する存在です。この新しいパイをつくれたことで、日本における私たちのマーケティングの基盤が確立したと思っています。10年前はゼロだったところに、年間380万〜430万個になる市場を作り上げたのですから。これを実現できたのは自慢です。

── 日本のコンシューマーのニーズを吸い上げて、独自の商品を作り上げたのですね。

ラスムセン 私は日本に来て25年、その間いくつかのメーカーも経験した中で、日本のコンシューマーの要求の厳しさを感じてきました。電気ケトルではホコリが入らないよう注ぎ口にフタをつけましたが、こうした細かな配慮が日本では求められます。色の好みも独特で、ヨーロッパでは人気があっても、ちょっとしたニュアンスが日本のし好に合わないとまったく売れません。ですから日本での商品開発は、日本のコンシューマーやスタッフの意見を聞くことが非常に重要になります。

グループセブには商品がたくさんあり、全世界で展開していますが、日本で発売しているのはその5%にも満たないでしょう。たとえフランスでどれだけ売れても、日本の市場に合わなければまったく売れないからです。

日本国内の売上げが小さかった頃はできませんでしたが、4〜5年前からはこのように日本のニーズに合わせてゼロから商品を開発できるようになりました。開発途中では本社側からいろいろ言われもしますが、できあがった商品は他の国でも販売され、よく売れるのです。「アプレシア」も小さすぎると言われましたが、今や25カ国で売られています。

日本のコンシューマーの好みはうるさい。けれどもその方向性は正しいのです。いいものを提示できれば確実に買っていただけます。私たちは日本でコンシューマー調査を繰り返し、そうした志向を細かく吸い上げていますが、そういう意見は、要するに他の国でも通用するのです。

こうした厳しいニーズは、開発の良い原動力になります。そして日本のニーズに合う品質のものを作れる会社は、これからますます成長することができると思います。そうすると、ヨーロッパの他のメーカーは追随しにくくなりますね。グループセブにとっても、日本市場はますます重要なポイントになってきており、今後さらに注力することになると思います。

── 今後の新しいパイは。

ラスムセン これから日本市場に作ろうとしているパイは、フードプロセッサーなどの調理準備家電です。既に存在はしますが、どのメーカーもあまり注力していないようです。プロモーションも、マスコミへのPRも、消費者への啓蒙もほとんど行われていません。その大きな理由のひとつには、日本の風潮として、包丁が使えないと恥だというところがあるようですね。しかし若い方々は独身、既婚に関わらず少し考え方が違い、ここを啓蒙する余地はあると考えています。

グループセブは世界で最も大きい調理準備家電のメーカーであり、いろいろな国で商品を展開していますが、国によってニーズはまったく違います。刃やモーター、回転スピードなどに違いがあり、すべてにおいてさまざまな技術を持っています。だから日本に合ったものも必ずつくれるはずなのです。問題は、日本に合うものは何かを見極めること。それが一番難しいポイントです。

調理準備家電についても、他のメーカーのマーケットシェアを奪うのでなく、新しいマーケットをつくりたいのです。最終的にコンシューマーに買っていただくわけですが、その前にご販売店に扱っていただかなくてはならないからです。ご販売店では、私たちの商品を扱うとなると、他のメーカーの扱いをやめることになりますね。しかしその分の売上げがなくなってしまったら、ご販売店にとってはまったく意味がありません。けれども新しいカテゴリーがつくれるなら、ご販売店にとってもそれがプラスオンのメリットになる。そういうことも当然意識しているのです。

新しい市場をつくること、また眠っているカテゴリーを活性化させること。そういうことを意識して、ご販売店にとっても、できることなら競合メーカーにとっても、WIN-WINの状態をつくりたいのです。

ペア ラスムセン氏新たなアプローチで
ティファールストアを展開

── 現在の日本での販路は。

ラスムセン 調理器具の販売の割合が高いですから、現在は生活量販店やホームセンターの占める割合が高いですね。それでもここ6〜7年で見ると、家電の売上げが大きく上がっており、それに伴って家電量販店の占める割合もどんどん上がっているところです。私たちは日本では昔からホームセンターとの付き合いがあり、調理器具では大きなマーケットシェアをとっています。そこではティファールブランドが認知されており、家電も展開しやすい状況でした。家電量販店で展開できるようになったのは、最近のことです。

ディストリビューションを始めたのは8年ほど前ですが、ホームセンターでティファールの調理器具と一緒にアイロンなども置いていただきました。そこでティファールの調理器具のファンであるコンシューマーの間で家電製品も使ってみようということになり、売上げが徐々に上がり拡がってきました。そしてようやく家電量販店でもお取り扱いいただけるようになったのです。

日本の市場に新しいメーカーやブランドが入る際は、非常に高い壁が存在し、どこにも扉はありません。参入するのは非常に難しく、時間がかかります。それはどんなカテゴリーでもそうだと思います。今ようやく私たちはここに入ることができ、その壁が他のメーカーを阻んでいると思うとありがたいですが。

日本の市場には規制があるわけではなく、厳しい法律が存在するわけでもありません。ただブランドが無名であるとか、コンシューマーのニーズに商品が合っていないとか、ヨーロッパ向けに展開していたマスコミ施策が日本のマスコミには合わないとか、そうなるとまったくだめで、全部変えなくてはならないのです。そこには正解がなく、何度も繰り返してさまざまに変えていかなくてはなりません。すると売上げをつくる前にお金が必要になってしまいます。

そしてどれだけ準備をして戦略を立てても、運の神様がついていないとだめです。神様は予約できず、いつ会えるかわかりませんが、それでも私たちは何度か会うことができたと思っています。それは、いつ会ってもいいような準備ができており、より多く機会をつくれたということでしょうか。

── 二子玉川に出されているティファールストアは、どんなアプローチなのでしょうか。

ラスムセン ティファールストアはこれまで、アウトレットモールに出店してきました。全社の方針として、日本も含めて全世界でティファールストアをつくることになったのを受けてのことで、8年前に御殿場で1ヵ月限定で出店したのが最初です。ここで信じられないほどの売上げをつくれたのは、正直想定外でした。お客様はそれだけティファールを支持してくださっていたのです。

家電量販店ではカテゴリー別に商品が並んでいて、ティファールはなかなか見つかりにくい状態です。コンシューマーとしては、ブランドのすべての商品が見たい、そこから選びたいという欲求がありますから、それを叶えるために半分はショールーム的な展開として、私たちが手がけているすべての商品を見ていただけるスペースをつくる。それがティファールストアです。だいたい年に2店舗くらいずつ出店して、徐々に売上げを増やしており、アウトレットモールに11店舗あります。

これまでは地方のアウトレットモールを中心に出店してきましたが、このコンセプトをもっと町の近くで展開したのが二子玉川のストアです。これも3ヵ月間の短期出店ですが、ティファールストアというより、「取っ手のとれるティファール」の新製品発売と同期させてのプロモーションストアであり、テストケースの意味合いが強いものとなっています。

これがもし成功したら、例えば来年電気ケトルの新しいシリーズを出す時に、また同じようなプロモーションストアを数カ所に出店するかもしれません。これは新しいチャレンジであり、現時点でどんな結果になるかはわかりませんが、興味深く見守っていきたいと思います。

◆PROFILE◆

ペア ラスムセン氏 Per Rasmussen
1959年生まれ。デンマーク出身。日本に25年滞在し、数々のヨーロッパの一般消費財ブランドマーケティングに携わる。2003年より現職。

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