- いつもお客様のそばへ行って
お客様を知る。そこから始まる
- オンキヨーマーケティングジャパン(株)
- 代表取締役社長
- 大瀧正気氏
Seiki Ohtaki
従来から注力してきたピュアオーディオ、AVのカテゴリーに加え、イヤホン、ヘッドホンの分野にも新たに注力していくオンキヨー。新規顧客層の掘り起こしを目指し、新たなステップを力強く踏み出している。新商品導入にあたっての近況を、大瀧氏に聞く。
新しい「もの」の提案ではなく、
何が「できる」かの提案が必要
お客様のそばへ行き
もっとお客様を知る
── 前回ご登場いただいたのは2年前ですが、あれから様々な状況ががらりと変わりました。
大瀧 特にお客様層が変わりました。オーディオ協会が主催する「オーディオ&ホームシアター展」でも、以前はオーディオやAVのマニア層が中心でしたが、昨今ではこれまであまり見られなかった若い方や女性も増えています。スマートフォンの普及が大きく影響しているのですが、その結果、音楽を聴く方は大変増えているのだと実感します。
2011年7月のアナログ停波でテレビの宴≠ェ終了し、テレビが大画面・高精細になってみると、どうも音は満足がいかないという声が聞こえています。車のアフターマーケットのような様相ですね。そこにビジネスチャンスがあると見ています。ピーク時に比べ店頭のお客様は少なくなりましたが、百貨店などでも高単価な商品に活気が出てきており、徐々にお金がまわってくれば様相は変わるのではと思います。
商品まわりでは、新たな流れとしてネットオーディオのカテゴリーが誕生しました。ネットワークの浸透とともに配信コンテンツの存在感が大きくなっており、ハードとソフトの融合が、車の両輪のように定着してきたと思います。特にハイレゾの再生がオーディオファンの間でしっかり認識されるようになりました。コンテンツ配信はオンキヨーも先頭集団でやっており、他社も参入してますます盛んになっている状況ですね。ただ、黒物に対するお客様の関心がアナログ停波以前より薄れていることは問題です。我々はそこに問題意識をしっかりと持って、やり方を変えていきます。
── ネットワーク、音楽配信はオーディオマニア層に定着しつつありますが、スマートフォンユーザーにはどうでしょうか。
大瀧 我々が目指すコンセプトは、いつでもどこでも手軽に音楽を楽しめる「マルチルーム、マルチゾーン」。昨年我々がご提案したブルートゥーススピーカーの「RBX-500」はまさにこのコンセプトで、メインの再生システムとは別の次元で家中どこでも音楽をいい音で聴ける状態を作り出せるもの。パッケージではなく、スマホを利用してストリーミング等の新しいスタイルで音楽を聴く考え方ですね。
これについてはあらゆるお客様に訴求できるもので、我々も裾野を広げるためのエクササイズとして、全社を挙げて注力しています。まだ一歩を踏み出したばかりですが、今後非常に期待できる分野だと思っています。こうした世界がまさに広がろうとしていますが、我々がそこにどうお手伝いできるかということですね。また店頭でどう表現するか、試行錯誤しながら展開しているところです。
── 市況やお客様、商品のあり方が変わると、アプローチも変わります。
大瀧 マーケティングは今や「トップダウン」ではなく、「ボトムアップ」の考え方でなくてはだめですね。ボトム、つまりお客様のいる現場で起きていることをまず把握する。お客様のことはお客様に聞かなくてはわからないとつくづく実感しています。
我々としてはとにかく見込み客の心を探るということで、イベントを次々に、しかもさまざまなかたちで行っています。ハイレゾのテーマもあれば、入門者を集めたものもあります。新規需要層を開拓するものとしては、マタニティの方を集めたり、学生、OLの方を集めたり。それをインテリアショップで行ってみたり、アパレルに関連させてみたりとあらゆる角度から実施しているのです。そこで感じ取れた何らかのことを、商品に活かす、あるいは戦術に活かす。そういうマーケティングを今行っているところです。これまでの流れとは全く異なる方法です。
量販店様とのチャネルも我々にとっての強みのひとつですから、マーケティングをこのチャネルでどう展開していくかが今後の課題です。アナログ停波が終わって、今後どういうお客様を導引するのかも問題であると思います。今、量販店様のお客様は、スマホまわりの低価格帯やイヤホン・ヘッドホンのところで堅調です。しかしシステムオーディオのところ、当社にとっては「FR」以上の価格帯のお客様はまだ十分とは言えません。要するにお客様に気づきを与えられていないのです。
オーディオのお客様には、かつてオーディオで音楽を楽しまれながらも今は離れている冬眠者≠ェたくさんいると考えられ、そういう方々を復活させるための刺激が必要だと思います。その材料となるのがネットオーディオであり、ハイレゾ。そして商品として我々が提案したのが、昨年夏から発売しているシステムオーディオ「ミュージックバリスタ」です。
バリスタとは、コーヒーをお客様好みに調合してくれる人ですが、「ミュージックバリスタ」は、メーカーがオーディオを押し付けるのでなく、お客様に好みの音を選んでいただこうというコンセプトです。ネットワークやハイレゾにも対応し、そこもきちんと訴求しながら、商品としては形状もコンパクトで比較的リーズナブルなプライスをご提案した新しいタイプのオーディオシステムなのです。
これまでのオーディオの訴求は「いい音ですよ」という切り口でしたが、それだけでは現代の豊富な音源を楽しまれているお客様としっかりとしたコミュニケーションが取れません。お好みに応じてシステムを選択できるコンセプトで、「どんな音楽がお好きですか」「どのスピーカーで鳴らすのがお好みですか」という問いかけをコーヒーの味に例えた表現でよりわかりやすくしました。このようなお客様にあった形でのコミュニケーションの工夫は大事だと思います。「ミュージックバリスタ」はおかげさまで非常に好調で、大きな手応えを感じています。
── このカテゴリーは、スマートフォン周辺の入門のところとオーディオコンポーネントとの中間に位置づけられます。ここを充実させて、エントリーのお客様をオーディオに誘引したいですね。
大瀧 こうして上へ上へとお客様を引き上げていかないと、放っておけば価格帯は下がる一方になってしまいます。ミドルの分野は確かに展開が難しいところではありますが、「ミュージックバリスタ」でとりかかりをつくれたと思います。オンキヨーが孤軍奮闘な状態はありますが、なんとか市場を拡大させたいですね。
冬眠層≠竡瘤メを
新たなアプローチで刺激
── 冬眠層の存在を意識して、そこを刺激するのは着実な結果に結びつけられそうです。
大瀧 当社はハイレゾにも注力していますが、冬眠層はパッケージに親しんだ世代で、ネットワークの訴求はこれからだと思います。まずは難しいことを言わずにCDで、そしてスピーカーで音楽を聴いていただくことから、段階を踏んでやっていきたいと思います。
一方で若い方々のリスニングスタイルは冬眠層とは変わっており、ストリーミングも抵抗なく受け入れられます。そういう意味では、新たに手がけているイヤホン、ヘッドホンも若者層につながりやすいカテゴリーです。
── オンキヨーのイヤホン、ヘッドホン展開は非常に注目されています。いよいよ商品の導入ですね。
大瀧 オーディオ60年の集大成として、インドアでもアウトドアでもきちんとした音で聴けるものを目指しました。ケーブルも交換できる仕様になっています。デザインにも注力しており、ヘッドホンとイヤホンとでカラーリングに統一性をもたせました。1万5000円?2万円の活気のある価格帯に投入し、スマートフォンユーザーの皆様にも、ピュアオーディオを楽しんでいる皆様にもお薦めしていきます。
これまで代官山の試聴体感イベントなどの機会でお披露目してきましたが、お客様の反応も上々です。我々が驚きましたのは、交換ケーブルの使われ方ですね。我々としては音質や使い勝手を考慮したものなのですが、お客様は本体とケーブルの色をさまざまに組み合わせて、ファッションとして楽しんでおられる。本体とケーブルを組み合わせた色の違いをファッションとして楽しむような様子も見えて新鮮です。お客様のところに出かけ、少しずつ目新しい情報がとれてきたかということです。まさにお客様のそばまで出向いてわかるということですね。
チャネルは量販店様中心ですが、イヤホンの専門店様にも拡げており、それ以外にもどんどん開拓していきたいと思います。ファッションを追求するならそうしたチャネルもあると考えています。
── オーディオ、イヤホン、そしてAVも注力カテゴリーですね。
大瀧 単品のシアターシステムであれば、映像だけでなく音もしっかりと訴求できるものとしています。オーディオシステムとしてもハイグレードなものとして訴求する。そうした切り口でこれからどんどんやっていくつもりです。
2年ほど前にハイファイ元年と銘打ってハイファイオーディオも注力しておりますが、AVアンプも含めて専門店様のお力を借りてしっかり展開していかなくてはならないものです。営業人員の能力開発も行いながら、専門店様としっかりとしたやりとりをさせていただける体制を整えているところです。
AVレシーバーは2チャンネルのものより音がよくないと言われがちですが、当社が昨年発売したTX-NR818などは、中身はピュアオーディオのアンプと同等のつくりとなっており、映像まわりはもちろんですが、音まわりの再生能力もすぐれています。チャンネルデバイダーも搭載しており、そこに魅力を感じてくださるオーディオファンのお客様もたくさんいらっしゃいます。こうしたものを通じて、当社のレシーバーでなければできないことをイベントなどで実感していただいており、こうして少しずつでもお客様にアプローチして参りたいと思います。
「何ができるか」提案で
お客様を呼び戻す
── 販売店にお客様を呼び戻したいですね。
大瀧 お店にお客様が足を運ぶ機会が少なくなった今、どうすればいいかを業界を挙げて考えていかなくてはなりません。つまり顧客創造をするということです。我々は既存のお客様を待つのではなく、新たなお客様をつくっていかなくてはいけない。お客様に近づくというのもその手段の一つです。
顧客創造のため、我々は2つのテーマを掲げています。1つが能力開発。今は音やオーディオに精通している人は社内でも少なくなりました。そこで社内で知識を旺盛に持ってスキルを上げようと、ご販売店でどんどんイベントを行っています。そしてもう1つがボトムアップマーケティング。お客様のことをよく探る。そうしなければ、オーディオのお客様は戻って来てはくださらない、どれだけ働きかけても結実しないと思っています。
我々業界が今までずっとやってきたことは「新しいフィーチャー・スペック」に偏った提案でした。今にして私は、それは間違いだったのではと思います。新しいものの提案ではなく、「Something
to do」、何ができるか、お客様に何をさせるかの提案が必要なのです。日本の家電業界が今、苦戦しており、特に黒物は外国勢に水を開けられたと言われますが、その要因もそういうことなのかもしれません。日本は技術大国であることは間違いありませんが、そこから先が問題です。
不思議なことに、「新しいフィーチャー・スペック」を追求すればするほど、作り手は内にこもるようになりますね。オフィスの中での会議を繰り返す。しかし「Something
to do」を追求するといやがおうでも外に出ていくことになります。我々は今まさにそれを実施しているということです。
こうしてお客様のもとへ行くことで、我々の考え方も変わりつつあります。期初に社内でも言いましたが、「Change
or Die」、世の中の変化についていき、自らも変化していかなければ死ぬしかありません。攻めの戦略を打ち立てて、ワン・チームとして力を集約して頑張って参ります。時代は厳しく、伸びない市場で稼がなくてはなりません。しかしそこで工夫が生まれます。我々はあの手この手でイノベーションを起こして参りたいと思います。