- ナチュラルサウンドにこだわる原点に回帰
ハイファイオーディオに力を注ぐ
- 株式会社ヤマハミュージックジャパン
- AV・流通営業本部
本部長
- 猿谷 徹氏
Toru Saruya
演奏から録音、再生まで音・音楽に関わるすべてに携わるヤマハが、国内営業体制を強化。楽器やプロオーディオ、そしてAVを束ねて展開する新会社・ヤマハミュージックジャパンが設立された。ハイファイの分野に投入するトップエンドの強力新製品を携え積極展開を図る、同社AV・流通営業本部長、猿谷氏に意気込みを聞く。
国内オーディオを再度強化
ヤマハブランドでシェアを取る
新会社のもとで
国内営業体制を強化
── このたび新会社としてヤマハミュージックジャパンが設立され、新たな体制のもとで猿谷本部長が国内営業に取り組まれることとなりました。まず新会社の概要と、本部長のご経歴をお聞かせください。
猿谷 ヤマハミュージックジャパンはこの4月から設立された新会社で、ヤマハの国内営業のさまざまな商品部門がここに統合されています。全体の売上げは1000億円ほどの規模となり、その内訳は楽器で60%、プロオーディオで30%、AVは10%ほどを占めることになります。
私どものAV・流通営業本部は、国内営業に携わる組織です。AVの国内営業としてすでに独立していたヤマハエレクトロニクスマーケティングが今回ヤマハミュージックジャパンに統合され、AVだけでなく、チャネルが共通する商材についてすべて統合する営業部隊となったのです。
私は1981年にヤマハに入社し、鍵盤楽器に関連した事業に携わってきました。最初に直営店である大阪の梅田店に配属され、訪問セールスや音楽教室の運営のお手伝いなどを3年半ほど行った後、本社の経営企画室に入って、ヤマハ100周年にあたって会社を変革するためのプロジェクトチームに参加して社の機構改革に携わり、そのまま8年ほど事業戦略や新規事業の立ち上げといった業務に就きました。その後楽器営業で電子ピアノやキーボードなどの卸の部分に携わり、千葉県でピアノ、エレクトーン、電子ピアノといった主力鍵盤楽器の卸営業や、東京支店のエレクトーンの普及課長を務めました。
40歳近くなって成長する海外の市場に魅力を感じて自己申告し、42歳で東南アジア地域の海外営業に就きました。出張ベースでいろいろな国をまわりながら2年程経った後、マレーシアに社長として赴任し、その後カナダの社長として3年ほどを経て、モスクワで現地法人をつくって6年ほどかけて軌道にのせ、昨年日本に帰ったところです。
そして楽器系の事業戦略や3ヵ年計画をつくることに従事し、1年が経ってこの4月に現職に就くこととなったのです。マレーシアからカナダ、ロシアと全て楽器とともにオーディオも取り扱っていましたので、その経験を生かして取り組んで参ります。
── 新組織の目指すものは何でしょうか。
猿谷 私どもはもともと楽器メーカーであり、音に対する強いこだわりをもっています。音のいいピアノで演奏されたコンサートを、いい音で録音し、再生したい。そして演奏、再生する場所の音響環境も整えたい。音楽の演奏から録音、再生に関わるものすべてに関連してこだわりをもって取り組み、このこだわりがビジネスになっています。
オーディオの国内マーケットはここ30年ほどでぐっと小さくなり、売上げの6〜7割、そして工場も海外にシフトしている状況です。そういう中でヤマハミュージックジャパンは、国内を再度強化するという使命をもっています。オーディオ市場そのものを大きく伸ばすことは困難かもしれませんが、シェアを取りにいき、ヤマハのブランドアイデンティティを高めていきたいということです。ここに注力していくための体制を整え、新会社としてのスタートを切ったところです。
音にこだわるブランドとして
ハイファイオーディオに注力
── 対象となる商材とチャネル対策についてお聞かせください。
猿谷 私どもの扱う商品には5つのカテゴリーが存在します。1つは電子ピアノやポータブルキーボードといった楽器分野。それ以外の4つはAVの分野で、私どもが「4本の柱」として展開しているカテゴリーです。
その1つはAVコンポーネントとして扱うAVアンプやホームシアターシステムで、当社のアイデンティティを担う心臓部分です。もう1つはテレビ売り場で訴求し、大きなマーケットを形成したYSPやバースピーカー。3つめは私どもにとってのチャレンジであるiPhoneに関連するデスクトップオーディオ。そして4つめがハイファイオーディオです。
「ハイファイオーディオ」という言葉はもともとヤマハが、40年ほど前に使い始めたものです。当時ヤマハはハイファイオーディオの国内トップブランドのひとつで、NSモニターシリーズを始めとするヒット商品を続々と出していました。しかしその後ハイファイ市場の縮小を予測し、この20年間ホームシアターの普及を目指しAVアンプとバースピーカーのホームシアター分野に戦略的に資源を集中してきた結果、いつの間にかハイファイの分野はヤマハの中で優先順位が低くなり、結果的に十分な力を注ぐことができませんでした。今、これをどう拡げていくかが課題となります。
ここで私どもがこだわりたいのは「原点回帰」ということです。ヤマハのスピーカーシリーズであるNSがその略称であるように、私どもは「ナチュラルサウンド」という言葉を使います。いいコンサートホールでいいピアノを用意し、いい機材でデジタル録音できる、どのジャンルも世界的なトップシェアを誇っています。さらにいい録音からCDを生み、それを再生すること。これはヤマハの原点であるハイファイです。それをもう一度しっかりとやっていこうというのが、今私どもの目指すところです。
ハイファイのマーケットは安定しており、これは日本のみならず世界的に同様の傾向です。若者離れということも同様で、新規ユーザーをどう獲得するかという課題はありますが、少なくともあと10年は市場は安定的に存在すると見ています。私どもは、そこでのシェアをしっかり確保していきたいのです。
音、オーディオ機器にこだわる方々にとってはヤマハが戻ってきた、またヤマハをご存じない方々にとってはヤマハとはこんな技術をもったブランドなのだと、認知していただけるチャンスをつくりたいと思います。そこでハイファイオーディオの、まずトップエンドにあたるモデルを投入しました。
── 先頃発表されたハイファイコンポーネントの新製品「3000シリーズ」ですね。
猿谷 音にこだわるブランドとして追求し得る限りの音楽表現の理想を実現したハイファイのトップエンドモデルです。プリメインアンプの「A-S3000」、CDプレーヤーの「CD-S3000」を9月上旬に発売致します。またAVコンポーネントについては、AVアンプ「AVENTAGE」シリーズの「RX-A3030」「RX-A2030」「RX−A1030」を7月下旬から発売致しますが、ともにヤマハブランドをアピールできる重要商材として徹底的に注力して参ります。
体感を伴う訴求で
ヤマハブランドをアピール
── ヤマハブランドをしっかりと訴求するにあたっては、どのような方策を講じますか。
猿谷 「4本の柱」にあたるカテゴリーは大きなチャネルである家電量販店様でお取り扱いの商材ばかりで、私どもの営業の体制もこれまでこちらに大きく注力して参りました。ここでの商品群もマニアにしか扱えないようなものでなく、高度なAVアンプによる効果をワンバーで出せるようにしたYSPスピーカーなど、ユーザーフレンドリーな方向へ私どもの技術を進化させてきたものです。その結果として私どもは、専門店様から少し距離をおいたような状況になっていたかもしれません。体制を整え、今一度専門店様との信頼関係を築いて参りたいと考えます。
「3000シリーズ」を展開するに当たって、バリューをしっかりと伝え、お客様に納得して購入いただくためには、試聴環境をととのえ、しっかりとご説明できる場所で販売させていただきたいと考えます。そこで全国の付加価値販売に重点を置かれている販売店様にご説明に上がりましたところ、好感をもって迎えていただきました。
お客様が興味をもって見に来る、リアルの店舗を活性化するような商材やしくみは必要であり、私どもではそれをつくっていきたいと思います。トップエンドのようなオーディオは、何の説明もなく試聴もされず安易にウェブで購入できるものではなく、まずはリアル店舗でじっくりとお客様に体感いただくことが先決と思っています。
トップエンドモデルは技術者自身にとっても久しぶりのチャレンジになり、一度中断していたものを取り戻すためには時間と労力もかかりました。そういう商材ですから、価格も適正なラインから崩れないようでありたいのです。そうした商材は重要です。トップエンドのあとにもさまざまなラインを用意しておりますが、こういう時代だからこそ、もういちど質を世に問わなくてはなりません。そして音にこだわるヤマハとして、ブランドをあらためて確立したいと思います。
さらに、多くの数量を追うクラスの商品も積極的にやっていきます。これもトップエンドが確立されてこそ、同じ価格帯でもヤマハは他のブランドとは音が違うというアピールができると考えます。あらためてヤマハブランドの強さ、価値を知らしめたい。それが私どもの大もとの考え方、戦略の流れです。
専門店様に対しても、さらに注力して参りたいと思います。体制を強化するとともに、私自ら積極的に出向いて参ります。専門店様との信頼関係をより強固なものとして、商品の価値をお客様にお伝えするためのお力添えをいただきたいと思います。
── 今回の新組織で、そうした体制が構築されたということですね。ハイファイオーディオやAVコンポーネントを始め、御社の「4本の柱」の訴求がおおいに期待されます。
猿谷 もういちどヤマハのオーディオのバリューを上げたいのです。商品が安くなればなるほど市場は広がりますが、安いだけの展開では、市場そのものがいずれ消えてしまいます。そうなる前にもういちど価値訴求を図る。しっかりとやっていきたいと思っています。