野崎薫氏

家電販売からもっと踏み込んで
生活をより快適にする提案を
パナソニックコンシューマーマーケティング株式会社
代表取締役社長
野崎 薫氏
Kaoru nozaki

家電の単体販売から、生活空間すべてを対象としたソリューションの提案へ、その活動の幅を広げるパナソニックコンシューマーマーケティング。地域専門店“パナソニックショップ”の活動や量販店頭を通じて新たな価値提案を推進する。同社、野崎社長に2014年の意気込みを聞く。

 

お客様に喜んでいただくこと
それは社会貢献にもつながる

ソリューション提案
地域専門店が着実に推進

── 13年度からの新体制による手応えはいかがですか。

野崎 新体制では、地域専門店を支援するLE社、大型量販店対応のCE社、生活業態店に対応するVE社に加え、パナソニックテクニカルサービスを前身としソリューションとエンジニアリングを担うSE社、そして修理と部品サービスを担うCS社。以上の5社による販売とサービスの一元体制を構築しました。

目指すのは単品家電販売に留まらない「ソリューション企業」です。これまでの単品の家電プラス住宅空間全体を対象とし、まさにコンシューマーのお客様ひとりひとりの住宅空間をきっちりと提案することなのです。これを私どもは「家電ソリューション」と表現しています。

ここには工事を伴うリフォーム商品や、太陽光発電システム、すべてのエネルギーをコントロールするHEMSの概念も含まれます。家電の単体製品はほとんど生活空間に揃っていますから、もっと踏み込んで、お客様の生活をより便利に快適にできるご提案が必要です。

「家電ソリューション」の推進では、特に地域専門店に期待をしています。こうした関連商材は地域専門店の新たな成長の柱になりますし、高齢化が進む中、地域社会のお役に立つことは新たな使命になると思います。

私どもではパナソニックショップ店を対象に、スマートAVライフ、省エネ・創エネ・蓄エネに対応できるお店を「N&E(ネットワーク&エコ)ハウス」として、家電製品のみならず、太陽光やリフォーム、オール電化など設備事業へ業務を拡大し、地域専門店の長期成長を後押しする取り組みを行っています。N&E認定店は13年10月で全国1000店を超え、今年度中に1300店の達成を目指す勢いで拡大しています。

この上半期の各チャネルでの実売ベースを見ると、ショップ店全体の平均は前年比101%でしたが、優秀店に位置づけられるSPS(スーパーパナソニックショップ)の平均は105%、さらにN&E認定店は107〜108%という実績を挙げています。12年度は通期で前年比をクリアしたのはショップ店全体の32%でした。しかし13年度は上半期で50%のお店が達成しています。この原動力となったのが、「家電ソリューション」に関連する太陽光発電システムやリフォーム商材。大型ショップ店を中心に、大きな実績を挙げているのです。

── 単品販売からソリューション提案へのシフトが、地域専門店チャネルを中心に実現されているということですね。

野崎 太陽光については地域専門店の販売の大きな柱と位置づけてしっかりやっていきます。「一斉現調デー」といって、全お得意先がローラー作戦でお客様を回り、太陽光についての現地調査を行う取り組みでも成果を上げています。これを繰り返し、お客様を増やして参ります。

リフォームについては、まず「プチ・プチリフォーム」。たとえば家中の電球をLEDに替え、部屋のスイッチも交換してきれいにする。ただこれだけのことで家中が明るく快適になります。ショップ店にはこうした初歩的なところをきっかけに、次の「プチリフォーム」にステップアップしていただきたいと思います。

「プチリフォーム」で好調なのが、全自動おそうじトイレ「アラウーノ」。単価30万〜40万円ほどの商材ですが、今ショップ店全体で毎月1000〜1500台出ています。こうした活動ができれば、洗面台、お風呂、キッチンといった本格的なリフォームに取り組めます。また将来的には外壁や屋根の葺き替えといった電気以外のリフォームも対応していければと考えます。

ここまで広がればショップ店と地域のお客様とのつながりは非常に深くなり、何かあるたびに頼っていただけるようになります。またそこにあらためて家電単品製品をお勧めするいい循環も生まれると思います。

── 太陽光やリフォームを施工まで手がけるか、お店によってまだ温度差がありますね。

野崎 我々はそれを指導する立場として、昨年SE社を立ち上げました。今後人員のスキルアップも図り、施工やメンテナンスなどの知識をもつ者の増強をして参ります。指導の場として、PMS(パナソニックマーケティングスクール)の滋賀県・草津の研修センターに加え、東京・渋谷にリフォームセンターもつくりました。社員や得意先様に対する研修、現地調査やプランニングの仕方など、リフォームに関する勉強ができます。こうした取り組みで我々もレベルアップを図ります。

また太陽光やリフォームのみならず、今後あらためて注力したいのは補聴器です。片耳で35万円、両耳で70万円といった値段ですが、今ショップ店で順調に売れています。これはお客様ごとに細かな調整が必要なもの。先々も電池交換や再調整が必要になり、1度販売すると長いおつきあいができるものです。

補聴器は薬事法で定められた医療器具であり、消費税の課税対象外です。4月に控えた消費税増税、その駆け込みの反動が予想される時期のリスクヘッジ策としても、非常に大きい存在となります。しっかりと販売の素地をつくっておきたいと思います。

質の高い生活提案で
高付加価値を訴求する

野崎薫氏── ここ数年テレビが苦戦したことで、専門店も量販店もいろいろな対策を講じ、本質的な体力がついたかと思います。今後状況がよくなれば、一気に実力が発揮できそうですね。

野崎 準備は着々とできています。地域専門店はじわっと右肩上がりに力がついてきて、最近は合展のいろいろな会場でエアコン、冷蔵庫、50インチ以上のテレビが軒並み前年比120%、150%といった実績を挙げています。これまで苦手分野だったジャンプリンクの訴求も好調で、レコーダーやお風呂テレビも伸長しています。お客様自身がまだ気づいていない商品のよさや使い勝手、そこに気づきのチャンスを提供することが必要です。

少子高齢化が進み、年配のご夫婦で暮らしておられるようなケースに、プチサイクロン、プチドラム、プチ食洗といったプチシリーズが非常にうけています。コンパクトでも高機能で使い勝手のいいところに付加価値があります。団塊世代以上のある程度生活に余裕がある方は、一生使えるいいものを求めているのです。

── 高齢化で身体が不自由になるというより、暮らしのゆとりや質の高さが求められると考えられますね。

野崎 そう思います。質の高い便利な生活。不自由な部分のサポートに投資するという考え方だと思います。商品の価格としても、サポートやメンテナンスの部分まで加味したものが提示できればと思います。適正な価格を追求しながら、高付加価値を訴求していきたいですね。

── 地域専門店では、世代交代も課題ですね。

野崎 問題は、お客様がどうなるかです。もしもお店に後継者がおらず廃業するということになると、商圏のお客様をどうお守りし、継承するのか。昨今力をつけておられる組織ショップでは、お店の間でお客様の継承が行われますし、後継者のいないお店に人材を送り込む、後継者を探すといったことも考えられます。

しかし大きな課題となるのは、ショップ店で働くやりがいの提示だと思います。従業員として働く意味を見いだせなければ定着率は上がりません。従業員として将来を嘱望される、ショップ店に従事してよかったと思えるような意義ややりがいがそこになくてはいけません。

それは最終的に、地域販売店がこれからの地域社会にどう貢献できるかにつながると思うのです。これまでのようにただ単品の家電販売に終始するだけでは、業務も広がりません。住宅空間全体を通してお客様に喜んでいただけること、それが社会貢献につながり、従業員さんのやりがいや満足にもつながっていくでしょう。地域や人にいかに必要とされているか、それをどれだけ感じ取れるかではないでしょうか。

── より多くのお客様に商品価値をアピールできる量販店では、店頭が勝負になりますね。

野崎 どのチャネルにおいても、商品の価値をしっかりと伝えることが私どもの使命です。当社のメンバーは商品をよく理解して得意先にご説明をし、店頭での効果的な訴求活動のお手伝いをしています。パナソニックが伝えたい商品価値は、そうして得意先によってお客様にまで伝わっていると思います。

しかし商品が買われたあとが課題です。お客様が使いこなし、本当に満足されてこそ本当の価値だと思います。また我々もマーケティング会社として、お客様のニーズを商品づくりに反映させることも大事な役割です。

メーカーとして何より大事なのはやはり商品力。100の魅力の商品は営業の力で130、140の魅力にもできますが、70の力のものを100の力にしたとしても訴求は長続きしません。いい商品をつくるのが大前提であって、販売会社である我々もそのために市場のいろいろな声をすくって、商品づくりに活かしていくのです。

ソリューションを確立し
着実に浮上する1年に

── 2014年は、どんな年になりますか。

野崎 明るい年になると思います。現在の家電市場は底だと思っています。テレビの不調により総需要が2兆円も減少しました。ここから浮上するために、太陽光やリフォーム、HEMSといった新たな商材が生まれました。ここには物販の売買益以外の付加価値として、粗利をもたらす工事も付随します。

これから1〜2年で、まさに付加価値をしっかりと訴求し利益をとれる販売を目指したい。いずれテレビも回復します。2011年に一気に来た買い替え需要ですから、数年後にはまた大きな買い替えの波がくるでしょう。

しかしそのときは価格競争に陥らないようにしたい。これはメーカーも売り手も、業界挙げての反省点だと思います。商品には価値があり、適正価格とはそれを反映したものですが、アナログ停波の際はそこから下回ったところで売られてしまったと思います。テレビの事業に関わったものは皆赤字になりました。次は同じ失敗を繰り返さないよう、大事に追っていかなくてはと思います。 人口は確実に減っています。日本の消費が減っていくことは事実ですから、そこで付加価値の高いものをいかに買っていただくか。そこでは、快適な生活を送っていただくところを目指したい。

次はHEMSの世界で、ここは個々の商品だけでなく、システムソリューションです。電気代も上がっている中、家の中の電気の使われ方を把握して、それらをコントロールし、無駄を省いてくれる。それは非常に生活に役立つものだと思います。その入り口がHEMSで、電気代も目で確かめられる。するともっと省エネのものにと単品商品の買い替えにもつながります。

これからは太陽光やリフォームが自社で施工できる店をいかに増やしていくかです。今はまだ少ないですが、SE社でしっかりとフォローしながら、新しい家電ソリューションを確立する、そこを目指したいと思っています。

◆PROFILE◆

野崎薫氏 Kaoru nozaki
1979年4月 松下電器産業(株)入社、家電営業本部、パナソニックコンピューターカンパニー、パナソニクマーケティング本部を経て、2008年10月 パナソニックコンシューマーマーケティング(PCMC)(株) CE社社長。2013年1月PCMC(株)社長に就任、現在に至る。

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