天野 俊哉氏

ライフスタイルの変化に合わせた
柔軟な提案が必要
お客様にはただ、
使って楽しんでいただくというだけ
オンキヨーマーケティングジャパン株式会社
代表取締役社長
天野 俊哉氏
Toshiya Amano

昨今話題のキーワード「ハイレゾ」をコンテンツ配信とともに推進してきたオンキヨー。国内販売をあずかるオンキヨーマーケティングジャパンで、昨年5月から新たに社長に就任した天野氏に、近況と新たな展開について、手応えを聞く。

 

ハイレゾの推進はまずお客様に聴いていただくこと
地道にきめ細かく、他社にできないことを展開する

商品提案は
お客様に近いところに

── 昨今のAVにおける展開はいかがでしょうか。

天野2014年はチャンスの年。クオリティ、シチュエーションともに商品の提案の幅が拡がり、質・量ともに拡大する好循環を生むことができると考えています。オーディオでは、その背景にあるのはソフトの変化。CDなどパッケージソフトだけでなくストリーミング、ダウンロードコンテンツの普及で楽しみ方が拡がり、新たなソースに対するハードルが下がってきました。ハードではブルートゥースがいろいろな機器に搭載され、スマートフォンやタブレットとの親和性も高まりました。これをフックに横の拡がりが生まれ、加えてハイレゾというワードに象徴されるクオリティ部分の訴求も望めると思います。

── 商品戦略をあらためてお聞かせください。

天野お客様にとってちょうど手が届きやすいところで、高品質を訴求できるのが当社の強みです。極端に高級なクラスの商品展開よりも、カジュアルな楽しみ方に注力したいと思います。

テレビまわりのバースピーカーが広がっていますが、ここにブルートゥースが搭載されて音楽も楽しく手軽に聴けるような商品が市場をけん引しています。コアなピュアオーディオファンではなく、こうしたものに親しまれる方々に対して、我々はサラウンドやハイレゾといったオーディオ用語は全面に出さない展開を考えます。

このほど、LSシリーズというテレビ周りのスピーカーシステム3機種を発売しました。「脱サラウンド」を標榜し、新たなDSPを搭載して「リビングで楽しむ音」を訴求します。スイートスポットが限られる5.1chシステムより、もっと柔軟性のあるシステムで、部屋の隅でも中心に居るのと同様の臨場感をご家族で楽しみましょうというご提案です。

オーディオコンポーネントから少しハードルを下げて、もっとお客様に近いところで商品を提案するという考え方です。これからのオンキヨーのブランディングを考え、若い世代の方々のライフスタイルに合わせたカジュアルな提案としています。

── オーディオの専業メーカーはこれまで、お客様を啓発し、こちら側に引き寄せる思考が根底にあったと思います。昨今ではスマートフォンで音楽を聴くことが主流となりました。それとともにイヤホンやブルートゥーススピーカーのようなスマホとの連携に利便性をもたらすものが拡大していますが、これらはまさに現代の大多数のお客様のライフスタイルに寄り添うもの。そこに重点を置く考え方は画期的ですね。

天野音が鳴るまでの過程、機器の技術的なことはお客様にとってあまり重要でなく、我々が主張する必要はありません。使って、楽しんでいただくというだけです。昨今のライフスタイルの変化は非常に大きく、メーカーもそこに合わせ柔軟な対応をしていく必要があると思っています。

ホームシアターの訴求では我々もずっと5.1chサラウンドと言い続けてきましたが、ここにはなかなか拡がりが見いだせませんでした。振り返れば、専門用語を使えば使うほど間口が狭まっていたという反省があり、そこから改善しなくてはという思いです。

新しいお客様の価値の創造、価値創造からの顧客層の増加、ボトムアップマーケティングを謳っても現実はほど遠いところにあります。メーカーのシーズ主導で商品を出し、お客様に対してこちらに来いと主張するのではなく、ここからは本当の意味での顧客志向の商品提案、プロモーションを展開して参ります。 一方で、もちろんピュアオーディオファンの方々の指向もしっかりと捉えなくてはなりません。今年はハイレゾのキーワードで市場は大きな転換期を迎えます。ハイレゾを先んじて展開してきた我々としても、そこはしっかりやっていきたいと思います。

いい音を指向する
ニーズを受け止める

天野 俊哉氏── 御社はe-onkyoによるコンテンツ配信との両輪でハイレゾを推進されています。昨今の状況はいかがでしょうか。

天野e-onkyoはすでに開設10年を迎え、始めた当初は10曲ほどだった楽曲数も現在では2万曲以上に至っており、おかげ様で大変好評をいただいております。今年はハイレゾの切り口でオーディオを推進する大きなチャンスを迎えていますが、ハードからコンテンツを訴求するより、コンテンツからハードの展開につなげていく。まずコンテンツでいかにお客様に楽しんでいただくかを考えなければなかなか難しいと思います。CDを超える音質で臨場感を再現し、アーティストのいる場面にもっと近づける。コンテンツのパワーは大きいですから、そこを大事にしたいと考えます。

そして、お客様にとってアーティストをより身近に感じられる、臨場感のある音源として楽しんでいただける。それが結果的にハイレゾ音源だということです。それを楽しむには必ずしも高級機である必要はなく、手の届きやすい機器で十分なのです。当社の強みはまさにそこで、これまでオーディオに触れる機会の少なかったお客様にも、新しい価値観をご提案していきたいと思います。

── 昨年参入されたヘッドホンの手応えはいかがでしょうか。

天野当社では高音質の切り口で商品提案をしておりますが、これが好評を博し、昨年末にはさらにハイグレードなモデルも投入しています。またこのほど、iPhoneでのハイレゾ再生を可能にするHF Playerというアプリを発表しましたが、これが大変好調です。ある意味でこれも、スマートフォンのお客様に近づいたご提案だと思います。

よりいい音、より上質なものを指向しておられるお客様の探求心を大事にしていかなくてはと思います。特に今年はハイレゾが普及を図れる環境が整っていますので、コンテンツの重要性をしっかりと認識しながら展開して参ります。

── PCやPC関連のオーディオの展開はいかがですか。

天野当社はソーテックと一緒になり、PCを取り込み、PCオーディオを世に先んじて提案してきましたが、市場の開拓は非常に難しいものがありました。PCは基本的に仕事や作業に使うもので、楽しむ目的としてはインターフェースが煩雑で、老若男女にひろく訴求するには困難であると考えます。

もちろんネットワークなどインフラにつながる部分には、PCならではのメリットがあります。ただ現在ではそこも、PCを介さずにオーディオとの親和性を高めることができるようになりました。NASやサーバーを使う手段になるでしょうが、それも「NAS」「サーバー」といった専門用語を使わない展開としたいものですね。いずれにせよ、オーディオとPCとを関連づけるには、PCの存在を意識させない手段、より手軽で身近な方法で取り組むべきと考えます。

販売店とは
人と人との関係を密に

── 販売店対策についてはいかがでしょうか。

天野ハイレゾの展開を始め、もっとも重要なのはお客様に実際に音を聴いていただくことです。そこで取引先ご販売店様と一緒に試聴会や研修会など、ハイレゾについてはイロハの解説から体験まで、すでにかなりの回数を実施させていただいています。

ハイレゾはティアックさんとともに我々も早い段階から着手しており、ご販売店様にもご賛同いただきながら、草の根運動のようにまず聴いていただくところから地道にやって参りました。これからもそれは変わらず、他社様にはできないようなことを、きめ細かくやらせていただきたいと思っています。

またプロモーションについては、ターゲットによりやり方を分けております。ヘッドホンでは新たにファッション関係とのパイプをもち、意識して棲み分けを行っています。

店頭展開に関しては、取引先様主導の展開になりますが、弊社の場合はセールスの人間がご販売店様からかわいがっていただいています。いかにご販売店様とのパイプをつなぐかが重要で、ある種コンサルティングのような活動を以前から重点を置いて行っていますから、イベントなども比較的スムーズにやらせていただいています。

まず人の部分で、ご販売店様とよりスムーズな意思の疎通ができるようにしていきたいと考えます。そういう活動の積み重ねによって、各店舗様における人間関係がいい具合に保たれているのではと思っています。それは大手家電量販店様でも、専門店様でも同様であり、どんなカテゴリーであっても同様です。

── ホームエネルギー事業(HEMS)に参入されたということですが、具体的な内容をお聞かせください。

天野「ONKYO ELE」というブランドを立ち上げ、HEMS制御盤とコントロールユニットがセットになったシステムとして「スマートリアス」という商品を提案しました。最大の特徴は汎用性の高さで、太陽光発電システムや蓄電池がどういうものでも組み合わせができ、参画の幅が広がります。

こうした成長市場へ、グループ挙げて全社的に参入したい思いがありました。ライフスタイルでの提案の中で、オンキヨーが高品質のブランドであることを生活者の皆様により広く知っていただき、安心感をもったブランドとして浸透を図りたいという思いがあります。さらにここで、新しいお客様や得意先様との接点が生まれますし、そこには非常に期待しています。

チャネルはハウスメーカー様になります。我々がハウスメーカー様との取引きを始めて10年ほどになりますが、当初地デジの普及もあり、5.1chをハウスメーカー様ならではの提案で、リビングに美しく収めてインテリア性を高め、お客様の満足度を追求して参りました。そこに加えてHEMSをご提案するということです。

取り組みは今後徐々に進めて参りますが、スマートタウン、スマートハウスに加えて、我々も新たにスマートリビングといった考え方をご提案していきたいと思います。

我々にとって、やるべきことはまだたくさんあります。柔軟に門戸を拡げ、いろいろなことにチャレンジしたい思いです。オーディオを始めさまざまなカテゴリーで積極的に、ご販売店様とともに力強く推進して参りたいと思っております。

◆PROFILE◆

天野 俊哉氏 Toshiya Amano
2010年12月 オンキヨーマーケティングジャパン(株)取締役 営業部長に就任。13年5月 オンキヨーマーケティングジャパン(株)代表取締役社長に就任。現在に至る。

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