横山崇幸氏

あらゆる皆さんが楽しめる
ソリューションを展開し
日本のオーディオの復活をお手伝いしたい
シーエスアール株式会社
代表取締役社長
横山 崇幸氏
Takayuki Yokoyama

今やスマートフォンは音楽再生のメイン機器、そこから無線でつながるBluetoothオーディオの市場が活気づいている。キーテクノロジーとして脚光を浴びる「aptX」を展開するシーエスアールの横山社長に話を伺った。オーディオの新たな可能性に向け、その活動に注目する。

 

グローバルの中でも日本の役割は非常に重要
全事業を日本で積極展開させリードしていく

あらゆるキーデバイスを
日本でリードし世界へ

── 本日は、拡大するBluetoothオーディオ市場をデバイスの面から支えていらっしゃる、シーエスアールの横山社長にお話を伺います。まずはグループの概要について教えていただけますか。

横山弊社はCSRという、グローバルで展開しているデバイスメーカーの日本支社です。グローバルでは2000人ほどの従業員がおります。もともとの社名である「Cambridge Silicon Radio」の名の通り、拠点はイギリスのケンブリッジにあり、加えて現在ではアメリカ、アジアなど世界中にオフィスがあります。売り上げ規模で言いますと、12〜13年が10億ドル程度でした。

当初はBluetooth技術のみを展開していたのですが、その後Wi-FiやGPS、車載向け、プリンター向けのSoCなどを加え、製品ラインナップを増やしています。オーディオ向けの機器でも、Bluetoothにオーディオプロセッサーが加わり、アンプが入り、コーデックを加えるというかたちで、業界に広くご提案できる製品が増えています。

── グローバルの中での、日本オフィスのミッションを教えていただけますか。

横山本社がフォーカスしている分野は5つ。ヘッドセットやオーディオに関する「ボイス&ミュージック」、GPSやナビなどに関する「ロケーション」、HEMSのテクノロジーにつながる“Bluetoothスマート”に関する「マイクロエナジー」、そして車載向け製品の技術に関する「オートモーティブ」、プリンター技術に関する「イメージング」です。

特に、いま全社で注力しているオーディオ分野が含まれる「ボイス&ミュージック」においては、世界的なAVメーカー様が日本に集中しています。もちろん、自動車メーカー様も世界的な企業が集中しています。そのほかの分野でも、最先端技術と日本市場の親和性は非常に高いため、日本の役割は重要になってきます。

私どもとしては、この5つのフォーカス分野すべてを、日本がリードしたいと考えています。新しいものを、まずは日本市場で積極的に展開する。それによってグローバルに展開する先行事例を作って、各リージョンに役立ててもらいたいと思います。

── 全体の売り上げのうち、オーディオ分野が占める割合はどの程度ですか。

横山オーディオ分野の売り上げの比率は高めで、約3分の1程度。弊社の中ではこの3年で一番増えています。11年から12年は20%増だったのですが、12年から13年にかけてはほぼ倍の100%増になりました。

ワイヤレスの音質を高める
aptXに注力する

── オーディオ分野において、特に力を入れているソリューションは何でしょうか。

横山我々のBluetooth技術におけるキーテクノロジーであるaptXです。以前はBluetoothの技術だけだったのですが、2010年にaptXのコーデックを買収によって取得し、我々のBluetooth技術に組み込むことになりました。Bluetoothで標準的に使われるコーデックであるSBCは、高音部分での歪が生じ易くなります。aptXは特に高音の再現性に優れ、CDクオリティの音質でワイヤレス伝送可能なことが特徴です。

aptXのもう一つの特徴は遅延(レイテンシー)が短いことです。スマホをワイヤレスイヤホンで聴くなどといった機会が増えてきて、映像と音声の同期をしっかりと取る、いわゆるリップシンクが重要になってきますが、これにも対応できます。さらに言うと、音が途切れにくいというのもポイントですね。快適なワイヤレスリスニングには重要になると思います。

── ここ最近、BluetoothオーディオやBluetoothヘッドホンの人気がさらに加速しています。

横山Bluetoothの標準オーディオコーデックであるSBCは、複雑なアルゴリズムを伴わないため負荷がかからない一方で、音質を多少犠牲にしている面があるため、今までBluetoothを高音質再生用途に用いる例は少なかったと言えるでしょう。これが変わったのは、音楽の流通形態やデバイスなどに、様々な変化が起きたからです。

一つはスマートフォンの隆盛。爆発的なスマホの普及により、音楽の形態も、物理メディアからダウンロードやストリーミングへの変化が加速しました。 そしてもう一つは、アップルさんが30ピンドック端子からLightning端子に変更したことです。これによってDockスピーカーから、端子形状に依存しないワイヤレススピーカーへのシフトが加速したと思います。

とにかく「ワイヤードからワイヤレス」という流れが至るところで加速しており、今後もこの傾向は続くと考えられます。オーディオでも同じように、ワイヤレスへのシフトがさらに進むでしょう。そういったとき、お客様にご満足いただけるクオリティを提供するには、SBCではやはり難しく、aptXのようなソリューションが必要になってきます。

── aptXの今後の課題は何でしょうか。

横山おかげさまでaptXは、デバイスレベルではご採用いただくことが多く、多くの機器に搭載されております。たとえばAndroidでは、世界の75%の端末に搭載されています。また受け側のスピーカー機器で言うと、現段階で220以上の端末に採用されています。もちろん高級機への搭載例が多く、100ドル前後の機器ですと採用率は5割程度ですが、300ドルクラスの製品になると、8割程度はご採用をいただいております。かなりデファクトスタンダードに近づいているという実感はあります。

加えて今後はエンドユーザーのみなさんに対し、aptXの特長をしっかりとアピールしつつ、ハイクオリティな音質を伝送するコーデックとしての認知度を高めていく必要があると考えます。新しいオーディオの可能性にチャレンジしながら、我々のシェアをさらに高めていきたいと思います。

── aptXはBluetoothの登場以前からある技術とのことですが、詳しく教えていただけますか。

横山実はaptXは、我々がBluetoothにインプリメントする前からも、さまざまな用途に使われていたのです。たとえばFMのネットワークですとか映画館のサラウンドシステム、ミュージシャンが使用するワイヤレスマイクの伝送システムなどプロ用の機器の領域で採用されておりました。低遅延で高音質という点をご評価いただいた結果です。

── 今後aptXはどういった展開を進めていきますか。

横山まず一つは、さらに音質を高めていくということです。ハイレゾが大きなムーブメントになっておりますので、これに対応する方法を考えていきたいと思います。もう一つは、これまで採用例が少なかった分野への挑戦です。いま積極的に働きかけているのは車載オーディオ機器分野です。自動車メーカー様にaptXの良さをわかっていただくため、SBCとの聴き比べをしていただけるデモカーをご用意し、実際に聴いていただいているところです。ご体感いただくと、みなさん「全然違いますね」と驚かれます。今後非常に期待できる分野です。

豊富なラインナップで
最適なデバイスを提供する

横山崇幸氏── オーディオ分野では、aptXだけではなく、「DDFA」というデジタルアンプ技術にも今後注力されると伺いました。

横山DDFAは「DirectDigital Feedback Amplifier」の略称で、独自のフィードバック回路とアルゴリズムにより出力段に対して正確に補正が行われ、音質劣化の原因となる潜在的に存在する誤差成分を取り除き、高音質を得られるユニークな技術を取り入れたD級アンプ・デバイスです。音質特性だけでなく、ハイレゾに対応したデジタル・インターフェースを持っています。昨今のハイレゾブームを牽引するデジタルソースに対して、滑らかな質感と高い解像度を両立し、録音ソースのもつ極小レベルの音楽信号まで際立つ表現力を持たせることが可能ですので、音質・性能に厳しい日本のオーディオ愛好家に対してもご満足いただけるデバイスかと思います。

このデバイスは既に欧州メジャーオーディオ雑誌のファイブスター受賞製品にも採用されており、著名なオーディオ評論家からも良いレビューをいただいています。これを日本のメーカー様にもご採用いただけるよう、いまリファレンスモデルをお持ちし、お話をさせていただいているところです。

今後のロードマップとしては、高音質を主体にHiFiから普及価格帯のオーディオ製品向けに幅広いデバイス・ラインナップの展開を予定していますので、ぜひ期待していただければと思います。

── 今後、いよいよ本格的なオーディオの世界に足を踏み入れるわけですが、意気込みをお聞かせください。

横山私どもの強みは「全体を持っている」ことです。Bluetoothで受信するところから、スピーカーをドライブするところまで、統合したソリューションをご用意しています。ターンキーのリファレンスデザインをご用意し、お客様に短期間で製品を作っていただけるプラットフォームを提供できます。

たとえばサウンドバーであれば、すぐにその場でサウンドバーとして動きます。それをもとにお客様でアレンジし、付加機能を加えて商品化いただけます。 またBluetoothデバイス一つをとっても、私どもは7種類のデバイスをラインナップとしてご用意しています。その中でもハイエンドのものは、BluetoothだけでなくDSPやコーデックをワンチップにして、ノイズキャンセリング機能やエコ機能などもパッケージングしています。これだけ多くの製品を持っているのは私どもだけです。豊富なラインナップにより、お客様が必要とされる要件に応じて、最適なデバイスを提供することが可能となります。

── ご自宅にも本格的なオーディオシステムを構築されたと伺いました。

横山私は、高校生の頃にオーディオにすごくお金を使った世代の人間です。ただ、最近ではちょっとご無沙汰してしまっていました。そんな中、私どもがオーディオプロセッサーやDDFAのような製品を扱うことになり、「これはしっかり勉強しなければ」と自宅に導入しました。

最初は、社内にいるオーディオのスペシャリストにリストを作ってもらいました。当初考えていた予算の倍くらいのシステムになりましたが、選ぶのは非常に楽しかったですね。今では無くてはならないものになりました。

はじめの頃はコンポーネントを持って「なんでこんなに重いんだ?」とびっくりしたものですが、オーディオを自分でも本格的にやり始め、いろいろ調べていくと、「筐体は重くてしっかりしている方が良い」などということが、理屈としても実際の音を聴いても、よくわかってきます。そうなると、薄いまな板にアンプを乗せたようなデモボードではなく、筐体もこだわった方が音をしっかり確かめていただけるなど、いろいろと話が広がってきます。

オーディオは今、Bluetoothによってさらに活気を帯びてきていますね。私どもはユニークなソリューションをたくさん持っており、いろいろなユーザーエクスペリエンスをご提供できると自負しています。聴き方や場所、聴くメディアに関わらず、あらゆる皆さんに音楽を楽しんでいただけるオーディオ、そういうソリューションを展開していきたいと考えます。それが微力ながらでも、日本のオーディオの復活をお手伝いできればと思うのです。

── 御社の今後の展開も非常に楽しみです。本日はありがとうございました。

◆PROFILE◆

横山 崇幸氏 Takayuki Yokoyama
1965年8月生まれ。1987年 NECインフォメーションテクノジー 1997年日本AMD(株)を経て2001年7月 インフィニオン テクノロジーズ ジャパン(株)ワイヤレス事業部 事業部長に就任。2006年10月 インフィニオン テクノロジーズ ジャパン(株)コミュニケーション事業本部長に就任。2008年9月 シーエスアール(株) 代表取締役社長に就任、現在に至る。

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