巻頭言
春が来た=ニューマニア宣言2020
和田光征
WADA KOHSEI
春の到来はいつも丸山薫の「北の春」が甦ってくる。九州の山奥の生である私にとって「北の春」はよく分からないが、教科書にあったこの詩はいまも鮮明であり、春がくるといつも口ずさんでしまう。
どうだろう
この沢鳴りの音は
山々の雪をあつめて
轟轟と谷にあふれて流れくだる
この凄まじい水音は
緩みかけた雪の下から
一つ一つの枝がはね起きる
それらは固い芽の球をつけ
不敵な鞭のように
人の額を打つ
やがて 山裾の林はうっすらと
緑いろに色付くだろう
その中に 早くも
辛夷の白い花もひらくだろう
朝早く 授業の始めに
一人の女の子が手を挙げた
─── 先生 燕がきました
私は少年の頃から絵が好きだったので、この詩と出会った時、見事な早春の映像を見る思いだったのである。
この冬で面白かったことに創った歌。
満員の 通勤電車の 全員が
スマホをにらみ ユニクロの黒
ユニクロの黒いブルゾンを着た人達が車両を埋め尽くし真黒。ほぼ全員がスマートフォンをかざし、指先だけがせわしく動いていて無言である。この風景はひと冬続いたが、春とともに衣替えして明るくなるのだろうか。
さて、三月の頭にスマートフォンの出荷台数が頭打ちになったニュースがテレビでも新聞でも報じられていた。急激な勢いで普及していたスマホは、対象国民の総べてを包み込み、すべての風景を一変させてしまった。人々の生活も一変し、その影響は我が業界にも影を落とす。普及したスマホはさらに使い込まれ、音楽再生はスマホとヘッドホンで十分だという状況が続く。通信のキャリア、関連ソフトメーカーが一億総オタク的な市場を造り出し、いわゆるここまでのオーディオ&AV業界に新たな環境を突きつけてくる。
一方で2020年には団塊世代が70歳を超え、団塊ジュニアも50代目前、そのジュニア達も20代後半となる。とんでもない高齢化社会へと向かうが、彼らが我が業界にとって重要なユーザーであることに変わりはない。
私は団塊ジュニア層、そして若い層を対象とした「ニューマニア宣言2020」を訴え、業界全体でこれに取り組むことを主張したい。前述のスマホ+ヘッドホン層の取り込みはもとより、「ニューマニア」はオーディオの活性化を促すことと思う。つまり、掴みどころのないターゲットユーザーに対して各社バラバラに商品提案をしても、業界の再構築はままならない。ニューマニアの人達を固めて、そのマーケットを業界で創造するとしたスタンスこそ、最も望ましいと考える。これから小誌もそれに向かってしっかりと取り組んでいきたい。