巻頭言

三世代マーケティング考

和田光征
WADA KOHSEI

私が「三世代マーケティング」を提唱したのは1993年の春のこと。当時は団塊世代が40代にさしかかったところで、その親達は70代に突入していた。

きっかけは、当時朝日新聞に載った41歳の主婦の投稿文だった。「──両親にステレオをプレゼントしようと思って電気店に行った。あれこれ見て回ったが、使い方があまりに難しい。つまみは小さいし横文字ばかり。到底使えるはずがないのでやめてしまった。メーカーは一体、誰のために商品づくりをしているのだろうか──」というような内容だった。オーディオを青春の只中に体験し、まさにオーディオ業界発展の立役者となった団塊世代が、余裕の中から親にステレオを買ってあげたいということなのである。

まさに当時は約700万人の団塊世代を軸に据え、その親世代と、20代にさしかかろうとしていた約800万人の団塊ジュニア層、それぞれが消費構造を形成していた。これらの層に対するマーケティングが盛んに行われており、三世代を意識した商品政策が全産業で行われていたと思う。オーディオビジュアル業界においてもそれが奏功し、いよいよ成長の極みをみるほどになっていた。とりわけオーディオは1988年に8000億円の市場規模となって、バブル崩壊の90年代前半まで活況だったと記憶している。

そして今、三世代マーケティングの構図がふたたび見受けられるようになった。団塊世代は今65歳を超え、2020年には70歳代となる。そのとき団塊ジュニア層は40代後半を迎え、そのジュニア世代が20代を迎える。

先の新聞の投書の41歳だった団塊世代の主婦の立場は、2020年の団塊ジュニア世代にそっくり置き換えられる。その親世代にあたるのが団塊世代だ。となると75〜77歳以上の人口は1,800万人以上と考えられ、人口の約15%をも占めることになり、日本は高齢化の極限へと向かう。

今の団塊ジュニア層は、相続世代であり、ニューリッチ層の中心と言われる。「結婚・子育て資金に関わる贈与税の1000万円の非課税措置」が15年度の税制改正大綱に盛り込まれたが、これは団塊世代の資産移動が考慮されているように思われる。受け取る側にとっての資産増となり、団塊ジュニアの子ども世代もニューリッチとなっていくだろう。

このように、いうなれば団塊世代、団塊ジュニア世代、そしてその子ども世代の三世代がそれぞれに強い購買層を形成しているということだ。真の「三世代マーケティング」時代を迎えているのである。

そして団塊世代、団塊ジュニア世代は人生の中でオーディオビジュアルに親しみ、その体験を内面の奥深く沈殿させている。故にハイレゾはもとより、アナログに対する人気も高まることは間違いないと私は強く主張する。

スマホに代表される新しい流れに乗りながら、オーディオの次なる需要構造を創造していく。そうした層をいかに取り込むか、これは極めて重要なことであり、業界再生の要諦であると考える。“三世代”をいかに取り込むか、そのためのマーケティングは、喫緊の課題であると思う。

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