大原 晴三氏

オーディオは理想を追い求めるものであり、
専門店はそれをお手伝いする
存在だと思っています
(株)マックスオーディオ
代表取締役
大原 晴三氏
Seizoh Ohhara

小倉店、福岡店の2店舗を展開、北九州地区の有力オーディオ専門店として名を馳せるマックスオーディオ。こだわりに特化して、広くお客様の信頼を獲得している。現状の手応え、そしてこれからについて、マックスオーディオ社長の大原晴三氏がおおいに語る。

 

お客様の立場になって
店を冷静に見て、競合のよさも学ぶ。
それができれば
やるべきことがわかります

集客は最大の課題
様々な工夫を凝らす

── マックスオーディオさんは北九州地区で精力的に活動しておられます。あらためて大原社長のご経歴をお聞かせいただけますか。

大原僕はもともとラジオ少年で、機械をいじるのが大好きだったので家電店に就職したのです。そこでオーディオを販売し、14年間勤務して独立しました。今から35年ほど前です。独立して最初の店は小倉のビルの2階で、8坪ほどの小さな事務所スペースがあるだけでした。お客様は誰も来なかったですよ。当時はメーカーの合展に出て販売していましたね。知っている方を片端から呼んで、それでも売上げはいつもトップでした。

当初からオーディオの専門店を志してはいたものの、当時はビデオデッキなども扱ったものです。いずれは商品が並んだ店をもちたいと思いながら3年間続けて、今の場所に移転しました。でも新しい店舗を構えても、やっぱり誰も来なかった。以前店に勤めていた頃は、シャッターを開けると自然にお客様が入って来て、カートリッジやカセットテープをお買い求めになる、それが当たり前の感覚でした。しかし自分で商売をしたら誰も来ない。考えてみればそれが普通ですよね。そこにようやく気がつきました。

勤めていたころ僕は広告宣伝や企画も担当していてチラシをつくる要領も心得ていたので、自分の店でもチラシを手作りして、周辺地域に相当数を新聞の折り込みで入れてみました。ある朝出勤したら、遠くの角から人が並んでいる。何だろうと思ったら、自分の店からの行列でしたよ。その時は大きな効果がありましたね。

── 集客の難しさをあらためて認識されたわけですね。

大原人を集めるにはどうしたらいいか、いつも考えています。最初の店で人が来なかった3年間、よほどの仕掛けをしないとだめだと痛感しました。今でこそ顧客数は相当数にはなっていますが、催事の時も最大の課題は集客です。DMやチラシを打つ以外に、お客様の来店を促すにはどうするか。お客様にとって魅力になるものが店にあればいいわけです。魅力のひとつは、商品の値段が安いこと。でも現実には大幅な値引きはできませんから、それに替わるものを幾つも考え、用意しなくてはいけないのです。

まず店を客観的に見て判断します。知名度でマイナス、商品力でマイナス、商品数の豊富さでマイナス、駐車場がないのもマイナス、とひとつひとつ認識していく。一方で、このあたりでは扱っていないようなオーディオ商品を取り扱っているのはプラス、専門メーカーの商品を取り揃えているのもプラス、とプラス要素を挙げていく。そしてマイナスとプラスを足し引きして、マイナスの数を減らしていくのです。改善できることはどんどんする。駐車場がなければ近くに借りるし、商品がなければメーカーの方に頭を下げて委託にしてもらって店に置く。そうやってプラス要素が増えてくれば、お客様にとって魅力ある店になれるわけです。単純な足し引きをしながら、冷静に勝算を見極める。

気をつけなくてはならないのは、やればやるほどこちらが満足してしまうこと。やっただけで舞い上がってしまいますが、それは単なる自己満足でお客様のメリットではない。夫婦で一生懸命チラシをつくって、足を棒にして配ってまわっても、それだけではお客様は来ない。売れるDMの作り方をセミナーで覚えて、真似して蒔いても同じようには集客できないのです。

小手先ではなくて、その下に隠された本質をしっかりと勉強しないと駄目なんですね。大切なのは、エンドユーザーから見てどんな店なのかということ。そこを冷静に見る目をもっていないといけません。私は食事に行っても、服を買いに行っても、車を見に行っても、客の立場で店を観察します。インテリアや照明の具合、店員さんの振る舞い、ディスプレイ、品揃えなど、細かく観察していつも勉強しています。

手間を楽しみ
こだわりの姿勢を貫く

── お店の中心となるお客様層は。

大原当店はハイエンドのピュアオーディオの占める割合が大きく、富裕層のお客様がよくご利用されています。この価格帯の売上げは急激に増えないかわりに減ることもない。景気にも左右されません。不景気の時も買っていただけた代わりに、バブル時代に伸びることもなかったですが…。年配の方が多いので、顧客の高齢化は最大の課題です。売上げに対する影響力も大きいですから。理想的には、富裕層の方にご愛顧いただくと同時に、その予備軍とも言うべき若い層の方々にも来ていただきたいところです。それはこれからの課題ですね。

お客様は九州近辺だけでなく、広範囲にわたります。ハイエンドの商品を扱うお店は限られますから、お客様もネットで情報を収集されます。そうなるとネット販売のお店が競合になってきます。九州のオーディオショップのお客様は九州近辺が中心ですが、関東のお店には関東圏からも地方からもお客様があります。九州のお客様を関東のお店にとられてしまわないよう、アフターフォローも含めて、当店で買うメリットをしっかり打ち出す必要があります。 我々は1時間半もあれば訪問できる場所へは駆けつけますが、お客様に「ここまで来てくれるんですか」と感激されることもあります。来てくれないと思っていたからどこで買っても同じだと思っていたと。そういう認識を払拭していくことが重要ですね。

── ハイエンドオーディオをしっかり取り扱うお店として、名前が全国に轟いているということですね。

大原そういうお客様には名前が知られていると思います。オーディオが好きで、収入に関わらず欲しいものは何に換えても購入されるという方はたくさんいらっしゃいます。あるCDのどこかの部分だけを何度も繰り返して聴く方や、アクセサリーをいろいろ試して音の違いを楽しむ人もいます。当店はそういう人たちに支えられているのです。オーディオにこだわっている人たちは皆さんロマンチストですよ。手塩にかけたオーディオで自分のためだけに歌われる曲を聴く。リアリティのある音が出ると嬉しいわけです。僕もその気持ちはよくわかります。

オーディオ店の店主はだいたい、教祖みたいなものですよね。店主自身のロマンや思い入れや思想が、展示のしかたひとつにも表れますよ。ハイエンドは特にそうかもしれませんが、こだわったものに特化するべきだと僕は思います。「こだわり」というと、頑固で融通のきかない、あまりいい意味には聞こえないかもしれませんが、僕自身は、ある面に特化して自分の望む方向に工夫したり、理想を追い求めたりして近づくことだと思っています。

オーディオはコンビニエンスなものであっては絶対にいけない。もし簡単で説明のいらないものだとしたら、我々の存在する意味はないわけです。アナログプレーヤーでレコードをかけるときは、針やレコード盤をいちいち掃除する必要があります。一度鳴らせば針が減り、セッティングが違えばちゃんとした音にならない。面倒なことがいろいろありますよ。しかし、レコードジャケットの絵を眺めながらカートリッジを替えて音の変化を楽しむ。そうやって手間がかかるものを楽しみに換えてこそ、我々が存在する価値がある。

オーディオライフが魅力的なものになり、自分自身の生活も楽しくなる。そういう魅力を見せていくことが我々の仕事だと思います。専門店で説明を聞き、体験し、そして買ったあとどう楽しむか、そういうこだわりを大事にしていく。オーディオの歴史の中で出てくるものも消えていくものもありますが、そういうこだわりをずっと見つめつづけていかなくてはいけないと思っています。

そういう楽しさを味わいに行こうとお客様に思っていただけてこそ、専門店だと思います。時代がいかに変わっても楽しさを絶えず提案できないと。それができれば、アナログであろうとデジタルであろうと、オーディオがどう変わろうとやっていけると思います。ただ店にとって、楽しさの終着点に行き着くことはないのです。これ以上の音はないということになると、それで提案は終わる。そんなことはあってはいけない。いつでもまだ求めるものがあり、先を目指しているのでなくては。

大原氏イベントでの取り組みに
確かな手応え

── イベントでは、新しい取り組みを行われましたね。

大原当店の恒例イベント「九州ハイエンドオーディオフェア」を先日開催しましたが、今回は地元のDJを起用して、ハイレゾに関する初心者向け試聴座談会を行いました。それをきっかけにお客様が即お買い求めになったわけではありませんが、人の入り方やお客様の熱心な様子を見て、大きな手応えを感じました。今回は博多地区で行い、秋は北九州で開催しますが、数年くらい定期的に続けてもいいかと。継続することで結果が見えてくると思います。

普段のイベントの告知は、顧客に対するDM、弊社のホームページでの告知、専門誌での宣伝の3つの手段がメイン。何度かに1度はテレビや新聞でも告知しますが、そう言う時新しいお客様がどっと来られます。今回はさらに、イベントそのものを工夫したわけです。DJを起用したのも初めて。九州地区でラジオやテレビのレギュラー番組をもっていて、非常に有名な方です。彼がハイレゾに関する疑問をお客様に代わってどんどんぶつけるというものでしたが、実はご本人はオーディオのことを結構わかっていらっしゃる。事前に3回の打ち合わせで主旨を説明し、ユーザー目線でどんどん質問してほしいと頼みました。質問内容も吟味して、初心者が疑問に思いそうなことを盛り込みました。

当日はプロのトークで面白おかしくどんどんやってくれました。お客様の知りたいことを彼が質問し、音楽も聴かせる。専門店でよくある一方的に難しいことを説明されて終わる試聴会でなく、一歩踏み込んだものになったと思います。

普遍的なフィロソフィを
将来に向けても展開する

── 今後の展開についてはどうお考えですか。

大原20年先には僕も88歳ですが、店はお客様のためにも存続してもらいたい。だから代替えについては考えますね。血のつながった息子でもそうでなくても、継いでもらうとなると自分を押し売りするわけにはいきませんが、店にとって大事な根幹を継いでもらうのだったら、そこには無理がないと考えます。これまでの間も店はずいぶん変化しましたから、将来だって変わるかもしれません。けれども根本的な考え方ややり方は変わらず受け継がれればいいと思っています。

── 根本的な考え方とは何でしょうか。

大原最初に商売を始めた時、自分自身忘れないように書いて壁に貼っていたことがあります。
「考えているか」
「行動しているか」
「感謝しているか」
という3つです。

それから、社員に対してつくった社是があります。
「よき社会人であること」
「目標をもつこと」
「仕事に誇りをもつこと」
「誠意と技をもつこと」
「勇気と想像力をもつこと」
「まわりに感謝すること」
「健康で明朗であること」
「家庭を大切にすること」
の8つです。これは今も紙に書いてバックヤードの壁に貼ってあります。

どちらもオーディオに関する言葉は何も入っていません。けれどもっとも根本的な、企業としての基本であり普遍的な考え方です。これを踏まえて、その時々の時代に合った新しいことをその都度取り入れていく。かたくなな姿勢に固執したり、新しいものを一切合切否定したりするような決めごとはないのです。

これからのオーディオ専門店がどうなっていくのかは、考えなければならない一番のテーマだと思います。それはまた非常に楽しみでもあります。短期、中期、長期で対応していかなくてはいけませんし、そのために相当前からベクトルを定めて、こつこつとビジネスを積み重ねていくことが大事です。自分自身の夢もあり、経営者として店をどうしていくかということもある。何よりお客様に対して自分たちがどう関わるか、どう向上していくかを考えていかなくてはと思っています。

大原晴三氏お客様の懐に入り込み
本音を引き出す

── ピュアオーディオという柱はこの先も変わりませんね。

大原そのスタンスは、変えないと思います。そして大きなこだわりをもっていきたい。オーディオは理想を追い求めるものであり、専門店はそれをお手伝いする存在だと思っています。そうでないと、結局は大資本と競争することになってしまう。

昔僕が勤めていた店は、最終的に大手量販店の傘下になりました。そこで僕は少しの間だけ量販のフランチャイズ店に身を置いて、量販店のやり方を勉強させてもらったことになります。量販店は家電製品が売上げの大多数で、安い値段で提供することに非常にこだわっています。それは立派なことです。大量仕入れして大量販売する力があるからできることです。そういう量販店の力の根源を軽視してはいけないと思います。資本もある、ブランド力もあり名前も通っている、大きな駐車場ももっている、チェーン展開して引っ越し先でも対応できる。お客様にとって大きな魅力となる量販店のいいところ、それを具体的に知っておくことは必要です。

そこを無視して、商品説明や提案については我々に分があるとか思っていては痛い目に遭います。量販店は本来非常に力がある存在なのですから。まずは相手をよく知る。そうすると、我々がどこで勝負できるかがわかるはずです。お客様にとって、量販で買った方がいいと思われることは当たり前のこと、そういう認識でいないと間違います。これは当店の従業員にも、いつも言っていることです。

また、ネット販売は、リアルな店にとって非常に厳しい存在です。けれどもそこがなぜ利用されるかというと、便利だからです。お客様からすれば、誰とも会話せず好きな買い物ができて、商品を手元まで配達してくれる。店頭で販売員にわずらわされたくない、自分でセッティングできるから説明はいらない、という人はたくさんいるのです。そういう通販のメリットをまずちゃんと知る。その上で、専門店としてお客様を取り込むにはどうしたらいいかを考えないといけません。ただ嫌がっているだけでは、自分の生きる道はなくなってしまいます。

── 量販があり、ネット通販があり、その中での専門店の立ち位置や存在価値はどこにあるか、絶えず意識しておられるわけですね。

大原相手をよく勉強して、だから自分はどうするべきかを考えないと。基本はあくまでもお客様目線でね。お客様から見るとどうなのか、いつも冷静に見ていないと戦えません。 そして従業員にいつも言っているのは、お客様の本心の情報を引き出すこと。しゃべっているうちに気持ちが通い合ってくると、お客様の本音が出ることがあります。「実はネットで買おうと思っていたんだけれど」というように。それを聞けなければ、黙って帰られてネットで買われてしまうところですが、聞きさえすればこちらも価格交渉ができるわけです。

ネット上では商品に触ることも音を聴くこともできません。だから本音はネットで買いたいお客様も、一度はこっそり店にくるわけですよ。そんな場合の本音をさらけ出せるよう、販売員はトークを磨いておく。相手の懐に入るスキルをもつ。そして一回買っていただいたなら、その後は必ずネットでなくうちに来てくださるようになるのです。お客様にとって、値段以上にメリットがうちにあることを納得していただけたわけですから。

お客様に対して、いつもセンサーを張っておかないと。情報を捉えられずに流してしまってはいけない。そうでないと、専門店は便利なショールームになって終わりです。こだわりをもってオーディオに接して、お客様としっかりと対峙していくこと。それが基本だと思います。そこから、オーディオ専門店のこれからの可能性も生まれてくるのではないかと思います。

◆PROFILE◆

大原晴三氏 Seizoh Ohharao
昭和22年6月生まれ。北九州地区の家電販売店勤務を経て、1980年にマックスオーディオを設立、代表取締役に。1982年に小倉店を開店。1997年に福岡店を開店。1998年から、音元出版のアワード「オーディオ銘機賞」の流通側審査員としても活躍する。

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