西村 亨氏

チャレンジの源となる“現場力”に
さらに磨きをかけ
写真の新たな価値、需要を力強く創造していく
富士フイルムイメージングシステムズ株式会社
代表取締役社長
執行役員
西村 亨氏
Tooru Nishimura

本年6月、発足から3年半を迎えた富士フイルムイメージングシステムズの2代目社長に西村亨氏が就任した。取り巻く環境が激変するデジタル・イメージング市場に、「チェキ」「シャッフルプリント」「Xシリーズ」などヒット商品を連打して鼓舞する富士フイルム。写真文化創造へ向けた意気込みを西村新社長に聞く。

プリントに対する啓発は
カメラの購入意欲向上へもつながる
両輪に力を込めて展開する

自信に満ちた導入施策
鋭い立ち上がりX-T10

── 発売から鋭い立ち上がりを見せる「X-T10」が、デジタルカメラグランプリ2016でも激戦となったミラーレスで栄えある総合金賞に輝きました。こだわりを貫いた美しいデザインは、カメラファンの心をくすぐるものと高い評価を集めました。

西村2011年3月に「X100」を発売し、以降、「Xシリーズ」として高級路線に大きく舵を切りました。品質や写真メーカーとして培ってきた色の良さには自信がありましたから、ユーザーの皆さんにも必ずやご理解いただけるという強い信念のもとに取り組んで参りました。

12年2月には待望の交換レンズタイプ「X-Pro1」を発売。そして、究極のカメラとして昨年2月に発売したのが、現在もフラグシップとして活躍する「X-T1」です。唯一のウイークポイントとして指摘されていたのが素早い動きに対するオートフォーカス(AF)でしたが、そこも「X-T10」では動く被写体を確実にとらえ続ける高性能を実現できました。X-T1も同時に新しいAFシステムへのファームアップを行いました。

X-T10は売り手としてもこれまでにない強い自信を持って臨む商品となり、そこで、発売前には主要都市の駅コンコースをはじめ全国で10,000人以上に実機を見て触っていただいたタッチアンドトライを実施。量販店でのプロカメラマンを招いたセミナー、全国の写真専門店へのデモ機の貸し出しや独自に行われている小規模の「Xセミナー」への応援など、草の根レベルでの取り組みを積極展開しました。これが奏功し、発売前には想定を上回る予約をいただくことができました。

ご販売店のディーラーの方から「自信を持ってお薦めできる商品」と太鼓判を押していただくなど、評論家やプロカメラマンの皆様からも高い評価をいただき、一層自信を持って取り組むことができました。最近は街中でもXシリーズを持ったユーザーを目にする機会が増え、電話やメールでの問合せも数多くいただくようになりました。さらにファンを増やし続けていきたいですね。

また、プロカメラマンの方には、富士フイルムというと「フィルムと印画紙」のイメージが強いのですが、ここでも是非、カメラもお使いいただきたい。まずは国内において、プロカメラマンの方に安心してお使いいただける仕組みづくりに力を入れていきたいと思います。

── Xシリーズに対するユーザーからの手応えを強く感じたのはどのタイミングですか。

西村交換レンズタイプを出して評価が高まる中で、やはり、ひとつの契機となったのは「X-T1」です。「X-T10」はその弟分、しかも、唯一の弱点だったフォーカスの課題もクリアしての登場とあり、発売後の活躍でも実証されているように、さらに大きな手応えを実感しています。

── デジタルカメラグランプリ2016では、交換レンズの「XF16mmF1.4RWR」が総合金賞を獲得しました。ラインナップは瞬く間に18本と充実し、しかもひとつひとつの完成度の高さが目を引きます。販売店でも交換レンズの販売に力を入れるところが増えてきました。

西村コンパクトで苦戦を強いられるカメラメーカー各社では、一眼やミラーレスのボディを購入した後、いかにレンズを買い足していただけるかに知恵を絞っています。思わず欲しくてたまらなくなるような働き掛けをご販売店と一緒になってやっていかなければなりません。総合金賞をいただいた「XF16mm F1.4RWR」はマニアックな商品で、広角で被写体をクローズアップしながら、独特のボケ感で背景も大きく取り入れた撮影が楽しめます。こうしたところにもきちんと目を向けて評価いただいたのは大変うれしいですね。

写真プリントに革命
「写プライズしよう。」

西村 亨氏── 写真メーカーとして、カメラとのシナジーを生み出すプリント分野も牽引される立場にもあります。今年はスマートフォン感覚の画期的な操作性能を実現した店頭受付機「ワンダープリントステーション」を新たに導入されました。

西村導入店は8月末で約1300店になりました。9月末には1500店、年度内には2500店の目標を掲げてさらなる導入を推進しています。当社「フィルム」と「写ルンです」がピークを迎えたのが2000年前後。当時メインユーザーだった女子高生も30歳を過ぎ、彼女たちがフィルムを知る最後の世代となりました。つまり、それより下の世代は現像やプリントといった行動パターンを知らないわけです。スマホ世代に代表されるこうした若い人たちにいかに写真を身近に感じていただき、プリントをする楽しさを実感していただくか。それがワンダープリントステーションの開発コンセプトになります。ご販売店にもご理解をいただき、プリント需要の活性化のため順次入れ替えをいただいています。

── プリントでは、前年の正月のCMでクローズアップされた「シャッフルプリント」が大好評とお聞きします。

西村何年も前からある商品で決して目新しいものではないのです。それだけ皆さんに知られていなかったとも言えます。昨年2月、東京・原宿に直営店「WONDER PHOTO SHOP」を出店し、お客様の反響や市場調査から、スマートフォンの中にある画像をプリントしたい要望が実は大変高く、その動機として、友達や親へのプレゼントのニーズが際立っていることがわかりました。シャッフルプリントなどはまさに最適で、皆で楽しみながら写真を集め、そこからいい写真だけを自動で選んでレイアウトして完成してくれます。

こうした写真プリントで誰かを喜ばせる、驚かせる楽しみ方を、写真の“写”に、驚きを意味する“サプライズ”を合わせて「写プライズしよう。」というキャッチフレーズにして、若い世代のプリント需要を喚起する取り組みを、女優の広瀬すずさんをイメージキャラクターに起用してスタートしました。大きな反響をいただき、例えば先ほどのシャッフルプリントは、CM投入直後には対前年比で500%、現在も同350%の伸長を見せています。今まで来店したことがない女子高生が「写プライズってどれでやるんですか」と店へ足を運ぶなど新規客の開拓にもつながっています。この勢いをフォトブックや年賀ポストカードにつなげていきたいですね。

── “撮る”の後の“見る”“残す”“贈る”の需要掘り起こしは業界の大きなテーマとなります。

西村写真が凄いのは、薦められても押しつけられた印象を持たれないこと。写真をリビングに飾ったり、アルバムにして残したり、それを、家族皆で楽しくつくったり、恋人同士で語らいながらつくったり、そうした写真の楽しさを後世に残していくことは、富士フイルムの使命であり、皆さんと力を合わせて徹底して訴えていきたい。デジタルカメラの性能は物凄くよくなりましたが、それを引き出すのがプリントです。プリントに出力することの大切さを啓発することが、カメラの購入意欲をさらに高めることにもつながっていきます。両輪で力を入れて取り組んでいきたいですね。

── プリントへの入口という意味からも注目される新提案が「ワンダーフォトボックス」。スマートフォンの大量の撮影画像を整理できない多くの人にとって、これほど重宝な商品はないはずです。

西村「膨大な撮影データをどう整理したらいいのか」「見たい時に見たい写真が探し出せない」。そんな悩みを持つ方が数多くいらっしゃる。潜在ニーズは非常に高く、使っていただければその良さは一目瞭然です。しかし、いざ説明していくとなると大変むずかしい。色々なアイデアを振り絞ってチャレンジしていきたいと思います。

西村 亨氏写真業界を潤おす
年賀ポストカード

── 今年の年賀ポストカードの取り組みをお聞かせください。

西村年賀はがきの発行枚数は昨年が前年比97%弱、漸減傾向は今後も変わらないと見ています。そうした中で前年を超える数字を獲得するために、昨年ついにパソコンからのオーダーを超えた、スマートフォンからのオーダーに焦点を当てた取り組みの強化を図ります。

写真店の売上げにおける年賀ポストカードの売上構成比は非常に高く、ここが盛り上がると写真業界全体が潤ってきます。そのためには、既存のリピーターの上にスマホ世代の数をどれだけ上乗せできるかです。新しいお客様を獲得するために、シャッフルプリントをされたお客様をどうやって年賀状につなげるかなど、今から、地道なお声掛けや提案を行っていかなければなりません。「写プライズしよう。」の展開はその起爆剤にもなるものです。

商品としては、キャラクターものをはじめとする従来のタイプとは一線を画し、スマートフォンから注文される方にアピールできるデザイン性を追求した「LETTERS」を強化しました。一昨年の発売以来、大変好評で、今年はラインナップやテンプレートの数をさらに充実させています。

また、写真画質に対して大変高い評価をいただく一方、ご存じない方がまだまだ多いことから、年賀状シーズンを前に、印画紙のポストカードを1枚、無料で体験いただくキャンペーンを10月中旬から行います。そこから本番の年賀状の注文につなげていく流れを創っていきます。

── それでは最後に、社長に就任されての抱負、ご信条についてお聞かせください。

西村写真は本当に素晴らしい。それを多くのユーザーにご理解いただくことが、私たちの事業の根幹です。フィルムのアナログ時代からデジタル時代への進化に合わせて、構造改革を進める中で、3年半前に「富士フイルムイメージングシステムズ」という会社が設立されました。前任の小島と一緒になって取り組んできて、その方法論や考え方は何ら変わることはありません。写真のある生活で人生を豊かにする。そこを力を込めて前へ進めて参ります。

一方、社内の構造に目を向けると、だいぶ軋み出しているところもあり、これから進めていく方向性に適した組織づくりを同時に進めていかなければなりません。新しい人材を採用したり、グループ間での交流を活発にしたり、社員の教育もさらにしっかり行っていきたい。5年経ち、10年経ったときに、「素敵な会社ですね」と言われる会社にしていきたいですね。

今までにない写真の価値、その需要を創造する取り組みがますます重要になります。そこで必要とされるのが“現場力”。それを培っていくために社内の風通しは良く、報告は悪いものも含めてどんどんあげてもらう。喧々諤諤皆で意見をぶつけて話し合い、そして、新しい仮説をつくり何度もトライする。失敗することが多くても、そこから次の課題が見えてくるはずです。新しいアイデアやトライする勇気を生み出す“現場力”にさらに磨きをかけて参ります。

◆PROFILE◆

西村 亨氏 Tooru Nishimura
1957年6月24日生まれ。東京都出身。1980年4月 富士写真フイルム(株)入社。1982年7月 福岡営業所に配属以来、一貫して写真営業に携わる。2012年2月 富士フイルムイメージングシステムズ(株)設立とともに同社取締役・執行役員フォトイメージング事業部長に就任。2015年6月 前任の小島正彦氏を引き継ぎ、二代目の代表取締役社長に就任。

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