加藤修一氏

無理しないでいるのでなく
余裕のあるやり方で余裕を生んでいます
株式会社ケーズホールディングス
代表取締役会長兼CEO
加藤修一
Syuichi Kato

2016年の幕開け。消費増税での需要減が長引く中でも、東京オリンピック開催へ向け回復への第一歩が期待されてくる。不景気の時も強い「がんばらない経営」で、新たな年をどう迎えるか。年頭における思いを、ケーズホールディングスの加藤会長に聞く。

全国をカバーするためには
都会のお客様も対象になる
都会の近くにも店をつくれるような研究をしています

景気が悪い方が
正しい商売をする店が選ばれますから
不景気の方がいいと思うところもあります

ゆっくりと回復の兆し
無理せずに時を待つ

── 2015年を振り返っていかがでしたでしょうか。

加藤ここ数年は、エコポイントやアナログ停波、消費増税といった大きな出来事があり、その都度急激な需要増とその反動による急激な需要減に見舞われてきました。その影響が想定以上に長引いているわけですが、2015年はやっとそれが少なくなってきた感があります。

特にテレビは、通常の需要が年間800万〜900万台ほどにも関わらず、アナログ停波で大きな買い替え需要を発生させ、ピークで年間2500万台とも言われるほどの盛り上がりになりました。今はその反動で500万〜600万台ほどに需要が落ちていますが、これもいずれは通常の規模に戻るという期待はありますね。

2020年の東京オリンピックの開催がアナログ停波から9年後にあたり、その頃にはテレビの買い替え需要も、通常かそれ以上に盛り上がると考えられます。テレビがそういう規模で売れて来るとインパクトは大きくなります。また現在でも4Kへの買い替えが進んでいて、台数はそれほどでなくとも売上金額は伸長が続いています。この先テレビが台数も復活してくると、家電全体がもっといい状態になるでしょう。それまではあと3〜4年はかかるでしょうか。ゆっくりと時間をかけた動きだと思います。

── 御社の状況はいかがでしょうか。

加藤ケーズデンキでも、現状ではテレビの需要減で本来持つ力の9掛け位になってしまった感覚で仕事をしていますが、将来は明るいという考え方でいます。今はまだ既存店が伸びていませんが、今期に入って既存店の売上が前年を上回る月も多いですから、底は打ったと考えられますね。

世の中の景気そのものがよくなったとはまだ考えていません。ただそんな中で当社は、需要を掘り起こして売上を伸ばすといった考え方はしていません。ケーズデンキは、お客様に無理に買っていただこうとはしない経営です。お客様が家電品を欲しいときに、ケーズデンキを選んでいただけるようにするだけですね。

店に並んでいる商品は
お客様が望むもの

── お客様の指向をどうやって吸い上げるのでしょうか。

加藤お客様の考えていることは、お客様に聞くしかありません。だからケーズデンキの従業員は、お客様が何も言わないうちからアクションを起こさないようにしています。テレビを買いに来たお客様には、どこで使うのか。リビングか寝室か、それともお子さんがアパートで使うのか。そういうことをお客様から聞かなければ、選びようがないですよね。

ですから町のお医者さんのように、「今日はどうしましたか?」から入るといいですね。今日はこれが安いですよ、キャンペーン中ですよ、ということは店の都合であってお客様には関係のないことですから、お客様が何か言う前にアピールすることはありません。

── お客様の情報は、社内でどう共有するのですか。

加藤お客様の要望は、売上のデータに反映されています。だからまずは、売れている商品を切らさないようにすることですね。それは商品本部の仕事です。お客様の要望とは関係なく、「安くするからこの商品を買ってください」という安いだけの訴求はよくありませんね。安いだけということは、それはお客様が望まなかった商品かもしれません。そんな商品ばかりが並んでいる店になってはいけませんよね。

また人気の商品で、販売価格が競争に陥りマージンが低くなった場合、それをカバーしようとマージンの高い商品を一生懸命売りたくなる電器店もあるかもしれませんよね。そうなると、お客様の要望に合わない商品をいい商品ですよと言って売ることになってしまいます。高度成長期の家電業界では、マージンの高い商品を、お客様を説得して売れる店こそが優秀だと言われたこともありました。しかし当社では、それはよくないと考えます。ケーズデンキは、お客様に欲しい商品を買っていただく。たとえマージンが低くてもよいのです。それが真面目な商売だと私は思っています。

商品をつくるメーカーさんと、商品を欲しいと思っている消費者の仲立ちをして、フィーをいただくのが私たちの商売。お客様が希望していることとメーカーさんがつくる商品をマッチさせるのが仕事です。ですからお客様の代弁もする。こんな商品が欲しいとメーカーさんに伝えて、提供してもらう。それがつくる側の持論にだけのって商品を仕入れて販売するだけでは、お客様の不利益につながってしまう恐れがありますから大きな間違いに繋がってしまうと考えます。

お客様が商品を間違えて買ったという時にも、お客様自身が選んで、買って箱を開けてしまったら取り替え不可、ということはありません。お客様が間違えて買うことになってしまったのは、お客様の要望をきちんと聞かなかったとケーズデンキでは考えるようにしています。

加藤修一氏不足を取り戻そうと
じたばたしても仕方ない

── 昨年発表された五ヵ年計画の進捗状況はいかがでしょうか。

加藤五ヵ年計画は2014年度が初年度でしたが、そこに消費増税の反動が想定以上に大きく初年度計画を下回りました。計画を作成したのは、2014年の11月。しかしその後、消費増税の反動減が思った以上に長引いた。これを頑張って取り戻そうとすると無理がかかり、おかしなことになってしまう。だから頑張りません。

── 計画を達成できない時は、不足をすぐに取り戻さなくてはと多くの企業が苦心されています。

加藤他の会社さんのことはよくわかりませんが、当社では無理なことは無理だと判断します。それをごまかそうとしたり、嘘をついたりして、おかしなことになった例をこれまで見てきました。無理な目標を達成するために、やるべきでないことをやってしまったのではないでしょうか。ケーズデンキはその正反対のところにいますから、私も安心して仕事をしています。おかしなことになるのは、無理をするからですね。

── 業績が悪くないから、無理をしないことができるのでしょうか。

加藤それは違います。「ケーズデンキは業績が悪くないからそういうことを言っていられる」とおっしゃる方もいますが、私はそうは思いません。そうではなく、余裕のあるやり方でやらなければ、いつになっても余裕は生まれないのです。計画が達成できなかったとしても、まずそれを事実として認める。その上で、そこから変わっていくことを考えなくてはなりません。それなのに、事実の数字を認めようとせず、無理にどうにかしようとする。そこでやり方を間違えると不正につながる。正しいことができなくなりますよね。

テレビは今、急激に売れた後の反動で急激な減となり、落ち込みが続いています。それは仕方がありません。それなのに不足を何とかしようと、家電商品以外を扱うと家電に集中できなくなってしまうとケーズデンキでは考えます。テレビがもう少し回復するまで、市場はこんなものだとまず認識するということです。じたばたしても、経営はうまくいきませんから。

会社はずっと続いていかなくてはなりません。だから業績に大きな山や大きな谷はないほうがいい。できるだけなだらかに成長していくのが理想です。だから景気がよくなり、業界の数字がよくなりそうな時は、当社はちょっと手を緩めて伸び方が急にならないようにするくらいです。だから業績が落ち込んだとしても、無理に挽回する必要はないのです。

郊外大型店舗だけでなく
都市型店舗の可能性も探る

── 出店の状況はいかがでしょうか。

加藤現状では日本全国の60%をカバーしています。出店のペースは毎年だいたい同様ですが、そのエリアで大きな店を出せる物件を探していますから、そういう意味で苦労していて、スムーズに進まない感じです。また今は建築費が高騰して建築業界も人手不足ですから、急いでつくろうとするとコストが上がりすぎてしまいます。そういうことで今年度の出店も当初計画は36店オープンが32店の実績見込み、来期に4店舗ずれています。ただ例年から見れば、大きな変化ではありません。

ケーズデンキの店舗はほとんど郊外にありますが、それは車で行きやすく、出入りしやすく、駐車しやすい場所だということ。必ずしもメインの国道沿いではなく少し入ったところ、目の前をたくさんの車が速度を上げて走っている場所より、車の出入りがしやすい場所を選ぶのもよいでしょう。

店舗のフロアは基本的にワンフロアで、面積はなるべく広く。そうすればたくさんの種類の商品が置け、通路も広くとれます。店内を移動しやすいですし、商品からちょっと離れて全体像を見たりしやすいですしね。土地の値段が高いところに店舗をつくると、フロアに商品をぎゅうぎゅう詰めにしたくなりますよね。たくさん売れないとコストに合わないですから。しかしケーズデンキでは郊外に店をつくっていますから、たくさん売れなくても採算が合うような店舗運営に心掛けています。

── おっしゃるような広い土地を探すのは、地域によっては難しいこともあります。今後店舗を増やす際に、条件をある程度妥協することは考えられませんか。

加藤これまでケーズデンキは郊外に店を展開してきましたが、都会に近いところには多くの世帯があり、そういうお客様も対象にした店舗がないと日本全国のお客様にアタックすることはできません。都会の近くですと、たしかに広い土地を確保するのは難しいですが、 将来は都会の近くに店を出すことも考えなくてはならないでしょう。都会に近いと郊外型のような大きな店は難しいでしょうが、都会だからといって小さい店でもいいというわけでもない。まずは現状の郊外店舗運営の追求プラス都会の近くでの店舗展開の研究をしているところです。ワンフロアが理想的ですが、現状の2フロアの店舗や場合によっては、3フロアについても研究していきます。具体的にいつまでというのでなくのんびり考え、ある程度長い目で検討していく問題です。

インバウンド、電力小売り
お客様の必要性を第一に

加藤修一氏── 今の家電商品をどうご覧になりますか。国内家電メーカーは昨今、大量生産・大量販売からシフトして、お客様のニーズに応えた高付加価値商品を提案していく方向に変わりつつあります。

加藤冷蔵庫や洗濯機、エアコンなど白物家電の一部は、お客様の要望に応える感じになってきたと思います。しかし小物商品ではまだまだヨーロッパなどの海外のメーカーさんが強い。そういう意味では日本のメーカーさんは拡販の余地を残していますね。

商品づくりに対して、日本のメーカーさんはまだまだ考え過ぎているのかもしれません。たくさんの機能をつけて高単価で提案しようとする傾向もありますが、お客様のニーズはもっとシンプルなはずだと思いますよ。一番大事なのはお客様の要望であり、メーカーさんの思惑ではありませんよね。

高度成長期のモノがない時代には大量生産、大量販売で業界は成功しましたが、バブルが崩壊してその価値観は変りました。それなのに商品づくりの価値観が昔のまま変らず、同じ物を大量につくっていろいろな人の好みに合うような多機能な商品ばかりになっているのではないでしょうか。

── このところ大きな話題の、インバウンド需要はどうご覧になりますか。

加藤当社では、日本にお住まいの方が生活家電を必要になった際、ケーズデンキを好きになっていただいて家電商品を買っていただき、さらにリピーターになっていただきたい、という考え方です。ですから海外からの観光客の方々が日本で家電品を買う需要に対して、ケーズデンキは積極的に力を入れることは基本的にはありません。実際ケーズデンキの店舗には、海外からの観光のお客様はあまり見えていません。

またケーズデンキは購入後の保証やアフターサービスも重視していますが、帰国されたあとまで海外のお客様の保証をするのは難しい。当社にとっては、インバウンド需要は無縁と言っていいでしょう。外国語を話せる従業員を配置していませんし、免税のシステムも用意していません。

インバウンドの大きな需要は注目されていますが、いつまでの需要であるかはわからず、一時的なものに止まるものかもしれません。そして、会社が本来目指すところとは違う売上に対応しようとすると、経営はうまくいかなくなると考えます。そういう意味では、法人需要にも特別な対応はしていません。もちろん、法人様からのお問い合わせには対応していますが、店頭では一般家庭にお住まいの方が対象ですので、業務用途のものを、法人契約で販売する専用窓口は用意していません。あくまでも、一般のコンシューマーにとって最適な商品のご提案をしたいと考えます。

── 2016年は電力の小売の自由化が始まりますが、どうご覧になりますか。

加藤電力の小売が自由化になり電力会社を選べるようになっても、ただ小売の会社同士を無理矢理競争させるだけで、お客様の日常生活にはあまりなじまないような気がします。お客様にとってはどこと契約すれば電気代が安いかが関心事かもしれませんが、いずれ落ち着いたら値段はどこも同じになるかもしれませんし。

どこで買おうと電気そのものは同じで、こちらで買えば照明がもっと明るいなどということはないですよね。事業会社を競争させて、消費者に無理やりどちらかを選ばせるようなことは、果たしてどうなのかと私自身は思っています。

電気を売るということで、電器店もそれに関わることもあるでしょう。そういうことが当たり前になってくれば、ケーズデンキでもやることもあるかもしれません。ただ当社は日頃から、能率よくローコストでできる仕事をしていこうとしています。よくわからないことについては、すぐにどうこうしようとはしません。まずはお客様にとって、本当に必要なことかどうかを見極めるということです。

安定的成長のフェーズへ
期待の2016年

── 2016年度はどう予測されますか。

加藤消費増税からの落ち込みの影響は2015年度でほとんど消えて、2016年度は安定的に成長するフェーズに入ると思います。しかし2017年度にふたたび2%の消費増税が控えていて、その駆け込みでまた上ぶれが起きるでしょう。前回は3%の増税でしたが今度は2%と、増加の割合が違います。前回ほどの駆け込みは起きないのではないかと想像しています。そうだとすると業界にとってはいいですね。山の高さが前回の1/3くらいなら、谷も1/3くらいですみます。そして2017年度の会社の成長が大きければ、谷を補って業績減にはならない可能性がある、と考えます。テレビ販売も今が底ですから、その頃には買い替え需要も少し上ってくることが期待できますし。

ただ、人からは怒られるかもしれませんが、私自身は不景気な方がいいと思うところもあります。景気がいいときは、供給が間に合わないほどの需要があり、お客様がたくさん来店する。すると正しい商売でもそうでない商売でも、そんなことは関係なしに商品が売れていきます。そして店にはお客様が集中して混みすぎてしまいますから、余裕のある接客ができなかったり、欲しいものが手に入りにくくなったり、あまりいいことはないような気がします。

しかし不景気だと、正しくない商売ではお客様は来店してくれませんし、売上も伸びなくなります。そういう時にでもケーズデンキは、お客様に選んでいただける店でありたいし、お客様が望む商品を販売したいと思っています。第一に大切なのは、お客様の考えていることにどう対応するか。経営はどうしても会社の立場からものを考えてしまいがちで、会社の思いをどう達成しようかと思ってしまいます。その思いがお客様に合っていない場合は、会社の考え方にお客様を誘導しようとしてしまいがちですよね。しかしそれは、お客様にとっての喜びではないかもしれません。だから会社の思いを押し付けるのは、お客様のためにはならないと思っています。

無理なことをしないでいれば、お客様第一に物事を考えられる。ゆっくりと成長しながら、お客様に喜んでいただける仕事をしていきたいと思います。

◆PROFILE◆

加藤修一氏 Syuichi Kato
1946年4月7日生まれ。茨城県出身。69年3月東京電機大学工学部卒業。同年4月(有)加藤電機商会入社。73年9月(株)カトーデンキ代表取締役専務、82年3月よりカトーデンキ販売(株)代表取締役社長。2011年6月に(株)ケーズホールディングス代表取締役会長兼CEOに就任。“人”を尊重する企業風土と無理・無駄・ムラのない「がんばらない経営」で安定的な成長を続ける。

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