巻頭言

わが社の専門誌独自構想

和田光征
WADA KOHSEI

「出版業界の雑誌流通を基盤とした物流システムは、利益の悪い書籍流通を支えてきた結果、雑誌市場の空前の危機に瀕しているが、出版業界の大変動はもはや避けられない状況だ。この状況下で出版社が利益を上げる正攻法は、紙書籍の返品率を下げて取次の負担を軽減し、さらには一般書の電子化を勧めて取次流通に左右されない販路を構築させることだ」と某紙に記されてあった。まさにその通りであるが、それを実現させるのはなかなか厳しく、解決の道を見つけ出すのは難しいだろう。

専門誌の世界もまさに同様であるが、雑誌の完全なる電子化はほとんど成功例はない。部分読みの例はあるが、それも従来の売上げからすれば微小といっても過言ではないだろう。電子版の雑誌のページは左右方向、上下方向にスクロールできるが、これは便利そうでいながら閲覧するにはもどかしく、ほとんど途中で読む意欲が失せてしまうもの。雑誌の完全な電子化は難しいのである。

わが業界における専門誌の弱体化は、結局は業界そのものを弱めることとなる。今日ではウェブの拡大、進化によって専門誌に頼らなくても情報は湯水の如く存在し、そのことがプロパガンダとして機能していると言えるだろう。

一般的な雑誌が40%、50%ダウンと言われている中で、当社が発行するような専門雑誌は、10%、15%ダウンの水準をキープしている。その要因は何か。ウェブ媒体の情報にとって代わられてはいないからである。紙の雑誌は、手に取ってめくれば一気に100ページ、200ページでも飛ばしたり戻ったりでき、自分が欲しい情報に瞬時にたどり着ける。紙の雑誌をめくるという行為は、結局ウェブの閲覧手段よりも進んでいると私は思うのである。だから紙の雑誌は、その本来の良さを活かしそれを訴求することが肝心である。

そして、紙の雑誌のオールカラー化も必須である。ウェブの上では画像がカラーで存在するのが当たり前であり、そうした時代に紙の商品専門誌のモノクロページのウェイトが高いと、読者に違和感を与えることになるだろう。

私は1999年夏に、オーディオ&ビジュアルのポータルサイト「ファイル・ウェブ」をスタートさせたが、その過程で紙の雑誌のオールカラー化が必須であることに気がついたのだ。そこで2007年春に凸版印刷の本部長に来社いただき、それまでモノクロページが混在していた当社の雑誌に対し、生き残るためのオールカラー化を実現したいと訴えた。さらに、これは巨大な印刷会社にとっても同様の問題だと断言した。

「我々も変われということですね」と本部長。「世の中はすべてがこう変わることは間違いありません」。「分かりました。やりましょう」。そして2008年2月21日発行の「季刊・オーディオアクセサリー」誌を皮切りに、当社のすべての雑誌はモノクロの広告を除く全ページのカラー化を実現。その上で、原価を20%下げることにも成功したのである。さらに、掲載する商品写真は著名なカメラマンに撮影していただき、判型もB5判からA4変形判にして大型で迫力あるページづくりを徹底させて今日に至っているのである。

パラパラとめくれる紙の雑誌の機能と、140万人の月間ユニークユーザー数をもつ「ファイル・ウェブ」上の映像を連動させ、専門誌不況の中で独自の道を切り開きたいと思っている昨今である。

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