- 高音質で音楽を楽しむ志向は広がっている
こだわりを重視し製品の進化を追求していく
- 株式会社オーディオテクニカ
取締役 マーケティング本部 国内営業部
ゼネラルマネージャー
- 清水 三義
Mitsuyoshi Shimizu
2016年の新製品発表会を開催し、年末商戦を見据えた強力な製品群を投入したオーディオテクニカ。主力のヘッドホンカテゴリーを始め、アナログカートリッジのより進化した提案など、同社のこだわりが全面に打ち出された。市場からも注目が高まる製品に対する販売取り組みについて、清水氏に聞く。
インタビューと文・徳田ゆかり(Senka21編集長)/写真・柴田のりよし
アナログの取り組みは
原点回帰でなく新たなチャレンジ
一時のブームで終わらせない
意欲的な展開となった
カートリッジ新製品群
── 今年も御社の新製品発表会が開催され、「ホームユース」と「ポータブル」の切り口でアナログとヘッドホンのすばらしい製品群が発表されました。最初にアナログ製品のプレゼンテーションがありましたが、トップエンドのカートリッジを投入されるなど昨今の御社のお取り組みを象徴していますね。
清水アナログの市場は昨今海外での伸長とともに国内でも伸びており、当社は今年あらためてここに注力していく、発表会の内容はその意欲の表れでもあります。おっしゃるとおり当社では今年、AT-ART1000というハイエンドクラスのカートリッジの展開に着手しております。カートリッジは私どもの創業当初から手がけてきた製品で50年以上にわたる技術の蓄積がありますが、ART1000はその粋を結集させた製品であり、5月にミュンヘンでのハイエンドオーディオショウで発表して国内では7月から発売を開始しているものです。
これまでの当社のカートリッジのラインナップでは20万円ほどの価格が上限でしたが、ART1000は最高峰のリスニング環境をお届けできる製品として、約60万円の価格を設定しました。これによって私どもは、トップエンドの価格帯に初めて参入したことになります。思い切った展開でどれほどの反響があるのかは未知数ではありましたが、「よくぞ世に出してくれた」、「素晴らしい音に感動した」といった声も頂戴し、おかげさまで非常に高いご支持をいただきました。
海外の高級カートリッジをお使いのハイエンド層のお客様にオーディオテクニカのブランドをあらためて認知していただくことができ、従来からの当社製品をお使いの方に対しても、さらなるグレードアップのご提案につなげることもできました。私どもの創業以来のこだわりがお客様、ご販売店様に受け入れていただけたことを非常にうれしく、光栄に思います。
そしてこのたび発表しました新製品群は、市場でのお客様のご要望を踏まえての新しいラインナップとなりました。VM型カートリッジは昇圧トランスやヘッドアンプを必要とせず、より幅広いお客様にお使いいただけると思っております。このカートリッジラインナップだけの専用カタログも準備し、このたび掲げている「アップグレード」のご提案をわかりやすく表現しました。
新製品は9機種。3種類のカートリッジボディと、7種類の針とを組み合わせたかたちです。どの製品も針交換に対応しており、ご購入いただいたカートリッジにさらに針を付け替えて「アップグレード」することができます。それは針とカートリッジの組み合わせによるさまざまな音の違いを楽しんでいただくご提案で、さまざまなお客様の志向に対してお応えできる選択肢の数を増やしたと思っております。1つに限らずカートリッジを複数お持ちになる訴求もできると期待しています。
アナログのオーディオの楽しさはもともとそういうところにあると言えます。私が入社した頃は、当社の製品に限らず、おひとりでも5本、10本とカートリッジを揃えておられるオーディオファンの方がいらっしゃるような時代でした。こうしたアナログならではの楽しみ方を全面に出して、拡販につなげていきたいと思います。
またアナログプレーヤーも2機種投入しています。私どものUSB出力を持つプレーヤーAT−PL300USBが大変ご好評をいただきましたが、これをさらに使いやすくしたAT-PL300USBIIと、ダイレクトドライブ方式を採用したAT-LP5です。それぞれ、以前聴いたレコードを大事に持っておられる方や、アナログに興味をお持ちの若い方など、幅広い方々にアピールして参ります。
ワイヤレス需要を見据えた
ヘッドホン新製品群
── そしてヘッドホンの新製品群ですが、今回はポータブルに特化した内容のご提案ですね。iPhone7にヘッドホン端子がなくなったことで、ワイヤレス製品への注目度も一気に高まります。
清水ヘッドホンの市場は未だ堅調に推移しており、用途や使い方、お客様自身のライフスタイルの変化といった切り口で、可能性はまだまだ広がると見ています。お客様の使用シーンは広がっており、特にスポーツ用途が伸長してインナータイプのブルートゥースイヤホンの需要をけん引しています。さらにiPhone7が引き金となり、ワイヤレスの需要はさらに拡大が期待されます。今年話題となっているVRやゲームジャンルについても、挑戦する余地がまだまだあります。
今年の新製品はやはりワイヤレスの需要の高まりを捉えて、ポータブル需要に注力した内容となっております。最上位モデルに位置づけられるATH-DSR9BTはブルートゥース対応。音声信号をデジタルのままドライバーに伝送できる新技術「ピュア・デジタル・ドライブ」を採用しており、ワイヤレスのカテゴリーでもこだわりを貫いています。
ワイヤレス以外の製品でも、密閉ダイナミック型のATH-SR9は新開発の“トゥルー・モーション”ハイレゾ・オーディオドライバーを搭載して音質を強化しております。ケーブルも着脱式とし、今大変注目されているリケーブルにも対応しました。さらにイヤホンでも、2つのドライバーを直列に配置した"Live Tuned"デュアル・シンフォニック ドライバーを搭載しているATH-LS70、ATH-LS50他全5機種からなるLSシリーズもリケーブルに対応しております。交換用のケーブルについても、当社のヘッドホンに最適なチューニングを施した製品を新たに投入しました。
私どものすべての製品づくりについて第一に重視するのは音質です。ポータブルに特化した今年のヘッドホンのご提案でもそれは同様で、こうしてピュアサウンド、ハイファイの音を実現しました。ぜひ多くの皆様にご体感いただきたいと思っております。
── カートリッジによる音の違いを楽しむことや新たなヘッドホンの音を訴求するにあたっては、店頭での取り組みが鍵となりますね。
清水オーディオ製品はお客様に音を体感していただく訴求がやはり非常に重要です。ART1000は日本国内にて、一つ一つ手作業で製造するため生産数が限られます。そのため取り扱いご販売店様をある程度限定させていただいておりますが、こうした製品である以上お客様に必ず音をご体感いただき、アフターを含めてしっかりとご対応いただく体制が整った店頭の状況が求められます。そういった意味でも、やはりこうした製品に対するスキルをお持ちのご販売店様にご協力をお願いさせていただいたということです。
オーディオ専門店様は従来からそうしたお取り組みで、オーディオの楽しさをアピールしながらお客様とのコミュニケーションを密にしてご商売をされておられます。私どもの最大の軸であるヘッドホンの分野では、ご販売店様のご協力を得てどの製品も聴いていただける店頭展開を実現しており、それがおかげさまで国内市場でのシェア1といった結果に表れたのではないかと思います。それは15年ほど前から時間をかけて、ご販売店様とともに製品を体感いただいて納得できるような営業手法、マーケティング手法による店頭の環境づくりに取り組んできたからなのです。
訴求の最大の要となる
店頭展開に注力する
── ヘッドホン、イヤホンの売り場は飛躍的に進化しました。今やどの機種でもその場で自由に試聴できることが、ほとんどのご販売店様であたり前になっています。そうした実績を踏まえて、カートリッジを含めたアナログの店頭展開も今後進化するかもしれませんね。
清水カートリッジを聴き比べるご提案を発表会でも提示致しましたが、特にご販売店様の店頭でそれをどう体感いただくかというのは課題でもあります。これから施策としてどう打ち出せるかに新製品の拡販も左右されると思っておりますので、そこはしっかりと取り組み、環境整備についてのご提案は随時積極的に行って参ります。まさにヘッドホンの時にやらせていただいたように、時間をかけて丁寧にです。
昨今はアナログプレーヤーも数多くありますが、競合他社の製品も含めて市場が活気づくのは喜ばしいこと。また他社のプレーヤーをお持ちの方にも、カートリッジを替えて今以上の音の良さ、音の変わる楽しさを味わっていただける訴求ができると思います。活気を帯びているアナログの市場ですが、これを一時のブームで終わらせないよう、さらにここからお客様を増やしていけるように我々も努力し工夫していかなくてはならないと思っています。
アナログ製品は我々の原点ではありますが、こうした取り組みは原点回帰というよりも、今の時代での新しいチャレンジと考えています。ART1000を楽しんでおられるお客様は、以前にオーディオに触れて親しんでおられた50代以上の方が多く、40代から下の世代の方、特に10代、20代の方々はレコードに対してまったく新鮮な思いで興味を抱かれ、アナログを新しいものとして受け止めておられます。そうした方々に対してもしっかりとした訴求ができるよう、店頭展開も含め注力して参ります。
またヘッドホンの店頭展開でも、試聴環境は整備されたとは言え、ご存じのとおり多くのメーカーさんが参入され製品数も拡大している中で、まず当社のモデルを選んでいただけることを重視しなければならないと思っています。新製品発売のタイミングで試聴イベント、店頭告知、購入特典キャンペーンなど、いろいろな施策を施し、当社のサイトではもちろんですが、ウェブや雑誌媒体などを通じても告知を進めて参ります。
またお客様はやはり音楽好きな方が中心ですから、プロモーションにミュージシャンの方々を起用するなど、より音楽に訴える展開を心がけます。そういう音楽を好きな方々同士、SNSなどで情報が拡散していく工夫も施したい。オーディオテクニカをご存じないお客様もしっかりと導引し、ブランドのファンになっていただきたいと思います。
昨今いろいろ国内で参入されている音楽ストリーミングサービスの動きなども、イヤホン、ヘッドホンの動きに影響を及ぼすと見ています。音楽ソースの選択肢が増え、音楽に触れる機会が増えてきますから。いつでもどこでも、そして高音質で音楽を楽しむ志向は広がっていると思いますし、そこからステップアップの志向も生まれてきます。私どもはそうしたこだわりを重視し、製品作りやマーケティングを、現状に甘んじることなくより進化させていきたいと思っています。
私どもは規模の大きな組織ではありませんが、まじめに愚直に、そして着実に歩んでおります。発表しました製品群は11月18日以降(12月にかけて)順次発売となりますが、年末商戦に照準を合わせ、ご販売店様のご協力を得ながらしっかりと展開して参りたいと思います。