- 商品に磨きをかけて価値を広く訴求
さまざまなチャレンジで市場を刺激する
- 株式会社ヤマハミュージックジャパン
AV・流通営業本部 本部長
- 岡田 豊
Yutaka Okada
渾身のハイファイスピーカーNS-5000が高く評価されている。その存在感と市場導入のプロセスが、ピュアオーディオに対するヤマハの本気度を見せつけた。ハイファイ、AV、そして新提案にも着手するさまざまな取り組み、強い意気込みを岡田氏に聞く。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長 写真/柴田のりよし
スキルを上げ全力で
体感の場づくりを推進
── NS-5000が開発特別大賞を受賞しました。
岡田オーディオ銘機賞で高いご評価をいただき、大変名誉なことと感謝しております。NS -5000は、ヤマハのピュアオーディオの新たなフラグシップスピーカー、次世代の標準機とするべく2008年に開発に着手し、足掛け8年をかけ完成しました。時間をかけ、また最終段階で市場の皆様とやりとりをさせていただきながら取り組んだ初めての体験でしたが、このような実を結び本当にありがたいことです。
まず製品づくりでは、理想的な音響特性を追求しすべてのユニットにザイロンという新素材を採用、筐体内で定在波を取り除くアコースティックアブソーバー、ユニット背後に出る音を吸収する新開発バックチャンバーの採用など、さまざまな技術を具現化しフラグシップに相応しい仕上がりとする過程に時間が必要でした。そしてサウンドチューニングの最終段階で、市場の皆様のサポートをいただいたわけです。
一昨年にモックの段階でご販売店様にお見せし意見を伺いました。さらに昨年9月のTIASでは完成まで7割ほどの段階でお客様にもお披露目し、その後は全国各地のご販売店様の協力で実験的な試聴会を開催してお客様の声を広くお聞きしました。そうしたプロセスの中で頂戴したご意見をフィードバックしながら、都度バージョンアップしていったのです。この4月からはほとんど毎週試聴会を繰り返してさらに詰め、ようやく最終バージョンとなって7月の発売を迎えました。
このプロセスは必須だったと思います。完成前の製品を市場の方々に披露し、いただいた声をフィードバックしてのチューンナップを繰り返しました。実験室の中だけでの音づくりを超えた結果になりましたし、ご自身の声が音づくりに反映されたことでご販売店の皆様やお客様がNS-5000に特別な思い入れをもってくださった。全国で毎週末試聴会を開催したことで、製品が幅広く認知されることにもなりました。皆様と一緒に育てさせていただいた思いですし、ハイファイに対するヤマハの本気を市場の皆様にお見せできたと思います。
── VGPではAVアンプRX-A3060が金賞を獲得しました。
岡田この製品はオブジェクトオーディオのドルビーアトモス、DTS-Xと、ヤマハ独自のシネマDSPを掛け合わせることができ、ホームシアターファンの皆様のご期待にお応えできるものとなりました。これもまた8月の発表以来視聴会を数多く開催し、聴いて感じていただく活動に注力してきましたが、お客様からはまず音がいいとご評価いただいています。ハイファイ同様、AVアンプも素の音を追求することが第一命題。高精度のYPAOや、高剛性のシャーシ、回路パターンの見直しなど、開発陣の頑張りと成長の賜物です。
ハイファイとAVアンプの開発では互いに刺激し合うところもあります。双方の開発部門は同じ社屋にあって、常日頃から互いにコミュニケーションをとっています。ノウハウも共有し、切磋琢磨し合いながら高みを目指してそれぞれいい結果につながっています。
── NS-5000とRX-A3060の試聴会が同じタイミングで開催されることになりましたね。
岡田大変ではありましたが、真摯に行うほど強い手応えがあり、営業の立場としても嬉しい思いです。専門店営業課のメンバーが主体となり企画室のメンバーがサポートしながら行いますが、現場でのチューニング、再生するソフトの選び方、紹介の仕方、さまざまにノウハウがあります。ひとりひとりのデモンストレーションやプレゼンテーションのスキルがここ3年ほどで格段に成長したと感じます。社内でも勉強会を繰り返し、視聴会で実際に反応として得られたものもフィードバックしながら情報を共有し、大きな財産になっています。
とはいえ、まだまだやり切れてはいません。ヤマハのハイファイやAVアンプに興味を持ってくださるお客様に対し、こちらが情報をお届けしたつもりでもまだ十分ではない。価値を体験していただき理解、納得していただく活動はやればやるほどもっと必要だと感じます。年末に向けご販売店様の催事も各地で行われますし、さらに活動を推進して参ります。
新市場の創造へ
さらなるチャレンジ
── ミュージックキャスト関連製品もVGPで金賞を受賞しています。
岡田サウンドバーとパワードスピーカーをセットにした「ミュージックキャストパック」がコンセプト賞を頂戴しました。ミュージックキャストはヤマハが昨年来プロモーションしている新しい音楽の楽しみ方の提案で、この7月にはハウススタジオで体験内覧会を開催し、社内の人間も含めて業界の皆様に体験いただきました。どういう音楽の楽しみ方ができるかを正確にご理解いただけることになったと思います。
日本国内ではCDが過去30年間音楽ソースの中心となり、先行する北米や欧州に比べ、ネットワークオーディオ、ストリーミング音楽配信の事業がうまく立ち上がっていません。しかし9月末に配信最大手のスポティファイが国内展開を発表して、音楽の楽しみ方が変わっていくことが期待されます。ミュージックキャストもスポティファイに対応しましたが、ネットワークを介して音楽を聴くこと、状況に応じてシームレスに楽しむことをあらためて訴求します。
ヤマハにとっても大きなチャレンジですが、日本のオーディオ業界にとっても新たなチャンス。普及啓蒙には時間も労力もかかりますが、しっかりやって参ります。まず大手量販様のブースにコーナーを設けて対応機器を置き、コントローラーでの操作など説明できる環境をつくり、20ほどの店舗様を皮切りに普及に応じて展開の数を増やしたいと思っております。
── たくさんのテーマがありますね。
岡田ハードウェアとしてのハイファイやステレオ装置に興味があっても知る手段がない方々に、講座としてお教えする「オーディオ初心者講座」も今年からの新たな取り組み。おかげさまで各地の専門店様で展開し、有料にもかかわらず期待を上回る数のお客様に来場いただいています。20代・30代の方々のご来場も多く、オーディオに興味をもつ方々へのカジュアルな体験の場のご提供が足りなかったと実感します。市場が大きく変化する中でのミクロの活動ですが、お客様を掘り起こしてご販売店様につなげるきっかけとしても価値ある活動ではないかと思います。
すべての取り組みが実現するのは、いい商品があってこそ。その価値を正しく広く知っていただくことに、これからも全力を注いで参ります。