巻頭言

経営基調報告

和田光征
WADA KOHSEI

小社は2003年から毎年2月中旬に、「事業方針説明会」を開催、メーカーおよび広告代理店の皆さんにご参加いただいております。本年は第15回目として2月17日に開催、多くのご参加を得ました。その際に経営基調報告として発表した私の話を、ここに掲載致します。

音元出版は2019年5月に創業70周年を迎えますが、1971年に「オーディオ業界の育成とオーディオ専門店を育てよう」のポリシーを岩間正次社長が打ち出し、業界専門誌「オーディオ専科」を創刊した時が、成長戦略のスタートとなります。

編集部員は25歳の私と入社したての21歳の女性編集者と岩間社長の3名でした。23歳で入社以来「ラジオテレビ産業」の業界誌編集をやっていた私が「オーディオ専科」の副編集長に任命されました。「誰に読ませるのですか?」と編集長である社長に質し、「オーディオメーカーとオーディオ専門店だ」と言われ、「社長、目標が明確ですから必ず成功します」と言ったことを、昨日のように思い出します。

私は業界とは何かと自問し、一般的にはメーカー、流通の総体とされるところにさらにユーザーを組み込み、「メーカー」「ディーラー」「ユーザー」の三者の総体こそが業界であると認識をしました。それでは業界の「本質」は何か、私はそれを「商品」と認識し、その使命は「需要創造」であると結論付けました。そして、「お客様にお応えするには健全な業界でなければならない」との思いを編集方針としました。

商品は世界のオーディオビジュアル機器。メーカーとは、すべての国内メーカー、さらに輸入商社、卸し等のディストリビューターの総意であります。ディーラーとは、オーディオ専門店を中心にオーディオに真摯に取り組む販売店。ユーザーとは、マニアそして音楽を愛するすべての人々の総称であります。そして媒体は、業界の本質である商品をメーカー、ディーラー、ユーザーに知らしめることであり、「生まれる価値のあるものは育てよう」とする小社の雑誌づくりの編集理念の具現であります。

従って「オーディオ専科」は、メーカー、ディーラー様と真摯に向き合い、フレンドリーな信頼関係のもと業界の潤滑油になりました。業界の建設的発展に全力投球することが私どもの恒久的な使命だと認識し、現在も全く変わることなく未来を描いているところです。

「オーディオ専科」創刊以来、私はオーディオ専門店、オーディオ販売店の繁栄を旨に全国のすべてのお店を回り取材し、レポートしました。さらに「オーディオ専門店の経営」「商品研究」「売れ筋ベスト10」などをレギュラー化して行きました。売れ筋商品は自然に頭に蓄積し、以降の仕事で大変役立ちました。

「市場創造」の取り組みでは、ハイエンドオーディオをベースに、テープオーディオ、シスコン、ミニコン、ハイコンポは私どもからの発信で商品化に至ったと自負しています。勿論ハイエンドオーディオ、AV時代の到来にもいち早く対応、各社の社長や担当役員に常時誌面に登場いただき、製販一体路線を強く推し進めて参りました。誌面上での私の様々な提言が話題になり、各地で講演もしました。

また80年代、90年代は13社にわたるハードメーカーのトップメンバーに集って頂く「フューチャーフォーラム」と銘打ったミーティングを、1985年から2000年まで15年間毎年3回ずつ開催、「利益ある商売」「市場創造」を共有しました。オーディオ専門店・量販店のトップとも緊密な交流を続けています。私が社長になった1984年から今日まで誌上で連載している《巻頭言》には、そうした皆さんが愛読者となってくださり、現在でも高い人気を博しております。

こうした業界との深い関わりは、音元出版の社是である「業界の建設的な発展に寄与する」の姿勢を好感いただき、私の仕事に対して業界に大応援団を形成して頂いたといつも感謝の念でいっぱいです。

1995年、ウインドウズ95が発売され、インターネットによる新しい時代の幕開けとなりました。私はインターネットの素晴らしさ、可能性を認識していくうちに、出版情報業界は必ずや危機に瀕すると確信しました。従って近未来を厳しく見つめ、今日まで蓄積した豊富なコンテンツをベースとした、ホームページでないポータルサイトの運営を志しました。

そして創刊10年たったホームシアターファイルのファイル、つまり仲間、同好者の意味を冠した「ファイル・ウェブ」を1999年にスタートさせ、2000年6月に事業化致しました。音元出版らしく「業界の発展に寄与する道である」と結論づけ、「co.jp」ではなく「.com」としてのポータルサイトの構築でした。

スタート当初から、業界発展にとってマイナスになりかねない匿名の掲示板と価格情報の掲載は見合わせました。また記事はすべて、評論家の方々や音元出版の記者が独自取材を重ねて作成しています。そうしたことはご存知のとおり、今日においてあらためて重要視されており、ポータルサイトとしての「ファイル・ウェブ」のさらなる価値向上につながっております。

そしてスタートから17年の時間を経て、「ファイル・ウェブ」は月間ユニークユーザー150万人、ページビュー1500万のオーディオビジュアル専門ポータルサイトとなり、世界的にも認知されました。IFAのオフィシャルサイトの運営活動も15年になり、今年には中国語のファイル・ウェブもスタートする予定ですので、アクセス数はさらに巨大になるでしょう。

インターネット事業は順調に推移して音元出版各媒体のコアとなり、出版やSP事業との有機的な連動を拡大強化するサンフラワーマーケティング戦略を押し進め、成長戦略が未来にわたって機能する事を証明しています。10年後に向け、さらに飛躍したいと思います。

2007年、リーマンショックで経済は世界的な不況となりました。その折、ビックカメラ様、ヨドバシカメラ様、ケーズデンキ様、エディオン様の各本部と連携し誕生したのが、販売員の手助けとなるフリーマガジンビジネスです。その事業部門をSPディビジョンとしました。

フリーマガジンは2007年6月にスタート。第一号の「プレミアムヘッドホンガイド」は現在のヘッドホンブームのきっかけとなり、以来ヘッドホンのメインマガジンとして絶好調で推移しています。このSP事業は、各アワードのフリーマガジンなども加え、ウェブともども、大きな経営の柱として順調に推移しています。
インターネットの影響を最も受ける既存誌は、次のような改革を施しました。「季刊オーディオアクセサリー」「AVレビュー」「季刊アナログ」「季刊ネットオーディオ」「ホームシアターファイル」ほか、増刊を加えて11のコンシューマー専門誌と、「Senka21」がございます。

2008年2月21 日売りのオーディオアクセサリー誌を皮切りに、全誌をオールカラーにし、カラー表現が当たり前のネット時代に対応したのです。私は凸版印刷の担当本部長氏を社にお招きし、これからの出版のあり方を語りました。そして、今までよりも原価を20%下げてのオールカラー化が実現したのです。オーディオアクセサリー誌創刊から全誌お世話になり、共に歩んできた信頼関係によって、カラー化・デジタル化された雑誌の誕生となりました。そのことによってさらに専門化を図り、海外戦略も容易になりました。そして雑誌販売もアマゾン、富士山マガジンサービスばかりではなく、ファイル・ウェブでも展開し、順調に推移しております。

さらに大きいことは、ファイル・ウェブによる雑誌の販促戦略です。ファイル・ウェブ上に宣伝およびレビューを掲載誌、各誌の編集内容が分かるようにしました。先般ファイル・ウェブでの宣伝価値を計算したところ、年間4億円の巨大な数字になりました。その効果は出版不況の中でも現れ、雑誌の売上げは安定しています。巨大サイトの運営に携わっていない限り、このような成果を得ることはできません。そして雑誌がオールカラーで信頼性ある編集内容でなければ実現しません。

そして、他に例を見ない強いアワード事業です。オーディオ銘機賞、VGP、アナロググランプリ、オーディオアクセサリーグランプリ、ホームシアターグランプリ、デジタルカメラグランプリ等の受賞内容も主催雑誌、フリーマガジンともどもファイル・ウェブで展開されますので、閲覧人数はさらに巨大化し、その効果はユーザーに支持され、受賞製品の実売行動へつながっています。ある調査では、販売された4Kテレビの70%に、赤いVGPマークが付いていたとの分析結果を頂いております。

本年はサンフラワーマーケティングによる成長戦略をより徹底し、皆様の売り上げ増にしっかりと貢献致して参りたいと存じます。

その一環としまして、ファイル・ウェブと全媒体で、ハイエンドオーディオ、アナログ等、そしてビジュアル、ホームシアターを徹底的に強化し、販売店さんの集客活動をしっかりとやり、売り上げ確保に尽力したいと思います。

昨年は北海道、仙台、信州、北陸、九州のオーディオフェアに積極的な集客活動を行い、主催販売店さんから大成功だったと感謝されました。また昨年の「東京インターナショナルオーディオショー」でも協会の皆さんとスクラムを組んでの集客活動をファイル・ウェブで連日展開、成功を感謝されました。本年は5月の音展をはじめ、様々な集客活動に貢献して参りたいと存じます。

本年もブレることなく、創業来の理念を堅持し、業界の発展に全力で寄与致します。皆様におかれましては旧に倍しましてご支援、ご厚情の程、宜しくお願い申し上げます。

最後になりましたが、ご来臨の皆様の御会社のご繁栄と、皆様のご健勝、ご多幸を祈念しあらためて御礼申し上げます。誠にありがとうございました。

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