石塚 茂樹

ロードマップに描く画期的な付加価値を次々実現
お客様の購買意欲をイノベーションで刺激し続ける
ソニー株式会社
執行役 EVP
ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社
代表取締役社長
石塚 茂樹
Shigeki Ishizuka

ソニーが進めてきた主要事業の分社化。その締めくくりとなる「ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社」が4月1日に営業を開始した。ミッションとして課せられた事業競争力のさらなる強化へ、当面の課題や今後の成長戦略について、代表取締役社長に就任した石塚茂樹氏が語る。
インタビュアー/竹内 純 Senka21編集部長  写真/柴田のりよし

化学変化が生み出す
成長への大きなチャンス

── 4月1日に営業を開始された新会社「ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社」(SIPS)の代表取締役社長にご就任されました。まず、新会社の概要についてお聞かせください。

石塚これまでに分社化されてきたソニーグループの各事業会社に比べると業態が広く、担当領域は大きく3つに分かれています。1つは「α」「サイバーショット」「ハンディカム」などコンシューマーを中心としたデジタルイメージング事業。次に、放送局へ収めるカメラや編集機材など、放送・業務用製品を中心としたソリューション事業。放送局向けの事業には約40年の歴史があり、また企業や大学などの教育機関に収めるAV機材の事業などもここに含まれます。

そして3つめが、比較的新しい取り組みとなるメディカル事業です。実は前述の2つとは共通点が多く、「Light to Display」と呼んでいますが、光源、レンズ、イメージセンサー、画像処理、IP伝送、そしてディスプレイまで、つまり光を取り込んで出すところまでを一貫して自社で手掛ける強みが活かせます。ソニーは、ハードウェアのコアデバイスや技術をグループ内に共通資産として有しています。グループ内には世界最大のイメージセンサー製造会社を持つデバイス部門もあります。

── 新会社の当面の優先課題についてお聞かせください。

石塚分社化以前より、SIPSの前身となる組織の経営を約2年行ってきました。分社化に向けた基本的な枠組みを準備し、その組織を新会社にまるごと切り出した形で、課題や挑戦にも引き続き取り組んで参ります。課題のひとつはやはり、事業を一つの会社にすることで生まれるシナジーを最大化すること。双方向でのシナジーがあり、むしろ、課題というよりは大きな成長のチャンスだと捉えています。

事業によりカルチャーはまったく異なり、特にコンシューマーとノンコンシューマーではお客様がまるで違いますから、一緒になることで非常に面白い化学変化が生まれてきます。文化の違いをはじめいろいろな問題はありますが、それを乗り越えた先に新しい創造が待ち構えています。その実感はかなり強く、すでに生まれているものもあります。例えば、人間が見えないような暗闇でも高解像で撮れるα7Sシリーズという超高感度カメラがありますが、これを業務用に設計し直し、監視用カメラを実現しました。テクノロジーの進化により、プロフェッショナルや業務用にも民生用のカメラが活用できるようになり、民生用の技術を横展開することで、より低コストで開発できる事例が生まれ始めています。

モノの価値を訴える
ビジネスの姿へ回帰

── 昨年4月に発生した熊本地震では、イメージセンサーを生産する御社の基幹工場が被災し、デジタルカメラ市場に大きな影響が表れるなど、御社イメージセンサーの存在感が再認識される機会にもなりました。

石塚私も急遽熊本へ入り、破損した建物の内部を目にしました。その後、現場では不眠不休の体制で復旧へ臨み、当初予想より1ヵ月前倒しで操業が一部再開されたときには本当にうれしかったですね。しかし、夏頃は生産量も少なく、販売店の皆様にもご迷惑をおかけしてしまいました。

── カメラの供給が期待しにくいのであれば、交換レンズに焦点を当てて拡販を図ろうと取り組みに力を入れる販売店も見受けられました。

石塚確かに交換レンズの動きはよかったですね。αの事業を2006年にスタートしてから10年以上になりますが、「いいカメラを出せば、いいレンズが売れる」と、レンズ販売に大きな手応えを我々も感じるようになったのはこの2、3年のことです。ラインナップが少ない時期もありましたが、現在では毎年5本くらいずつ増やしており、安定した基盤から継続的に収益を得る、ソニーで言うところの「リカーリングビジネス」のモードに入って来たと思います。

── スマートフォン普及の影響などで、デジタルカメラ市場は大きくシュリンクしています。今年は巻き返しを期す一年ですが、現在の市場をどのようにご覧になりますか。

石塚スマホの影響でコンパクトカメラを中心にシュリンクする現象は2011年くらいから兆しがあり、12年・13年には特に激しく落ち込みました。完全に下げ止まったわけではありませんが、下がり方は緩やかになり、一定の規模に向かっているように思います。残ったのはローエンドのエントリー機ではなく、付加価値の高い商品です。ソニーでは12年からセンサーサイズが大型1.0型の「RX100シリーズ」をスタートしており、“プレミアムコンパクトカメラ”と呼ばれるカテゴリーにいち早く注目し、我々が立ち上げた自負があります。各社も追随してラインナップを強化され、このゾーンは今後も堅調な市況を予想しています。我々は経営資源を集中して商品開発を行ってきたため、コンパクトカメラでも安定した事業を進めています。

石塚 茂樹
通常の正常進化は延長線上へ進みますが、上は上でも皆さんが考えたものとは少し違う、 従来にはない“斜め上”の価値を創造します。

── RX100シリーズでは、RX100からRX100 Xまで、5機種すべてがまだ現役でいる。これは凄いですね。

石塚デジタルカメラ事業を始めて20年以上になりますが、2000年代までは市場拡大を背景に、春と秋の年に2度、新機種を出していました。値段も下落しますし、お客様も買い時が分かりにくかったと思います。その頃と比べると、まさに経営の大方針転換ですね。5つのモデルが併売できているのも、旧いものが陳腐化せず売れるためです。しかし、5年も前のモデルが今でもこれほど売れるとは、正直、我々も想像していませんでした(笑)。

── 販売環境が改善され、よい方向へ向かっているとも捉えられます。

石塚初代を購入されたお客様が、次の世代の新製品が出て来る度に悔しい思いをされなくても済みます。モノを大事に作り、それをお客様にも長く使っていただく。お客様の購買意欲や所有し続ける楽しみを刺激する、本来のモノの価値を訴えたビジネスの姿に戻ってきていると感じています。新製品には、撮影手法や映像表現のトレンドを踏まえた新機能を積極的に搭載しますが、各モデルの位置づけやターゲット顧客を明確にし、お客様には最適なモデルを選んでいただけます。

またRX100シリーズに加え、高倍率をコンセプトとしたRX10シリーズと大口径単焦点レンズを採用しているRX1シリーズも同様に併売していますが、それぞれ好評をいただいています。特にRX10 Vは、24−600oという交換レンズ3本分に相当する幅広い焦点距離を1台のカメラに凝縮するユニークな商品コンセプトが、プロにも高く評価されています。

期待高まるプロ用途に
本腰を入れて展開

── αではプロ用途が急速に拡大しており、プロ用のアフターサービスを手掛ける「ソニーαプラザ」を全国5ヵ所のソニーストアに開設されました。

石塚買った商品を大事に長く使っていただくことで、ソニーとお客様も長くつながり続けることができます。アクセサリーを買い足したり、撮影の楽しみ方について写真教室を受講したお客様から、今度は情報をフィードバックしていただけます。そうした取り組みをプロのお客様、さらにハイアマチュアやコンシューマーのお客様を含めて続けていきたいという考えが最初のモチベーションです。

プロのお客様に関しては、これまで手が行き届かない部分もありましたが、α7の登場以降、関わりが深まってきました。商品と共にサポートの場が揃い、ようやくプロの方々をサポートする環境が整ってきたと考えています。修理やメンテナンスなど、お客様が困ったときにメーカーがきちんと対応できなければなりません。大きな期待もいただくなかで、その期待に応えられるように今後も取り組んでいきます。

石塚 茂樹

── 先日発表された「α9」はプロ用途を強く意識されています。

石塚 プロに使っていただくことを主眼に開発し、発売前には何人ものプロの方、とりわけ特長である高速連写性能が活きるスポーツシーンを撮る方に、高速で動くプレーヤーを連写したり、スキー場など過酷な使用環境で使用したりと、さまざまな場面で何度もフィールドテストを行っていただきました。

── ソニーが今後、どんな進化で市場を活気づけていくのか市場にも大きな期待感があります。以前、インタビューの中で“斜め上への進化”という表現をされていました。

石塚通常の正常進化は延長線上へ進みますが、上は上でも皆さんが考えたものとは少し違う、従来になかった“斜め上”の価値を創造しています。RX100シリーズも、それぞれが進化しているため切り替えが不要なのです。α7シリーズにも、解像度に振ったα7R、感度に振ったα7Sシリーズがあります。そして、今回のα9はスピードに振りました。全部が1台に入れば申し分ないのですが、技術の進化には時間がかかるため、その時々で最高のもの、磨き上げたものを開発する方針です。

撮りたい被写体によって、カメラやレンズも決まってきます。鳥を撮りたいなら望遠レンズで速いシャッターが必要。風景を撮る方は解像度と色が大切。花を撮る方はマクロレンズが必須です。レンズも当然変わるし、カメラのボディも用途により最適なものがあると思います。

── 御社にはスマートフォンにも「Xperia」があります。

石塚 搭載しているカメラの開発には我々も関わっています。ソニーモバイルに出向いているチームもいますし、レンズはSIPSのカメラ事業の中で設計しています。ソニーとしてはコンパクトカメラ市場で取り損ねた分をXperiaで是非、カバーしたい(笑)。スマホからのステップアップの際も我々の商品が選ばれればうれしいですね。

BtoB拡大へ
協業・提携を強化

── 価値の最大化や効率化の観点から、M&Aや他社との提携についてはどのようにお考えですか。

石塚 イメージセンサーを中心にカメラなどハードウェア商品はかなり強力で、今後もさらに強化して参りますが、ことBtoBに関してはさまざまな市場にさまざまなお客様があり、フォーカスを絞るべきと考え、この2年ほどで集中と選択を進めてきました。

例えば、監視用カメラは非常に大きな産業ですが、世界中にいろいろなお客様がいて、マーケティングセールス活動にも手間がかかり、特に海外に関しては競争も激しく、1社だけではとてもカバーしきれません。我々の強みであるハードウェアと、昨年契約を結んだボッシュセキュリティシステムズの持つ映像解析技術などを組みあわせることで、強いセキュリティ・ソリューションを提供でき、WIN-WINの関係を構築できると考え、協業を始めました。BtoBの世界にはさまざまなスタイルのパートナーシップが考えられ、今後も強化していく方針です。スピードや効率性を考え、他社との協業は常に視野に入れていきます。

── それでは最後に、流通の皆様へのメッセージをお願いします。

石塚 カメラ市場全体が縮小し、危機感を持たれていると思います。そこにはやはり、お客様の購買意欲を刺激するメーカーの企業努力が不可欠です。ソニーでは、プレミアムコンパクトカメラのRXシリーズ、さらに、一眼レフの動きが小さくなるなかでもミラーレスは日進月歩の進化を遂げ、α9のように一眼レフではできなかったレベルの高性能を実現しています。市場を活性化させ、成長させていく。そのためにソニーは今後もイノベーションによりお客様の購買意欲を刺激し続けて参ります。ご販売店におかれましても是非、サポートをお願いいたします。

2020年までを見据えたロードマップを描いています。大きな話題を提供し、注目いただいているα9もその一歩です。今後もソニーにご期待ください。

◆PROFILE◆

石塚 茂樹氏 Shigeki Ishizuka
1981年 ソニー(株)入社。2004年 ソニーイーエムシーエス(株)執行役員常務。2006年 デジタルイメージング事業本部長。2007年 ソニー(株)業務執行役員SVP。2009年 デバイスソリューション事業本部長。2012年 デジタルイメージング本部長。2015年 執行役EVP。イメージング・プロダクツ&ソリューション事業担当、イメージング・プロダクツ&ソリューションセクター長。2017年4月 ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ(株)代表取締役社長。

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