新タイトル「チェロ・ヒロイックス」のためにフォーマットも開発
独自レーベルで意欲的な高音質盤を送り出すチェリスト ガブリエル・リプキン氏インタビュー
高音質配信が注目を集めているいま、アーティスト側も独自の取り組みを行っている。イスラエル生まれのチェリスト、ガブリエル・リプキン氏は、自身で「Lipkind Productions」レーベルを運営し、演奏や録音はもちろん、ジャケットデザインまでこだわった作品づくりを行っているアーティストだ。
7月10日に発売される最新シリーズ「チェロ・ヒロイックス」は、チェロの重要なレパートリー100曲ほどを、長期間に渡って全て録音しようという一大プロジェクト。このディスクは表/裏面をCD層/DVD層に分けた特別なデュアルディスクで、96kHz/24bit音声や5.1ch音声を収録するなど高音質にこだわったものになっている。
今回、「チェロ・ヒロイックス」にかける思いや、「音のクオリティ」や「音楽配信」に対する考え方についてリプキン氏にお話しをうかがった。
<ガブリエル・リプキン氏 プロフィール>
1977年イスラエル生まれ。10代で数々のコンクールで最高位に輝き、15歳でメータ&イスラエル・フィルと共演、その後も錚々たる音楽家と共演を重ねる。2000年からは演奏活動を休止し、ドイツの山中に籠もり芸術的精神を向上させるため、ひたすら音楽を向き合う日々を選択。その音楽修行の成果を結実させたのが、自身でプロデュースした「Lipkind Productions」から発売したバッハの無伴奏と小曲集「ミニアチュール&フォークロア」(2006年リリース)。世界的に高い評価を得た。「Lipkind Productions」からはその後も精力的に作品をリリースしている。
◇ ◇ ◇
−− 「チェロ・ヒロイックス」発売おめでとうございます。今回発売されたのはシューマン、ショスタコーヴィチ、サン=サーンスのチェロ協奏曲と、ドホナーニの「チェロと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック」の4タイトルですが、第一弾タイトルとしてこの4曲を選んだのには、何か理由があるのでしょうか?
リプキン氏:4曲の間に特にコンセプトがある訳ではなく、9曲の録音をしたうちの内容が良かったものを選んだ結果です。いまもドヴォルザークのチェロ協奏曲など、2つの曲を録音しているところ。近々新しい発表ができるのではと思っています。
レコーディングは精神的負担が大きい作業です。自分がプロデュースしている場合だと、その負担は更に重くなります。取捨選択を自分でしないといけないわけですから。堂々巡りに陥らず素早く適切な判断ができるように、「自分が目指しているものは何なのか」をはっきりさせるよう、自分なりの鍛錬を積み重ねてきました。
今回の「チェロ・ヒロイックス」は、私にとって初の協奏曲レコーディングとなりますし、レーベルにとっても長期的なプロジェクトになりますから、責任の重大さを感じています。協奏曲はレコーディングの前に、自分がどういうかたちでなにを伝えたいのかを考えておく必要があります。チェリストとして身体的能力が万全でいられるのはあと20年から25年くらいでしょう。今回のプロジェクトのように多くの協奏曲を収録し、プロデュースできるチャンスは1回しかないと思って取り組んでいます。
−− 「チェロ・ヒロイックス」は、シルバー面がCD、ゴールド面がDVDのデュアルディスクという珍しいフォーマットですね。
リプキン氏:これはこの作品のために、ドイツの会社と共同で半年間かけて開発した独自のものです。「チェロ・ヒロイックス」は何十年も掛けてチェロの主要な曲を全て収録しようというプロジェクトですから、なるべくクオリティの高いものを選びたいと考えたのです。自分でもこういったフォーマットなどに対する勉強をしたり、周りから教えてもらったりして情報を集めているんですよ。
−− DVD側には94kHz/24bitの2ch音声と、5.1chのサラウンド音声が収録されていますね。
リプキン氏:ええ。多くの方により良い音を聴いてもらいたいという思いから、SACDではなくDVDフォーマットに24bitの音源を収録する方法を採用しました。
聴いてみるとやはり16bitの音と24bitの音は違うと感じます。解像度が違うというか、音楽の変化や全体のかたちがハッキリと分かるのです。例えばチェロは弦と弓が擦れる音、ビブラートのディストーションなど、演奏の際に様々なノイズが生まれますが、そういったノイズは、16bitだとあまり感じられませんが、24bitで収録すると良く分かります。
私は、ノイズは無くすべきものではなく「音楽の一部分」だと考えています。素晴らしい演奏会の時は、観客のざわめきなど周りの空気感の変化がありますが、録音時はそういった要素をことさらに排除しようとするものです。しかしそれではクリーンすぎて、手袋をして人と握手をしているような感じになってしまうと思うのです。
−− iTunesでも音源を配信していると思いますが、配信にも積極的に取り組んでいらっしゃるのですね。音楽配信の際に問題になってくる、音のクオリティの問題や、DRMについてはどう考えていらっしゃいますか?
リプキン氏:そうですね、その問題には、演奏家として、またレーベルを運営する者としてお答えできると思います。
まずiTunesでの配信ですが、iTunes Plusでも、256kbpsのAACでの販売になってしまいます。しかし今後きっとiTunesも96kHz/24bitに対応していくものと思います。
そしてDRMについてですが、私は、音楽は「無料のもの」だと思っています。ある人が一回お金を払って音源を購入してそれを他の人に広めていくこと、買った人より聴いている人の数が多いのは自然なことでしょう。なので私は、アルバムを作る際に「所有したい、プレゼントしたいと思ってもらえるものを作ること」「買ってくれた方に満足できるオプションを提供すること」を重要視しています。そのため、私はパッケージから内容までプロデュースを手掛けているのです。
例えば「チェロ・ヒロイックス」は、オーダーメイドの透明なプレキシガラスボックス製で、CD(2ch音声)/DVD(5.1ch音声、96kHz/24bit・2ch音声)/チェロパート譜など様々なコンテンツを用意しています。
ダウンロードで音楽を買えるのは大変素晴らしいことで、今後の進化も楽しみです。しかし同時に、物理的なモノとしてのパッケージソフトの存在も重要だと思うのです。ですから、両方を大事にして行けたらと思います。
−− 今後も「チェロ・ヒロイックス」の新譜リリースを楽しみにしています。有り難うございました。
【新譜情報】
【形式】
・DVD/CD Hybrid(シルバーサイド:CDオーディオ層/ゴールドサイド:DVD層)
すべてのCDプレーヤー/DVDプレーヤー/PCで再生可能
・96kHz/24bitステレオ音声
・5.1chドルビーサラウンド
・チェロパート譜(リプキン版)
・デジタル・ブックレット(印刷可能)
チェロ・ヒロイックス I GLP 0300054
シューマン:チェロ協奏曲 イ短調 作品129
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/ミシャ・カッツ(指揮)シンフォニア・ヴァルソヴィア
録音:2009年2月21日ヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサートホール(ワルシャワ)
チェロ・ヒロイックス II GLP 0300055
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第一番 変ホ長調 作品107
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/ヴォイチェフ・ロデク(指揮)シンフォニア・ヴァルソヴィア
録音:2009年2月17日ヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサートホール(ワルシャワ)
チェロ・ヒロイックス III GLP 0300056
サン=サーンス:チェロ協奏曲第一番 イ短調 作品33
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/アントニー・ヘルムス(指揮)シンフォニア・ヴァルソヴィア
録音:2009年2月18日ヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサートホール(ワルシャワ)
チェロ・ヒロイックス IV GLP 0300057
ドホナーニ:チェロと管弦楽のためのコンツェルトシュテック ニ長調 作品12
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/イヴァン・メイレマンス(指揮)アーネム・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2009年11月25日ズットフェン市立劇場
7月10日に発売される最新シリーズ「チェロ・ヒロイックス」は、チェロの重要なレパートリー100曲ほどを、長期間に渡って全て録音しようという一大プロジェクト。このディスクは表/裏面をCD層/DVD層に分けた特別なデュアルディスクで、96kHz/24bit音声や5.1ch音声を収録するなど高音質にこだわったものになっている。
今回、「チェロ・ヒロイックス」にかける思いや、「音のクオリティ」や「音楽配信」に対する考え方についてリプキン氏にお話しをうかがった。
<ガブリエル・リプキン氏 プロフィール>
1977年イスラエル生まれ。10代で数々のコンクールで最高位に輝き、15歳でメータ&イスラエル・フィルと共演、その後も錚々たる音楽家と共演を重ねる。2000年からは演奏活動を休止し、ドイツの山中に籠もり芸術的精神を向上させるため、ひたすら音楽を向き合う日々を選択。その音楽修行の成果を結実させたのが、自身でプロデュースした「Lipkind Productions」から発売したバッハの無伴奏と小曲集「ミニアチュール&フォークロア」(2006年リリース)。世界的に高い評価を得た。「Lipkind Productions」からはその後も精力的に作品をリリースしている。
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−− 「チェロ・ヒロイックス」発売おめでとうございます。今回発売されたのはシューマン、ショスタコーヴィチ、サン=サーンスのチェロ協奏曲と、ドホナーニの「チェロと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック」の4タイトルですが、第一弾タイトルとしてこの4曲を選んだのには、何か理由があるのでしょうか?
リプキン氏:4曲の間に特にコンセプトがある訳ではなく、9曲の録音をしたうちの内容が良かったものを選んだ結果です。いまもドヴォルザークのチェロ協奏曲など、2つの曲を録音しているところ。近々新しい発表ができるのではと思っています。
レコーディングは精神的負担が大きい作業です。自分がプロデュースしている場合だと、その負担は更に重くなります。取捨選択を自分でしないといけないわけですから。堂々巡りに陥らず素早く適切な判断ができるように、「自分が目指しているものは何なのか」をはっきりさせるよう、自分なりの鍛錬を積み重ねてきました。
今回の「チェロ・ヒロイックス」は、私にとって初の協奏曲レコーディングとなりますし、レーベルにとっても長期的なプロジェクトになりますから、責任の重大さを感じています。協奏曲はレコーディングの前に、自分がどういうかたちでなにを伝えたいのかを考えておく必要があります。チェリストとして身体的能力が万全でいられるのはあと20年から25年くらいでしょう。今回のプロジェクトのように多くの協奏曲を収録し、プロデュースできるチャンスは1回しかないと思って取り組んでいます。
−− 「チェロ・ヒロイックス」は、シルバー面がCD、ゴールド面がDVDのデュアルディスクという珍しいフォーマットですね。
リプキン氏:これはこの作品のために、ドイツの会社と共同で半年間かけて開発した独自のものです。「チェロ・ヒロイックス」は何十年も掛けてチェロの主要な曲を全て収録しようというプロジェクトですから、なるべくクオリティの高いものを選びたいと考えたのです。自分でもこういったフォーマットなどに対する勉強をしたり、周りから教えてもらったりして情報を集めているんですよ。
−− DVD側には94kHz/24bitの2ch音声と、5.1chのサラウンド音声が収録されていますね。
リプキン氏:ええ。多くの方により良い音を聴いてもらいたいという思いから、SACDではなくDVDフォーマットに24bitの音源を収録する方法を採用しました。
聴いてみるとやはり16bitの音と24bitの音は違うと感じます。解像度が違うというか、音楽の変化や全体のかたちがハッキリと分かるのです。例えばチェロは弦と弓が擦れる音、ビブラートのディストーションなど、演奏の際に様々なノイズが生まれますが、そういったノイズは、16bitだとあまり感じられませんが、24bitで収録すると良く分かります。
私は、ノイズは無くすべきものではなく「音楽の一部分」だと考えています。素晴らしい演奏会の時は、観客のざわめきなど周りの空気感の変化がありますが、録音時はそういった要素をことさらに排除しようとするものです。しかしそれではクリーンすぎて、手袋をして人と握手をしているような感じになってしまうと思うのです。
−− iTunesでも音源を配信していると思いますが、配信にも積極的に取り組んでいらっしゃるのですね。音楽配信の際に問題になってくる、音のクオリティの問題や、DRMについてはどう考えていらっしゃいますか?
リプキン氏:そうですね、その問題には、演奏家として、またレーベルを運営する者としてお答えできると思います。
まずiTunesでの配信ですが、iTunes Plusでも、256kbpsのAACでの販売になってしまいます。しかし今後きっとiTunesも96kHz/24bitに対応していくものと思います。
そしてDRMについてですが、私は、音楽は「無料のもの」だと思っています。ある人が一回お金を払って音源を購入してそれを他の人に広めていくこと、買った人より聴いている人の数が多いのは自然なことでしょう。なので私は、アルバムを作る際に「所有したい、プレゼントしたいと思ってもらえるものを作ること」「買ってくれた方に満足できるオプションを提供すること」を重要視しています。そのため、私はパッケージから内容までプロデュースを手掛けているのです。
例えば「チェロ・ヒロイックス」は、オーダーメイドの透明なプレキシガラスボックス製で、CD(2ch音声)/DVD(5.1ch音声、96kHz/24bit・2ch音声)/チェロパート譜など様々なコンテンツを用意しています。
ダウンロードで音楽を買えるのは大変素晴らしいことで、今後の進化も楽しみです。しかし同時に、物理的なモノとしてのパッケージソフトの存在も重要だと思うのです。ですから、両方を大事にして行けたらと思います。
−− 今後も「チェロ・ヒロイックス」の新譜リリースを楽しみにしています。有り難うございました。
【新譜情報】
【形式】
・DVD/CD Hybrid(シルバーサイド:CDオーディオ層/ゴールドサイド:DVD層)
すべてのCDプレーヤー/DVDプレーヤー/PCで再生可能
・96kHz/24bitステレオ音声
・5.1chドルビーサラウンド
・チェロパート譜(リプキン版)
・デジタル・ブックレット(印刷可能)
チェロ・ヒロイックス I GLP 0300054
シューマン:チェロ協奏曲 イ短調 作品129
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/ミシャ・カッツ(指揮)シンフォニア・ヴァルソヴィア
録音:2009年2月21日ヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサートホール(ワルシャワ)
チェロ・ヒロイックス II GLP 0300055
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第一番 変ホ長調 作品107
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/ヴォイチェフ・ロデク(指揮)シンフォニア・ヴァルソヴィア
録音:2009年2月17日ヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサートホール(ワルシャワ)
チェロ・ヒロイックス III GLP 0300056
サン=サーンス:チェロ協奏曲第一番 イ短調 作品33
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/アントニー・ヘルムス(指揮)シンフォニア・ヴァルソヴィア
録音:2009年2月18日ヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサートホール(ワルシャワ)
チェロ・ヒロイックス IV GLP 0300057
ドホナーニ:チェロと管弦楽のためのコンツェルトシュテック ニ長調 作品12
ガブリエル・リプキン(チェロ)
/イヴァン・メイレマンス(指揮)アーネム・フィルハーモニー管弦楽団
録音:2009年11月25日ズットフェン市立劇場