【特別企画】ノウハウを注ぎ込んだ2013年フラグシップAVアンプ
パイオニア「SC-LX87」開発者インタビュー ー 進化したクラスDアンプとESS製DACが実現する「驚嘆の音」の舞台裏
山之内氏:アンプに加え、「SC-LX87」はDACも新たなものに変更されましたね。ESS社のSABRE32 Ultra DACを採用した理由を教えてください。
平塚氏:実は、ESS製DACは数年来搭載したいと思っていたのです。
数年前、TAD部隊からESSの24bit DACの評価ボードを紹介され、当時の目黒本社にあったスタジオで音を聴いてみたのですが、その素晴らしさに驚嘆してしまいました。通常評価ボードというのは性能を見るものであり、音質はその先の段階で追い込んでいくもの。しかしESSの評価ボードは、評価ボードの時点で空間のつながりが良く情報量も多く、エネルギー感もある。「これは、すごい」と思いましたね。しかし当時はコスト面の問題で採用には至りませんでした。
そこからまた数年経ち、32bit版チップ「ES9016」が登場しました。これが、24bit DACの世界から更に2段階くらいランクアップした音でして「これはぜひ乗せたい」と。本当はSC-LX86に搭載したくて検討していたのですが、「ES9016」は8ch構成なので、9.2chアンプであるSC-LX86には2ch分足りなかった。サラウンドバックだけ24bitDACにする構成で企画に打診したのですが、「ダメ」ということで…。
山田氏:マルチチャンネル・ステレオフォニック・フィロソフィーは曲げられませんので。
平塚氏:それでその時も諦めたのですが、その後ESSから、パイオニア用に2chの32bit DACを作りますよと言ってもらえたのです。これが「ES9011」で、まずはプリメインアンプ「A-70」に搭載しました。
実はESS社のグローバルセールスを担当するヴァイスプレジデント Robert Wongさんがパイオニアのファンで、我々の製品を以前から使ってくれていたそうなんです。「『ES9016』では2ch分足りない。我々は全チャンネル同一クオリティを目指しているので、2ch分のDACを作ってもらえないか」とアプローチしたところ、「ES9011」の開発を決めてくださったのです。
「ES9011」はワイヤーボンディングを2ch用にしているだけで、「ES9016」と中身的にはほぼ一緒なのです。2chという回路規模の小さいモデルで使ってみたことで色々な検討がしやすく、使いこなしを勉強できました。そしてAVアンプ用にと「ES9016」と「ES9011」の組み合わせも1年間勉強し、コツをつかんだ上で、SC-LX87への搭載が実現したのです。
山之内氏:パイオニアとESSは相思相愛の関係だったというわけですね。コスト面の問題は解決したのですか?
平塚氏:レシーバーで1デバイスに掛ける値段としては、やはり高いです。でも音を聴かせたら、企画から「これは商品の値段を上げても使いたい。この音の良さを多くのユーザーに伝えたい」という声が挙がりました。