ワイヤレスモデルの開発についても言及
「ミッドレンジ・マジック」を聴け − ジェリー・ハービー氏が語る最新イヤモニ「LOLA」の真髄
■3Dプリンターによるシェル製作では高い完成度を実現
−− シェルのサイズがとても小さく、装着感も心地よいイヤーモニターですね。「Michelle」以来の3Dプリンターによるシェル製作の過程はいかがでしたか。
JH:Michelleの製作からたくさん知見を得て、今回は内・外のデザインともに完成度の高いシェルを作れたと思っています。サイズ感もMichelleとほとんど変わりません。最新の3Dプリンターは細かなオブジェクトを製作できるほど処理精度が上がっています。
LOLAの内部にも微細加工によりベントさせたアクリルのチューブを配置できたので、シリコン製のサウンドチューブに過度なテンションをかけることなく、素直な音響特性を保ったまま狭いハウジングの中にコンパクトに収めることができました。ステンレス製のウェーブガイドとのコンビネーションでFreqPhaseテクノロジーの完成度を高めています。
Moon Audioのケーブルはいつもの通り、イヤホン側が4ピンのリケーブルコネクターとして、インラインには±15dBの範囲で低域を調整できるアッテネーターを搭載しています。
−− 新たにチャレンジした技術もブラッシュアップしながら、LOLAの開発にはどのぐらいの時間をかけましたか。
JH:振動板周りのシステム開発に1年間をかけて、その後にLOLAとしてプロダクトにまとめ上げるのに2ヶ月を必要としました。シェルの表側には稲妻をデザインしたカーボンファイバー製のフェイスプレートをレイアウトしたり、デザインにも凝っています。そしてサウンドはLOLAの誕生に大きなインスピレーションを与えてくれた、ガンズ・アンド・ローゼスのギタリスト・スラッシュと一緒にライブなパフォーマンス環境で最終調整をしました。
■ハービー氏自身も魅了された、LOLAの「ミッドレンジ・マジック」
−− ギタリストのスラッシュとはLOLAの開発にあたって深くコラボレーションをしたのですか。
JH:スラッシュはガンズ・アンド・ローゼスのツアーでいつもROXANNEを使ってくれていました。スラッシュには以前から、「ROXANNEの音はとってもいいけど、愛用するマーシャルのギターアンプから聴こえる音とどこか少し違うよね」と指摘されていました。ボーカルにギター、ピアノなど楽曲のメロディを奏でる楽器の成分がもっとありのままナチュラルに鳴らせる、スラッシュの期待を超えるイヤホンを作ってやろうじゃないかという意気込みから、LOLAの開発が始まりました。
LOLAの開発を通じて、マルチドライバーを搭載するイヤホンの中域はダイナミック型ドライバーに任せるのが最適だと気がついたことは先にお話しした通りですが、ダイナミック型ドライバーが得意とする音域がギターアンプのスイートスポットに近いということもよく分かりました。スラッシュも完成したLOLAの音を聴いて、愛用するギターアンプの音が完璧に再現できていると太鼓判を押してくれました。
チューニングのポイントはずばり、「ミッドレンジ・マジック(中域の魔法)」にフォーカスしたことです。ボーカルやメロディ楽器の音が自然に定位して、活き活きと響き始める。とっても感染力の強いサウンドだと思います。私も普段よく聴いている音楽を、LOLAで夢中になって聴き直しているところです。大好きな音楽が生まれ変わったような新鮮さで、私自身にとっても驚きでした!
−− カスタムとユニバーサルのチューニングに違いはありますか。
JH:音のチューニングはまったく一緒です。唯一の違いはカスタムIEMの方が遮音性が高いことでしょうか。ただ、3万件を超える耳型データを解析しながらデザインやサイズ感を最適化した、LOLAのユニバーサルIEMの遮音性もかなりのものですよ。
■ワイヤレスも視野。年末には大きなサプライズを期待してほしい
−− ハービーさんは今のオーディオ、音楽業界の動向をどのように感じて、この先はどう変わっていくと予想していますか。
JH:そうですね、パーソナルオーディオはBluetoothを始め、ワイヤレスオーディオの品質がグングンと良くなっていくと思います。今年はいよいよ96kHzのハイレゾストリーミングが登場しましたが、数年後にはDSDストリーミングをスマホやオーディオプレーヤーでダイレクトに受けて聴いているなんて光景がありふれたものになるかもしれませんね。バッテリーやペアリングなど、ワイヤレスオーディオの周囲の懸念展もますます改善されるでしょう。JH Audioとしても、ワイヤレスの製品開発の準備を始めていますよ。楽しみに待っていて下さい。
−− 現在カスタムIEMの人気が高まっていることを、ハービーさんはどのように受け止めていますか。
JH:私が1995年にカスタムIEMのビジネスを始めたころは、まだアメリカに数社のブランドがある程度でした。今たくさんのブランドが熱心に質の高いイヤーモニターの開発に力を傾けていることを非常に心強く感じています。特に2010年から2012年ごろから、日本やアジアのブランドが力を付けてきましたね。
一方で、たくさんのブランドが出てきたことで、それぞれの製品が差別化できる要素も少なくなってきました。JH Audioは、これからもイヤーモニター市場の最先端を走るリーディングブランドであり続けます。私はいつだってイヤーモニター界に革新を起こすアイデアを練っています。いつの時代、どの分野にもリーダーとフォロワーがいるものですが、私はいつもリーダーでいたいんです。今回発表したLOLAもまったく新しいイヤーモニターですが、この次のプロジェクトもいくつか進行しています。当然、まだ詳しいことは言えないけれど(笑)。私が描いているプラン通りに進めば、年末の12月頃には皆さんがあっと驚くビッグな発表ができると思います。
−− これからの展開に期待しています。ありがとうございました。