サイズを超えたサウンドを誇るUSB-DAC
CHORD「Qutest」は“脳にアジャストする音” − フランクス氏&ワッツ氏がその詳細を語る
CHORDのUSB-DAC「Qutest」(関連ニュース/レビュー)は、コンパクトなボディに同社独自のD/A変換技術を収め、価格帯を大きく超えたサウンドを実現。登場から間もなくしてヒットモデルとなった。
近年、フラグシップとなる据え置きDAC「DAVE」から、ポータブルDACに至るまで幅広い領域で先鋭的な製品を提案し続けるCHORDは、どのような意図を持ってQutestを開発し、高い評価を集めるそのサウンドを実現したのか。同社CEOのジョン・フランクス氏、DAC設計を担当するロバート・ワッツ氏が今年春に来日したタイミングで、その詳細について話を伺うことができた。
Qutestは、2015年に登場した同様の小型USB-DAC「2Qute」の後継モデル。D/A変換部は同社のポータブルUSB-DAC/ヘッドホンアンプ「Hugo2」をベースとしており、ヘッドホンアンプやバッテリーなどを搭載せずに据え置きのUSB-DACに特化させている。
D/A変換部は2Quteから大幅に進化し、D/A変換の心臓部となるFPGAでは49,152タップという処理を実現。2Quteからタイミング精度、S/N、ダイナミックレンジと全ての面で性能向上を図った。USB入力は、最大768kHz/32bit PCM、22.4MHz DSDの再生に対応する。
その洗練されたコンパクトなボディからも察することができるように、QutestはCHORDのサウンドをより幅広いユーザーが楽しめることを狙った製品だ。もちろん、その中にはコアなオーディオユーザーも含まれており、限られたサイズとコストの中で、妥協なきCHORDサウンドを実現することも命題となった。
ジョン・フランクス氏は、Qutestのコンセプトを固めるにあたって約1年にわたる議論を要したと語る。企画にあたっては、DACのパフォーマンスを維持しつつ、より多くのユーザーが手に取れる価格を実現することが最重要項目だったという。
また、Hugo2が人気を博した一方で、バッテリーやヘッドホン出力といったポータブル系の機能を省いた、より据え置きに特化した製品が欲しいというオーディオファンからの声もあった。性能を追求しつつコストを抑えるためにも、結果として本機は据え置きモデルに不要な機能をそぎ落としたシンプルなDACになった。
コンセプトが固まってからは、Qutestの具体的なデザインはストレートに決まった。また、D/A変換回路についても、Hugo2で開発した回路を継承することになっていたので、Qutestの完成はそれほど難しくないものだと同社では考えていたという。しかし、実際にQutestを仕上げるに至っては様々な困難が立ちはだかったとロバート・ワッツ氏は説明する。
具体的意は、Qutestのプロトタイプを試作したところ、片側のチャンネルのダイナミックレンジはカタログスペック通りの数値が出たが、もう片方のチャンネルが1.5dBほど数値に差異が出てしまったのだという。回路パターンから製造プロセスまで確認したものの原因が特定できず、「奇妙なことだった」とワッツ氏は話す。
この事実を受けて、何度もプロトタイプを作り直したところ、プリント基板のごく些細なレイアウトが、左右の出力の差に影響を与えていることがわかった。具体的には、パルスアレイDACにおけるグラウンドの位置が、設計したポイントからごくわずかにズレていたのだという。
大規模な演算処理をFPGAで行い、なおかつパルスアレイDACをディスクリートで構成するCHORDのDACにおいては、こうしたごく微妙な基板のレイアウトが、最終的な音質に大きな影響を与える。圧倒的なS/Nとダイナミックレンジを実現すからこそ、微細な差異が測定値やサウンドにも現れてしまう。
「まだまだ学ぶことはあると自戒した」と語るロバート・ワッツ氏。Qutestでは原因がわかったため完全な改善を行うことができたが、以降、パルスアレイDACにおけるグラウンドの設定については、回路設計の段階からこれまで以上に細心の注意を払っているとのこと。
また、ロバート・ワッツ氏はCHORD製DACのサウンドの特徴として、極めてノイズが少ない点を改めて強調した。「よくウォームなサウンド、という表現を耳にしますが、結局のところこれはヒスノイズの影響によるものです。質の低いDACは信号レベルが上がるとノイズフロアもあがりますが、こうした音をウォームな音と取り違えている人がいます」と同氏は語る。
CHORDのDACは、フラグシップのDAVEはもちろんポータブルモデルに至るまで優れたノイズ特性を備えていることが特徴であり、Qutestにおいても上位モデルと同様にノイズのコントロールを徹底している。その違いは特に音の絶対的な情報量に表れ、Qutestと同価格帯のDACを聴き比べればそれは一聴してわかるとワッツ氏は胸を張る。
DAC以降のアナログ回路は、ディスクリート構成のクラスA回路で、クオリティを最優先してシンプルにすることを徹底した。USB入力経由で混入するノイズを遮断するガルバニックアイソレーターの搭載も、音質向上に大きく寄与するという。
インタビューにおいてジョン・フランクス氏は、Qutestにおいては所有欲をくすぐるようなパッケージにもこだわったとコメント。パッケージには小物を収める引き出しも備えられ、収納ケースとしても使うことができる。このあたりからも、より幅広いユーザーにCHORDのサウンドを楽しんでもらいたいという狙いを感じることができる。
製品の開発にあたっては、常に口論に近いような激しい議論を重ねるというジョン・フランクス氏とロバート・ワッツ氏。今回のインタビューでも、Qutestの企画・開発段階から白熱した議論が続けられたことを2人は何度も回想していた。しかし、この2人の優れた技術者の衝突があるからこそ、CHORDが革新的かつ優れたサウンドを備える製品を開発し続けることができるのだろう。
インタビューの最後、ジョン・フランクス氏は「Qutestの存在にはプライドを持っている。ぜひ自分の耳で音を確かめてみてほしい」と改めて自信を見せた。ロバート・ワッツ氏は「Qutestの音は情報量が非常に多いので、何より“脳”がアジャストするはず」と語ってくれた。
近年、フラグシップとなる据え置きDAC「DAVE」から、ポータブルDACに至るまで幅広い領域で先鋭的な製品を提案し続けるCHORDは、どのような意図を持ってQutestを開発し、高い評価を集めるそのサウンドを実現したのか。同社CEOのジョン・フランクス氏、DAC設計を担当するロバート・ワッツ氏が今年春に来日したタイミングで、その詳細について話を伺うことができた。
Qutestは、2015年に登場した同様の小型USB-DAC「2Qute」の後継モデル。D/A変換部は同社のポータブルUSB-DAC/ヘッドホンアンプ「Hugo2」をベースとしており、ヘッドホンアンプやバッテリーなどを搭載せずに据え置きのUSB-DACに特化させている。
D/A変換部は2Quteから大幅に進化し、D/A変換の心臓部となるFPGAでは49,152タップという処理を実現。2Quteからタイミング精度、S/N、ダイナミックレンジと全ての面で性能向上を図った。USB入力は、最大768kHz/32bit PCM、22.4MHz DSDの再生に対応する。
その洗練されたコンパクトなボディからも察することができるように、QutestはCHORDのサウンドをより幅広いユーザーが楽しめることを狙った製品だ。もちろん、その中にはコアなオーディオユーザーも含まれており、限られたサイズとコストの中で、妥協なきCHORDサウンドを実現することも命題となった。
ジョン・フランクス氏は、Qutestのコンセプトを固めるにあたって約1年にわたる議論を要したと語る。企画にあたっては、DACのパフォーマンスを維持しつつ、より多くのユーザーが手に取れる価格を実現することが最重要項目だったという。
また、Hugo2が人気を博した一方で、バッテリーやヘッドホン出力といったポータブル系の機能を省いた、より据え置きに特化した製品が欲しいというオーディオファンからの声もあった。性能を追求しつつコストを抑えるためにも、結果として本機は据え置きモデルに不要な機能をそぎ落としたシンプルなDACになった。
コンセプトが固まってからは、Qutestの具体的なデザインはストレートに決まった。また、D/A変換回路についても、Hugo2で開発した回路を継承することになっていたので、Qutestの完成はそれほど難しくないものだと同社では考えていたという。しかし、実際にQutestを仕上げるに至っては様々な困難が立ちはだかったとロバート・ワッツ氏は説明する。
具体的意は、Qutestのプロトタイプを試作したところ、片側のチャンネルのダイナミックレンジはカタログスペック通りの数値が出たが、もう片方のチャンネルが1.5dBほど数値に差異が出てしまったのだという。回路パターンから製造プロセスまで確認したものの原因が特定できず、「奇妙なことだった」とワッツ氏は話す。
この事実を受けて、何度もプロトタイプを作り直したところ、プリント基板のごく些細なレイアウトが、左右の出力の差に影響を与えていることがわかった。具体的には、パルスアレイDACにおけるグラウンドの位置が、設計したポイントからごくわずかにズレていたのだという。
大規模な演算処理をFPGAで行い、なおかつパルスアレイDACをディスクリートで構成するCHORDのDACにおいては、こうしたごく微妙な基板のレイアウトが、最終的な音質に大きな影響を与える。圧倒的なS/Nとダイナミックレンジを実現すからこそ、微細な差異が測定値やサウンドにも現れてしまう。
「まだまだ学ぶことはあると自戒した」と語るロバート・ワッツ氏。Qutestでは原因がわかったため完全な改善を行うことができたが、以降、パルスアレイDACにおけるグラウンドの設定については、回路設計の段階からこれまで以上に細心の注意を払っているとのこと。
また、ロバート・ワッツ氏はCHORD製DACのサウンドの特徴として、極めてノイズが少ない点を改めて強調した。「よくウォームなサウンド、という表現を耳にしますが、結局のところこれはヒスノイズの影響によるものです。質の低いDACは信号レベルが上がるとノイズフロアもあがりますが、こうした音をウォームな音と取り違えている人がいます」と同氏は語る。
CHORDのDACは、フラグシップのDAVEはもちろんポータブルモデルに至るまで優れたノイズ特性を備えていることが特徴であり、Qutestにおいても上位モデルと同様にノイズのコントロールを徹底している。その違いは特に音の絶対的な情報量に表れ、Qutestと同価格帯のDACを聴き比べればそれは一聴してわかるとワッツ氏は胸を張る。
DAC以降のアナログ回路は、ディスクリート構成のクラスA回路で、クオリティを最優先してシンプルにすることを徹底した。USB入力経由で混入するノイズを遮断するガルバニックアイソレーターの搭載も、音質向上に大きく寄与するという。
インタビューにおいてジョン・フランクス氏は、Qutestにおいては所有欲をくすぐるようなパッケージにもこだわったとコメント。パッケージには小物を収める引き出しも備えられ、収納ケースとしても使うことができる。このあたりからも、より幅広いユーザーにCHORDのサウンドを楽しんでもらいたいという狙いを感じることができる。
製品の開発にあたっては、常に口論に近いような激しい議論を重ねるというジョン・フランクス氏とロバート・ワッツ氏。今回のインタビューでも、Qutestの企画・開発段階から白熱した議論が続けられたことを2人は何度も回想していた。しかし、この2人の優れた技術者の衝突があるからこそ、CHORDが革新的かつ優れたサウンドを備える製品を開発し続けることができるのだろう。
インタビューの最後、ジョン・フランクス氏は「Qutestの存在にはプライドを持っている。ぜひ自分の耳で音を確かめてみてほしい」と改めて自信を見せた。ロバート・ワッツ氏は「Qutestの音は情報量が非常に多いので、何より“脳”がアジャストするはず」と語ってくれた。