J・フランクス氏/R・ワッツ氏に話を聞く
ヒントはロシアの装飾品 ー CHORDが小型かつ美しいオーディオ製品を手がける理由
■オーディオへの価値観や欲求は世界規模で変化している
同社は一方で大型のアンプも引き続き開発を続けているが、フランクス氏は、ハイエンド・カテゴリーに限らず従来型のオーディオが変化の時期に来ていることを、世界の至るところで感じるという。
ストリーミングなど音楽の楽しみ方の変化、スマートフォンの普及、ライフスタイルの多様化、それらを受けて従来型のオーディオから若者の興味が離れつつあること等は世界で共通しているというのは両氏の認識だ。また欧米でも独身で、それほど広くないアパートに1人で暮らすという人が増えていて、日本同様にオーディオもよりパーソナルな形が求められつつあるとフランクス氏は語る。
CHORDはこうした状況も踏まえて、HugoやMojoなどポータブル製品だけでなく、CORALシリーズのようなハイエンドクラスの製品においても、従来の枠に囚われないオーディオ製品の開発を行っていくという。従来のオーディオファイル以外の新しいファンにも良い音を提供していくことは、CHORDにとっても大きな望みと言える。
こうした取り組みの手応えは、各国のセールスはもちろん、実際に各国を訪れたときに様々な場面で感じるフランクス氏。例に挙げたのは、インドネシアの販売店を訪れたときに聞いた話で、それほど収入が多くない若者が半年以上給料を貯めたといってHugoを買いにきたのだという。直近では、コンパクトかつ価格も抑えた据え置き型USB-DAC「Qutest」が日本をはじめ各国でヒットし、より若いユーザーから注目を集めた。
一方で、ライフスタイルにこだわる富裕層の単身者がCORALシリーズでシステムを組むというような例も、欧州はもちろんアジアの都市で多く見てきたという。CHORDの製品の魅力は、着実に新しい層にリーチしているようだ。
■A/Dコンバーター開発も。CHORDは「これからも学び続ける」
ポータブルからハイエンドまで、チャレンジを続けるCHORD Electronicsだが、今後についてはどのような目標を掲げていくのだろうか。ロバート・ワッツ氏は現在取り組んでいるA/Dコンバーター開発について説明してくれた。
ワッツ氏は以前のインタビューでも語っていたが、業務用途向けのA/Dコンバーターの開発を引き続き行っているという。DAVEとBlu MKIIにおいてD/A変換を突き詰めた今、ワッツ氏の次の目標は、マイクで捉えた生の音をデジタル化するA/D変換にある。これまでは音楽の製作と再生は分断されていたが、それを繋ぐことで新しい次元のオーディオ再生が実現するとワッツ氏は熱を込めて語った。
もちろん、コンシューマー向けのオーディオ製品の開発は継続して行っており、詳しくは話せないとのことだったが、ワッツ氏とフランクス氏のそれぞれが10以上のプロジェクトを平行して動かしているとのことだ。
ワッツ氏は「アイデアがある人はたくさんいるけれど、それを具現化できる人はごくわずかだ。私たちは常にアイデアをカタチにしてきたと胸を張って言えます」と話す。「リタイアしてもいい年齢だけれど、仕事は楽しいですからね」。
最新のパワーアンプ「Etude」はフランス語で「学び」を意味する言葉だ。フランクス氏はDAVEの再生能力に見合うコンパクトなアンプを実現するために、自身のアンプ技術を基礎から洗い直して設計を行ったという。「私たちはまだまだ学んでいるのです。だからこそ、今までの取り組みにとらわれない、最高の製品を作り続けることができるのです」。