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U-NEXT 堤天心社長インタビュー

U-NEXTは“オセロの四隅”を押さえて主戦場へと挑む。熾烈化する生き残り競争を勝ち抜く戦略に迫る

公開日 2019/12/24 12:04 PHILE WEB ビジネス編集部・竹内純
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■ワンアプリで差別化された電子書籍体験

―― 電子書籍に対して大変力を入れていらっしゃいますね。

 映像に続き、書籍と音楽を強化していきます。目指しているのは、ひとつのアプリで映像・書籍・音楽がシームレスに楽しめる統合された世界観です。U-NEXTに行けばエンタメコンテンツがすべて揃っている、しかも、ワンアプリ、ワンID、統一されたユーザーエクスペリエンスで楽しめる新しい世界観を実現していきます。メタファーで言うと、アナログの世界ではかつてのレンタル店の店づくりに近いですね。本屋ですがビデオやCDも扱う。棚割りは単なるジャンル別ではなく、それぞれテーマに基づき、メディアミックスの棚、少しアーティスティックに寄せた棚など、伝統的な本屋とは異なるセンスです。キュレーション的な価値と文化としてのエンターテインメントがコンセプトの根底にある、そのデジタル版です。

―― 携帯キャリア各社も、映像、書籍、音楽など多彩な付加価値サービスを提供されていますが、ワンアプリでの統合したエクスペリエンスは皆無ですね。

 エンタメ業界サイドから見れば、映像と書籍はとてもシナジーが高い。原作を映像化するのが、日本のアニメ、ドラマ、映画の基本的なフレームですし、ひとつの映像に対し、マンガやノベルティなどメディアミックスで展開するのもエンタメビジネスの基本です。しかも、これまでは映像を楽しむなら映画館、本を楽しむなら本屋と体験がわかれていましたが、デジタルの世界では、システム面から見ると映像も書籍もまったく同じ技術的なプロトコル、サーバーでも同じデジタルファイル、そこへアクセスしてディストリビューションする作法も一緒です。

映像配信で培ったプラットフォーム上に書籍コンテンツを追加するための投資もほとんどかかりません。暗号化をはじめとするセキュリティ要求は、映像の方が格段に高いですし、システム面からは、映像でリッチなストレージに投資しているので、書籍を追加するためのインフラ投資は誤差の範囲と言っても過言ではありません。書籍のビューワーもオリジナルで開発しており、映像のプレーヤーとは技術的なスタックが非常に近い。インハウスで独自開発しているからこそ、ワンアプリという、U-NEXTの技術的な優位性を活かした差別化戦略が展開できるわけです。

映像、書籍、音楽など多彩なコンテンツをワンアプリで統合する快適なエクスペリエンスはU-NEXTの大きな強み

ユニークなアプリは出版社サイドからも好評です。ユーザー心理からすれば、アニメを見たらマンガを読みたくなる。U-NEXTならワンタップで関連書籍を選択、ツータップでビューワーが立ち上がるだけでなく、「読む」のボタンをクリックすればすぐにビューワーが立ち上がって読み始めることができます。映像のストリーミング再生のように、シンプルでストレスのないユーザー体験をコミックでも実現しています。

また、アニメがヒットすれば原作も売れる、というのが出版社のビジネスの本質です。デジタルならユーザーの購買行動もリニアにトラッキングできますし、コンテンツづくりやメディアミックス展開に関連して、クリエイティブサイドに新しい価値を提供できるかもしれません。そうしたデジタルならではのポテンシャルも見逃せません。

―― 映像、書籍、音楽の次のエンタメ体験にはどのような構想をお持ちですか。

 エンタメビジネスでは基本とも言えるイベント、ライブ、グッズ販売ですね。ファンミーティングなどのイベントはエンタメビジネスの王道ですし、限定品や “ここでしか買えない” ものを提供するなど、エンタメビジネスのすべてをこのオールインワンのプラットフォームで実現していきます。

■他には真似できない40%ポイントバック

―― U-NEXTの月額料金(1,990円)だけを見ると、他に比べてやや割高な印象を受ける人も少なくないと思います。しかし、毎月1,200ポイントがチャージされたり、最大40%のポイントバックがあったり、実はかなりコストパフォーマンスの高いサービス内容となっています。

 見放題だけではない付加価値をもっとピーアールしていくことが当面の大きな課題のひとつ。月額会員であれば、どこよりもお得に楽しめることを、より多くの人にメッセージとしてお届けしていきたい。

「ポイントを使って新作や書籍をご覧になるお客様が増えている」と手応えを訴える

電子書籍や音楽は、どこのストアでも同じ品揃えが基本フォーマットなので、映像のオリジナルコンテンツのようなユニークな付加価値を提供しづらい構造になっています。商品上の差別化、付加価値の提供がしにくいなかで重要なのは、キャンペーン等での消耗戦に乗り出すことではなく、マーチャンダイジングやパッケージで差別化すること。U-NEXTがトランザクションビジネス(都度課金)に月額会員であるサブスクの前提を加え、組み立てたアイデアが「1,200ポイントチャージ」「40%ポイントバック」というサービスです。

あくまで月額のサブスクビジネスをコアに置いたもので、恐らく、通常の電子書籍ストアでは「40%ポイント還元」では利益が出せません。乱暴な言い方をすると、我々はトランザクションビジネスに利益は求めていないのです。既存のビジネスモデルとしてはコストコさんのイメージが近いですね。彼らの収益構造は年会費がベースで、日々レジを通すトランザクションビジネスの部分では、店舗運営費や固定費が賄えればいいという考え方です。

ユーザーさんは見放題だけではなく、新作の映画も見たいし、マンガも読みたいという方がたくさんいらっしゃいます。我々は強気のプライシングではあるものの、期待に応える品揃え、お得感を実感できる魅力あるサービスなど、エンタメに対する動機、モチベーションが濃いユーザーさんに支持されるプラットフォームに育てていきます。

―― 解約率も低くなってきているとお聞きします。

 見放題に対する満足度はもちろん高まっていますが、ポイントを使って新作や書籍をご覧になるお客様が増えています。それは、継続率や契約率の数字として顕著に表れてきており、見放題とトランザクションとのハイブリッドの価値をご理解いただいている手応えを感じています。しかし、一方では、その価値がわかりづらいことも事実。一見、高い料金設定に感じられてしまうお客様がまだまだいらっしゃることは、クリアすべき課題のひとつです。

事業全体の長期フェーズでは、まずは一定以上のARPUが獲得できるユーザーさんを100万、200万規模でしっかり取り込んでいくこと。その上で、オリジナルを含めた、もう少しマスに近い所へ展開していく考えです。資本力で言えば、外資系、テレビ局、キャリアの各社は桁違いですからね。我々なりの戦い方で、しっかりと順序立てて組み立てています。

―― 優先順位を見極めて、ひとつひとつピースを埋めていく。

 社内ではよくオセロゲームに例えて、四つの隅を押さえればひっくり返されることはないと言っています。まずは、四つの隅を押さえに行くこと、そして、中央部においては一歩ずつ進むこと。短期で一気に制圧する戦略は、物量投下が可能な大資本の会社には正しいかもしれませんが、我々には正直、そこまで潤沢なリソースはありません。まずは奪われない陣地を着実に築き、最後に主戦場に向かっていく戦略です。

強みである韓流やアニメではNo1戦略を引っ提げて、今後もトップの座を死守していきます。また、新作も重視しています。TVODの新作市場ではNo1、No2のポジションを争う位置にまで来て、「新作ビデオを見るならU-NEXT」との理解がかなり広がってきました。ユーザーさんからすれば、映画に一番期待していることは、レンタルビデオと同じタイミングで新作がいち早く楽しめることです。どれが四つの隅に相当するのかはわかりませんが、U-NEXTならではの強みを徹底して磨きをかけていきます。

■米国ドラマの独占配信をスタート

―― U-NEXTの最大の強みである圧倒的な品揃えにおいて、エクスクルーシブコンテンツをはじめとする次のフェーズについて、もう少し詳しくお聞かせください。

 サブスクリプションというビジネスモデルの本質的価値は自由なクリエイションです。サブスクを原資とした潤沢な予算により、スポンサードによる制約を与えない自由なクリエイティブを実現できるからです。また、放送枠の尺の長さや放送日のスケジュールといった制約もなく、きわめてフレキシブルです。サブスクを使ったOTTは、モノづくりの現場を魅力的にする構造的なポテンシャルを備えています。

U-NEXTではその利点をテコにして、 “ここでしか見られない” 良質なコンテンツに海外作品を含めてチャレンジしていきます。これまでも申し上げました通り、まずは品揃えからスタートしますが、その次のフェーズとして来年、再来年に向けてエクスクルーシブコンテンツを強化していく構想です。トライアルとしてまずは数本の海外ドラマの独占配信をスタートしており、来年に向けてリサーチを重ねながら、さらに動きを加速していきます。

サブスクの利点を活かし、U-NEXTでしか見られないコンテンツを海外作品含めて強化。日本初上陸となる海外ドラマも多数ラインナップされている

―― 今後の市場創造へ向けた意気込みをお願いします。

 全体の市場が伸びてくれば当然、生き残り競争もますます激しくなります。そこでどう棲み分け、打ち勝っていくのか。U-NEXTでは品揃えが一番多いことを重視しながら、新作を含めたトランザクションをもっともお得に楽しめる付加価値を追求していく。そしてさらに次のフェーズとして、U-NEXTでしか見られないオリジナリティを打ち出していく三段論法です。今日の時点でユーザーに一番に訴求するポイントは品揃え。見放題だけではない数多くの作品がどこよりもお得に楽しめることを全力で訴求して参ります。

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