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社会に貢献し、社員を幸せにしてさまざまなチャレンジを重ねる

セイコーエプソン新社長 小川恭範氏インタビュー。長期的に見ればこれもひとつの段階、今は上を向いていくべき時

公開日 2020/04/27 14:45 Senka21編集部 徳田ゆかり
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●困難な状況でも、知恵を出し新しい価値を生み出せる。上を向いて前に進む。

 ーー ご就任会見の際、新規の事業の開発も進めているとおっしゃっていましたが、どんな領域になるのでしょうか。

小川 まずは既存のものを発展させて、新たな分野に広げていきます。ロボティクスの分野では、一部ではなく工場全体に広げていくことも進めます。また先日のプリントヘッド事業の説明会でも申し上げましたが、プリンティングで「細胞を飛ばす」「金属を飛ばす」といったこれまでにない取り組みも。技術としては可能ですが、ビジネスとしてどう展開していくかはまだこれから。ただし、数年先には形になると見ています。

 ーー 他社との協業も含めて、いろいろなことが考えられますね。

小川 昨年、プリンテッドエレクトロニクス分野でエレファンテック社との協業が始まりました。回路基板の配線ですが、通常はフレキシブルケーブルを使うところをインクジェットでつくります。さらに発展して、立体物にも配線のプリントを行う取り組みも始まっています。例えば車のインパネやドアなどに、ケーブルを這わせるのでなく、直接配線を印刷するやり方です。ロボットをつかって、プリントヘッドでいろいろなものにプリントしていくイメージ。低コストでいろいろなことが実現できる、そういうことも進めております。

 ーー 新型コロナウイルスの影響など、想定外なことが起きている昨今ですが、どうご覧になっていますか。

小川 当社の中でいうと、オフィス機器などは今のところそれほど落ち込んでいません。マイクロデバイスのような部品レベルですと、今のうちに部品を手に入れておきたいというお客様のニーズで、案外デマンドが減っていない状況です。また、一般のお客様がインクカートリッジを今買っておこうという動きもあります。現在、子供たちが学校に行けない状況で、宿題を家庭で印刷するようなプリンターのニーズもあります。思ったほどの打撃はないというのが今の状況ですね。ただこれから先は、変わってくるだろうとは思っています。

一方で、海外のフィリピンやマレーシアでは国からの指導もあり、工場の稼働をほとんど止めています。各国の政策をまず遵守するというところ。こうした動きの影響は1 - 2ヶ月くらい先に出るかと思います。中国の工場の稼働は復帰していますが、まだ人がすべて戻れておらず、サプライチェーンも正常には動いていないので、100%ではありません。けれども完全に復活モードに入っています。

社会や世界経済をもっと広い目でみると、非常に厳しい状況です。けれども、ある意味で新たな価値が生まれる状況だとも思います。テレワークのような、これまでなかなか進まなかったものもやらざるを得ない状況になって一気に進み、少し先の未来が想定より早くやってきたように感じています。

我々にしても、新製品を立ち上げるとなると、海外の工場で準備をする、装置をつくって立ち上げる、ということになります。コロナウイルスの影響で海外に行くことができなくなっても、製品は出さなくてはならない。となると、知恵を出し合い、うまくやる方法をなんとか考え出すわけです。本来は日本人メンバーが海外で指揮をとって動くところを、電話やテレビ会議でコミュニケーションをとる。さらに、現地の技術力を高めて対応する。結果として現地の工場のレベルが上がるんですね。

そんな風に、これまで常識としてきたことが変わるだろうと思っています。変わることで新たな価値観も生まれ、そこで貢献できることに対する新たなビジネスの芽も出てくるかもしれません。業績は当然厳しいものになるとは思っていますが、長期的に見ればそれもひとつの段階かなと受け止めています。経済は確実に停滞して、業績だけ見ると悲しい気持ちになってしまいがちですが、そればかりではなくて、上を向いていくべき時だと思います。

 ーー 困難なタイミングの時ですが、非常に力強いお言葉をお聞きできました。今後のご活躍にも期待しております。


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