VGP2020 SUMMER 受賞インタビュー
「テレビを買うならpopIn Aladdin」と誰もが当たり前に思う世界へ。社長・程涛氏が語る未来への意気込み
受賞インタビュー:popIn
話題を集める「popIn Aladdin」をブラッシュアップした注目の後継機、「popIn Aladdin 2」がVGP 2020 SUMMER「コンセプト大賞」を受賞した。プロジェクター、シーリングライト、スピーカーを3in1にしたまさに斬新な発想は、従来のプロジェクターにはない世界観を広げ、多くのユーザーに新しいプロジェクター体験を提供する。従来の枠組みにとらわれることなく、より多くの人の生活シーンに新たな感動や利便性を届けるpopIn。家電ビジネスに対する意気込みを、同社代表取締役社長・程涛氏に聞く。
VGP2020 SUMMER受賞一覧はこちら
popIn(株)代表取締役社長
程 涛氏
インタビュアー 竹内 純(ファイルウェブビジネス編集部)
■コンテンツ表現を一変するプロジェクターの魅力を身近に
―― 2018年4月に蔦屋家電で開催された「popIn Aladdin」の発表会で、程社長は3児のお父様として、「子どもの世界観を広げたい。親が強制するのではなく、子どもが自ら興味を持って自然と知識を習得する、そうした流れを創造できないか」とpopIn Aladdinの開発に託された想いを語られました。年間数万台の日本のホームプロジェクター市場で、popIn Aladdinは発売2年弱で約5万台を販売する大きな反響を得ましたが、託した想いはどれくらい伝わったのか。手応えはいかがですか。
程 手応えとしてはまだ1%も満足していません。このような世界観を訴えた商品が、popIn Aladdinをきっかけに、これから次々に他からも登場してくることを願うばかりです。私個人、「プロジェクター」が物凄く好きで、近年で一番ハマった商品と言って過言ではありません。もともと、テレビという真っ黒で大きな物体がリビングにあることを不自然に感じていました。どう見ても違和感があります。ところがプロジェクターはそうではない。生活の中に溶け込み、壁から何かが浮かび上がってくる様はこの上なく素晴らしいです。
テレビの枠を飛び越えた新しい世界を開き、可能性も無限大と言えます。劇的に変わるのはやはり、コンテンツの表現の仕方です。壁から風景写真や家族写真がわーっと現れてインテリアになる。ヒーリング効果も期待できます。ライフスタイルの各シーンに合わせ、これまでになかった演出が可能になります。私は当初、より子ども向けの世界を思い描いていましたが、コンテンツ次第であらゆる可能性があることを、popIn Aladdinを手にされた皆さんから改めて思い知らされました。
10年前にスマートフォンが普及し始めた当時の衝撃を今、感じています。テレビには表現できなかったものがプロジェクターならできる。いろいろな可能性を強く感じているからこそ、われわれがpopIn Aladdinで今現在証明できたのは1%にも満たないと確信しているのです。
―― 緒に就いたばかりだと。
程 わたしはハードウェアではなく、ソフトウェアの人間ですから、物事を見るときにはいつも、情報をどう表現できるかを考えます。つまり、新しい表現ができる窓口がpopIn Aladdinによって一気に広げられたと感じています。
プロジェクターを自ら作る気持ちは皆無でした。しかし、話題を集めていた短焦点の製品をはじめあらゆるものを購入して、実際に家に置いて使ってみたのですが、生活の中に飛び込んでくる、自分が望んでいた体験、期待していた感動は得られませんでした。「これも違う」「あれも違う」。最初は何が違うのかがはっきりとはわかりませんでしたが、その根本は、家族が毎日使う気持ちになれないことにあると気づきました。生活を“邪魔”しているのです。その邪魔が解消できさえすれば、生活に溶け込むようになるのではないかと思いました。“プロジェクターとはこうあるべき”との先入観がなかったため、どこに置けば妻に怒られないか、そんな課題にも直面しながら、最終的に「天井ならば邪魔にならない」と気づくことができました。
ハードウェアはふつう自己の存在を主張しますが、私は逆転の発想で、気づかれないことこそが重要。デザインも部屋に入ったときに違和感を覚えないように、popIn Aladdinは、シーリングライトそのものに見えるデザインにこだわっています。様々なアイデアを各メーカーがお持ちで、popIn Aladdinの3in1というアイデアそのものは世界初だとは思っていません。しかし、世界で初めて製品化を実現しました。アイデアのままでは意味がない。それを形にすることが大変なのです。
これまでのプロジェクターにはない使い勝手やコンテンツ体験の可能性を提案しましたが、今、説明したように、希望するハードウェアがみつからなかったために、自ら苦労してハードを一から作りあげました。しかし、本業はソフトウェアの会社ですから、同じ世界観を訴える競合モデルの登場は大歓迎で、ソフトウェアの提供もウエルカムです。
―― 商品化にあたり一番ご苦労されたところはどこだったのですか。
程 重さですね。あくまで器はシーリングライト。そこへ、プロジェクターやスピーカーを収めて5sの基準値をクリアしなければなりません。5sを超えると、引っ掛けシーリングの横に耳のあるタイプを利用して強度を高めなければならず、ほとんどの家庭では数万円かかる工事が必要になってしまいます。
―― 自宅の天井の引っ掛けシーリングに付ければすぐに使えるのがpopIn Aladdinの大きなセールスポイントのひとつですからね。
程 安全性は絶対に譲れない条件ですからね。popIn Aladdinの天井に接する黒い金属の天板を見ていただくと、多数の穴が開けられています。一定の強度は保ちながらどうやって重量を減らすか、試行錯誤した成果のひとつで、ネジ1本に至るまでアイデアが凝縮されています。
■研ぎ澄まされた3in1新モデル「popIn Aladdin 2」
―― 待望の新製品「popIn Aladdin 2」が4月27日に発表されました。先行予約開始後1日で約3,000台が完売、7,000台の緊急追加分も1カ月で完売と大人気です。新モデルのブラッシュアップのポイントをお聞かせください。
程 初代モデルは本当に“想い”で作り上げてしまったとも言え、ユニットやレンズは市販のもの。投写距離は4畳で40インチ、5畳で50インチ、6畳で60インチを想定し、ご家庭で十分な大きさの画面が楽しめるものと思っていました。ところが、初代モデルを4万台販売して初めてわかったことは、“複雑すぎる日本の住宅の間取り”という大きな壁でした。
popIn Aladdinは投影距離が固定されます。そのため、梁、窓、ドアなど、それぞれの部屋で異なる複雑な環境への対応は困難を極め、台形補正で小さくなった画面は、プロジェクターの一番の醍醐味である大画面とは程遠いものになります。ユーザーの皆様から寄せられた声でも一番多かったのが「もう少し大きな画面にしたかった」というものです。
そこで、popIn Aladdin 2では、日本の住宅事情の“すべての間取りにフィットする大画面”をコンセプトに掲げ、壁にフィットするマックスの大画面を投影できるレンズ開発を最大のテーマにしました。
フィットには2つの意味合いがあります。1つ目は大画面が投影できること、しかも、調整が幅広いことです。左右の調整は手でできますが、問題は上下です。そこへ、レンズ設計と金型で1億円以上の投資を行い、数十万円クラスのプロジェクターにしか搭載されていない、レンズ内で上下の調整をする仕組みを備えた専用の短焦点レンズを開発しました。これにより、設置距離が壁から短くても鮮明な大迫力の大画面が実現できるようになり、4畳の部屋での60インチの大画面が実現できます。
2つ目は、プロジェクター、シーリングライト、スピーカーの3in1ですが、圧倒的に使用頻度が高いのはシーリングライトです。しかし、初代モデルでは実はあまり深く考えていなかったため、「一番暗くした時でも明る過ぎる」、反対に、「一番明るくした時でも暗過ぎる」など、数多くのご指摘をいただきました。そこで、明暗それぞれに明るさの幅を広げ、調光・調色も1万通りを実現しています。
さらに、「デザインをもっと薄くしてほしい」という大変厳しい注文にもお応えしました。シーリングライトのLEDにはすべてレンズがついているのですが、そのレンズをゼロベースで設計し直し、169oあった高さを145oにまで薄型化しました。これも本当に苦労したポイントのひとつになります。
そして3つ目がハーマンカードンのスピーカーです。先方でもこのようなスタイルでの商品開発は初めての経験だったそうで、初代では5W+5Wの1台のスピーカーでしたが、それが新モデルでは8W+8Wのステレオスピーカーとなりました。しかも、いろいろなシミュレーションによる提案が盛り込まれたものとなっており、快適な音楽体験をご提供します。
3in1のハードウェアがそれぞれ1から作り直されたとも言え、すべてが生まれ変わったような素晴らしい体験をお客様にお届けできると自負しています。
■続々と進化するソフトウェアで我が家の楽しみ方を満喫
―― popIn Aladdinのデビュー当初に御社が発信されていたコンセプトでは、ファミリー層が寝室で利用されるシーンをメインに訴求されていましたが、実際にはどのようなシーンで活躍しているのでしょうか。ユーザー層でははやり、アーリーアダプター等の構成比が高いのでしょうか。
程 ファミリー層は確かに多いですが、それでも半分で、そのうちお子さんがいるご家庭が半分(全体の25%)、いらっしゃらないご家庭が半分(全体の25%)になります。年齢層では30代が約半分ともっとも高く、20代から40代で94%を占めています。特徴としては、他に持っている家電製品のブランドとしてダイソン、ルンバ、バルミューダなどを挙げており、生活のクオリティを高めることに意欲の高い層にメッセージが届いたように思います。新しいものを我先に購入するアーリーアダプターとは異なりますね。実際に、IoT製品を初めて買った方や主婦の方、小さいお子様をお持ちの方も多く、アーリーアダプターを飛び越えて、僕と同じような悩みをお持ちのマスの方に一気に気持ちが届いたようです。
―― 生活クオリティを高めたいという方たちの琴線に触れたわけですね。
程 年明けには大規模に、首都圏で100人のユーザー訪問を実施しました。そこで各社員が目にしたのも、本当に普通のご家庭の中にpopIn Aladdinが溶け込んでいる光景で、「Google Home」「Alexa」「amazon echo」などスマートスピーカーがあったご家庭もごく一部で、「最先端のモノを使いたい!」という方とは違うようです。したがって、アーリーアダプターの構成比も想像していたほど高くはありませんでした。
利用場所では46%がリビングでとても意外でした。というのも、シーリングライトの明るさがリビング向けには設計されていないからです。Instagramには現在、popIn Aladdinの投稿が6,000枚以上ありますが、リビングにインテリアとして使われていたり、リビングで夜に映画を見るためだけに使われていたりするシーンが多く見受けられます。リビングにはテレビがありますが、「最近、popIn Aladdin を購入したのでテレビを他の部屋に移動しました」という声も聞かれるなど驚くことばかりです。
―― 当初の想定を超えたいろいろな層が、それぞれに楽しみ方を見つけていらっしゃるのですね。
程 われわれもそれに応えて進化、変化していく必要があります。幸いソフトウェアでシステムアップできますので、素早く検知して対応しています。例えば、エンターテインメントでメジャーな動画サービスを追加したり、アート的なコンテンツを追加したり、一番最近では、ヨガや健康ヘルスを要望の高まりに応えて提供しています。いろいろな表現ができますから、我が家では子どもの誕生日に「Happy Birthday」のメッセージをつくって投影するなど、本当にpopIn Aladdinが生活に溶け込んでいて、記念日には大活躍しています。
―― 今からpopIn Aladdin 3、4と進化が楽しみですね。
程 まぁ、10くらいまではいきたいですね(笑)
―― 初代機の主要量販店の店頭展開では、寝室をイメージした什器を用意してコト訴求に力を入れられましたが、popIn Aladdin 2ではどのような販促展開をお考えですか。
程 ベッド型の什器は予算もかけたかなり尖がった仕掛けで、テレビ売り場での展開にこだわりました。しかし、隣には4K、8Kの鮮明なテレビが並んでいて、明るい売り場ではどうしても負けてしまいます。説明型の商品ですから、家庭でどのように使うのかを訴えたいのですが、中心となる夜の利用シーンが明るい売り場ではきちんと表現できず、店頭でその世界観を訴えることが本当にむずかしいと実感しています。
そこでpopIn Aladdin 2では、コロナ禍で外出への自粛などが続いていること、また、立ち上がりにWEB販売で数多くの予約をいただいたことも自信につながり、今回はARのツール等も用意して、オンラインでのチャレンジを中心に展開していく予定です。
■魔法の世界を引き寄せる“新しいテレビ体験”
―― 7月30日には“新しいテレビ体験”を謳い、popIn Aladdinを活用してさらなる「未来の壁」を実現する新サービス・新製品が発表されました。
程 家電の王様とも呼ばれるテレビの存在感を象徴するのは、皆さんうちに帰ったら、見る・見ないにかかわらず、テレビを必ずつける習慣があること。これは本当に凄いと思います。popIn Aladdinもまずは一般的な家電として、使う頻度をもっと高めていきたい。そこで新たに「テレビモード」を搭載しました。
今現在もネット対応のレコーダーやテレビチューナーをつなげばテレビ番組は視聴でき、アンケートでは実に約4割のユーザーがpopIn Aladdin経由でテレビをご覧になられています。そのうちのさらに25%、すなわち全体の10%の方は毎日見られています。そこで、popIn Aladdinを付けたらテレビがつき、ホームボタンを押せばホーム画面に移動する、popIn Aladdinをテレビ代わりにより便利に使える、それが「テレビモード」です。
ネット対応のレコーダーをお持ちでない方のために、ピクセラさんと提携し、ワイヤレスチューナーを併せて提供します。ソフトウェアが最適化され、番組表やその操作性などテレビと遜色ない体験ができます。2TBのポータブルHDDを付けても2万円以下のお手頃価格も魅力です。
もうひとつは、テレビのリモコンを無くせないか、そんなメッセージを込めたスマート音声リモコンです。名称はリモコン・レスの意味から“リモレス”と名付けました。スマートスピーカーとスマートリモコンはすでに世の中に存在しますが、それを1つにしたもの。popIn Aladdinの電源を入れ、アプリからネットにつなげば、1分足らずで容易に設定が完了します。当初はプロジェクターとシーリングライトのオン・オフのみですが、テレビのチャンネル選択などもできるように準備が着々と進んでいます。「リモレス冬」と言うと、popIn Aladdinから冬の映像が順次投影されるなど楽しみ方が一層広がります。こちらもかなり手頃な価格で、popIn Aladdinユーザーに対してはさらに安い5,000円を切る価格で提供します。
―― 製品が進化し、便利になるといわれる一方で、リテラシーの高い人のみが恩恵に預かり、多くの人が置き去りにされています。
程 なんでそんなに複雑に作らなければならないのかが疑問ですね。世の中の家電がスマートフォンに対応したIoT家電に切り替わるには相当な時間が必要です。買い揃えたとしても接続や設定が大変で、一般的な方にそれを求めるのがそもそもおかしい。声でコントロールできるのが一番簡単です。それをpopIn Aladdinに続く“次の魔法の体験”としてリモレスで世の中の多くの人、多くのご家庭に提供して参ります。
目新しさより手軽さが重要です。従来のプロジェクターはとても手軽とは言えませんでした。それを覆したからこそ、popIn Aladdinは広く、多くの支持を集めることができました。リモネスの音声認識もゼロからのスタートですから、全社員が毎日録音して、一人当たり2,000回以上の音声認識テストを重ねるなど、苦労の連続です。むずかしいことがたくさんある。しかし、ゴールはわかっています。そこにたどり着くまでに、こちらが苦労せずに手を抜いてしまえば、ユーザーさんにしわ寄せがいく。こちらがとことん苦労をすれば、ユーザーさんは苦労せずに済む。われわれはベストを尽くし、ベストを提供します。
―― popIn Aladdin、リモレスと続く“魔法の体験”ですが、今後の市場創造への意気込みをお聞かせください。
程 我が家には今、リビングルーム、僕の部屋、子ども部屋で計4台ものpopIn Aladdinがあります。それぞれに用途が違うところが大変面白く、コンテンツの表現方法の豊かさを物語っています。妻はテレビ、子どもはYoutube、私はNetflixなど同じ時間にバラバラの楽しみ方をしていても、スクリーンの数に困ることはありません。こうした世界が特別ではなくなるのももうすぐのことではないでしょうか。
テレビはテレビでその進化は大変に素晴らしいですが、popIn Aladdinも新搭載「テレビモード」を第一歩に、テレビとして使っていただける可能性も広がっていきます。popIn Aladdinを身構えることなく、ごく普通の一般家電として認識いただき、「テレビを買うならアラジン」と皆さんに当たり前に思っていただけるような世界を目指し、もっともっと普及させていきます。最新データの累計出荷台数が5万5,000台超ですが、まずは100万台を目指して短期間で実現して参ります。リモネスについてはもっと手軽な価格ですから、皆さんに家電を音声でコントロールする世界を、スピード感を持って多くの方に提供していきたいですね。
ガジェットやアイデア商品のような特別なものではなく、popIn Aladdinやリモレスを、本当にユーザーの生活に寄り添い、役立つ家電として身近に置いていただける、冷蔵庫や電子レンジのような存在に早くしていきたいですね。
話題を集める「popIn Aladdin」をブラッシュアップした注目の後継機、「popIn Aladdin 2」がVGP 2020 SUMMER「コンセプト大賞」を受賞した。プロジェクター、シーリングライト、スピーカーを3in1にしたまさに斬新な発想は、従来のプロジェクターにはない世界観を広げ、多くのユーザーに新しいプロジェクター体験を提供する。従来の枠組みにとらわれることなく、より多くの人の生活シーンに新たな感動や利便性を届けるpopIn。家電ビジネスに対する意気込みを、同社代表取締役社長・程涛氏に聞く。
VGP2020 SUMMER受賞一覧はこちら
popIn(株)代表取締役社長
程 涛氏
インタビュアー 竹内 純(ファイルウェブビジネス編集部)
■コンテンツ表現を一変するプロジェクターの魅力を身近に
―― 2018年4月に蔦屋家電で開催された「popIn Aladdin」の発表会で、程社長は3児のお父様として、「子どもの世界観を広げたい。親が強制するのではなく、子どもが自ら興味を持って自然と知識を習得する、そうした流れを創造できないか」とpopIn Aladdinの開発に託された想いを語られました。年間数万台の日本のホームプロジェクター市場で、popIn Aladdinは発売2年弱で約5万台を販売する大きな反響を得ましたが、託した想いはどれくらい伝わったのか。手応えはいかがですか。
程 手応えとしてはまだ1%も満足していません。このような世界観を訴えた商品が、popIn Aladdinをきっかけに、これから次々に他からも登場してくることを願うばかりです。私個人、「プロジェクター」が物凄く好きで、近年で一番ハマった商品と言って過言ではありません。もともと、テレビという真っ黒で大きな物体がリビングにあることを不自然に感じていました。どう見ても違和感があります。ところがプロジェクターはそうではない。生活の中に溶け込み、壁から何かが浮かび上がってくる様はこの上なく素晴らしいです。
テレビの枠を飛び越えた新しい世界を開き、可能性も無限大と言えます。劇的に変わるのはやはり、コンテンツの表現の仕方です。壁から風景写真や家族写真がわーっと現れてインテリアになる。ヒーリング効果も期待できます。ライフスタイルの各シーンに合わせ、これまでになかった演出が可能になります。私は当初、より子ども向けの世界を思い描いていましたが、コンテンツ次第であらゆる可能性があることを、popIn Aladdinを手にされた皆さんから改めて思い知らされました。
10年前にスマートフォンが普及し始めた当時の衝撃を今、感じています。テレビには表現できなかったものがプロジェクターならできる。いろいろな可能性を強く感じているからこそ、われわれがpopIn Aladdinで今現在証明できたのは1%にも満たないと確信しているのです。
―― 緒に就いたばかりだと。
程 わたしはハードウェアではなく、ソフトウェアの人間ですから、物事を見るときにはいつも、情報をどう表現できるかを考えます。つまり、新しい表現ができる窓口がpopIn Aladdinによって一気に広げられたと感じています。
プロジェクターを自ら作る気持ちは皆無でした。しかし、話題を集めていた短焦点の製品をはじめあらゆるものを購入して、実際に家に置いて使ってみたのですが、生活の中に飛び込んでくる、自分が望んでいた体験、期待していた感動は得られませんでした。「これも違う」「あれも違う」。最初は何が違うのかがはっきりとはわかりませんでしたが、その根本は、家族が毎日使う気持ちになれないことにあると気づきました。生活を“邪魔”しているのです。その邪魔が解消できさえすれば、生活に溶け込むようになるのではないかと思いました。“プロジェクターとはこうあるべき”との先入観がなかったため、どこに置けば妻に怒られないか、そんな課題にも直面しながら、最終的に「天井ならば邪魔にならない」と気づくことができました。
ハードウェアはふつう自己の存在を主張しますが、私は逆転の発想で、気づかれないことこそが重要。デザインも部屋に入ったときに違和感を覚えないように、popIn Aladdinは、シーリングライトそのものに見えるデザインにこだわっています。様々なアイデアを各メーカーがお持ちで、popIn Aladdinの3in1というアイデアそのものは世界初だとは思っていません。しかし、世界で初めて製品化を実現しました。アイデアのままでは意味がない。それを形にすることが大変なのです。
これまでのプロジェクターにはない使い勝手やコンテンツ体験の可能性を提案しましたが、今、説明したように、希望するハードウェアがみつからなかったために、自ら苦労してハードを一から作りあげました。しかし、本業はソフトウェアの会社ですから、同じ世界観を訴える競合モデルの登場は大歓迎で、ソフトウェアの提供もウエルカムです。
―― 商品化にあたり一番ご苦労されたところはどこだったのですか。
程 重さですね。あくまで器はシーリングライト。そこへ、プロジェクターやスピーカーを収めて5sの基準値をクリアしなければなりません。5sを超えると、引っ掛けシーリングの横に耳のあるタイプを利用して強度を高めなければならず、ほとんどの家庭では数万円かかる工事が必要になってしまいます。
―― 自宅の天井の引っ掛けシーリングに付ければすぐに使えるのがpopIn Aladdinの大きなセールスポイントのひとつですからね。
程 安全性は絶対に譲れない条件ですからね。popIn Aladdinの天井に接する黒い金属の天板を見ていただくと、多数の穴が開けられています。一定の強度は保ちながらどうやって重量を減らすか、試行錯誤した成果のひとつで、ネジ1本に至るまでアイデアが凝縮されています。
■研ぎ澄まされた3in1新モデル「popIn Aladdin 2」
―― 待望の新製品「popIn Aladdin 2」が4月27日に発表されました。先行予約開始後1日で約3,000台が完売、7,000台の緊急追加分も1カ月で完売と大人気です。新モデルのブラッシュアップのポイントをお聞かせください。
程 初代モデルは本当に“想い”で作り上げてしまったとも言え、ユニットやレンズは市販のもの。投写距離は4畳で40インチ、5畳で50インチ、6畳で60インチを想定し、ご家庭で十分な大きさの画面が楽しめるものと思っていました。ところが、初代モデルを4万台販売して初めてわかったことは、“複雑すぎる日本の住宅の間取り”という大きな壁でした。
popIn Aladdinは投影距離が固定されます。そのため、梁、窓、ドアなど、それぞれの部屋で異なる複雑な環境への対応は困難を極め、台形補正で小さくなった画面は、プロジェクターの一番の醍醐味である大画面とは程遠いものになります。ユーザーの皆様から寄せられた声でも一番多かったのが「もう少し大きな画面にしたかった」というものです。
そこで、popIn Aladdin 2では、日本の住宅事情の“すべての間取りにフィットする大画面”をコンセプトに掲げ、壁にフィットするマックスの大画面を投影できるレンズ開発を最大のテーマにしました。
フィットには2つの意味合いがあります。1つ目は大画面が投影できること、しかも、調整が幅広いことです。左右の調整は手でできますが、問題は上下です。そこへ、レンズ設計と金型で1億円以上の投資を行い、数十万円クラスのプロジェクターにしか搭載されていない、レンズ内で上下の調整をする仕組みを備えた専用の短焦点レンズを開発しました。これにより、設置距離が壁から短くても鮮明な大迫力の大画面が実現できるようになり、4畳の部屋での60インチの大画面が実現できます。
2つ目は、プロジェクター、シーリングライト、スピーカーの3in1ですが、圧倒的に使用頻度が高いのはシーリングライトです。しかし、初代モデルでは実はあまり深く考えていなかったため、「一番暗くした時でも明る過ぎる」、反対に、「一番明るくした時でも暗過ぎる」など、数多くのご指摘をいただきました。そこで、明暗それぞれに明るさの幅を広げ、調光・調色も1万通りを実現しています。
さらに、「デザインをもっと薄くしてほしい」という大変厳しい注文にもお応えしました。シーリングライトのLEDにはすべてレンズがついているのですが、そのレンズをゼロベースで設計し直し、169oあった高さを145oにまで薄型化しました。これも本当に苦労したポイントのひとつになります。
そして3つ目がハーマンカードンのスピーカーです。先方でもこのようなスタイルでの商品開発は初めての経験だったそうで、初代では5W+5Wの1台のスピーカーでしたが、それが新モデルでは8W+8Wのステレオスピーカーとなりました。しかも、いろいろなシミュレーションによる提案が盛り込まれたものとなっており、快適な音楽体験をご提供します。
3in1のハードウェアがそれぞれ1から作り直されたとも言え、すべてが生まれ変わったような素晴らしい体験をお客様にお届けできると自負しています。
■続々と進化するソフトウェアで我が家の楽しみ方を満喫
―― popIn Aladdinのデビュー当初に御社が発信されていたコンセプトでは、ファミリー層が寝室で利用されるシーンをメインに訴求されていましたが、実際にはどのようなシーンで活躍しているのでしょうか。ユーザー層でははやり、アーリーアダプター等の構成比が高いのでしょうか。
程 ファミリー層は確かに多いですが、それでも半分で、そのうちお子さんがいるご家庭が半分(全体の25%)、いらっしゃらないご家庭が半分(全体の25%)になります。年齢層では30代が約半分ともっとも高く、20代から40代で94%を占めています。特徴としては、他に持っている家電製品のブランドとしてダイソン、ルンバ、バルミューダなどを挙げており、生活のクオリティを高めることに意欲の高い層にメッセージが届いたように思います。新しいものを我先に購入するアーリーアダプターとは異なりますね。実際に、IoT製品を初めて買った方や主婦の方、小さいお子様をお持ちの方も多く、アーリーアダプターを飛び越えて、僕と同じような悩みをお持ちのマスの方に一気に気持ちが届いたようです。
―― 生活クオリティを高めたいという方たちの琴線に触れたわけですね。
程 年明けには大規模に、首都圏で100人のユーザー訪問を実施しました。そこで各社員が目にしたのも、本当に普通のご家庭の中にpopIn Aladdinが溶け込んでいる光景で、「Google Home」「Alexa」「amazon echo」などスマートスピーカーがあったご家庭もごく一部で、「最先端のモノを使いたい!」という方とは違うようです。したがって、アーリーアダプターの構成比も想像していたほど高くはありませんでした。
利用場所では46%がリビングでとても意外でした。というのも、シーリングライトの明るさがリビング向けには設計されていないからです。Instagramには現在、popIn Aladdinの投稿が6,000枚以上ありますが、リビングにインテリアとして使われていたり、リビングで夜に映画を見るためだけに使われていたりするシーンが多く見受けられます。リビングにはテレビがありますが、「最近、popIn Aladdin を購入したのでテレビを他の部屋に移動しました」という声も聞かれるなど驚くことばかりです。
―― 当初の想定を超えたいろいろな層が、それぞれに楽しみ方を見つけていらっしゃるのですね。
程 われわれもそれに応えて進化、変化していく必要があります。幸いソフトウェアでシステムアップできますので、素早く検知して対応しています。例えば、エンターテインメントでメジャーな動画サービスを追加したり、アート的なコンテンツを追加したり、一番最近では、ヨガや健康ヘルスを要望の高まりに応えて提供しています。いろいろな表現ができますから、我が家では子どもの誕生日に「Happy Birthday」のメッセージをつくって投影するなど、本当にpopIn Aladdinが生活に溶け込んでいて、記念日には大活躍しています。
―― 今からpopIn Aladdin 3、4と進化が楽しみですね。
程 まぁ、10くらいまではいきたいですね(笑)
―― 初代機の主要量販店の店頭展開では、寝室をイメージした什器を用意してコト訴求に力を入れられましたが、popIn Aladdin 2ではどのような販促展開をお考えですか。
程 ベッド型の什器は予算もかけたかなり尖がった仕掛けで、テレビ売り場での展開にこだわりました。しかし、隣には4K、8Kの鮮明なテレビが並んでいて、明るい売り場ではどうしても負けてしまいます。説明型の商品ですから、家庭でどのように使うのかを訴えたいのですが、中心となる夜の利用シーンが明るい売り場ではきちんと表現できず、店頭でその世界観を訴えることが本当にむずかしいと実感しています。
そこでpopIn Aladdin 2では、コロナ禍で外出への自粛などが続いていること、また、立ち上がりにWEB販売で数多くの予約をいただいたことも自信につながり、今回はARのツール等も用意して、オンラインでのチャレンジを中心に展開していく予定です。
■魔法の世界を引き寄せる“新しいテレビ体験”
―― 7月30日には“新しいテレビ体験”を謳い、popIn Aladdinを活用してさらなる「未来の壁」を実現する新サービス・新製品が発表されました。
程 家電の王様とも呼ばれるテレビの存在感を象徴するのは、皆さんうちに帰ったら、見る・見ないにかかわらず、テレビを必ずつける習慣があること。これは本当に凄いと思います。popIn Aladdinもまずは一般的な家電として、使う頻度をもっと高めていきたい。そこで新たに「テレビモード」を搭載しました。
今現在もネット対応のレコーダーやテレビチューナーをつなげばテレビ番組は視聴でき、アンケートでは実に約4割のユーザーがpopIn Aladdin経由でテレビをご覧になられています。そのうちのさらに25%、すなわち全体の10%の方は毎日見られています。そこで、popIn Aladdinを付けたらテレビがつき、ホームボタンを押せばホーム画面に移動する、popIn Aladdinをテレビ代わりにより便利に使える、それが「テレビモード」です。
ネット対応のレコーダーをお持ちでない方のために、ピクセラさんと提携し、ワイヤレスチューナーを併せて提供します。ソフトウェアが最適化され、番組表やその操作性などテレビと遜色ない体験ができます。2TBのポータブルHDDを付けても2万円以下のお手頃価格も魅力です。
もうひとつは、テレビのリモコンを無くせないか、そんなメッセージを込めたスマート音声リモコンです。名称はリモコン・レスの意味から“リモレス”と名付けました。スマートスピーカーとスマートリモコンはすでに世の中に存在しますが、それを1つにしたもの。popIn Aladdinの電源を入れ、アプリからネットにつなげば、1分足らずで容易に設定が完了します。当初はプロジェクターとシーリングライトのオン・オフのみですが、テレビのチャンネル選択などもできるように準備が着々と進んでいます。「リモレス冬」と言うと、popIn Aladdinから冬の映像が順次投影されるなど楽しみ方が一層広がります。こちらもかなり手頃な価格で、popIn Aladdinユーザーに対してはさらに安い5,000円を切る価格で提供します。
―― 製品が進化し、便利になるといわれる一方で、リテラシーの高い人のみが恩恵に預かり、多くの人が置き去りにされています。
程 なんでそんなに複雑に作らなければならないのかが疑問ですね。世の中の家電がスマートフォンに対応したIoT家電に切り替わるには相当な時間が必要です。買い揃えたとしても接続や設定が大変で、一般的な方にそれを求めるのがそもそもおかしい。声でコントロールできるのが一番簡単です。それをpopIn Aladdinに続く“次の魔法の体験”としてリモレスで世の中の多くの人、多くのご家庭に提供して参ります。
目新しさより手軽さが重要です。従来のプロジェクターはとても手軽とは言えませんでした。それを覆したからこそ、popIn Aladdinは広く、多くの支持を集めることができました。リモネスの音声認識もゼロからのスタートですから、全社員が毎日録音して、一人当たり2,000回以上の音声認識テストを重ねるなど、苦労の連続です。むずかしいことがたくさんある。しかし、ゴールはわかっています。そこにたどり着くまでに、こちらが苦労せずに手を抜いてしまえば、ユーザーさんにしわ寄せがいく。こちらがとことん苦労をすれば、ユーザーさんは苦労せずに済む。われわれはベストを尽くし、ベストを提供します。
―― popIn Aladdin、リモレスと続く“魔法の体験”ですが、今後の市場創造への意気込みをお聞かせください。
程 我が家には今、リビングルーム、僕の部屋、子ども部屋で計4台ものpopIn Aladdinがあります。それぞれに用途が違うところが大変面白く、コンテンツの表現方法の豊かさを物語っています。妻はテレビ、子どもはYoutube、私はNetflixなど同じ時間にバラバラの楽しみ方をしていても、スクリーンの数に困ることはありません。こうした世界が特別ではなくなるのももうすぐのことではないでしょうか。
テレビはテレビでその進化は大変に素晴らしいですが、popIn Aladdinも新搭載「テレビモード」を第一歩に、テレビとして使っていただける可能性も広がっていきます。popIn Aladdinを身構えることなく、ごく普通の一般家電として認識いただき、「テレビを買うならアラジン」と皆さんに当たり前に思っていただけるような世界を目指し、もっともっと普及させていきます。最新データの累計出荷台数が5万5,000台超ですが、まずは100万台を目指して短期間で実現して参ります。リモネスについてはもっと手軽な価格ですから、皆さんに家電を音声でコントロールする世界を、スピード感を持って多くの方に提供していきたいですね。
ガジェットやアイデア商品のような特別なものではなく、popIn Aladdinやリモレスを、本当にユーザーの生活に寄り添い、役立つ家電として身近に置いていただける、冷蔵庫や電子レンジのような存在に早くしていきたいですね。