フレッシュ!深セン通信 vol.2
日本でクラウドファンディングを実施する意味と価値とは?海外メーカーに真意を聞いた
第1回(パイロット版?)から時間が空いてしまったが、営々と深セン方面の取材を続けていた筆者。タイトルどおりの新鮮な題材探しを心がけていたところ、クラウドファンディング案件に遭遇。クラウドファンディングがなんたるものか知ってはいるが、実際のところ動機や “真の目的” はどうなのかが気になるところ。
6月25日現在、Makuakeでプロジェクト進行中の「Oladance Wearable Stereo」を手掛ける企業の代表と知遇を得たため、あれこれ訊いてみることにした。
クラウドファンディングの実際について話を訊く前に、肝心の商材「Oladance Wearable Stereo」(以下、Oladance)を紹介しておこう。かんたんにいうと、耳に掛けるオープンイヤー(耳穴を塞がない)タイプの完全ワイヤレスイヤホンだが、実際に手にするとなかなか “イイ線” を突いていることがわかる。装着性と音響設計がツボを心得ていて、彼らが主張する「イヤホンというよりスピーカー」というコピーが腑に落ちる特徴を備えているのだ。
Oladanceを装着してみると、とにかく軽い。もちろん、外耳部分になにか触れているという感触はあるものの、異物感というほどではない。羽のように…という表現は言い過ぎだとしても、2時間ほど着けっぱなしにしていても疲れや痛みはほとんどない。かといって首を振ったときにズレることはなく、装着時点の位置をそのままキープしている。周囲の音が耳に入ってくるから、宅配便到着の呼び鈴に気付けるのもうれしい。
そして音を聴くとビックリ。音像定位が明瞭で、自然な奥行き/サウンドステージが感じられるのだ。プレスリリースを鵜呑みにすると、「耳を塞がずに鼓膜へ音を届ける構造」が最大の特徴というが、それが奏功しているのか、音が痩せたり特定帯域が妙に強調されたりがない。φ16.5mmというイヤホンにしては大口径の振動板を採用した効果だろう、低域の量感もあるのだが、それ以上に低域から中高域まで全体のバランスがとれている。
正直な話、クラウドファンディングには玉石混交なイメージを持っていたが、このOladanceはその先入観を軽く超えてきた。Makuakeのプロジェクトページに掲載する評論家コメントに協力してほしい、という依頼から始まった出会いだが、ここまでの完成度ならいきなり国内販売を開始しても不思議ではないレベル。せっかくの機会に彼らの意図はどこにあるのか訊いてみたい、それがここに取り上げた理由だ。
取材はDancing Technology創設者のLI HAOQIAN(李 浩乾)氏に対して行った。手段はWeChatとメール、中国語と英語のチャンポンだ。
-- 創業のきっかけを教えてください。
李氏 私はあるオーディオメーカーで10年間、製品開発の責任者として勤務してきました。弊社メンバーのほとんどが、オーディオ業界で平均10年以上の研究開発業務経験を持っています。私たちはヘッドホン分野における技術革新の必要性、たとえば装着感や健康面で課題があることを認識していますから、オープンイヤーヘッドホンに可能性を見い出し、快適性と品質を兼ね備えた製品を開発したいと考え、このDancing Technologyを設立し、Oladanceブランドを立ち上げたというわけです。
-- なぜクラウドファンディングをやろうと考えたのですか?
李氏 私たちは昨年、米Kickstarterで「Oladance Wearable Stereo」の最初のプロジェクトを開始しました。Kickstarterは世界最大規模のクラウドファンディング・プラットフォームであり、革新的なブランドにとって市場への第一歩と捉えています。技術革新やイノベーションを支持する多くのユーザが存在しますからね。彼らと直接コミュニケーションをとりフィードバックを得ることで、弊社製品の継続的な改善や革新につながるのではと期待したのです。
-- そのフィードバックをどのように捉え、どのように生かしているのですか?
李氏 Kickstarterでは音質や使い心地など多くのフィードバックが寄せられ、2台目の購入を希望されるお客様までいらっしゃいました。Oladanceのアプリ経由でも届く「もっとこうしてほしい」というフィードバックに対しては、その都度対処し、サポーター(予約購入者)の皆さまにお知らせするよう心がけています。問題の気づきから成長し、よりよくできることはないかと考えることが重要なのですね。そうして改善された技術のうちいくつかについては特許を取得しており、第2世代以降の製品に生かす予定です。
-- クラウドファンディングで資金面以外にメリットと感じていることは?
李氏 いやいや、お金を集めることが最大の目的ではないのですよ。経験が浅い市場の場合、クラウドファンディングのプロジェクトは、中国/香港の消費者との認識の違いを教えてくれるリトマス試験紙のように作用しますからね。製品を現地のニーズによりよく合うよう最適化するきっかけとなるのです。サポーターとのコミュニケーションの過程で、製品の最適化やサービス/システムの欠点を発見し、製品開発の新しい方向性を見出すこともできます。むしろ、そこから得られる経験や知識が資金調達より重要なことだと考えています。
-- ところで、エレクトロニクス製品で初期不良の発生は避けられないものですが、どのように対策しましたか?
李氏 クラウドファンディングプロジェクトの開始前に、入念に社内テストを行い、さらに欧米のYouTuberや募ったベータテスターに協力してもらいました。彼らからフィードバックを得て、プロジェクト終了までの時間差で改良/最適化を進めたのです。だからKickstarterのサポーターには、初期不良をなくした最適化版を送ることができました。
改良の事例としては、アンプ機能のオン/オフを挙げることができます。Oladanceのアンプ機能はデフォルトでオンにされていますが、音に敏感なサポーターの方から、音楽を再生していないときのホワイトノイズが気になると指摘があったのです。そこで、専用アプリに一定の秒数が経過するとアンプ機能がオフになるオプション(オートミュート機能)を追加して、問題を解決しました。
-- アメリカに続いて日本でもやろうと考えたわけは?
李氏 得られたフィードバックをもとに、より日本のユーザーのニーズに合った最適な製品に仕上げていきたいからです。欧米のサポーターからいただいたポジティブなフィードバックは、日本のユーザーに高品質な製品とよりよい体験を届けるための希望と自信になっています。日本の方が製品に求めるレベルは高いですからね。
-- 最後に、今後の計画は? どのような製品を開発していきたいですか?
李氏 今後もさまざまな形のオープン型ヘッドホンを模索し、快適性と高音質の両立を図り、究極のウェアラブルオーディオデバイスを完成させることを目指しています。新製品は鋭意開発中ですので、後日、皆様にご紹介できることを楽しみにしています。
◇
今回の取材で改めて気付いたことは2つ。クラウドファンディングに参加するメーカーは進出予定市場のユーザーの声を直接聞きたがっていること、そして市場開拓の第一歩とクラウドファンディングを位置付けていることだ。
急速な円安など日本の地盤沈下を嘆く声しきりの昨今だが、趣味のエレクトロニクス製品に対する情熱が失われるわけでなし、我々が満足する・できる製品を応援する気概は持ち続けたいもの...クラウドファンディングは有望な(深センの)メーカーを発掘/育成する手段と考えれば、日本の一好事家として、また違った世界が見えてくる気がするのだ。
6月25日現在、Makuakeでプロジェクト進行中の「Oladance Wearable Stereo」を手掛ける企業の代表と知遇を得たため、あれこれ訊いてみることにした。
まずは商材をチェック
クラウドファンディングの実際について話を訊く前に、肝心の商材「Oladance Wearable Stereo」(以下、Oladance)を紹介しておこう。かんたんにいうと、耳に掛けるオープンイヤー(耳穴を塞がない)タイプの完全ワイヤレスイヤホンだが、実際に手にするとなかなか “イイ線” を突いていることがわかる。装着性と音響設計がツボを心得ていて、彼らが主張する「イヤホンというよりスピーカー」というコピーが腑に落ちる特徴を備えているのだ。
Oladanceを装着してみると、とにかく軽い。もちろん、外耳部分になにか触れているという感触はあるものの、異物感というほどではない。羽のように…という表現は言い過ぎだとしても、2時間ほど着けっぱなしにしていても疲れや痛みはほとんどない。かといって首を振ったときにズレることはなく、装着時点の位置をそのままキープしている。周囲の音が耳に入ってくるから、宅配便到着の呼び鈴に気付けるのもうれしい。
そして音を聴くとビックリ。音像定位が明瞭で、自然な奥行き/サウンドステージが感じられるのだ。プレスリリースを鵜呑みにすると、「耳を塞がずに鼓膜へ音を届ける構造」が最大の特徴というが、それが奏功しているのか、音が痩せたり特定帯域が妙に強調されたりがない。φ16.5mmというイヤホンにしては大口径の振動板を採用した効果だろう、低域の量感もあるのだが、それ以上に低域から中高域まで全体のバランスがとれている。
正直な話、クラウドファンディングには玉石混交なイメージを持っていたが、このOladanceはその先入観を軽く超えてきた。Makuakeのプロジェクトページに掲載する評論家コメントに協力してほしい、という依頼から始まった出会いだが、ここまでの完成度ならいきなり国内販売を開始しても不思議ではないレベル。せっかくの機会に彼らの意図はどこにあるのか訊いてみたい、それがここに取り上げた理由だ。
フィードバックから得られる経験や知識が、資金調達より重要だ
取材はDancing Technology創設者のLI HAOQIAN(李 浩乾)氏に対して行った。手段はWeChatとメール、中国語と英語のチャンポンだ。
-- 創業のきっかけを教えてください。
李氏 私はあるオーディオメーカーで10年間、製品開発の責任者として勤務してきました。弊社メンバーのほとんどが、オーディオ業界で平均10年以上の研究開発業務経験を持っています。私たちはヘッドホン分野における技術革新の必要性、たとえば装着感や健康面で課題があることを認識していますから、オープンイヤーヘッドホンに可能性を見い出し、快適性と品質を兼ね備えた製品を開発したいと考え、このDancing Technologyを設立し、Oladanceブランドを立ち上げたというわけです。
-- なぜクラウドファンディングをやろうと考えたのですか?
李氏 私たちは昨年、米Kickstarterで「Oladance Wearable Stereo」の最初のプロジェクトを開始しました。Kickstarterは世界最大規模のクラウドファンディング・プラットフォームであり、革新的なブランドにとって市場への第一歩と捉えています。技術革新やイノベーションを支持する多くのユーザが存在しますからね。彼らと直接コミュニケーションをとりフィードバックを得ることで、弊社製品の継続的な改善や革新につながるのではと期待したのです。
-- そのフィードバックをどのように捉え、どのように生かしているのですか?
李氏 Kickstarterでは音質や使い心地など多くのフィードバックが寄せられ、2台目の購入を希望されるお客様までいらっしゃいました。Oladanceのアプリ経由でも届く「もっとこうしてほしい」というフィードバックに対しては、その都度対処し、サポーター(予約購入者)の皆さまにお知らせするよう心がけています。問題の気づきから成長し、よりよくできることはないかと考えることが重要なのですね。そうして改善された技術のうちいくつかについては特許を取得しており、第2世代以降の製品に生かす予定です。
-- クラウドファンディングで資金面以外にメリットと感じていることは?
李氏 いやいや、お金を集めることが最大の目的ではないのですよ。経験が浅い市場の場合、クラウドファンディングのプロジェクトは、中国/香港の消費者との認識の違いを教えてくれるリトマス試験紙のように作用しますからね。製品を現地のニーズによりよく合うよう最適化するきっかけとなるのです。サポーターとのコミュニケーションの過程で、製品の最適化やサービス/システムの欠点を発見し、製品開発の新しい方向性を見出すこともできます。むしろ、そこから得られる経験や知識が資金調達より重要なことだと考えています。
-- ところで、エレクトロニクス製品で初期不良の発生は避けられないものですが、どのように対策しましたか?
李氏 クラウドファンディングプロジェクトの開始前に、入念に社内テストを行い、さらに欧米のYouTuberや募ったベータテスターに協力してもらいました。彼らからフィードバックを得て、プロジェクト終了までの時間差で改良/最適化を進めたのです。だからKickstarterのサポーターには、初期不良をなくした最適化版を送ることができました。
改良の事例としては、アンプ機能のオン/オフを挙げることができます。Oladanceのアンプ機能はデフォルトでオンにされていますが、音に敏感なサポーターの方から、音楽を再生していないときのホワイトノイズが気になると指摘があったのです。そこで、専用アプリに一定の秒数が経過するとアンプ機能がオフになるオプション(オートミュート機能)を追加して、問題を解決しました。
-- アメリカに続いて日本でもやろうと考えたわけは?
李氏 得られたフィードバックをもとに、より日本のユーザーのニーズに合った最適な製品に仕上げていきたいからです。欧米のサポーターからいただいたポジティブなフィードバックは、日本のユーザーに高品質な製品とよりよい体験を届けるための希望と自信になっています。日本の方が製品に求めるレベルは高いですからね。
-- 最後に、今後の計画は? どのような製品を開発していきたいですか?
李氏 今後もさまざまな形のオープン型ヘッドホンを模索し、快適性と高音質の両立を図り、究極のウェアラブルオーディオデバイスを完成させることを目指しています。新製品は鋭意開発中ですので、後日、皆様にご紹介できることを楽しみにしています。
今回の取材で改めて気付いたことは2つ。クラウドファンディングに参加するメーカーは進出予定市場のユーザーの声を直接聞きたがっていること、そして市場開拓の第一歩とクラウドファンディングを位置付けていることだ。
急速な円安など日本の地盤沈下を嘆く声しきりの昨今だが、趣味のエレクトロニクス製品に対する情熱が失われるわけでなし、我々が満足する・できる製品を応援する気概は持ち続けたいもの...クラウドファンディングは有望な(深センの)メーカーを発掘/育成する手段と考えれば、日本の一好事家として、また違った世界が見えてくる気がするのだ。