DGPイメージングアワード2023受賞:ニコンIJ 辻卓英氏
【インタビュー】「Z 8」「Z f」が大ヒットするニコン。「カメラは動画や若いお客様も加わり挑戦しがいがあるマーケット」
DGPイメージングアワード2023
受賞インタビュー:ニコンイメージングジャパン
カメラ市場を席捲した人気モデルニコン「Z 8」がDGPイメージングアワード2023「総合金賞」の栄誉に輝いた。さらに、交換レンズ部門・総合金賞を「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」、審査委員特別賞を「Z f」「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」が獲得し、まさに消費マインドが回復する市場のリード役としても期待を集めるニコン。最前線で指揮を執るニコンイメージングジャパン・辻卓英氏に話を聞く。
株式会社ニコンイメージングジャパン
取締役兼執行役員
マーケティング本部長
辻 卓英氏
プロフィール/1971年8月12日生まれ。滋賀県大津市出身。1995年(株)ニコン入社、同年ニコンカメラ販売(株)(現ニコンイメージングジャパン)出向、2012年(株)ニコン 映像カンパニー事業企画部経営管理課長、2016年 Nikon Inc.(アメリカ) Vice President、2021年 現職。座右の銘「順道制勝」
―― 「Z 8」が総合金賞を受賞されました。おめでとうございます。5月26日の発売からまったく人気が衰えません。マーケットの反響や手応えをお聞かせください。
辻 昨年度の「Z 9」に続き、栄誉ある総合金賞に「Z 8」を選出いただき誠にありがとうございます。昨年の「Z 9」には発売以来、大変高い評価をいただく一方で、コンパクトボディを要望されるお客様が数多くいらっしゃいました。その声に応えることができる十分な性能をもつカメラをお届けしたいというのが「Z 8」開発のスタートラインになります。
5月10日の発表にあわせて、オンラインで「Z 8オンラインローンチイベント」を開催し、国内で約8,000人を超える方に視聴いただきました。さらに、5月20日には5年振りとなるファンミーティング「Z 8発売記念 Nikon Fan Meeting Online Live 2023」をオンラインで開催し、こちらも約1万人もの方に視聴いただくことができました。
人気フォトグラファー・映像クリエイターによる発売前の新製品「Z 8」で撮影した作品のインプレッションや撮影裏話、企画・開発・設計に携わった担当者による製品紹介などいずれも視聴者から好評の声をいただき、発売前の段階からZ 8に対する想像を大きく上回る関心の高さを実感しました。
販売はこれまでのところ好調です。Z 9の高性能を継承しながらもギュッと凝縮して小型・軽量化し、価格もある程度抑えることができました。静止画をメインとしたお客様では、特に「D850」ユーザーがZ 8の発売を機に買い替えたという声が目立っているように感じます。動画でもワンマンオペレーションの現場で映像制作をされる方から非常に高い支持をいただいております。商品の性能・価格・マーケティングがうまく噛み合って、想定以上の予約や購入をいただき、大きな手ごたえを感じています、
―― しかし、なかなか高いハードルだったと想像されます。
辻 これまででしたら小型化を実現すると、機能面からもいろいろな制約が出てくるところですが、今回のZ 8に関して言えば、開発陣が相当に力を尽くし、Z 9に遜色ない仕上がりとなりました。それは、我々販売会社からすれば企画当初では考えられなかったレベルでの仕上がりで驚きを隠せませんでした。
当初は「Z 9の下にあるグリップを切っただけじゃないか」といった声もありましたが、Z 9から約30%ダウンサイジングしたボディに、Z 9の機能や性能がほぼ収められています。バッテリーのサイズからも、Z 9と同等の性能を実現させることは物凄く大変でした。
発売後はお届けまでに時間を要して非常にご迷惑をお掛けしましたが、現時点では十分な供給ができる準備が整い、年末商戦に向けては、Z 8を購入して、応募された方全員に165GBのCFexpressメモリーカードをプレゼントするキャンペーン(「Z 8 CFexpressメモリーカードプレゼントキャンペーン」)も実施して参ります。
―― さらに、審査委員特別賞を受賞された「Z f」が10月27日に発売されましたが、なかなか手に入りにくい状況とお聞きしています。ここまで爆発的な人気を集めた背景をどのように分析されていますか。
辻 定量的なデータはまだ揃っていないのですが、ニコンプラザで発売に先駆けて開催したタッチ&トライには、20代・30代の若年層のお客様や初めてニコンプラザに足を運ばれたというお客様が数多くいらして、「これはいつものわれわれのお客様の層が少し違っているぞ」と変化を肌で感じていました。
2年前に「Z fc」を発売した当初から「APS-Cでは物足りない」「フルサイズはいつ出るのか」といった声が多く寄せられていました。Z fcは初めてカメラを購入する方をターゲットとしていましたが、Z fは自分の表現を追求したいクリエイターの方をターゲットとし、アイコニックなデザインを踏襲したフルサイズ機に、最新の機能・性能を盛り込んだ唯一無二のミラーレスカメラをコンセプトに掲げて開発しました。それが結果として、ニコン好きのこれまでのお客様から新しいお客様まで、幅広く世代を超えて受け入れられました。
1970年代の銘機「FM2」からインスパイアされたアイコニックなデザインは、若い人はもちろんFM2は知らないものの、「なにかカッコいいカメラだよね」と心に刺さるものがあったようで、手にする喜びを感じていただいています。Z 9、Z 8と同じ画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載し、同じ価格帯になる「Z 6II」と比べると、性能・画質・VR・動画とすべての面で大きく進化した点でも、ご満足いただける製品になったのではと感じています。
―― 若年層向けのアピールでは特に工夫された点はありますか。
辻 力を入れたのはやはりSNSです。発表時に開発者やクリエイターが出演したスペシャルコンテンツを公式WEBサイトに掲載したのですが、クリエイターへの共感や開発の想いが熱く伝わってくると評判を集め、同時に実施したSNSキャンペーンをSNS上で多くの方に拡散いただけるなど、これまでにリーチできなかったところにきちんとメッセージを届けられたことが、Z fがここまで人気を集めることができた大きな理由のひとつだと感じています。
―― 「オートキャプチャー」と「フォーカスポイントVR」が技術/企画賞を受賞しています。
辻 昨年も「Real-Live Viewfinder」と「被写体検出オート設定」で技術/企画賞をいただきました。企画・開発・設計に携わる開発メンバーにとっては大きな励みとなる賞で、本当にありがとうございます。
まず「オートキャプチャー」機能ですが、フォトグラファー自身が色々なアングルで撮影をされていましたが、その場にいられなかったり、撮影できる人数の制限があったり、様々な制約がジレンマになっていました。その不満を解消し、映像表現の可能性を拡げる手伝いができたら、という想いがこの機能の開発のスタートです。
ネイチャー、野鳥、スポーツなどのフォトグラファーから話をお聞きすると、さまざまのジャンルのユースケースに応じて、このオートキャプチャー機能が、自らの撮り方の意志を持った分身となって撮影ができ、従来撮れなかった映像が撮れるようになり大変画期的な機能であると高い評価をいただいています。
「フォーカスポイントVR」は、室内で瞳認識や顔認識で撮影をしていると、画面周辺では瞳は認識しているのだけれど、なぜか若干ブレてしまうとの指摘をいただいていました。原因を調査すると、いままでのVRというのは画面の中央のブレを補正するように動いているため、周画面辺ではどうしても、特に長秒時の撮影時は広角のブレやパースのブレが目立っており、被写体の位置によってブレ方が変化することがわかりました。
そこで、被写体が画面の周辺にある場合でも、ブレを最適に補正することを可能にしたいという想いから開発したのが「フォーカスポイントVR」です。問題を認識し、改善を望まれていたプロのフォトグラファーの声にお応えすることができました。
―― 交換レンズでは待望の軽くて持ち歩きやすい超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」が総合金賞、そして、「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」が審査委員特別賞を受賞されました。
辻 「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は、「本格的な超望遠撮影を楽しみたいのだけれど、高価でとても手が出ない。手に届く価格のレンズを」というかねてから高かった要望に応えたものです。高い光学性能とVR機構を搭載し、気軽に超望遠撮影が楽しめるズームレンズとしてラインナップする「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」のユーザーから寄せられている声も生かし、描写はもちろん、AFやVRの使い勝手も追求しました。
苦労したのはズーミングの際の重心の安定性や防塵性能の向上です。ズーミングしても最前面のレンズが移動せず、鏡筒の全長が変化しないインターナルズーム機構を軽量化と両立することは非常に難しく、設計難易度が高かったと開発陣からは聞いています。インターナルズームを採用しながら、トレードオフにある光学性能と重さのバランスをどう収めるのか。メカ設計の開発陣が議論を重ね、市場にある様々なレンズを試し、最適解となる構成を探り、お客様の求めるレベルにまで高められました。
2023年までに発売を予定しているZレンズのラインナップ表では「200-600mm」と公表し、お客様から発売が待望されていましたが、180−600mmとして実現でき、180mmまでのレンズをお持ちのお客様からは、「焦点距離がつながるので凄くうれしい」と喜びの声をいただいています。
細かな点では、ズーミングの回転角を70度として使い勝手をよくしたこと。そして、「手に届く価格を!」という声にお応えすべく、実勢価格で25万円前後という価格を実現しました。
―― 10月13日に発売された「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」も鋭い立ち上がりを見せています。
辻 開発現場では、せっかくZマウントにしたのだから、その可能性を最大限に引き出せる商品を世に送り出したいとの想いをずっと持ち続けていました。具体的には、両立しないとよく言われる、明るさとボケの形状です。
大口径の中望遠はどうしても画面周辺部の円がレモンのような形になってしまう(口径食)という現象を覆し、画像処理でぼかすのではなく、レンズ構成の最適化を図ることで、円形度の高いボケ形状を実現しました。
さらに、開発陣が目指したのは、被写体との距離感がわかるような奥行き感のあるボケで、画像周辺まで高解像を保ち、ピント位置から離れていく“ボケのグラデーション”を滑らかに美しく描写します。被写体を輝かせ、美しいボケと組み合わせることで、日常を非日常の特別な瞬間に変えたいという想いが込めています。
Zマウントレンズもようやく基本的なラインナップが揃いましたので今後は、「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」のような“尖った”レンズも積極的に投入していきたいと思います。
―― カメラ市場も消費マインドが回復してきました。今後のさらなる盛り上がりが期待されますね。
辻 コロナ禍を脱し、勢いが戻ってきました。スマートフォンの台頭により、10年前・15年前との比較では、コンパクトカメラや入門機の市場縮小は避けられない事実です。しかし、スマートフォンやSNSの普及は、映像を日常により溶け込ませてくれました。SNSに画像や動画をアップすることはもはや当たり前ですし、さらに、より高い映像クオリティを求める方も増えてきて、そこにレンズ交換式カメラを求める動きも徐々に拡大しています。
幅広い層の方に受け入れていただいた「Z f」や「Z fc」の反響から感じとれる“変化”もありますし、我々の業界はまだまだ成長できる余地が十分にあると考えています。特に中高級機のマーケットには活気があり、これまでの静止画像を趣味にした安定したお客様に、さらに動画撮影を目的としたお客様や若いお客様が新たに加わり、それぞれが我々の挑戦しがいのある市場となっています。
―― 年末商戦、さらには年明け2月22日から開催される「CP+2024」に向けた意気込みをお聞かせください。
辻 まずは年末商戦ですが、対象のカメラとレンズの購入で最大50,000円がキャッシュバックされる「Nikon Creators応援キャンペーン」を10月27日から開催しています。今年で90周年を迎えて充実一途のNIKKORレンズも多くのモデルが対象となっています。また、応募者全員に165GBのCFexpressメモリーカードをプレゼントする「Z 8 CFexpressメモリーカードプレゼントキャンペーン」も12月1日よりスタートします。新規購入や買い替えをご検討の方にはまたとない機会となりますので是非ご検討いただければ幸甚です。
「CP+2024」については出展社数も増えると聞いており、来場者も前年を上回り、盛況なイベントになるのではないかととても楽しみです。ニコンブースでは、既存のお客様に改めてニコンの良さを実感いただくことはもちろん、CP+2023でもいろいろ工夫を凝らしましたが、若い世代や女性、新規の来場者の方が入りやすい、気軽に立ち寄ってもらえるブース創りにもさらに力を入れていきます。
そして、数ある商品のなかでも中心となってくるのが、今回「総合金賞」「審査委員特別賞」を受賞した「Z 8」「Z f」「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」の4つの商品です。十分に機能的価値・情緒的な価値をご理解いただくための体験ブースも充実して参りますので、ひとりでも多くの人に是非ご体感いただきたいと考えております
受賞インタビュー:ニコンイメージングジャパン
カメラ市場を席捲した人気モデルニコン「Z 8」がDGPイメージングアワード2023「総合金賞」の栄誉に輝いた。さらに、交換レンズ部門・総合金賞を「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」、審査委員特別賞を「Z f」「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」が獲得し、まさに消費マインドが回復する市場のリード役としても期待を集めるニコン。最前線で指揮を執るニコンイメージングジャパン・辻卓英氏に話を聞く。
株式会社ニコンイメージングジャパン
取締役兼執行役員
マーケティング本部長
辻 卓英氏
プロフィール/1971年8月12日生まれ。滋賀県大津市出身。1995年(株)ニコン入社、同年ニコンカメラ販売(株)(現ニコンイメージングジャパン)出向、2012年(株)ニコン 映像カンパニー事業企画部経営管理課長、2016年 Nikon Inc.(アメリカ) Vice President、2021年 現職。座右の銘「順道制勝」
■Z 9に遜色ない仕上がりを実現させた「Z 8」
―― 「Z 8」が総合金賞を受賞されました。おめでとうございます。5月26日の発売からまったく人気が衰えません。マーケットの反響や手応えをお聞かせください。
辻 昨年度の「Z 9」に続き、栄誉ある総合金賞に「Z 8」を選出いただき誠にありがとうございます。昨年の「Z 9」には発売以来、大変高い評価をいただく一方で、コンパクトボディを要望されるお客様が数多くいらっしゃいました。その声に応えることができる十分な性能をもつカメラをお届けしたいというのが「Z 8」開発のスタートラインになります。
5月10日の発表にあわせて、オンラインで「Z 8オンラインローンチイベント」を開催し、国内で約8,000人を超える方に視聴いただきました。さらに、5月20日には5年振りとなるファンミーティング「Z 8発売記念 Nikon Fan Meeting Online Live 2023」をオンラインで開催し、こちらも約1万人もの方に視聴いただくことができました。
人気フォトグラファー・映像クリエイターによる発売前の新製品「Z 8」で撮影した作品のインプレッションや撮影裏話、企画・開発・設計に携わった担当者による製品紹介などいずれも視聴者から好評の声をいただき、発売前の段階からZ 8に対する想像を大きく上回る関心の高さを実感しました。
販売はこれまでのところ好調です。Z 9の高性能を継承しながらもギュッと凝縮して小型・軽量化し、価格もある程度抑えることができました。静止画をメインとしたお客様では、特に「D850」ユーザーがZ 8の発売を機に買い替えたという声が目立っているように感じます。動画でもワンマンオペレーションの現場で映像制作をされる方から非常に高い支持をいただいております。商品の性能・価格・マーケティングがうまく噛み合って、想定以上の予約や購入をいただき、大きな手ごたえを感じています、
―― しかし、なかなか高いハードルだったと想像されます。
辻 これまででしたら小型化を実現すると、機能面からもいろいろな制約が出てくるところですが、今回のZ 8に関して言えば、開発陣が相当に力を尽くし、Z 9に遜色ない仕上がりとなりました。それは、我々販売会社からすれば企画当初では考えられなかったレベルでの仕上がりで驚きを隠せませんでした。
当初は「Z 9の下にあるグリップを切っただけじゃないか」といった声もありましたが、Z 9から約30%ダウンサイジングしたボディに、Z 9の機能や性能がほぼ収められています。バッテリーのサイズからも、Z 9と同等の性能を実現させることは物凄く大変でした。
発売後はお届けまでに時間を要して非常にご迷惑をお掛けしましたが、現時点では十分な供給ができる準備が整い、年末商戦に向けては、Z 8を購入して、応募された方全員に165GBのCFexpressメモリーカードをプレゼントするキャンペーン(「Z 8 CFexpressメモリーカードプレゼントキャンペーン」)も実施して参ります。
■「Z f」が若いカメラファンの心も射抜く
―― さらに、審査委員特別賞を受賞された「Z f」が10月27日に発売されましたが、なかなか手に入りにくい状況とお聞きしています。ここまで爆発的な人気を集めた背景をどのように分析されていますか。
辻 定量的なデータはまだ揃っていないのですが、ニコンプラザで発売に先駆けて開催したタッチ&トライには、20代・30代の若年層のお客様や初めてニコンプラザに足を運ばれたというお客様が数多くいらして、「これはいつものわれわれのお客様の層が少し違っているぞ」と変化を肌で感じていました。
2年前に「Z fc」を発売した当初から「APS-Cでは物足りない」「フルサイズはいつ出るのか」といった声が多く寄せられていました。Z fcは初めてカメラを購入する方をターゲットとしていましたが、Z fは自分の表現を追求したいクリエイターの方をターゲットとし、アイコニックなデザインを踏襲したフルサイズ機に、最新の機能・性能を盛り込んだ唯一無二のミラーレスカメラをコンセプトに掲げて開発しました。それが結果として、ニコン好きのこれまでのお客様から新しいお客様まで、幅広く世代を超えて受け入れられました。
1970年代の銘機「FM2」からインスパイアされたアイコニックなデザインは、若い人はもちろんFM2は知らないものの、「なにかカッコいいカメラだよね」と心に刺さるものがあったようで、手にする喜びを感じていただいています。Z 9、Z 8と同じ画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載し、同じ価格帯になる「Z 6II」と比べると、性能・画質・VR・動画とすべての面で大きく進化した点でも、ご満足いただける製品になったのではと感じています。
―― 若年層向けのアピールでは特に工夫された点はありますか。
辻 力を入れたのはやはりSNSです。発表時に開発者やクリエイターが出演したスペシャルコンテンツを公式WEBサイトに掲載したのですが、クリエイターへの共感や開発の想いが熱く伝わってくると評判を集め、同時に実施したSNSキャンペーンをSNS上で多くの方に拡散いただけるなど、これまでにリーチできなかったところにきちんとメッセージを届けられたことが、Z fがここまで人気を集めることができた大きな理由のひとつだと感じています。
■可能性を拡げる自動撮影機能「オートキャプチャー」
―― 「オートキャプチャー」と「フォーカスポイントVR」が技術/企画賞を受賞しています。
辻 昨年も「Real-Live Viewfinder」と「被写体検出オート設定」で技術/企画賞をいただきました。企画・開発・設計に携わる開発メンバーにとっては大きな励みとなる賞で、本当にありがとうございます。
まず「オートキャプチャー」機能ですが、フォトグラファー自身が色々なアングルで撮影をされていましたが、その場にいられなかったり、撮影できる人数の制限があったり、様々な制約がジレンマになっていました。その不満を解消し、映像表現の可能性を拡げる手伝いができたら、という想いがこの機能の開発のスタートです。
ネイチャー、野鳥、スポーツなどのフォトグラファーから話をお聞きすると、さまざまのジャンルのユースケースに応じて、このオートキャプチャー機能が、自らの撮り方の意志を持った分身となって撮影ができ、従来撮れなかった映像が撮れるようになり大変画期的な機能であると高い評価をいただいています。
「フォーカスポイントVR」は、室内で瞳認識や顔認識で撮影をしていると、画面周辺では瞳は認識しているのだけれど、なぜか若干ブレてしまうとの指摘をいただいていました。原因を調査すると、いままでのVRというのは画面の中央のブレを補正するように動いているため、周画面辺ではどうしても、特に長秒時の撮影時は広角のブレやパースのブレが目立っており、被写体の位置によってブレ方が変化することがわかりました。
そこで、被写体が画面の周辺にある場合でも、ブレを最適に補正することを可能にしたいという想いから開発したのが「フォーカスポイントVR」です。問題を認識し、改善を望まれていたプロのフォトグラファーの声にお応えすることができました。
■夢が叶った!本格的な超望遠ズームレンズの世界を手に入れる
―― 交換レンズでは待望の軽くて持ち歩きやすい超望遠ズームレンズ「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」が総合金賞、そして、「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」が審査委員特別賞を受賞されました。
辻 「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」は、「本格的な超望遠撮影を楽しみたいのだけれど、高価でとても手が出ない。手に届く価格のレンズを」というかねてから高かった要望に応えたものです。高い光学性能とVR機構を搭載し、気軽に超望遠撮影が楽しめるズームレンズとしてラインナップする「AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR」のユーザーから寄せられている声も生かし、描写はもちろん、AFやVRの使い勝手も追求しました。
苦労したのはズーミングの際の重心の安定性や防塵性能の向上です。ズーミングしても最前面のレンズが移動せず、鏡筒の全長が変化しないインターナルズーム機構を軽量化と両立することは非常に難しく、設計難易度が高かったと開発陣からは聞いています。インターナルズームを採用しながら、トレードオフにある光学性能と重さのバランスをどう収めるのか。メカ設計の開発陣が議論を重ね、市場にある様々なレンズを試し、最適解となる構成を探り、お客様の求めるレベルにまで高められました。
2023年までに発売を予定しているZレンズのラインナップ表では「200-600mm」と公表し、お客様から発売が待望されていましたが、180−600mmとして実現でき、180mmまでのレンズをお持ちのお客様からは、「焦点距離がつながるので凄くうれしい」と喜びの声をいただいています。
細かな点では、ズーミングの回転角を70度として使い勝手をよくしたこと。そして、「手に届く価格を!」という声にお応えすべく、実勢価格で25万円前後という価格を実現しました。
―― 10月13日に発売された「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」も鋭い立ち上がりを見せています。
辻 開発現場では、せっかくZマウントにしたのだから、その可能性を最大限に引き出せる商品を世に送り出したいとの想いをずっと持ち続けていました。具体的には、両立しないとよく言われる、明るさとボケの形状です。
大口径の中望遠はどうしても画面周辺部の円がレモンのような形になってしまう(口径食)という現象を覆し、画像処理でぼかすのではなく、レンズ構成の最適化を図ることで、円形度の高いボケ形状を実現しました。
さらに、開発陣が目指したのは、被写体との距離感がわかるような奥行き感のあるボケで、画像周辺まで高解像を保ち、ピント位置から離れていく“ボケのグラデーション”を滑らかに美しく描写します。被写体を輝かせ、美しいボケと組み合わせることで、日常を非日常の特別な瞬間に変えたいという想いが込めています。
Zマウントレンズもようやく基本的なラインナップが揃いましたので今後は、「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」のような“尖った”レンズも積極的に投入していきたいと思います。
■勢いを取り戻し、さらに成長できる余地が十分にある
―― カメラ市場も消費マインドが回復してきました。今後のさらなる盛り上がりが期待されますね。
辻 コロナ禍を脱し、勢いが戻ってきました。スマートフォンの台頭により、10年前・15年前との比較では、コンパクトカメラや入門機の市場縮小は避けられない事実です。しかし、スマートフォンやSNSの普及は、映像を日常により溶け込ませてくれました。SNSに画像や動画をアップすることはもはや当たり前ですし、さらに、より高い映像クオリティを求める方も増えてきて、そこにレンズ交換式カメラを求める動きも徐々に拡大しています。
幅広い層の方に受け入れていただいた「Z f」や「Z fc」の反響から感じとれる“変化”もありますし、我々の業界はまだまだ成長できる余地が十分にあると考えています。特に中高級機のマーケットには活気があり、これまでの静止画像を趣味にした安定したお客様に、さらに動画撮影を目的としたお客様や若いお客様が新たに加わり、それぞれが我々の挑戦しがいのある市場となっています。
―― 年末商戦、さらには年明け2月22日から開催される「CP+2024」に向けた意気込みをお聞かせください。
辻 まずは年末商戦ですが、対象のカメラとレンズの購入で最大50,000円がキャッシュバックされる「Nikon Creators応援キャンペーン」を10月27日から開催しています。今年で90周年を迎えて充実一途のNIKKORレンズも多くのモデルが対象となっています。また、応募者全員に165GBのCFexpressメモリーカードをプレゼントする「Z 8 CFexpressメモリーカードプレゼントキャンペーン」も12月1日よりスタートします。新規購入や買い替えをご検討の方にはまたとない機会となりますので是非ご検討いただければ幸甚です。
「CP+2024」については出展社数も増えると聞いており、来場者も前年を上回り、盛況なイベントになるのではないかととても楽しみです。ニコンブースでは、既存のお客様に改めてニコンの良さを実感いただくことはもちろん、CP+2023でもいろいろ工夫を凝らしましたが、若い世代や女性、新規の来場者の方が入りやすい、気軽に立ち寄ってもらえるブース創りにもさらに力を入れていきます。
そして、数ある商品のなかでも中心となってくるのが、今回「総合金賞」「審査委員特別賞」を受賞した「Z 8」「Z f」「NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR」「NIKKOR Z 135mm f/1.8 S Plena」の4つの商品です。十分に機能的価値・情緒的な価値をご理解いただくための体験ブースも充実して参りますので、ひとりでも多くの人に是非ご体感いただきたいと考えております