アクティブスピーカーへの展望も
【特別インタビュー】ソナス・ファベールの開発を率いるリヴィオ・ククッツァ氏、Supremaを語る
今年の東京インターナショナルオーディオショウが無事に閉幕した。猛暑日の続く7月開催という過酷な環境下ではあったが、海外の弩級スピーカーから国産メーカーの新製品、ネットワークオーディオの新提案までさまざまな製品が一堂に会し、非常に活気あるイベントとなった。
今回のイベントの最大の目玉の一つとなったのが、イタリアのソナス・ファベールから発売されたフラグシップスピーカー「Suprema」であろう。サブウーファー別体の4筐体式、価格も1億5000万円オーバーと、これまでの価格レンジを大幅に上回るまったく新しいプロダクトである。それまでのソナスのフラグシップは「AIDA II」でおおよそ1,200万円程度。一気に10倍以上に跳ね上がった計算だ。
会場で出会ったオーディオファンや業界関係者とも、挨拶もそこそこに「で、Suprema聴いた?どうだった?」という話題が尽きなかった。おいそれと購入できる製品ではないが、現在のパッシブ・スピーカーの到達点を垣間見る製品として、どうしても聴いておきたい、という欲望を掻き立てるスピーカーであったことは間違いない。
今回のショウにあたり、現在のソナス・ファベールの開発を率いるリヴィオ・ククッツァ氏がセッティングのために来日、プレスや販売店向けのデモンストレーションも行われた。そちらについてはすでにレポートしているが、改めてこれほどの“弩級”のスピーカーを作り上げたモチベーションについて、リヴィオさんに詳しい話を伺った。
ーー東京インターナショナルオーディオショウにようこそお越しくださいました。日本にはこれまでもいらっしゃったことはありますか?
リヴィオ はい、仕事でなんどか来たことはありますが、オーディオショウに来たのは初めてです。
ーー日本のオーディオショウの印象はいかがでしょう?
リヴィオ とてもよく組織化されていると感じています。ソナス・ファベールの輸入元であるノアもいい仕事をしてくれて、来場者も非常に多く、日本の市場の熱気を感じます。ノアは私たちにとってもっとも付き合いの長いディストリビューターの一つです。ブランドを深く信頼してくれていて、そのことをとても誇りに思っています。
ーー「Suprema」のサウンドには感激しました。鳥肌が立つような圧倒的な体験でした。製品の詳細についてはデモンストレーションでたくさん語っていただきましたが、改めて、これほど大きなスピーカーを作るモチベーションはどこにあったのでしょう?
リヴィオ それは、さまざまな新技術を開発するにあたっての「プラットフォーム」となる製品を作りたい、という考えです。ですからここで得られた技術は、今後よりお求めやすい価格の製品に展開されてゆきます。これは大きな実験でもありました。新しいドライバーユニットを開発し、新しい素材に挑戦する。新しいエンジニアたちにソナス・ファベールというブランドをよりよく知ってもらう必要もありました。
ーー新しいエンジニアチームを採用したと聞きました。
リヴィオ 2021年に新しいR&Dチームを立ち上げました。新しいデザイナーを採用し、新しいシミュレーターや測定機も導入しました。ドライバーユニットはもちろんすべて自社開発していますし、木工キャビネットもまたすべて自分たちで作っています。
ーーSupremaに対する市場からの反響はいかがでしたか?
リヴィオ 世界中から驚くべき反響が得られました。特に低域のコントロールに驚かれることが多かったです。サブウーファーを別筐体としたのもそこに理由があり、低域のコントロールを含めどのような部屋でも最適なアコースティックを実現することができるからです。
ーーミュンヘンのアンダーズ・ホテルでも聴きましたが、低域の締まり具合、タイトでマッシブなサウンドには本当にびっくりしました。今回の東京インターナショナルショウでもリヴィオさんがセッティングされたと聞きましたが、今回の部屋はどうでしたか?
リヴィオ 正直に言うと、それほど難解ではありませんでした(笑)。ミュンヘンの部屋に比べるとずっと小さい部屋ですので、だいたい4-5時間くらいでセットアップが完了しました。
ーースピーカーの配置にはなにかセオリーがあるのでしょうか?
リヴィオ 日本のチームから、部屋の広さや天井の高さ、壁や床の素材などについて情報をもらい、それを元にあらかじめ置く位置をシミュレーションしてきました。実際にこの会場に来てSupremaを設置し、マイクを置いて測定を行い、その測定結果を参考にしつつも、最後はやはり自分の耳での調整が大切です。それが私達のセオリーです。
ーーSupremaの技術は今後下位モデルにも展開されていくのですね。今回登場した「Sonetto G2」にも「カメリア・ミッドレンジ」が搭載されています。
リヴィオ はい、その予定です。今回ご紹介した「Concertino G4」にもその技術が採用されています。来年にはもっといろいろな製品が出てきますよ!
ーーSupremaの音質ポイントの一つに、「コルク」の採用が重要だと感じています。スーパートゥイーターとトゥイーター、ミッドレンジの部分の専用チェンバーはコルクで作られています。コルクのどのような点に魅力を感じましたか?
リヴィオ コルクには多くの優れた点があります。私たちは中高域のチェンバーを真四角ではなく、より有機的な形状にしたいと考えていました。そのためにさまざまな素材を試しました。プラスチックのような人工的な素材は使いたくありませんでした。そうしているうちにコルクにたどり着いたのです。とにかく成形が容易で、自由な形に仕上げることができるのが魅力です。
チェンバーの形状については、コンピューターシミュレーションを用いて検討しました。試作機を作って鳴らしてみたところ、音響的な響きも完璧だと分かったのです。コルクは録音スタジオやコントロールルームなどの響きをコントロールするためによく使われています。音響的にも非常に優れた特性を持っているのです。
さらに、コルクを使うことで、内部のダンピング材をたくさん使わなくて良いことが分かりました。ドライバーから出てくる豊かなエネルギーを失いたくないという考えから、内部のダンピング材は最小限にしています。
ーーConcertino G4のキャビネットもコルクでできているのですね。
リヴィオ 無垢材とレザー、そしてコルクでできています。今回初お披露目となりましたので、ぜひこちらの音も体験していただきたいです。
ーーもうひとつリヴィオさんに伺いたいテーマがあります。ソナス・ファベールはアクティブスピーカーにも力を入れていますね。「Omnia」「Duetto」といったプロダクトです。Omniaは一体型のワンボックスタイプのスピーカー、Duettoはステレオで2本のスピーカーで構成されています。いずれもネットワークにも対応する最新のテクノロジーが満載です。こちらの製品についても教えてもらえますか?
リヴィオ アクティブスピーカーにはとても大きな可能性があると感じています。最近のユーザーは音楽をスマートフォンやポータブルスピーカーなどで聴いていますね。聴いているのもCDではなくSpotifyなどのストリーミングサービスがメインです。若い人にスピーカーブランドについて尋ねると、Sonosとかそういう名前が出てきます(笑)。
しかし、彼らもみな音楽が好きで、音楽とともに過ごしたいと思っています。そういったお客さんに対して、よりクオリティの高い音楽再生システムを提供したいと考えています。市場として大きな可能性があると考えています。
ですが、これはなかなか大きな課題でもあります。やはりオーディオ機器ですから、実際に聴いていただく、体験してもらう機会をつくっていかなければいけないと考えています。ディストリビューター、メディアの皆様に対しても同じです。みなで知恵を出し合いながら、こういった新しいプロダクトをどのように市場に根付かせていくか、考えなければなりません。
もちろん、これまで通りのパッシブスピーカーの市場が消えることはありません。アクティブスピーカーは、これまでの市場を殺すものではないと考えています。私たちも、アナログの良さとデジタルの良さ、その両方をしっかりつなぐことができる製品開発を行っていきたいと考えています。
ーー日本市場においてもアクティブスピーカーはまだ立ち上がったばかりで、これから大きな市場の可能性があると考えています。ソナス・ファベールのアクティブスピーカーには最新鋭のデジタルテクノロジーが盛り込まれていますし、デザインも美しいですから、新しいオーディオファンの開拓を期待しています。最後に、未来のプランについて教えて下さい。10年後、どのようなソナス・ファベールを作っていきたいですか。
リヴィオ そうですね、将来の夢ということでは、ドライバーユニットのすべてを自社でコントロールできるようになりたいと思います。基本的には自社で開発していますが、いくつかのパートは外部のサプライヤーに頼っています。ですので、それをすべて内製できるようにしたいですね。
ーーこれからのソナス・ファベールの展開がますます楽しみになってきました。本日はありがとうございました!
今回のイベントの最大の目玉の一つとなったのが、イタリアのソナス・ファベールから発売されたフラグシップスピーカー「Suprema」であろう。サブウーファー別体の4筐体式、価格も1億5000万円オーバーと、これまでの価格レンジを大幅に上回るまったく新しいプロダクトである。それまでのソナスのフラグシップは「AIDA II」でおおよそ1,200万円程度。一気に10倍以上に跳ね上がった計算だ。
会場で出会ったオーディオファンや業界関係者とも、挨拶もそこそこに「で、Suprema聴いた?どうだった?」という話題が尽きなかった。おいそれと購入できる製品ではないが、現在のパッシブ・スピーカーの到達点を垣間見る製品として、どうしても聴いておきたい、という欲望を掻き立てるスピーカーであったことは間違いない。
今回のショウにあたり、現在のソナス・ファベールの開発を率いるリヴィオ・ククッツァ氏がセッティングのために来日、プレスや販売店向けのデモンストレーションも行われた。そちらについてはすでにレポートしているが、改めてこれほどの“弩級”のスピーカーを作り上げたモチベーションについて、リヴィオさんに詳しい話を伺った。
Supremaは新しい技術の“プラットフォーム”として開発
ーー東京インターナショナルオーディオショウにようこそお越しくださいました。日本にはこれまでもいらっしゃったことはありますか?
リヴィオ はい、仕事でなんどか来たことはありますが、オーディオショウに来たのは初めてです。
ーー日本のオーディオショウの印象はいかがでしょう?
リヴィオ とてもよく組織化されていると感じています。ソナス・ファベールの輸入元であるノアもいい仕事をしてくれて、来場者も非常に多く、日本の市場の熱気を感じます。ノアは私たちにとってもっとも付き合いの長いディストリビューターの一つです。ブランドを深く信頼してくれていて、そのことをとても誇りに思っています。
ーー「Suprema」のサウンドには感激しました。鳥肌が立つような圧倒的な体験でした。製品の詳細についてはデモンストレーションでたくさん語っていただきましたが、改めて、これほど大きなスピーカーを作るモチベーションはどこにあったのでしょう?
リヴィオ それは、さまざまな新技術を開発するにあたっての「プラットフォーム」となる製品を作りたい、という考えです。ですからここで得られた技術は、今後よりお求めやすい価格の製品に展開されてゆきます。これは大きな実験でもありました。新しいドライバーユニットを開発し、新しい素材に挑戦する。新しいエンジニアたちにソナス・ファベールというブランドをよりよく知ってもらう必要もありました。
ーー新しいエンジニアチームを採用したと聞きました。
リヴィオ 2021年に新しいR&Dチームを立ち上げました。新しいデザイナーを採用し、新しいシミュレーターや測定機も導入しました。ドライバーユニットはもちろんすべて自社開発していますし、木工キャビネットもまたすべて自分たちで作っています。
ーーSupremaに対する市場からの反響はいかがでしたか?
リヴィオ 世界中から驚くべき反響が得られました。特に低域のコントロールに驚かれることが多かったです。サブウーファーを別筐体としたのもそこに理由があり、低域のコントロールを含めどのような部屋でも最適なアコースティックを実現することができるからです。
ーーミュンヘンのアンダーズ・ホテルでも聴きましたが、低域の締まり具合、タイトでマッシブなサウンドには本当にびっくりしました。今回の東京インターナショナルショウでもリヴィオさんがセッティングされたと聞きましたが、今回の部屋はどうでしたか?
リヴィオ 正直に言うと、それほど難解ではありませんでした(笑)。ミュンヘンの部屋に比べるとずっと小さい部屋ですので、だいたい4-5時間くらいでセットアップが完了しました。
ーースピーカーの配置にはなにかセオリーがあるのでしょうか?
リヴィオ 日本のチームから、部屋の広さや天井の高さ、壁や床の素材などについて情報をもらい、それを元にあらかじめ置く位置をシミュレーションしてきました。実際にこの会場に来てSupremaを設置し、マイクを置いて測定を行い、その測定結果を参考にしつつも、最後はやはり自分の耳での調整が大切です。それが私達のセオリーです。
ーーSupremaの技術は今後下位モデルにも展開されていくのですね。今回登場した「Sonetto G2」にも「カメリア・ミッドレンジ」が搭載されています。
リヴィオ はい、その予定です。今回ご紹介した「Concertino G4」にもその技術が採用されています。来年にはもっといろいろな製品が出てきますよ!
ーーSupremaの音質ポイントの一つに、「コルク」の採用が重要だと感じています。スーパートゥイーターとトゥイーター、ミッドレンジの部分の専用チェンバーはコルクで作られています。コルクのどのような点に魅力を感じましたか?
リヴィオ コルクには多くの優れた点があります。私たちは中高域のチェンバーを真四角ではなく、より有機的な形状にしたいと考えていました。そのためにさまざまな素材を試しました。プラスチックのような人工的な素材は使いたくありませんでした。そうしているうちにコルクにたどり着いたのです。とにかく成形が容易で、自由な形に仕上げることができるのが魅力です。
チェンバーの形状については、コンピューターシミュレーションを用いて検討しました。試作機を作って鳴らしてみたところ、音響的な響きも完璧だと分かったのです。コルクは録音スタジオやコントロールルームなどの響きをコントロールするためによく使われています。音響的にも非常に優れた特性を持っているのです。
さらに、コルクを使うことで、内部のダンピング材をたくさん使わなくて良いことが分かりました。ドライバーから出てくる豊かなエネルギーを失いたくないという考えから、内部のダンピング材は最小限にしています。
ーーConcertino G4のキャビネットもコルクでできているのですね。
リヴィオ 無垢材とレザー、そしてコルクでできています。今回初お披露目となりましたので、ぜひこちらの音も体験していただきたいです。
ソナス・ファベールが考えるアクティブスピーカーの未来
ーーもうひとつリヴィオさんに伺いたいテーマがあります。ソナス・ファベールはアクティブスピーカーにも力を入れていますね。「Omnia」「Duetto」といったプロダクトです。Omniaは一体型のワンボックスタイプのスピーカー、Duettoはステレオで2本のスピーカーで構成されています。いずれもネットワークにも対応する最新のテクノロジーが満載です。こちらの製品についても教えてもらえますか?
リヴィオ アクティブスピーカーにはとても大きな可能性があると感じています。最近のユーザーは音楽をスマートフォンやポータブルスピーカーなどで聴いていますね。聴いているのもCDではなくSpotifyなどのストリーミングサービスがメインです。若い人にスピーカーブランドについて尋ねると、Sonosとかそういう名前が出てきます(笑)。
しかし、彼らもみな音楽が好きで、音楽とともに過ごしたいと思っています。そういったお客さんに対して、よりクオリティの高い音楽再生システムを提供したいと考えています。市場として大きな可能性があると考えています。
ですが、これはなかなか大きな課題でもあります。やはりオーディオ機器ですから、実際に聴いていただく、体験してもらう機会をつくっていかなければいけないと考えています。ディストリビューター、メディアの皆様に対しても同じです。みなで知恵を出し合いながら、こういった新しいプロダクトをどのように市場に根付かせていくか、考えなければなりません。
もちろん、これまで通りのパッシブスピーカーの市場が消えることはありません。アクティブスピーカーは、これまでの市場を殺すものではないと考えています。私たちも、アナログの良さとデジタルの良さ、その両方をしっかりつなぐことができる製品開発を行っていきたいと考えています。
ーー日本市場においてもアクティブスピーカーはまだ立ち上がったばかりで、これから大きな市場の可能性があると考えています。ソナス・ファベールのアクティブスピーカーには最新鋭のデジタルテクノロジーが盛り込まれていますし、デザインも美しいですから、新しいオーディオファンの開拓を期待しています。最後に、未来のプランについて教えて下さい。10年後、どのようなソナス・ファベールを作っていきたいですか。
リヴィオ そうですね、将来の夢ということでは、ドライバーユニットのすべてを自社でコントロールできるようになりたいと思います。基本的には自社で開発していますが、いくつかのパートは外部のサプライヤーに頼っています。ですので、それをすべて内製できるようにしたいですね。
ーーこれからのソナス・ファベールの展開がますます楽しみになってきました。本日はありがとうございました!