<炭山アキラのTIAS2008レポート>オーディオショウの“華”〜スピーカー − 今年話題のモデルを聴いてきた!
例年、スピーカーはショウの華というべきジャンルだが、今年も数えきれないほどの傑作・注目製品が会場内にあふれていた。
■Project Everestの流れを組むJBL新スピーカー「TSシリーズ」
中でも個人的に最も注目したのは、JBLのTSシリーズである。製品のかたちを上から見ると、このシリーズが同社の中心に近いポジションを占めていることが分かる。そう、かの名作「Project Everest DD66000」とよく似た断面形状なのだ。種を明かせば、このシリーズはDD66000と同じ開発陣が手がけた作品で、まさに現代JBLの精粋というべき技術とサウンドが盛り込まれているのだ。
音は濃厚にして俊敏、巌のような安定感と人肌の柔らかさ、温もりをともに持つという素晴らしいキャラクターである。こういう実力機が、若いオーディオファンでもちょっとがんばれば導入可能な価格帯に投入されたのがうれしい。
今回聴くことがかなったのは一番大きなTS8000だったが、何ともよく鳴るスピーカーである。それでいてはしゃいだ感じはなく、音の品位が極めて高い。器の大きなスピーカーというイメージの音である。
■デンマークからのニューカマーRaidho Acoustics「Ayraシリーズ」
もうひとつ、今年のニューカマーで強く印象に残ったのは、デンマークのRaidho Acoustics社のスピーカーだ。2004年に創立された若いブランドだが、その技術内容はなかなか興味深い。アルミニウムをアルミナ・セラミックで挟み込んだサンドイッチ構造の振動板を持つウーファーは、ネオジウム磁石を核とした10本の棒状磁気回路によってドライブされる。独創的なユニット構造だ。高域はリボントゥイーターを採用、50kHzまでスムーズな周波数特性を実現しているという。
音はクールでメリハリの効いたハイスピードサウンドで、非常に現代的な高解像度を聴かせながらモニター的な無味乾燥に陥らないのが素晴らしい。高価なスピーカーだが、一聴の価値がある。
訪問時にタイムロードのブースで鳴っていたのはライドー・アコースティクス社のAyra C-2。目の覚めるような超ハイスピード・サウンドに、現代オーディオの最先端を見る思いである。
■迫力の30cmウーファーを搭載したオルトフォン「Kailas7」
オーディオに勢いがあった頃、スピーカーは30cmウーファーが当たり前だった。翻って昨今、比較的安価なクラスで大口径のウーファーを搭載したスピーカーはすっかり影が薄くなってしまった。そんな世相にあって、突然という趣とともに登場したのがオルトフォンの「Kailas7」である。
ウーファーは何と30cm×2発!10cmコーン型スコーカーと1インチ口径のソフトドーム・トゥイーターによる3ウェイ構成である。キャビネットは分厚いMDFの上に天然木の突き板を張った豪華版で、総重量は36kgもある。能率は92dBと極めて高く、小出力の3極管シングルでも十分に音量を稼ぐことができそうだ。
音は素晴らしい鳴りっぷりの良さで一気に音楽へ没入させてくれる。大きさといいキャラクターといい、昨今非常に珍しいタイプのスピーカーである。個人的にも素晴らしい、そして得難いキャラクターだと思う。
オルトフォンKailas7。現代オーディオが忘れ去った部分というべきか、豪放磊落で骨太の鳴りっぷりを濃厚に有するスピーカーである。小出力で高品位のアンプで鳴らしてやれば、持ち味が十全に発揮されることであろう。
■リンから上級スピーカーのラインナップ「KLIMAX」の新製品登場
リンの上級スピーカーといえば「コムリ」だが、同社はこれから「クラシック」「マジック」「クライマックス」というシリーズ展開をしていくようである。そのセグメントで上級に当たるスピーカーが「KLIMAX 350」とアクティブタイプの「KLIMAX 350A」、そして「KLIMAX 320A」である。
“A”が型番に付いたモデルはアンプ内蔵だ。たまたまブースを訪れたときには「KLIMAX 350」が鳴っていたが、残響と微小信号の海の中に何とも艶かしく潤いを帯びた音像がどっしりと定位する、他をもって代え難い再現を聴かせてくれた。オーディオにおける上質とはこういうことなのかと納得の表現である。
リンKLIMAX 350。ユニット構成はコムリに似ているが、ほぼ全面的なモデルチェンジだという。輪郭線の完全に消失した、繊細極まりなくなおかつ実体感あふれる本機の表現は、ぜひ一度体験しておきたい。
■TAOCはFCシリーズの新顔「FC3100」を発表
TAOCのスピーカーはこのところ上級のFCシリーズが相次いで生産完了を迎え、ファンとしては寂しく思っていたが、このたびFC3000の後継として「FC3100」が登場してきた。
大きく変わったのはユニットで、ウーファーが最新世代のものに変わり、トゥイーターも最新のリングラジエーター型に変更された結果、50kHz以上までフラットな特性と伸びやかなサウンドを得たという。ユニットのフランジに密着して共振を劇的に減少させる鋳鉄リングなど、同社スピーカーの基幹技術は健在だ。
音はやはり同社らしい勢いと力感を聴かせる。見慣れたユニットからこれほどどっしりとした輪郭の揺るぎないサウンドが出てくるのは驚くばかりだ。
タオックFC3100。前作からそうだが、タオックが使うと見慣れたユニットが驚くほど力強い音に変身する。同社の「整音」テクノロジーに基づく対策が功を奏していると見て間違いないだろう。
■その他にも、試聴の機会が待ち遠しい注目モデルを紹介
かなり時間をかけて各社ブースを回っても、時間の都合で聴くことのかなわない製品というのは必ずいくつか出てきてしまう。ここからは、聴けなかったが注目しておきたい製品を挙げておこう。
iPodを載せて音楽や映像コンテンツを出力することができるミニ真空管アンプ「ミュージック・コクーン」が好評の英ロス・オーディオ社からは、「OLiシリーズ」という比較的手ごろなスピーカーのシリーズが上陸。アルミの砲弾型ディフューザーを持つウーファーなどを見ていると、なかなかしっかりした作品のようである。
デンマーク・ダヴォン社の「Rithm」は何とも不思議な山型をしたスピーカーである。デンマークの高度な家具作りの伝統がなければ生み出しえなかった造形であろう。ユニットはSEAS社の同軸2ウェイだ。
ハーマン・カードンの「GLA-55」は、クリスタルをイメージしたキャビネットがため息を誘うほど美しいアンプ内蔵スピーカーだ。PCスピーカーを目指して開発されたそうだが、贅を尽くした応接間にに置いても位負けしないような気品を感じさせる。
聴けなくて残念シリーズその1。英ロス社のOLiシリーズである。左からOli1、OLi2、OLi3である。なかなかスタイリッシュなルックスで、ていねいな作りが光る。
聴けなくて残念シリーズその2は、デンマークDAVONE社のRithmだ。木の薄板を何枚も張り合わせて成型した曲面が実に美しいスピーカーである。
聴けなくて残念シリーズの最後はハーマン・カードンGLA-55。この美しさもちょっと他に比べるものがない。配線や吸音材などが見えないように心配りされているのもにくい。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。
■Project Everestの流れを組むJBL新スピーカー「TSシリーズ」
中でも個人的に最も注目したのは、JBLのTSシリーズである。製品のかたちを上から見ると、このシリーズが同社の中心に近いポジションを占めていることが分かる。そう、かの名作「Project Everest DD66000」とよく似た断面形状なのだ。種を明かせば、このシリーズはDD66000と同じ開発陣が手がけた作品で、まさに現代JBLの精粋というべき技術とサウンドが盛り込まれているのだ。
音は濃厚にして俊敏、巌のような安定感と人肌の柔らかさ、温もりをともに持つという素晴らしいキャラクターである。こういう実力機が、若いオーディオファンでもちょっとがんばれば導入可能な価格帯に投入されたのがうれしい。
今回聴くことがかなったのは一番大きなTS8000だったが、何ともよく鳴るスピーカーである。それでいてはしゃいだ感じはなく、音の品位が極めて高い。器の大きなスピーカーというイメージの音である。
■デンマークからのニューカマーRaidho Acoustics「Ayraシリーズ」
もうひとつ、今年のニューカマーで強く印象に残ったのは、デンマークのRaidho Acoustics社のスピーカーだ。2004年に創立された若いブランドだが、その技術内容はなかなか興味深い。アルミニウムをアルミナ・セラミックで挟み込んだサンドイッチ構造の振動板を持つウーファーは、ネオジウム磁石を核とした10本の棒状磁気回路によってドライブされる。独創的なユニット構造だ。高域はリボントゥイーターを採用、50kHzまでスムーズな周波数特性を実現しているという。
音はクールでメリハリの効いたハイスピードサウンドで、非常に現代的な高解像度を聴かせながらモニター的な無味乾燥に陥らないのが素晴らしい。高価なスピーカーだが、一聴の価値がある。
訪問時にタイムロードのブースで鳴っていたのはライドー・アコースティクス社のAyra C-2。目の覚めるような超ハイスピード・サウンドに、現代オーディオの最先端を見る思いである。
■迫力の30cmウーファーを搭載したオルトフォン「Kailas7」
オーディオに勢いがあった頃、スピーカーは30cmウーファーが当たり前だった。翻って昨今、比較的安価なクラスで大口径のウーファーを搭載したスピーカーはすっかり影が薄くなってしまった。そんな世相にあって、突然という趣とともに登場したのがオルトフォンの「Kailas7」である。
ウーファーは何と30cm×2発!10cmコーン型スコーカーと1インチ口径のソフトドーム・トゥイーターによる3ウェイ構成である。キャビネットは分厚いMDFの上に天然木の突き板を張った豪華版で、総重量は36kgもある。能率は92dBと極めて高く、小出力の3極管シングルでも十分に音量を稼ぐことができそうだ。
音は素晴らしい鳴りっぷりの良さで一気に音楽へ没入させてくれる。大きさといいキャラクターといい、昨今非常に珍しいタイプのスピーカーである。個人的にも素晴らしい、そして得難いキャラクターだと思う。
オルトフォンKailas7。現代オーディオが忘れ去った部分というべきか、豪放磊落で骨太の鳴りっぷりを濃厚に有するスピーカーである。小出力で高品位のアンプで鳴らしてやれば、持ち味が十全に発揮されることであろう。
■リンから上級スピーカーのラインナップ「KLIMAX」の新製品登場
リンの上級スピーカーといえば「コムリ」だが、同社はこれから「クラシック」「マジック」「クライマックス」というシリーズ展開をしていくようである。そのセグメントで上級に当たるスピーカーが「KLIMAX 350」とアクティブタイプの「KLIMAX 350A」、そして「KLIMAX 320A」である。
“A”が型番に付いたモデルはアンプ内蔵だ。たまたまブースを訪れたときには「KLIMAX 350」が鳴っていたが、残響と微小信号の海の中に何とも艶かしく潤いを帯びた音像がどっしりと定位する、他をもって代え難い再現を聴かせてくれた。オーディオにおける上質とはこういうことなのかと納得の表現である。
リンKLIMAX 350。ユニット構成はコムリに似ているが、ほぼ全面的なモデルチェンジだという。輪郭線の完全に消失した、繊細極まりなくなおかつ実体感あふれる本機の表現は、ぜひ一度体験しておきたい。
■TAOCはFCシリーズの新顔「FC3100」を発表
TAOCのスピーカーはこのところ上級のFCシリーズが相次いで生産完了を迎え、ファンとしては寂しく思っていたが、このたびFC3000の後継として「FC3100」が登場してきた。
大きく変わったのはユニットで、ウーファーが最新世代のものに変わり、トゥイーターも最新のリングラジエーター型に変更された結果、50kHz以上までフラットな特性と伸びやかなサウンドを得たという。ユニットのフランジに密着して共振を劇的に減少させる鋳鉄リングなど、同社スピーカーの基幹技術は健在だ。
音はやはり同社らしい勢いと力感を聴かせる。見慣れたユニットからこれほどどっしりとした輪郭の揺るぎないサウンドが出てくるのは驚くばかりだ。
タオックFC3100。前作からそうだが、タオックが使うと見慣れたユニットが驚くほど力強い音に変身する。同社の「整音」テクノロジーに基づく対策が功を奏していると見て間違いないだろう。
■その他にも、試聴の機会が待ち遠しい注目モデルを紹介
かなり時間をかけて各社ブースを回っても、時間の都合で聴くことのかなわない製品というのは必ずいくつか出てきてしまう。ここからは、聴けなかったが注目しておきたい製品を挙げておこう。
iPodを載せて音楽や映像コンテンツを出力することができるミニ真空管アンプ「ミュージック・コクーン」が好評の英ロス・オーディオ社からは、「OLiシリーズ」という比較的手ごろなスピーカーのシリーズが上陸。アルミの砲弾型ディフューザーを持つウーファーなどを見ていると、なかなかしっかりした作品のようである。
デンマーク・ダヴォン社の「Rithm」は何とも不思議な山型をしたスピーカーである。デンマークの高度な家具作りの伝統がなければ生み出しえなかった造形であろう。ユニットはSEAS社の同軸2ウェイだ。
ハーマン・カードンの「GLA-55」は、クリスタルをイメージしたキャビネットがため息を誘うほど美しいアンプ内蔵スピーカーだ。PCスピーカーを目指して開発されたそうだが、贅を尽くした応接間にに置いても位負けしないような気品を感じさせる。
聴けなくて残念シリーズその1。英ロス社のOLiシリーズである。左からOli1、OLi2、OLi3である。なかなかスタイリッシュなルックスで、ていねいな作りが光る。
聴けなくて残念シリーズその2は、デンマークDAVONE社のRithmだ。木の薄板を何枚も張り合わせて成型した曲面が実に美しいスピーカーである。
聴けなくて残念シリーズの最後はハーマン・カードンGLA-55。この美しさもちょっと他に比べるものがない。配線や吸音材などが見えないように心配りされているのもにくい。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。