<炭山アキラのTIAS2008レポート>「アナログ・イヤー」の主役たち − 注目のプレーヤー&アクセサリー
例年、数え切れない数の製品群が私たちを迎えてくれる東京インターナショナルオーディオショウだが、今年は一段と新製品・注目製品の数が多く、どれから紹介したらいいものやら、限られた時間の中でいささか途方にくれているような状態だ。それでも、思いついた順に注目すべき製品を挙げていくこととしよう。
今年の会場は、さながら「アナログ・イヤー」の趣がある。アナログはCD時代に一度は下火になったが20世紀末ごろから息を吹き返し、それ以来もう長い間、CDやSACDなどのデジタルディスク勢とともに、私たちオーディオ好きのためのメインソースとなってきた。特にこの数年は、再ブームといっていい様相が続いているように思う。
■往年の名機のスピリットを継承するトーレンス「TD-550」
まず、注目すべきプレーヤーから挙げていこう。会場を歩いていてまず目を見張ったのは、ノアのブースにあったトーレンスの新製品「TD-550」である。横幅53.2cmの堂々たる体躯を持つプレーヤーで、重量は22kgと意外に軽いなと思ったら、ウッドとクロームに覆われたボディ内部のフローティング・シャシーは何とカーボン製という。なるほどと納得がいった。クローム仕上げのアルミ製ターンテーブルは6.2kgと十分に重い。
型番の連続性といい、実効長30cmを超えるロングアームを楽に取り付けられる大きさといい、本機は往年の名機「TD-520」の後継とみなすべきプレーヤーであろう。修理・調整を繰り返しながら長く520を使ってこられた年配のマニアはもちろん、かのサウンドに触れたことのない若いマニアにも、ぜひ一度体験してもらいたいプレーヤーである。
トーレンスTD-550。アームレスで税別130万円と高価なプレーヤーだが、アナログでは昨今それほど驚くような価格でもない。これだけの陣容をこの価格で発売できるのは、長年の蓄積あってこそなのであろう。
■トランスローターの超弩級プレーヤー「Tourbillon」
超弩級プレーヤーをもうひとつ。エアータイト・ブランドの真空管アンプでおなじみのエイアンドエムが輸入している独トランスローターのプレーヤーには、いまだ日本に入ってきていない上級機がいくつかあるのだという。そのひとつ、「Tourbillon」がこのたび日本への初お目見えを果たした。
下段に金属、上段にアクリルという二段構えのターンテーブルだが、ベルトドライブの動力は下段を回し、上段へは下段ターンテーブルからマグネットの磁気のみを通じて駆動力が伝達されている。すなわち上段と下段の間には隙間が開いており、モーターのコギングや軸の摺動ノイズなどが一切上段に伝わることがないのだという。これは社名の由来ともなった駆動方式で、同社の他モデルにも一部用いられている。また、ディスクのそりを押さえると同時にイナーシャを増し、安定したトレースを実現する外周スタビライザーがアクセサリーとして用意されているのも見逃せない。会場では「これだけでも欲しい」という声が挙がっていたとか。私も同感だ。
さらに、エアータイト・ブランドのプレーヤーも参考出品されていたのには驚いた。TITANシルバーに近い同社のイメージカラーをまとったこのプレーヤーは、まだ試作のかなり早い段階だそうで、「完成までにはもうしばらくかかる」と同社の三浦社長は語っていたが、現状でも非常に手堅い作りを垣間見ることができる。期待しようではないか。
トランスローターTourbillon。価格は未定だがアームレスで550万円くらいになるのでは、という話だった。このプレーヤーではマイソニック・ラボの松平社長が自ら「ウルトラエミネント」を装着・調整、「ミスター・スーパーアナログ」の高和元彦氏がご自慢の盤をかけるセミナーを行っていた。その再生音たるや、筆舌に尽くしがたい。
エアータイト・ブランド独自開発のプレーヤー(試作品)。分厚い金属のキャビネットに大きなアルミのプラッターが載る。完全リジッド構造のプレーヤーである。完成が待ち遠しい。
■ウェル・テンパードやマッキントッシュからも注目のプレーヤーが登場
注目すべきプレーヤーはまだまだある。1980年代、特にアームの独創性で一世を風靡した米ウェル・テンパードのプレーヤーは、もうずいぶん長く日本に入ってきていなかった。ところが今年、スキャンテック販売のブースをのぞいてみると、シリコンオイルを注入したカップに構造体を沈め、軸を糸吊りにしたアームを持つ、ごくシンプルなプレーヤーが展示されているではないか。「まるでウェル・テンパードみたいだな」と思ったら案の定、同社の製品だった。
聞くところによると同社はここしばらく雌伏を余儀なくされていたが、このたび心機一転、新たなラインアップで再出発に成功したのだという。応援したい。
新生ウェル・テンパードのプレーヤー「アマデウス」。小ぶりかつシンプルで美しいベルトドライブ構造は以前から変わりない。
ウェル・テンパードの基幹技術「糸吊りオイルダンプアーム」の根幹部。きわめて粘度の高いシリコンオイルのバスに構造体を沈めてオイルダンプしているのだが、今作はその構造体にゴルフボール形状のものを使っているのが面白い。
初夏ごろにマッキントッシュのアナログプレーヤーが発表されたときには度肝を抜かれた。最初に公表された写真で見る限り、アンプの上にアクリルの切り株を載せたようなルックスに首をかしげていたのだが、現物はどうしてなかなかにスタイリッシュである。特に同社製品でシステムをそろえている人なら、むしろ「ああでなければならない」と思われているのではないか。音は実にS/Nが良く、端正で上質の表現を聴かせてくれた。実質的に第1号のアナログプレーヤーだが、1980年代に同社はアナログの開発を進めており、往時のノウハウが本機にはすべて投入されているのだという。
また、付属のMCカートリッジも自社開発というから驚かされるが、こちらも往時に進んでいた開発技術の賜物だとか。考えてみれば同社はスピーカーで長年のトランスデューサー技術を蓄積しているのだ。カートリッジを開発したとして、さほど驚くには当たらなかったともいえそうである。
マッキントッシュMT10。こうやって写真に撮るとレンズの構造上どうしてもフロントパネルが大きく写り、変なプロポーションに見えてしまうのだが、実物はもっとずっとスタイリッシュだ。
何とカートリッジMCC10まで自社開発・生産である。名前から分かる通りMC型の発電機構を持つ。
■創業90周年のオルトフォンからSPUカートリッジのアニバーサリーモデル
どうもアナログ関連の出展にはワクワクさせられるものだから、つい筆が走ってしまう。アナログ関連のアクセサリー・グッズ類の注目製品を取り上げることとしよう。
このところカートリッジも数多く新製品が登場してきているが、今回で最も注目すべき出展は、何といっても新しいSPUシリーズであろう。「SPU 90thアニバーサリー」(製品版は変更の可能性あり)という名のこのカートリッジは、その名の通り同社の創業90周年を記念するモデルであり、初日にぎりぎり間に合わせてデンマークの社長が会場まで持参したものなのだそうだ。
本機は世代を超えて同社のカートリッジ設計を受け継いできたロバート・グッドマンセンとペア・ウィンドフェルドの音作りをさらに磨き上げ、より自然かつ優雅でダイナミックな音質に仕上げたものという。コイルは純銀メッキの6N銅線、内部配線は金メッキの高純度銀線が用いられているという。2Ωで出力電圧0.3mV、適正針圧2.5〜3.5gというスペックを持つ。漆塗りの木質Gシェルには5世紀デンマークのホルン(角笛)が描かれている。
音は濃厚で力強いSPUの持ち味を保持しながら、より晴れやかさと軽やかさを併せ持つ、明るく彩りの鮮やかなサウンドというイメージだ。
オルトフォン創業90周年記念のSPU。吸い込まれそうな深い艶のGシェルが見る者を魅了する。音はそれにも増して美しい。傾向的にはSPUロイヤルをさらに磨き抜いたようなイメージである。
■THALES/SPIRAL GROOVEのトーンアーム
今年はトーンアームにも驚くべき製品がいくつか登場してきた。一昨年から最近までのアーム類の新製品は専らメイド・イン・ジャパンだったが、今年最大の注目株はユキムがスイスから連れてきたTHALESのアームである。
メインアームの先端に取り付けられたごく小さなカートリッジ・シェルから後方に長くサブアームが伸び、メインアームの軸から伸びるリンクを通じて三角形をなしている。この機構により、オフセットアームでありながらトラッキングエラーを追放、リニアトラッキング・アームと同等のトラックアングルと、オフセットアームの支点の揺るぎなさの両方を獲得することに成功したのだという。
音は身の詰まったハイスピード・サウンドというか、力強いが頭を抑えられたような感じや歪み成分を感じさせず、それでいてどこまでも繊細に伸びる超高品位の表現を楽しませてくれる。かの「Tsurube」を作り上げた四十七研究所の木村社長がこのアームを見たらどう思われるか、ちょっと話を伺ってみたくなった。
アームではもう1品、有望な新製品がお目見えしている。スキャンテック販売の「スパイラル・グルーブ」ターンテーブルには、ほぼ純正扱いで米グラハム・エンジニアリング社のアームが搭載されているが、このたびスパイラル・グルーブ自身が開発したアームも会場を飾っていた。細いパイプを持つストレートタイプで、重心が低く精密極まる作りに、至近から観察していて惚れぼれとした。いまだ試作の段階だそうだが、正式発売が楽しみな製品である。
スイス発、THALESのトーンアーム。実に不思議な造形だが、これでトラッキングエラーはゼロになるそうである。頭の良い人もいるものである。音の鮮烈さ、抜けの良さからして本質的に優れたアームなのであろうと思う。じっくり試してみたい製品だ。
スパイラル・グルーブ・オリジナルのアームがついに現れた。もちろん同社プレーヤーにワンタッチで取り付けられるバヨネット式のマウントが付属している。音も少しだけ聴けたが、ピンポイントに音像が決まるカミソリのような解像度が印象的だ。
■アキュフェーズとラックスマンが新フォノイコアンプを出展
続いてはフォノイコライザー・アンプを。個人的に今年のショウで一番驚いたのは、アキュフェーズのブースだった。何と、「C-27」という型番の製品がお目見えしているではないか。かつて同社には「C-7」、そして「C-17」という製品があった。いずれもMCカートリッジ用のヘッドアンプで、特にC-17は他と隔絶した超高解像度を聴かせてくれた。生産完了から20年を経て、いまだに愛用している超マニアの多い製品である。
その型番を引き継ぎ、現代に生み出された製品は、フォノイコライザー・アンプだった。もちろんMM/MC両対応で、それぞれ独立した増幅回路が搭載されている。MCは3Ω〜1kΩの6段階、MMは1k〜100kΩの3段階にインピーダンスの切り替えが可能だ。特にMMの100kΩ受けは昨今珍しい。エンパイアをはじめ、往年のハイインピーダンス受けカートリッジをお使いの人には朗報だろう。会場には何とも品の良い奥行き感たっぷりのサウンドが流れていた。1日も早く自宅リファレンス・システムで音を聴いてみたくなった製品である。
フォノイコではもうひとつ、ラックスマンの「E-200」が目を引いた。好評の「ネオクラシコ」シリーズはA4サイズだが、本機はB4書類型で、横幅364mmとなかなかいいサイズだ。もちろんMM/MC両対応で、こちらは2.5/40Ω切り替え式の昇圧トランスが内蔵されている。税別10万円を切る価格もちょっとうれしいところだ。
アキュフェーズC-27。アナログ全盛期からデジタル過渡期に至るまで、同社のアナログ技術は他に先んじていた部分が多かった。50万円級というと実力モデルが群雄割拠するセグメントだけに、早く音を聴いてみたいものである。
ラックスマンE-200。100シリーズがA4で今作がB4というから、200番台もシリーズ化されるのだろうか?
アナログはアクセサリーの豊富さが音質と使い勝手の良し悪しを決めるといって過言ではない。今年最も興味深いアクセサリーは、何といってもオルトフォンから新発売されたストロボスコープである。特にベルトドライブ製品をお使いの人は、ターンテーブルとモーターの軸、あるいはベルトが劣化した際に回転数が狂いやすくなる。ぜひ高精度のストロボスコープを1台揃えておかれることをお薦めする。
オルトフォンのストロボスコープ。円盤をターンテーブルに乗せ、本体のLEDから出力されるパルス光を当てて縞模様を読み取る。もちろん50/60Hz切り替えスイッチつきだ。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。
今年の会場は、さながら「アナログ・イヤー」の趣がある。アナログはCD時代に一度は下火になったが20世紀末ごろから息を吹き返し、それ以来もう長い間、CDやSACDなどのデジタルディスク勢とともに、私たちオーディオ好きのためのメインソースとなってきた。特にこの数年は、再ブームといっていい様相が続いているように思う。
■往年の名機のスピリットを継承するトーレンス「TD-550」
まず、注目すべきプレーヤーから挙げていこう。会場を歩いていてまず目を見張ったのは、ノアのブースにあったトーレンスの新製品「TD-550」である。横幅53.2cmの堂々たる体躯を持つプレーヤーで、重量は22kgと意外に軽いなと思ったら、ウッドとクロームに覆われたボディ内部のフローティング・シャシーは何とカーボン製という。なるほどと納得がいった。クローム仕上げのアルミ製ターンテーブルは6.2kgと十分に重い。
型番の連続性といい、実効長30cmを超えるロングアームを楽に取り付けられる大きさといい、本機は往年の名機「TD-520」の後継とみなすべきプレーヤーであろう。修理・調整を繰り返しながら長く520を使ってこられた年配のマニアはもちろん、かのサウンドに触れたことのない若いマニアにも、ぜひ一度体験してもらいたいプレーヤーである。
トーレンスTD-550。アームレスで税別130万円と高価なプレーヤーだが、アナログでは昨今それほど驚くような価格でもない。これだけの陣容をこの価格で発売できるのは、長年の蓄積あってこそなのであろう。
■トランスローターの超弩級プレーヤー「Tourbillon」
超弩級プレーヤーをもうひとつ。エアータイト・ブランドの真空管アンプでおなじみのエイアンドエムが輸入している独トランスローターのプレーヤーには、いまだ日本に入ってきていない上級機がいくつかあるのだという。そのひとつ、「Tourbillon」がこのたび日本への初お目見えを果たした。
下段に金属、上段にアクリルという二段構えのターンテーブルだが、ベルトドライブの動力は下段を回し、上段へは下段ターンテーブルからマグネットの磁気のみを通じて駆動力が伝達されている。すなわち上段と下段の間には隙間が開いており、モーターのコギングや軸の摺動ノイズなどが一切上段に伝わることがないのだという。これは社名の由来ともなった駆動方式で、同社の他モデルにも一部用いられている。また、ディスクのそりを押さえると同時にイナーシャを増し、安定したトレースを実現する外周スタビライザーがアクセサリーとして用意されているのも見逃せない。会場では「これだけでも欲しい」という声が挙がっていたとか。私も同感だ。
さらに、エアータイト・ブランドのプレーヤーも参考出品されていたのには驚いた。TITANシルバーに近い同社のイメージカラーをまとったこのプレーヤーは、まだ試作のかなり早い段階だそうで、「完成までにはもうしばらくかかる」と同社の三浦社長は語っていたが、現状でも非常に手堅い作りを垣間見ることができる。期待しようではないか。
トランスローターTourbillon。価格は未定だがアームレスで550万円くらいになるのでは、という話だった。このプレーヤーではマイソニック・ラボの松平社長が自ら「ウルトラエミネント」を装着・調整、「ミスター・スーパーアナログ」の高和元彦氏がご自慢の盤をかけるセミナーを行っていた。その再生音たるや、筆舌に尽くしがたい。
エアータイト・ブランド独自開発のプレーヤー(試作品)。分厚い金属のキャビネットに大きなアルミのプラッターが載る。完全リジッド構造のプレーヤーである。完成が待ち遠しい。
■ウェル・テンパードやマッキントッシュからも注目のプレーヤーが登場
注目すべきプレーヤーはまだまだある。1980年代、特にアームの独創性で一世を風靡した米ウェル・テンパードのプレーヤーは、もうずいぶん長く日本に入ってきていなかった。ところが今年、スキャンテック販売のブースをのぞいてみると、シリコンオイルを注入したカップに構造体を沈め、軸を糸吊りにしたアームを持つ、ごくシンプルなプレーヤーが展示されているではないか。「まるでウェル・テンパードみたいだな」と思ったら案の定、同社の製品だった。
聞くところによると同社はここしばらく雌伏を余儀なくされていたが、このたび心機一転、新たなラインアップで再出発に成功したのだという。応援したい。
新生ウェル・テンパードのプレーヤー「アマデウス」。小ぶりかつシンプルで美しいベルトドライブ構造は以前から変わりない。
ウェル・テンパードの基幹技術「糸吊りオイルダンプアーム」の根幹部。きわめて粘度の高いシリコンオイルのバスに構造体を沈めてオイルダンプしているのだが、今作はその構造体にゴルフボール形状のものを使っているのが面白い。
初夏ごろにマッキントッシュのアナログプレーヤーが発表されたときには度肝を抜かれた。最初に公表された写真で見る限り、アンプの上にアクリルの切り株を載せたようなルックスに首をかしげていたのだが、現物はどうしてなかなかにスタイリッシュである。特に同社製品でシステムをそろえている人なら、むしろ「ああでなければならない」と思われているのではないか。音は実にS/Nが良く、端正で上質の表現を聴かせてくれた。実質的に第1号のアナログプレーヤーだが、1980年代に同社はアナログの開発を進めており、往時のノウハウが本機にはすべて投入されているのだという。
また、付属のMCカートリッジも自社開発というから驚かされるが、こちらも往時に進んでいた開発技術の賜物だとか。考えてみれば同社はスピーカーで長年のトランスデューサー技術を蓄積しているのだ。カートリッジを開発したとして、さほど驚くには当たらなかったともいえそうである。
マッキントッシュMT10。こうやって写真に撮るとレンズの構造上どうしてもフロントパネルが大きく写り、変なプロポーションに見えてしまうのだが、実物はもっとずっとスタイリッシュだ。
何とカートリッジMCC10まで自社開発・生産である。名前から分かる通りMC型の発電機構を持つ。
■創業90周年のオルトフォンからSPUカートリッジのアニバーサリーモデル
どうもアナログ関連の出展にはワクワクさせられるものだから、つい筆が走ってしまう。アナログ関連のアクセサリー・グッズ類の注目製品を取り上げることとしよう。
このところカートリッジも数多く新製品が登場してきているが、今回で最も注目すべき出展は、何といっても新しいSPUシリーズであろう。「SPU 90thアニバーサリー」(製品版は変更の可能性あり)という名のこのカートリッジは、その名の通り同社の創業90周年を記念するモデルであり、初日にぎりぎり間に合わせてデンマークの社長が会場まで持参したものなのだそうだ。
本機は世代を超えて同社のカートリッジ設計を受け継いできたロバート・グッドマンセンとペア・ウィンドフェルドの音作りをさらに磨き上げ、より自然かつ優雅でダイナミックな音質に仕上げたものという。コイルは純銀メッキの6N銅線、内部配線は金メッキの高純度銀線が用いられているという。2Ωで出力電圧0.3mV、適正針圧2.5〜3.5gというスペックを持つ。漆塗りの木質Gシェルには5世紀デンマークのホルン(角笛)が描かれている。
音は濃厚で力強いSPUの持ち味を保持しながら、より晴れやかさと軽やかさを併せ持つ、明るく彩りの鮮やかなサウンドというイメージだ。
オルトフォン創業90周年記念のSPU。吸い込まれそうな深い艶のGシェルが見る者を魅了する。音はそれにも増して美しい。傾向的にはSPUロイヤルをさらに磨き抜いたようなイメージである。
■THALES/SPIRAL GROOVEのトーンアーム
今年はトーンアームにも驚くべき製品がいくつか登場してきた。一昨年から最近までのアーム類の新製品は専らメイド・イン・ジャパンだったが、今年最大の注目株はユキムがスイスから連れてきたTHALESのアームである。
メインアームの先端に取り付けられたごく小さなカートリッジ・シェルから後方に長くサブアームが伸び、メインアームの軸から伸びるリンクを通じて三角形をなしている。この機構により、オフセットアームでありながらトラッキングエラーを追放、リニアトラッキング・アームと同等のトラックアングルと、オフセットアームの支点の揺るぎなさの両方を獲得することに成功したのだという。
音は身の詰まったハイスピード・サウンドというか、力強いが頭を抑えられたような感じや歪み成分を感じさせず、それでいてどこまでも繊細に伸びる超高品位の表現を楽しませてくれる。かの「Tsurube」を作り上げた四十七研究所の木村社長がこのアームを見たらどう思われるか、ちょっと話を伺ってみたくなった。
アームではもう1品、有望な新製品がお目見えしている。スキャンテック販売の「スパイラル・グルーブ」ターンテーブルには、ほぼ純正扱いで米グラハム・エンジニアリング社のアームが搭載されているが、このたびスパイラル・グルーブ自身が開発したアームも会場を飾っていた。細いパイプを持つストレートタイプで、重心が低く精密極まる作りに、至近から観察していて惚れぼれとした。いまだ試作の段階だそうだが、正式発売が楽しみな製品である。
スイス発、THALESのトーンアーム。実に不思議な造形だが、これでトラッキングエラーはゼロになるそうである。頭の良い人もいるものである。音の鮮烈さ、抜けの良さからして本質的に優れたアームなのであろうと思う。じっくり試してみたい製品だ。
スパイラル・グルーブ・オリジナルのアームがついに現れた。もちろん同社プレーヤーにワンタッチで取り付けられるバヨネット式のマウントが付属している。音も少しだけ聴けたが、ピンポイントに音像が決まるカミソリのような解像度が印象的だ。
■アキュフェーズとラックスマンが新フォノイコアンプを出展
続いてはフォノイコライザー・アンプを。個人的に今年のショウで一番驚いたのは、アキュフェーズのブースだった。何と、「C-27」という型番の製品がお目見えしているではないか。かつて同社には「C-7」、そして「C-17」という製品があった。いずれもMCカートリッジ用のヘッドアンプで、特にC-17は他と隔絶した超高解像度を聴かせてくれた。生産完了から20年を経て、いまだに愛用している超マニアの多い製品である。
その型番を引き継ぎ、現代に生み出された製品は、フォノイコライザー・アンプだった。もちろんMM/MC両対応で、それぞれ独立した増幅回路が搭載されている。MCは3Ω〜1kΩの6段階、MMは1k〜100kΩの3段階にインピーダンスの切り替えが可能だ。特にMMの100kΩ受けは昨今珍しい。エンパイアをはじめ、往年のハイインピーダンス受けカートリッジをお使いの人には朗報だろう。会場には何とも品の良い奥行き感たっぷりのサウンドが流れていた。1日も早く自宅リファレンス・システムで音を聴いてみたくなった製品である。
フォノイコではもうひとつ、ラックスマンの「E-200」が目を引いた。好評の「ネオクラシコ」シリーズはA4サイズだが、本機はB4書類型で、横幅364mmとなかなかいいサイズだ。もちろんMM/MC両対応で、こちらは2.5/40Ω切り替え式の昇圧トランスが内蔵されている。税別10万円を切る価格もちょっとうれしいところだ。
アキュフェーズC-27。アナログ全盛期からデジタル過渡期に至るまで、同社のアナログ技術は他に先んじていた部分が多かった。50万円級というと実力モデルが群雄割拠するセグメントだけに、早く音を聴いてみたいものである。
ラックスマンE-200。100シリーズがA4で今作がB4というから、200番台もシリーズ化されるのだろうか?
アナログはアクセサリーの豊富さが音質と使い勝手の良し悪しを決めるといって過言ではない。今年最も興味深いアクセサリーは、何といってもオルトフォンから新発売されたストロボスコープである。特にベルトドライブ製品をお使いの人は、ターンテーブルとモーターの軸、あるいはベルトが劣化した際に回転数が狂いやすくなる。ぜひ高精度のストロボスコープを1台揃えておかれることをお薦めする。
オルトフォンのストロボスコープ。円盤をターンテーブルに乗せ、本体のLEDから出力されるパルス光を当てて縞模様を読み取る。もちろん50/60Hz切り替えスイッチつきだ。
(炭山アキラ)
執筆者プロフィール
1964年、兵庫県神戸市生まれ。17歳の時、兄から譲り受けたシステムコンポがきっかけでオーディオに興味を持ち始める。19歳の時、粗大ゴミに捨ててあったエンクロージャーを拾ってきて改造し、20cmフルレンジを取り付けた頃からスピーカー自作の楽しさにも開眼する。90年代よりオーディオ・ビジュアル雑誌に在籍し、以後FM雑誌の編集者を経てライターに。FM雑誌時代には故・長岡鉄男氏の担当編集者を勤める。現在は新進気鋭のオーディオライターとして、様々なオーディオ誌にて活躍する。趣味はDIYにレコード収集。また、地元の吹奏楽団では学生の頃から親しんだユーフォニウムを演奏する一面も持つ。