山之内正のCES2009レポート
CES2009「ハイパフォーマンス・オーディオ」の展示 − TAD「CR-1」のデモを体験した
CES開幕2日目の8日はベネチアンタワーとサンズ・エクスポの2会場で開催されている「ハイパフォーマンス・オーディオ」の展示を中心に歩くが、ラスベガスでも1、2を争う巨大ホテルの数フロアを占有した会場は広大で、例年のことながらとても一日では回りきれない。出展ブースのほぼ半分を訪ねたところで時間切れとなった。
コンベンションセンターのAV関連やPC系の展示とは異なり、こちらは数人で満員になる小空間でのデモンストレーションが多いこともあり、雰囲気は好対照を成す。比較的広いスペースを使っているメーカーもあるが、それでも10人も集まれば満席だ。
広めのスペースを使っているブースの一つがTADだが、今日はそのTADの会場にゲストが訪れ、興味深い試聴会が開催された。テーマは「ハイレゾリューション・オーディオ」、ゲストは著名なエンジニア/プロデューサーのビル・シュニーである。シュニーとともに偉大な録音を多数残しているダグ・サックスも訪れる予定だったが、急な予定が入り、TADのアンドリュー・ジョーンズとビル・シュニーの2人を中心に試聴が行われたが、それに加えて来場者も交えた活発な議論が繰り広げられ、興味深い展開となった。ここではその一部を紹介することにしよう。
TADの試聴室では同社の小型リファレンススピーカー「CR-1」が用意されていた。Reference Oneの技術を継承した小型モニターである。ソースはすべてサーバーに保存されているが、このサーバーはファンレス仕様で動作時も完全に無音、しかもHDDではなくSSD(ソリッドステートドライブ)を使用している。デジタル出力はバークレーオーディオの「Alpha DAC」(ボリューム内蔵)を経由し、パスのモノラルパワーアンプ「XA 00.5」に直接入力されてCR-1をドライブする。非常にシンプルな再生システムだ。
CDの44.1kHz/16bitのデータから順に再生していくが、その段階ですでにスタジオマスターのような透明度の高いサウンドが鳴っている。そのパフォーマンスの高さに驚いた来場者から「これはCDではなくハイレゾリューションフォーマットではないのか」と疑問の声が上がったが、D/Aコンバーターのディスプレイには紛れもなく「44.1」の数字が表示されている。音が良い理由についてアンドリュー・ジョーンズは、「CDのリッピングデータをHDD、SDDで再生すると、どんなトランスポートよりも透明感の高い音がする」と説明していた。リッピングソフトとして彼が薦めていたのはEAC(Exact Audio Copy)であるが、このソフトはbit単位で精度の高い抽出ができることで知られている。
続いて本題であるハイレゾリューションフォーマットのソース(88.2kHz、192kHzなど)を、ビル・シュニーが持参したデータのなかから再生する。ドラムソロ、ボーカル、ウィンドオーケストラなど数種類のソースを再生したが、そのサウンドはいずれも耳を疑うほどの鮮度の高さで、ホテルのスイートルームが一瞬にしてスタジオのマスタリングルームになったと錯覚するほど、空気の密度までガラリと変化した。パーカッションやギターは切れが鋭くハイスピード、しかも音そのものは硬さがなく、大音量でも決してうるさくない。声のイメージは引き締まってにじみがなく、歌っているときの顔の向きがわかるほどリアルな音像が浮かび上がる。マスター音源の圧倒的情報量にあらためて驚かされるが、そこまで次元の高いサウンドを再現するCR-1の実力も半端ではない。
ビル・シュニーやダグ・サックスは、これらの高音質マスター音源を家庭で楽しめるようにするために、ブルーレイディスクを音楽専用ディスクとして使用するフォーマットをパイオニアとともに提案していくという。同仕様のディスクはすでにノルウェーの「2L」レーベルから1タイトル(『ディヴェルティメンティ』)発売されており、日本にも輸入されている。BDの音楽専用ディスクという意味そのままの「Blu-ray Music Only Disc」という呼称を使うようだが、市販の大半のBDプレーヤーでそのまま再生が可能だという(筆者も『ディヴェルティメンティ』で検証済み)。
試聴が進む過程で来場者からの質問が相次ぎ、「物理メディア」と「ネットワークミュージック」の関係、SACDやDVDオーディオとの比較などをテーマに活発な議論が繰り広げられた。CESに限らず、最近のハイエンドオーディオのイベントでは、マスタークオリティの音源を媒介するメディアとして物理ディスクとダウンロードのどちらが優れているかなど、多くの議論が沸き上がっている。さらに、それぞれのメリット、デメリットをめぐって様々な提案が行われているのだが、今年はその動きがますます加速することになりそうだ。
コンベンションセンターのAV関連やPC系の展示とは異なり、こちらは数人で満員になる小空間でのデモンストレーションが多いこともあり、雰囲気は好対照を成す。比較的広いスペースを使っているメーカーもあるが、それでも10人も集まれば満席だ。
広めのスペースを使っているブースの一つがTADだが、今日はそのTADの会場にゲストが訪れ、興味深い試聴会が開催された。テーマは「ハイレゾリューション・オーディオ」、ゲストは著名なエンジニア/プロデューサーのビル・シュニーである。シュニーとともに偉大な録音を多数残しているダグ・サックスも訪れる予定だったが、急な予定が入り、TADのアンドリュー・ジョーンズとビル・シュニーの2人を中心に試聴が行われたが、それに加えて来場者も交えた活発な議論が繰り広げられ、興味深い展開となった。ここではその一部を紹介することにしよう。
TADの試聴室では同社の小型リファレンススピーカー「CR-1」が用意されていた。Reference Oneの技術を継承した小型モニターである。ソースはすべてサーバーに保存されているが、このサーバーはファンレス仕様で動作時も完全に無音、しかもHDDではなくSSD(ソリッドステートドライブ)を使用している。デジタル出力はバークレーオーディオの「Alpha DAC」(ボリューム内蔵)を経由し、パスのモノラルパワーアンプ「XA 00.5」に直接入力されてCR-1をドライブする。非常にシンプルな再生システムだ。
CDの44.1kHz/16bitのデータから順に再生していくが、その段階ですでにスタジオマスターのような透明度の高いサウンドが鳴っている。そのパフォーマンスの高さに驚いた来場者から「これはCDではなくハイレゾリューションフォーマットではないのか」と疑問の声が上がったが、D/Aコンバーターのディスプレイには紛れもなく「44.1」の数字が表示されている。音が良い理由についてアンドリュー・ジョーンズは、「CDのリッピングデータをHDD、SDDで再生すると、どんなトランスポートよりも透明感の高い音がする」と説明していた。リッピングソフトとして彼が薦めていたのはEAC(Exact Audio Copy)であるが、このソフトはbit単位で精度の高い抽出ができることで知られている。
続いて本題であるハイレゾリューションフォーマットのソース(88.2kHz、192kHzなど)を、ビル・シュニーが持参したデータのなかから再生する。ドラムソロ、ボーカル、ウィンドオーケストラなど数種類のソースを再生したが、そのサウンドはいずれも耳を疑うほどの鮮度の高さで、ホテルのスイートルームが一瞬にしてスタジオのマスタリングルームになったと錯覚するほど、空気の密度までガラリと変化した。パーカッションやギターは切れが鋭くハイスピード、しかも音そのものは硬さがなく、大音量でも決してうるさくない。声のイメージは引き締まってにじみがなく、歌っているときの顔の向きがわかるほどリアルな音像が浮かび上がる。マスター音源の圧倒的情報量にあらためて驚かされるが、そこまで次元の高いサウンドを再現するCR-1の実力も半端ではない。
ビル・シュニーやダグ・サックスは、これらの高音質マスター音源を家庭で楽しめるようにするために、ブルーレイディスクを音楽専用ディスクとして使用するフォーマットをパイオニアとともに提案していくという。同仕様のディスクはすでにノルウェーの「2L」レーベルから1タイトル(『ディヴェルティメンティ』)発売されており、日本にも輸入されている。BDの音楽専用ディスクという意味そのままの「Blu-ray Music Only Disc」という呼称を使うようだが、市販の大半のBDプレーヤーでそのまま再生が可能だという(筆者も『ディヴェルティメンティ』で検証済み)。
試聴が進む過程で来場者からの質問が相次ぎ、「物理メディア」と「ネットワークミュージック」の関係、SACDやDVDオーディオとの比較などをテーマに活発な議論が繰り広げられた。CESに限らず、最近のハイエンドオーディオのイベントでは、マスタークオリティの音源を媒介するメディアとして物理ディスクとダウンロードのどちらが優れているかなど、多くの議論が沸き上がっている。さらに、それぞれのメリット、デメリットをめぐって様々な提案が行われているのだが、今年はその動きがますます加速することになりそうだ。