大胆きわまりない新アイデアも
【HIGH END】山之内 正が注目したスピーカー、そのサウンドとは(1)Focal/PMC編
HIGH ENDの会場で出会った新製品と現行機種のなかから、この記事ではスピーカーに焦点を合わせて音の印象をまとめておく。
まずは大物から。フォーカルのブースでは新たなフラグシップ「Grande Utopia EM Evo」(関連ニュース)がお目見えした。
■ドライバー構造自体にメスを入れたFocalの新旗艦スピーカー
Grande Utopia EMをEvoバージョンに進化させたことが今回の重要なトピックで、磁気回路の改良技術であるNICやTMDサスペンションを導入して歪や不要振動を大幅に低減させることに成功したという。
ベリリウムトゥイーターやWサンドウィッチ構造のウーファー振動板など基幹技術は先行して発売された下位のEvoシリーズと共通だが、ドライバー構造自体にもメスを入れ、有害な共振を抑える対策としてメカニカルなアルミ製リングをドライバーとバスケットの間に導入したことが新しい。
HIGH ENDでのフォーカルのデモンストレーションは大型スピーカーならではの重量級の低音をアピールするためか、低域のエネルギーが際立つ音源を積極的に使うことが多い。今年もその手法自体は変わらないものの、Grande Utopia EM Evoに導入された改良技術が功を奏したのか、例年に比べて制動の効いた切れの良い低音を再生していたことが印象に残った。
バスドラムが刻むリズムは一音一音から風圧を感じるほど強靭だが、マッシブな塊感よりもインパクトの強さとスピードで実在感を際立たせる。試聴会場が横長で座席が階段状になっていたこともプラスに働いたのか、床を這うような低音ではなくダイレクトで勢いのある低音を聴かせていた。
R.コルサコフ《道化師の踊り》を聴いて、その印象がさらに強まった。大太鼓の強打でアタックがつぶれず、この録音本来のヌケの良さをを引き出しているし、余韻の減衰が早いので木管や弦の旋律がもたついたり音色が濁ることがない。
金管楽器は特にトロンボーンのスライドの動きが見えるようなリアルな発音が聴きどころで、すべての音域で速さが正確に揃っていることを印象付けた。筆者は最後列で聴いたのだが、音の浸透力の強さは驚くばかりで、これならミニシアター規模の部屋でも余裕で鳴らせると感じた。
■PMCのフラグシップスピーカー「fenestria」
英国のPMCはホームオーディオ向けのフラグシップスピーカー「fenestria」を発表した。高さ1.7mは家庭用としてはかなり背が高いが、威圧感を感じないのは横幅を40cm未満に抑えているためだろう。
4基搭載するウーファーユニットは16.5cmと小口径だが、PMCの基幹技術であるATL(アドバンスド・トランスミッション・ライン)を組み合わせることで、30Hz以下の超低域まで十分なネルギーを確保している。ちなみにATLの有効長は上下2分割された各キャビネット内でそれぞれ2.4mに及ぶという。
nestと名付けられた中高域用バッフルはソリッドなアルミニウムを採用しており、低域ドライバーとの相互干渉を徹底して遮断している。75mm口径のミッドレンジ背面にはアルミ材を用いた専用ハウジングが備わり、トゥイーターにも入念なダンピングが行われている。
fenestriaのコンセプトは、ドライバーユニットのフレームやエンクロージャーなどスピーカー自体が発する余分な音をすべて排除し、音楽だけを伝えるというもの。ラテン語の「窓」に由来する型名を選んだのはそこに理由があるのだろう。つまり、音楽に透明な窓を空けたようなピュアな音を目指したということだ。わかりやすく言い換えれば、スピーカーの存在が消える境地を目指したということになる。
共鳴や固有音を劇的に減らす技術としてTMD(チューンド・マス・ダンピング)を応用しているが、その手法が大胆きわまりない。十分な補強桟でキャビネット本体の不要振動を抑えたうえで、キャビネットの共振周波数をターゲットにして側板自体をTMDとしてチューニングし、共振が発生する前に抑えてしまおうというのだ。TMDの採用はB&Wやフォーカルなど他社にも例があるが、側板という大型パーツでそれを実現している点が実に興味深い。
スタジオで聴くPMCの大型モニターとfenestriaの音には共通点もあるが、違いも少なくない。カラーレーションが少ないという点ではfenestriaの方が優位に立ち、温度感や密度の高さはMB1などスタジオモニターに軍配が上がる。ホームとスタジオでは用途も再生音量も違うから比べるべきではないのだが、fenestriaは思い切って新しい方向を目指したスピーカーなのだ。
同じブランドならではの音の志向も感じられた。音像のフォーカスの良さはその一例で、にじみのないクリアなヴォーカルやパーカッションのピンポイントの定位は見事というしかない。
fenestriaで再生するヴォーカルは耳の高さに鮮明な声の音像が浮かぶが、感心させられたのはそのイメージ自体が3次元の立体感をそなえ、しかも強い芯があるのに澄んだ音色を聴かせることだ。付帯音がきわめて少ないことは人間の声を聴けばすぐにわかるが、だからと言って声が痩せたり神経質になることはまったくない。音源に入っている肉声ならではの温かみや浸透力の強さを忠実に引き出すという点でも、PMCのスピーカーの美点をそのまま受け継いでいる。
音数が多く、楽器同士の関係がかなり複雑な曲を聴いてもベースラインが正確に浮かんでくる点も、fenestriaの長所の一つだ。旋律や他のリズムが強い音圧で鳴っていても、低音に耳の神経を集中させるとベースの音形がクリアに浮かび、基本音形を小節ごとに少しずつ変えて演奏している箇所もすぐに気付く。こんな風にベースが聴こえるのならもっと気合を入れて演奏しようと奮起するベーシストが必ずいると思う。
(その2に続く)
まずは大物から。フォーカルのブースでは新たなフラグシップ「Grande Utopia EM Evo」(関連ニュース)がお目見えした。
■ドライバー構造自体にメスを入れたFocalの新旗艦スピーカー
Grande Utopia EMをEvoバージョンに進化させたことが今回の重要なトピックで、磁気回路の改良技術であるNICやTMDサスペンションを導入して歪や不要振動を大幅に低減させることに成功したという。
ベリリウムトゥイーターやWサンドウィッチ構造のウーファー振動板など基幹技術は先行して発売された下位のEvoシリーズと共通だが、ドライバー構造自体にもメスを入れ、有害な共振を抑える対策としてメカニカルなアルミ製リングをドライバーとバスケットの間に導入したことが新しい。
HIGH ENDでのフォーカルのデモンストレーションは大型スピーカーならではの重量級の低音をアピールするためか、低域のエネルギーが際立つ音源を積極的に使うことが多い。今年もその手法自体は変わらないものの、Grande Utopia EM Evoに導入された改良技術が功を奏したのか、例年に比べて制動の効いた切れの良い低音を再生していたことが印象に残った。
バスドラムが刻むリズムは一音一音から風圧を感じるほど強靭だが、マッシブな塊感よりもインパクトの強さとスピードで実在感を際立たせる。試聴会場が横長で座席が階段状になっていたこともプラスに働いたのか、床を這うような低音ではなくダイレクトで勢いのある低音を聴かせていた。
R.コルサコフ《道化師の踊り》を聴いて、その印象がさらに強まった。大太鼓の強打でアタックがつぶれず、この録音本来のヌケの良さをを引き出しているし、余韻の減衰が早いので木管や弦の旋律がもたついたり音色が濁ることがない。
金管楽器は特にトロンボーンのスライドの動きが見えるようなリアルな発音が聴きどころで、すべての音域で速さが正確に揃っていることを印象付けた。筆者は最後列で聴いたのだが、音の浸透力の強さは驚くばかりで、これならミニシアター規模の部屋でも余裕で鳴らせると感じた。
■PMCのフラグシップスピーカー「fenestria」
英国のPMCはホームオーディオ向けのフラグシップスピーカー「fenestria」を発表した。高さ1.7mは家庭用としてはかなり背が高いが、威圧感を感じないのは横幅を40cm未満に抑えているためだろう。
4基搭載するウーファーユニットは16.5cmと小口径だが、PMCの基幹技術であるATL(アドバンスド・トランスミッション・ライン)を組み合わせることで、30Hz以下の超低域まで十分なネルギーを確保している。ちなみにATLの有効長は上下2分割された各キャビネット内でそれぞれ2.4mに及ぶという。
nestと名付けられた中高域用バッフルはソリッドなアルミニウムを採用しており、低域ドライバーとの相互干渉を徹底して遮断している。75mm口径のミッドレンジ背面にはアルミ材を用いた専用ハウジングが備わり、トゥイーターにも入念なダンピングが行われている。
fenestriaのコンセプトは、ドライバーユニットのフレームやエンクロージャーなどスピーカー自体が発する余分な音をすべて排除し、音楽だけを伝えるというもの。ラテン語の「窓」に由来する型名を選んだのはそこに理由があるのだろう。つまり、音楽に透明な窓を空けたようなピュアな音を目指したということだ。わかりやすく言い換えれば、スピーカーの存在が消える境地を目指したということになる。
共鳴や固有音を劇的に減らす技術としてTMD(チューンド・マス・ダンピング)を応用しているが、その手法が大胆きわまりない。十分な補強桟でキャビネット本体の不要振動を抑えたうえで、キャビネットの共振周波数をターゲットにして側板自体をTMDとしてチューニングし、共振が発生する前に抑えてしまおうというのだ。TMDの採用はB&Wやフォーカルなど他社にも例があるが、側板という大型パーツでそれを実現している点が実に興味深い。
スタジオで聴くPMCの大型モニターとfenestriaの音には共通点もあるが、違いも少なくない。カラーレーションが少ないという点ではfenestriaの方が優位に立ち、温度感や密度の高さはMB1などスタジオモニターに軍配が上がる。ホームとスタジオでは用途も再生音量も違うから比べるべきではないのだが、fenestriaは思い切って新しい方向を目指したスピーカーなのだ。
同じブランドならではの音の志向も感じられた。音像のフォーカスの良さはその一例で、にじみのないクリアなヴォーカルやパーカッションのピンポイントの定位は見事というしかない。
fenestriaで再生するヴォーカルは耳の高さに鮮明な声の音像が浮かぶが、感心させられたのはそのイメージ自体が3次元の立体感をそなえ、しかも強い芯があるのに澄んだ音色を聴かせることだ。付帯音がきわめて少ないことは人間の声を聴けばすぐにわかるが、だからと言って声が痩せたり神経質になることはまったくない。音源に入っている肉声ならではの温かみや浸透力の強さを忠実に引き出すという点でも、PMCのスピーカーの美点をそのまま受け継いでいる。
音数が多く、楽器同士の関係がかなり複雑な曲を聴いてもベースラインが正確に浮かんでくる点も、fenestriaの長所の一つだ。旋律や他のリズムが強い音圧で鳴っていても、低音に耳の神経を集中させるとベースの音形がクリアに浮かび、基本音形を小節ごとに少しずつ変えて演奏している箇所もすぐに気付く。こんな風にベースが聴こえるのならもっと気合を入れて演奏しようと奮起するベーシストが必ずいると思う。
(その2に続く)
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