サラウンドで迫る生霊の怨念
冨田勲「源氏物語幻想交響絵巻」、AURO 3D/Dolby Atmosも収録したCD&Blu-rayで発売
冨田勲が「源氏物語」からインスピレーションを受けて作曲した『源氏物語幻想交響絵巻』のオーケストラアルバムが、ステレオとイマーシブオーディオフォーマットを収録したCD&Blu-rayで発売となる。発売日は冨田勲の命日となる5月5日、価格は4,840円(税込)。
このアルバムは、2015年4月3日に大阪のいずみホールで行われた「源氏物語幻想交響絵巻」の全曲演奏会の模様を、3Dオーディオのフォーマットで収録したもの。過去にロサンゼルス・フィルや東京交響楽団による録音もリリースされているが、今作は2014年に改訂された最終稿での初レコーディング。琵琶や篳篥といった和楽器とシンセサイザー、オーケストラの演奏に、京ことばによる朗読も加わった、ある意味「和風オペラ」と言うべき幽玄の物語世界が展開される。
CD2枚(MQA-CD)とBlu-ray1枚の合計3枚組となっており、CDはステレオ音声、Blu-rayにはイマーシブオーディオが収録される。Blu-rayには、ステレオの192kHz/24bitの音源に加え、11.1chのAURO 3DとDolby Atmos、5.1chのDTS-HD Masterが収録されており、複数のイマーシブフォーマットの聴き比べができる珍しいアルバムとなっている。
この音源の試聴会が、オンラインで開催された。イマーシブオーディオのオンライン試聴会というのも奇妙な話ではあるが、この音源にはヘッドホン再生でサラウンド体験ができる「HPL」(Head Phone Listening)という技術も盛り込まれているため、実際にパソコン+ヘッドホンでもかなりリアリティのあるサラウンド感を感じることができた。
試聴会には録音、ミックス、マスタリングを担当した入交英雄氏も登場し、マイキングの秘密やサラウンド収録にあたってのポイントなどを解説。通常のステレオ録音で利用されるデッカツリーに加えて、左右に離れたところに「アウトリガー」を設置。アウトリガーとは、元々は船などで船体を安定させるために左右に突き出して固定される浮きのことを指すが、今回のレコーディングでも同じように、左右に離れたところにマイクを設置し、オーケストラ全体の安定性を高める役割を果たしているという。
また、「オムニキューブ」と呼ばれる新たな手法も実践。無指向性マイクをX字型に4本、それを上下にセットした8本の組み合わせを作り、客席のど真ん中上方に設置、ホール全体の音を狙うアンビエンスマイクとして使用したとのことだ。
特にサラウンドが効果的に使われたと感じたのは、「生霊」という楽曲。六条御息所が、光源氏を愛するあまりに他の女への嫉妬に狂い、生霊となって女たちを呪い殺す有名なシーンを描いたものだが、ヘッドホン再生では「生霊」がまさに頭の後ろから呪いかけてくるような緊迫の場面が描き出される。六条御息所の複雑な心理、頭では間違っていると理解している、その理性的な部分は前方からの「朗読」で表現されながらも、感情を止めきれず肉体を飛び出して怨念が彷徨うさまがサラウンドで表現され、まさにイマーシブならではの効果で恐怖感を煽る。
また、「紫の上挽歌」では、光源氏の愛妻である紫の上が亡くなり悲しみに打ちひしがれるさまが描かれる。この曲では、「明珍火箸」という風鈴のような高い澄んだ音のする楽器を、オーケストラメンバーが鳴らすという演出がなされている。雪のキラキラと舞う様子を表現したということだが、さまざまな位置から鳴らされる火箸の音の距離感もヘッドホン再生では詳細に描き出される。火箸の冷たい響きは、愛する人を失い、無限とも思える時間の中にひとり取り残されるさま、深く遠くどこまでも続く哀しみのイメージを強烈に喚起させる。
パソコン+ヘッドホンでも驚くほどのイマーシブ体験が実現できたが、これをスピーカーシステム、あるいはAURO 3DやDolby Atmosのフルシステムで聴くとどれほどの体験が実現できるのか期待も高まる。
イマーシブオーディオのフォーマットの聴き比べとしてはもちろんだが、「ジャパニーズ・オペラ」の可能性を開く作品でもあり、和楽器とシンセサイザーの融合といった冨田勲ならではの世界観も堪能できる、さまざまな切り口から楽しめる作品となっている。
『源氏物語幻想交響絵巻』の指揮は藤岡幸夫、演奏は関西フィルハーモニー管弦楽団。レーベルはRME Premium Recordings。なお、CDはMQA-CDとなっており、対応デコーダーを所有してれば、最大176.4kHz/24bitのハイレゾクオリティで再生が可能となっている。
このアルバムは、2015年4月3日に大阪のいずみホールで行われた「源氏物語幻想交響絵巻」の全曲演奏会の模様を、3Dオーディオのフォーマットで収録したもの。過去にロサンゼルス・フィルや東京交響楽団による録音もリリースされているが、今作は2014年に改訂された最終稿での初レコーディング。琵琶や篳篥といった和楽器とシンセサイザー、オーケストラの演奏に、京ことばによる朗読も加わった、ある意味「和風オペラ」と言うべき幽玄の物語世界が展開される。
CD2枚(MQA-CD)とBlu-ray1枚の合計3枚組となっており、CDはステレオ音声、Blu-rayにはイマーシブオーディオが収録される。Blu-rayには、ステレオの192kHz/24bitの音源に加え、11.1chのAURO 3DとDolby Atmos、5.1chのDTS-HD Masterが収録されており、複数のイマーシブフォーマットの聴き比べができる珍しいアルバムとなっている。
この音源の試聴会が、オンラインで開催された。イマーシブオーディオのオンライン試聴会というのも奇妙な話ではあるが、この音源にはヘッドホン再生でサラウンド体験ができる「HPL」(Head Phone Listening)という技術も盛り込まれているため、実際にパソコン+ヘッドホンでもかなりリアリティのあるサラウンド感を感じることができた。
試聴会には録音、ミックス、マスタリングを担当した入交英雄氏も登場し、マイキングの秘密やサラウンド収録にあたってのポイントなどを解説。通常のステレオ録音で利用されるデッカツリーに加えて、左右に離れたところに「アウトリガー」を設置。アウトリガーとは、元々は船などで船体を安定させるために左右に突き出して固定される浮きのことを指すが、今回のレコーディングでも同じように、左右に離れたところにマイクを設置し、オーケストラ全体の安定性を高める役割を果たしているという。
また、「オムニキューブ」と呼ばれる新たな手法も実践。無指向性マイクをX字型に4本、それを上下にセットした8本の組み合わせを作り、客席のど真ん中上方に設置、ホール全体の音を狙うアンビエンスマイクとして使用したとのことだ。
特にサラウンドが効果的に使われたと感じたのは、「生霊」という楽曲。六条御息所が、光源氏を愛するあまりに他の女への嫉妬に狂い、生霊となって女たちを呪い殺す有名なシーンを描いたものだが、ヘッドホン再生では「生霊」がまさに頭の後ろから呪いかけてくるような緊迫の場面が描き出される。六条御息所の複雑な心理、頭では間違っていると理解している、その理性的な部分は前方からの「朗読」で表現されながらも、感情を止めきれず肉体を飛び出して怨念が彷徨うさまがサラウンドで表現され、まさにイマーシブならではの効果で恐怖感を煽る。
また、「紫の上挽歌」では、光源氏の愛妻である紫の上が亡くなり悲しみに打ちひしがれるさまが描かれる。この曲では、「明珍火箸」という風鈴のような高い澄んだ音のする楽器を、オーケストラメンバーが鳴らすという演出がなされている。雪のキラキラと舞う様子を表現したということだが、さまざまな位置から鳴らされる火箸の音の距離感もヘッドホン再生では詳細に描き出される。火箸の冷たい響きは、愛する人を失い、無限とも思える時間の中にひとり取り残されるさま、深く遠くどこまでも続く哀しみのイメージを強烈に喚起させる。
パソコン+ヘッドホンでも驚くほどのイマーシブ体験が実現できたが、これをスピーカーシステム、あるいはAURO 3DやDolby Atmosのフルシステムで聴くとどれほどの体験が実現できるのか期待も高まる。
イマーシブオーディオのフォーマットの聴き比べとしてはもちろんだが、「ジャパニーズ・オペラ」の可能性を開く作品でもあり、和楽器とシンセサイザーの融合といった冨田勲ならではの世界観も堪能できる、さまざまな切り口から楽しめる作品となっている。
『源氏物語幻想交響絵巻』の指揮は藤岡幸夫、演奏は関西フィルハーモニー管弦楽団。レーベルはRME Premium Recordings。なお、CDはMQA-CDとなっており、対応デコーダーを所有してれば、最大176.4kHz/24bitのハイレゾクオリティで再生が可能となっている。
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