余計なイコライジングをせずケーブルで狙った音を実現する

米良美一×宮川彬良ライブ、音作りの舞台裏に迫る。「バニラハウス・サウンドラボ」Seiji Moritaのこだわり

公開日 2022/10/07 11:26 季刊・オーディオアクセサリー編集部・野間美紀子
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今年5月、東京・丸の内のライブハウス「コットンクラブ」で、カウンターテナーの米良美一と、作曲家/ピアニストの宮川彬良のデュオ・ライヴ「AKIRA MIYAGAWA × YOSHIKAZU MERA」が行われた。音作りを手掛けたのが、バニラハウス・サウンドラボのSeiji Morita。その音作りの現場を取材した。

本番のステージ。宮川彬良(左)と米良美一(右)

「もののけ姫」の主題歌で人気を確立したカウンターテナーのトップランナーである米良美一と、「マツケンサンバII」、「風のオリヴァストロ」、アニメ「宇宙戦艦ヤマト2199/2202」等の作曲で知られる宮川彬良。

このコンビでのコンサートは、2015年から全国各地のホールにて行われてきたが、コロナ禍でしばらくの間お休みし今年2月から再開。この企画をライブハウスにも広げようと、オフィスフォルテ×tama企画の試みで、2月の六本木ライブに続き、5月には丸の内コットンクラブ初出演となった。

この日サウンドコーディネートを手がけたSeiji Moritaは、普段はレコーディング・エンジニアを生業としており、自身のスタジオ「ヴァニラハウス・サウンドラボ」で、納得のいく音作りをするために、ケーブルや機材も自身で作成するというこだわりを持っている。プロミュージシャンやエンジニアの依頼も多く、ついにはブランドとして立ち上げた。そして今回のライブはオリジナルブランドのマイクプリからマイク、ラインケーブルを持ち込んでのサウンドメイクになった。

Seiji Morita(photo by 斉藤みき)

Moritaによると、そのオリジナルケーブルは、「使用する楽器によって長さを変える」という点が特徴だという。

「ピアノならピアノ、ヴォーカルならヴォーカルの持つ周波数特性があるので、ケーブルをミリ単位の長さを測って切ります。楽器特有の周波数特性に合わせその長さを計算しています。この楽器だとこのポイントというものがあるのです」

Morita製作オリジナルマイクケーブルたち。ピアノに4本、 ボーカルマイク3本、ピアニストのMC用1本

現場ではマイクセッティングのみならず、機器やスピーカーの置く位置にも制約があるため余裕を持った長さが必要であるが、そこでMoritaのいう「楽器ごとの法則」に基づいて計算した長さでカットしているという。

マイクケーブル(XLR)の線材はスタンダードなMOGAMIを中心に使用。

独自の手法を用いた製造方法により音のレスポンスを最大限に上げてレイテンシーを感じることがないことも特徴だとのこと。その上でサウンドのこだわりも見せている。

ピアノのマイクセッティング

ピアノはスタインウェイ


響板とトップパネルの間に設置したマイク

響板に設置したマイク
「ピアノというのはこういう音が聴こえるのがいい、という音があります。今日はスタインウェイでしたが、ヤマハやベーゼンドルファーなど、ピアノの種類によっても違います。今日は15mで作りました。ハンマーが弦に当たる音がちゃんと拾えること、トップエンドに、変な倍音(キーンという音)が鳴らないようにすること、ローが膨れないようにすることに配慮しています」


マイクアンプは全部で4台。最上段はMoritaのオリジナルイコライザー

ヴォーカルマイクはSHUREの「BETA87C」
「逆にヴォーカルは、かなり上が出るように作ります。ブレス音や、細かい高い音も出るように作ります。そうすると、PAを通しても近くで歌っているように感じられるのです」


現場でセッティングを行うSeiji Morita。今回はステージ向かって左の隅にマイクアンプを設置
余分なイコライジングは極力避け、ケーブルによって狙った音を実現することにMoritaのセンスが光る。

そうやって入念な準備を経て迎えた本番。目の前の素晴らしいパフォーマンスに引き込まれ、マイクを通していることを忘れさせるほどのサウンド、その音の「邪心のなさ」に感動させられる。米良の声は、天に届くように抜けが良い。宮川のピアノの音もとてもきれいで粒立ちが良かった。パンと弾いたらパンと鳴る。

ヒットソング「もののけ姫」「マツケンサンバII」のほか、天国に召される人が残される大切な人に書いた歌、「手紙」が圧巻だった。

Moritaは語る。「マイクで拾っている音(PAの音)は生の音とは違いますが、作られている、と感じさせないように仕上げることが大切です。ナチュラルで、エネルギー感が失われないことに気をつけました」


ライブを終え清々しい様子の宮川彬良
ファーストステージを終え、すがすがしい様子で楽屋に帰ってきた宮川彬良にもコメントをもらった。「今日の箱は、ホールではなくライブハウス、そして密を避けた入場制限を行ってのステージでしたが、満杯になるだけが能じゃない。音楽をやれることが良かった」

パフォーマーの素晴らしさと、エンジニアのこだわりと堅実さで、人を感動させる音楽が作り上げられる、そんな貴重な現場を見せてもらうことができた。

企画協力:tama企画

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