ジャズドラマー石若駿と豪華ゲストによる夢の競演

最高峰のイマーシブフォーマットで熱狂のジャズライヴが蘇る。「JAZZ NOT ONLY JAZZ」、収録の舞台裏を取材

公開日 2024/08/08 06:30 ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
6月21日金曜日、NHKホールにてジャズドラマー石若駿率いるThe Shun Ishiwaka Septetと、豪華ゲストたちによる一夜限りの特別ライブ「JAZZ NOT ONLY JAZZ」が開催された。

一夜限りのジャズの祭典「JAZZ NOT ONLY JAZZ」の模様がオンライン配信される

特別ゲストは、堀込泰行(キリンジ)、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、PUNPEE、アイナ・ジ・エンド、大橋トリオ、そして上原ひろみと、ジャズのみならずロックからヒップポップまでジャンルを超えた豪華アーティストが集結。

若手ジャズドラマーの筆頭株、石若駿を中心としたセプテットで構成。メンバー:Dr.石若駿、Gt.西田修大、Gt.細井徳太郎、Ba.マーティ・ホロベック、Sax.松丸契、Tp.山田丈造、P.渡辺翔太(c)Maho Korogi

このコンサートはWOWOWの企画によるもので、今回実験的な取り組みとして、ライブの模様をすべてイマーシブフォーマットにて収録。8月16日から1週間、AURO-3Dを含む配信フォーマットにて有料配信されることが決定している。イマーシブフォーマットとしては、ドルビーアトモスや360 Reality Audioなどが知られるが、AURO-3Dはコンテンツは少ないものの、クオリティにこだわるアーティストやエンジニアの間では評価が高い収録方式である。

レコーディングエンジニアはイマーシブフォーマットの第一人者として知られる入交英雄氏が担当。今回はPA用に用意されているメインの音声マイクに加えて、イマーシブ用に追加でマイクを設置している。

WOWOWにてイマーシブフォーマットの録音をリードする入交英雄氏。天吊り用のマイクをセッティングしている

具体的には、ホール全体の空気感を捉えるため、客席中央の天井近くにゼンハイザーのマイクを「オムニクロス」と呼ばれる十字型に天吊り方式で配置。マイクにはワイドカーディオイド方式の「MKH8090」を4本採用し、空間のアンビエンスならびにVOG(Voice Of God)のために使用している。さらに左右客席上方にも同じMKH8090を4本配置している。

客席の中央真上にはオムニクロス方式のマイクと、客席前後左右に4本のマイクを吊っている

さらにピアノやドラムなどのアコースティック楽器については、PA用のマイクに加えて通常よりも高い位置(2.5m程度)に楽器の全体像を収録できるようノイマンのコンデンサーマイク「KM184」をそれぞれ配置。入交氏によると「楽器そのものの存在感を高めるために必要なマイク」とのこと。

ピアノの全体像を捉えるために高い位置にノイマンのマイクを設置

ドラムについても同じように高い位置から狙っている

さらにオーディエンスの反応を捉えるための客席用マイクもステージと客席の間に設置している。

全部で108ch分をProtoolsに取り込み後日イマーシブ用のミックスを行う

実際にどう仕上がってくるかは配信を見なければわからないが、当日客席で感じたのは、凄まじいパフォーマンスのパワーと客席の熱気である。ゲストミュージシャンの代表曲を中心にジャズスタンダードまで交えた楽曲を演奏、パフォーマーそれぞれの個性を引き出しながら疲れを知らずパワフルに叩き続ける石若のスタイルには圧倒される。

堀米が切々と歌い上げる「エイリアンズ」には胸がぎゅっと締め付けられるし、アイナ・ジ・エンドは、楽曲の世界観とマッチしたダンスパフォーマンスにはまったく目が離せない。

アイナ・ジ・エンド(c)Maho Korogi

堀込泰行(c)Maho Korogi

田島貴男はまさにクール&セクシーでロックンロールなステージを見せつける。田島のギターと石若のドラムの手に汗握る応酬は凄まじく、呼吸を忘れるほどにステージに没頭してしまう。

PUNPEEと田島貴男(c)Maho Korogi

大橋トリオ(c)Maho Korogi

上原ひろみも生で体験するのは初めてだが、どう指が動いているのか完全に理解不能な音数の多さに圧倒される。アスリートのようにしなやかで強靭で、けだもののように野蛮で、それでいて洗練された知的な雰囲気をもまとう強烈な世界観。石若のドラム、ベースとギターも交えたカルテットでは、分厚い音の塊がこれでもかと押し寄せてきて言葉を失う。

上原ひろみとギターの西田修大(c)Maho Korogi

アンコールはORIGINAL LOVEの名曲「接吻」をオールメンバーで演奏する豪華セッション。PUNPEEは、JPOPの名曲のタイトルをこれでもかともりこんだ(おそらく即興の)リリックを披露し会場を盛り上げる。

これほどに強烈な印象を残すライブステージをどのようにして「イマーシブ」な録音として残すのか。会場の熱気も含めて、ステレオでは収めきれないアグレッシブなパワーを期待したいところだ。

ステレオ音声についてはeプラスの「Streming+」というプラットフォームを使用し(3,500円)、ハイレゾならびにイマーシブオーディオについてはLive Extremeを使用している(こちらは4,500円)。いずれもChromeやSafari等の普通のブラウザで再生することができる。

イマーシブフォーマットについては、AURO-3Dのほか、96kHz/24bitによる7.1.4ch配信、ヘッドホンでイマーシブを楽しめるAuro Headphone、ハイレゾ音声などで配信予定。AURO 3Dをフルで楽しむためには、現状デノンなど一部のAVアンプに限られるが、それ以外でも自宅の環境に合わせて楽しめるフォーマットが予定されている。

Live Extremeで配信予定のフォーマット。ヘッドホンでも再生できるのでスマートフォンからでもイマーシブを体験できる

当日NHKホールに足を運んだかたはもちろん、ゲストミュージシャンの名前のひとりにでもピンと来た方はぜひ配信チケットを購入し自宅でも楽しんで欲しい。目当てのアーティスト以外にも、間違いなく新しく「ファンになってしまう」ミュージシャンに出会えるに違いない。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE