ワンマンクルーDVによる超長編大作「鉄西区」が大賞受賞!山形ドキュメンタリー映画祭2003受賞作決定
ロバート&フランシス・フラハティ賞を山形市長より受賞する王兵監督(10月16日、山形市中央公民館) |
36歳の王監督は、1999年から、パナソニックの初期デジタルカメラを持ち、ワンマンクルーによる撮影を開始。中国東北部にある日本占領地時代に創設された町を対象に、そこに入り込み、その土地の風景、工場労働者大量解雇の社会的状況、そして、この町で生活している労働者の日々の暮らしなどを、撮影した。
2001年末に撮影終了した作品は、300分ヴァージョンとして2002年にベルリン映画祭で選出され、リスボンの国際ドキュメンタリー映画祭ではグランプリを受賞。今回山形で上映された545分のヴァージョンは、マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭でも、すでにグランプリを受賞している。
この映画は、「軽量の機材を駆使し、その撮影状況や映画言語において、フィルムメーカーとして真に革新的な企画を想像したおそらく初めての作品」(映画祭本部発表、審査員コメントより)であり、ドキュメンタリー映画の父、フラハティの名を顕彰する同賞に最もふさわしい作として審査員の全員一致で大賞が決定された。
アジアの新進作家を対象とした「アジア千羽万羽」部門での最高賞、小川紳介賞の受賞は、脳性まひの子を持つ父親とその家族の姿を撮影した、中国の沙青(シャー・チン)監督作品『一緒の時』。
苦しさや問題をかかえながら、絶望的な我が子を、あくまでも慈しむ若い農民とその家族を抑制された品格のある表現で描いた。「生命(いのち)と生命が寄り添うことの至福」という監督のことば通りに、悲劇的な状況を描きながら、そこに美しさと温かさまでもが感じられる稀有な作品。2003年雲之南人類学映像展でも大賞を受賞している。
当初は、フィルム作品を本格的映画とする志向があった山形ドキュメンタリー映画祭であるが、前回より、国際コンぺの部門でもビデオによる作品応募を認めた。それにより、ビデオ作品の応募数、全体の応募数とも、今回、過去最高となった。(インターナショナル・コンペティション応募902作品のうち、約700本がビデオ。アジア千羽万羽部門では、応募総数約830本の相当数がビデオ作品。)
受賞作品12本のうちでは、フィルム撮影作品は一つで、他は全てビデオ作品である。ドキュメンタリー映画の世界でも、ビデオ作品が本格的な映画作品として、フィルムと同列に評価される傾向は定着してきている。
受賞作は、ビデオ特有の機能性を生かしつつも、主題と制作に向かう緊張感、構成等は、従来のフィルム映画に勝るとも劣らず、その本格的な映画作りが評価されている。
映画祭を取材し、ドキュメンタリー映画作りを目指すアジアの映画作家の活動にとって、DVの技術の向上と普及が、不可欠の意味をもっていることを知った。しかし、本格的な映画作りを継続していくためには、フィルム撮影の経験を不可欠とする監督もいた。
また、多くの有能な若い映画作家たちが、来日して、日本で活動もしている。ドキュメンタリー映画の分野で、アジアの作家たちへ日本が果たす役割と、その可能性は大きい。
山形ドキュメンタリー映画祭と受賞作品についての詳細は、下記のURLへ。
http://www.city.yamagata.yamagata.jp/yidff/news/news.html
(山之内優子)