山之内 正が見たパイオニア“KURO” − PDP-5000EXと互角に画質を語れるプラズマテレビ
ついにプラズマテレビがコントラスト20,000対1の表現領域に踏み込んだ。その快挙を成し遂げたのは新開発のフルハイビジョンパネルを積むパイオニアの「PDP-6010HD」と「PDP-5010HD」である(関連ニュース)。
姉妹機のハイビジョンモデル(PDP-508HX、PDP428HX)は16,000対1と、20,000対1には僅かに及ばないが、それでも圧倒的スペックであることに変わりはない。シリーズ全体をその名もKURO(=黒)と名付けていることからもわかるように、いずれも漆黒の深い表現を狙った意欲作である。
コントラスト比を改善するためには最大輝度を上げるか最低輝度の数値を下げる必要があるが、今回は後者の寄与が大きい。それを実現する手法は、電子発生源を配置した新しい構造のセルを採用して予備放電を抑えるというもの。電子発生源のおかげで放電速度が上がるので、予備放電が大幅に抑えられたのだという。輝度が公表されていないので推定の範囲だが、従来と同程度の最大輝度を実現していると想定すると、コントラスト比の数値から逆算して黒に相当する最小輝度は0.1cd/m2よりも1桁下回ることになり、SEDや有機ELディスプレイと同様、測定器の検出限界領域に近付いている。
■ここまで沈み込んだ黒は見たことがない
暗所で実際に視聴した印象もこの数字を裏付けるものであった。昨日の発表会場では50ルクスまたは100ルクス程度の暗めのリビングルームを想定した視聴環境で他社のフラットディスプレイと比較し、誰の目にも明らかな黒の深みをアピールした。
一方、照明を一切消した暗室で見ても、テレビのフレーム部とBD再生時の黒帯部分の黒が区別できないほどの、見事なまでの黒を再現している。液晶方式はもちろん、プラズマテレビでもここまで沈み込んだ黒は見たことがないし、筆者が自宅で愛用している「PDP-5000EX」も、黒の深みについては、はっきりと見劣りしてしまう。
■色純度や暗部階調表現力の高さも特筆できる
発表会場でもデモンストレーションが行われたが、黒が引き締まると色純度とコントラストが大幅に改善し、あらゆる色が鮮やかさを増して、表現の幅が大きく広がる。黒の改善というと暗いシーンだけで効果が現れると勘違いしがちだが、実際には明るい場面を含むほとんどのシーンでその効果を実感することができるのだ。
映画ファンは、黒が沈むことによって暗部階調が失われることを心配するかもしれない。実際にかつて黒の再現力をアピールしたフラットディスプレイのなかには、階調が不足し、暗部に何が映っているのかわからない製品も存在した。
筆者は海外イベントでの展示を含め試作段階から今回の新パネルの階調表現に注目してきた。その過程で明らかになったのは、パイオニアの開発陣が暗部階調の大切さを的確に認識しており、ガンマ補正の微細なチューニングを含むさまざまな工夫を凝らして、なめらかな階調再現を目指しているという事実である。
その最新の成果の一端を最新のBDソフトを例にとって紹介すると、《パトリオット》のチャプター4、蝋燭の光に照らされた子供たちの表情や室内の背景のディテール、あるいは《フェイク》のチャプター13、青ざめたジョニー・デップの表情と肌色の立体感など、多くのシーンで確認することができる。
ちなみに両作品ともにAVCのエンコードが秀逸で、画質は驚くべき仕上がりだ。限界を感じさせない黒の深みを見せるPDP-5010HDで見ていると、時間の経過を忘れて見入ってしまう。
新機種はいずれも1080/24p表示に対応しているので、S/N、動きともにどこにも不安定なところがなく、安心して見ていられる。プラズマ方式本来の良さに加えて、24pのメリットが生きているのである。
カメラのパンニングに伴って不自然な動きが頻出したり、画面の一部の明暗の変化に連動して背景の明るさが意味もなくパタつくという現象は皆無だ。映画をじっくり見ているときに、そうした集中力を削ぐ現象に悩まされることはとてつもなく大きなストレスだが、本機ではそれがまったくない。その点こそ、映画ファンにとって一番ありがたい長所かもしれない。なお、表示モードはすべてPDP-5000EX同様に「Dot by Dot」を使用して視聴を行った。
■PDP-5000EXと互角に画質を語れるプラズマテレビ
BDP-LX70とHDMIで接続し、ビデオ素材のDVD(《イドメネオ》−2006年ザルツブルク音楽祭ライブ)を視聴した。解像度を切り替えながら見比べると、プレーヤーから1080iで送り出す接続が自然な輪郭を見せ、ベストであった。このソフトを視聴した理由は、シンプルな舞台装置と複雑な照明を組み合わせてなめらかな明暗の階調を引き出していることと、登場人物の衣装の色彩でディスプレイの性能が端的に判断できるからである。劇場で実際に体験しているのでオリジナルと比較しやすい点も重要なポイントだ。
PDP-5010HDで見た《イドメネオ》の映像は、これまで体験した多くのフラットディスプレイの映像に比べて、映像が持つ力強さに少なからぬ違いがあった。エレットラの衣装の赤みを帯びた微妙な色調が不自然に明るくならず、実際の舞台と同様に落ち着きのあるトーンを再現するという点では、本機とPDP-5000EXはまさに双璧である。ところが、演出によって意図的に照明が落ちた瞬間、黒く沈むステージの奥行き感に差が出た。凄みのある黒がなんなく表現できる本機は、そこで底力を発揮し、実演さながらの緊迫感を蘇らせるのである。
照明が作り出す階調のなめらかさや肌色のトーンの柔らかさなど、PDP-5000EXが優位に立つシーンも少なくないのだが、それについては別の機会にあらためて報告することにしよう。いずれにしても、PDP-5000EXと互角に画質を語れるプラズマテレビが、こんなに早く登場するとは予想していなかった。
(山之内 正)
【山之内 正 プロフィール】
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオビジュアル機器の評論にも反映されている。
姉妹機のハイビジョンモデル(PDP-508HX、PDP428HX)は16,000対1と、20,000対1には僅かに及ばないが、それでも圧倒的スペックであることに変わりはない。シリーズ全体をその名もKURO(=黒)と名付けていることからもわかるように、いずれも漆黒の深い表現を狙った意欲作である。
コントラスト比を改善するためには最大輝度を上げるか最低輝度の数値を下げる必要があるが、今回は後者の寄与が大きい。それを実現する手法は、電子発生源を配置した新しい構造のセルを採用して予備放電を抑えるというもの。電子発生源のおかげで放電速度が上がるので、予備放電が大幅に抑えられたのだという。輝度が公表されていないので推定の範囲だが、従来と同程度の最大輝度を実現していると想定すると、コントラスト比の数値から逆算して黒に相当する最小輝度は0.1cd/m2よりも1桁下回ることになり、SEDや有機ELディスプレイと同様、測定器の検出限界領域に近付いている。
■ここまで沈み込んだ黒は見たことがない
暗所で実際に視聴した印象もこの数字を裏付けるものであった。昨日の発表会場では50ルクスまたは100ルクス程度の暗めのリビングルームを想定した視聴環境で他社のフラットディスプレイと比較し、誰の目にも明らかな黒の深みをアピールした。
一方、照明を一切消した暗室で見ても、テレビのフレーム部とBD再生時の黒帯部分の黒が区別できないほどの、見事なまでの黒を再現している。液晶方式はもちろん、プラズマテレビでもここまで沈み込んだ黒は見たことがないし、筆者が自宅で愛用している「PDP-5000EX」も、黒の深みについては、はっきりと見劣りしてしまう。
■色純度や暗部階調表現力の高さも特筆できる
発表会場でもデモンストレーションが行われたが、黒が引き締まると色純度とコントラストが大幅に改善し、あらゆる色が鮮やかさを増して、表現の幅が大きく広がる。黒の改善というと暗いシーンだけで効果が現れると勘違いしがちだが、実際には明るい場面を含むほとんどのシーンでその効果を実感することができるのだ。
映画ファンは、黒が沈むことによって暗部階調が失われることを心配するかもしれない。実際にかつて黒の再現力をアピールしたフラットディスプレイのなかには、階調が不足し、暗部に何が映っているのかわからない製品も存在した。
筆者は海外イベントでの展示を含め試作段階から今回の新パネルの階調表現に注目してきた。その過程で明らかになったのは、パイオニアの開発陣が暗部階調の大切さを的確に認識しており、ガンマ補正の微細なチューニングを含むさまざまな工夫を凝らして、なめらかな階調再現を目指しているという事実である。
その最新の成果の一端を最新のBDソフトを例にとって紹介すると、《パトリオット》のチャプター4、蝋燭の光に照らされた子供たちの表情や室内の背景のディテール、あるいは《フェイク》のチャプター13、青ざめたジョニー・デップの表情と肌色の立体感など、多くのシーンで確認することができる。
ちなみに両作品ともにAVCのエンコードが秀逸で、画質は驚くべき仕上がりだ。限界を感じさせない黒の深みを見せるPDP-5010HDで見ていると、時間の経過を忘れて見入ってしまう。
新機種はいずれも1080/24p表示に対応しているので、S/N、動きともにどこにも不安定なところがなく、安心して見ていられる。プラズマ方式本来の良さに加えて、24pのメリットが生きているのである。
カメラのパンニングに伴って不自然な動きが頻出したり、画面の一部の明暗の変化に連動して背景の明るさが意味もなくパタつくという現象は皆無だ。映画をじっくり見ているときに、そうした集中力を削ぐ現象に悩まされることはとてつもなく大きなストレスだが、本機ではそれがまったくない。その点こそ、映画ファンにとって一番ありがたい長所かもしれない。なお、表示モードはすべてPDP-5000EX同様に「Dot by Dot」を使用して視聴を行った。
■PDP-5000EXと互角に画質を語れるプラズマテレビ
BDP-LX70とHDMIで接続し、ビデオ素材のDVD(《イドメネオ》−2006年ザルツブルク音楽祭ライブ)を視聴した。解像度を切り替えながら見比べると、プレーヤーから1080iで送り出す接続が自然な輪郭を見せ、ベストであった。このソフトを視聴した理由は、シンプルな舞台装置と複雑な照明を組み合わせてなめらかな明暗の階調を引き出していることと、登場人物の衣装の色彩でディスプレイの性能が端的に判断できるからである。劇場で実際に体験しているのでオリジナルと比較しやすい点も重要なポイントだ。
PDP-5010HDで見た《イドメネオ》の映像は、これまで体験した多くのフラットディスプレイの映像に比べて、映像が持つ力強さに少なからぬ違いがあった。エレットラの衣装の赤みを帯びた微妙な色調が不自然に明るくならず、実際の舞台と同様に落ち着きのあるトーンを再現するという点では、本機とPDP-5000EXはまさに双璧である。ところが、演出によって意図的に照明が落ちた瞬間、黒く沈むステージの奥行き感に差が出た。凄みのある黒がなんなく表現できる本機は、そこで底力を発揮し、実演さながらの緊迫感を蘇らせるのである。
照明が作り出す階調のなめらかさや肌色のトーンの柔らかさなど、PDP-5000EXが優位に立つシーンも少なくないのだが、それについては別の機会にあらためて報告することにしよう。いずれにしても、PDP-5000EXと互角に画質を語れるプラズマテレビが、こんなに早く登場するとは予想していなかった。
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パイオニアから満を持して登場した、驚異のコントラスト比20,000対1を実現したプラズマテレビPDP -5010HD。このプラズマテレビを主役に迎え、ブルーレイプレーヤーからの24p出力による高画質、新リビングシアターシステムによる高音質を同時に楽しむことのできる、次世代ホームシアター体験イベントが開催されます。しかも「製品発売前」の超プレミアイベントです。オーディオ・ビジュアル評論家によるトークショーも開催します。あなたのその目と耳で、次世代の画と音を確かめてみませんか? 本イベントの会場はなんと全国17都市。東京・大阪・名古屋から始まり、北は札幌から南は鹿児島まで全34日間にわたる特大イベントになります。 イベントの詳細はこちら:http://www.phileweb.com/kuro2/ |
(山之内 正)
【山之内 正 プロフィール】
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオビジュアル機器の評論にも反映されている。