【一条真人】フォーマット戦争は次のフェーズへ − 「光ディスク対IPTV」の時代がはじまる
■いきなりのワーナーショック
今年、CESを前にしたワーナーの発表に驚かされた人も多いことだろう。従来、次世代DVDに関して、ブルーレイとHD DVDの両規格でコンテンツを供給していたワーナーが、今後はHD DVDの供給をやめ、ブルーレイに一本化すると発表したのだ。
ワーナーと言えば、米国でコンボディスク(ディスク片面にHD DVDを、もう片面にDVDビデオのコンテンツを収めたもの)を発売するなど、HD DVDサプライヤーのなかでも、HD DVDの技術を生かしたコンテンツを発売しているメーカーだったので、HD DVD陣営にとってもショックは大きいだろう。
ワーナーは「ハリー・ポッター」シリーズ、「オーシャンズ」シリーズなど人気コンテンツを持ち、その質、量ともに世界的なトップメディアサプライヤーだ。ブルーレイに一本化したことによる市場のパワーバランスへの影響は計り知れない。
さらに、このワーナーの動きを受けて、昨年夏にHD DVDに一本化すると宣言したパラマウント・ピクチャーズも、ブルーレイ支持への移行を検討しているという噂がある。そうなれば、ブルーレイのコンテンツシェアは大きくHD DVDを引き離し、次世代DVD戦争の事実上の決着がそこでついてしまう可能性がある。仮にそうならない場合でも、ワーナーの転向により、ブルーレイがより魅力を増したという事実に変わりはない。次世代DVD戦争の決着はすでについてしまったのかも知れない。
■今後はブルーレイの時代になるのか?
このように、ブルーレイにとって明確に有利な状況ができあがったわけだが、今後、ユーザーは果たして、DVDからブルーレイへスムーズに移行するだろうか。
もちろんこれまでよりは移行が促進されるだろうが、AVファン以外の、より一般的な消費者について考えた場合、スムーズな移行はそれほど容易ではないと言える。
まず「有利」「不利」という状況はあっても、フォーマット戦争に完全に決着がつかず、2つの規格でタイトルがリリースされている間は、市場にあるすべての映画コンテンツを見るためには、両方の規格が再生できる環境が必要になる。
ブルーレイのシェアが大きくなっても、パラマウントやユニバーサルがHD DVD陣営である限り、ブルーレイユーザーはそれらのタイトルを見ることはできない。もちろん逆も然りで、HD DVDプレーヤーではブルーレイのコンテンツを見ることができない。
ここで意外な架け橋になっているのが、最近のDVDプレーヤーが備えるアップコンバート機能だ。SD解像度のDVDビデオをハイビジョン解像度に変換して見ることができる。次世代DVDプレーヤーは通常、このアップコンバート機能を搭載しているので、自分のプレーヤーで対応しないタイトルは、元のソースのクオリティに限界はあるものの、DVDでもある程度の画質で見ることができる。
すでにHD DVDプレーヤーを持っているユーザーなら、次世代DVD戦争の決着がつくまで、ブルーレイプレーヤーを買わずに、DVDをアップコンで見るという手もあるわけだ。さらに、決着がついた後でも、ブルーレイプレーヤーを買わずにDVDを使い続けるというユーザーもいるだろう。DVDビデオならソフトの価格も安く、豊富なタイトル数が既に存在するからだ。
そして、東芝は最近になって、米国や欧州でHD DVDプレーヤーの価格をさらに引き下げた(関連ニュース)。下位機種(当然、アップコンバート機能を持つ)で150ドルという、DVDプレーヤー並みのプライスタグを付けたのだ。これに対して、ブルーレイプレーヤーはもっと高価で、新規ユーザーの購入しやすさも大きく異なる。東芝のHD DVDプレーヤーを購入し、DVDビデオのアップコンバート再生機として使うという選択肢さえあるだろう。
このように、次世代DVD戦争は今回のワーナーの決断によりブルーレイ有利の形勢となったことで、意外に早く終わる可能性もあれば、長期的な消耗戦になる可能性も依然として残っている。さらに規格が一本化されても、DVDから次世代DVDへ、すぐに移行が進まない可能性がある。
■インターネットビデオに注目せよ
次世代DVD規格が覇権争いを続ける中、ユーザーの目の前には新たなビデオメディアの選択肢が登場している。それがブロードバンド回線を利用したビデオ配信だ。そもそもPCで始まったインターネットビデオだが、最近ではテレビで利用できるシステムも増えている。このようなインターネット経由(IP通信を利用した)のビデオ配信全体を「IPTV」と呼ぶ場合もある。
現在、ITU-Tが次世代TV規格候補としてIPTVの規格化を進めており、さらに家電メーカーによるIPTVフォーラムも設立されている。近い将来、IPTVには具体的な規格名称が付けられることになるだろう。とはいえ、現時点ではIPTVにスタンダードは存在せず、今後本格的な規格競争が展開されるはずだ。
IPTVには利点がいくつかあるが、配信のスタイル、コンテンツ視聴のスタイルが自由であることがまず第一に挙げられる。TV放送のようにリアルタイムに配信することもできれば、必要なコンテンツを好きなときに見る「ビデオ・オン・デマンド」にも対応できる。つまり、現在のビデオメディアのうち、TVのようなリアルタイム放送とDVDのようなコンテンツディストリビュートの両方をカバーできるわけだ。
ビデオ・オン・デマンドであれば、物理メディアと異なり、ユーザーは自分が見たいコンテンツを必要なときにすぐに見ることができる。また、製造コストや流通コストもかからないので、物理メディアより安価に視聴が行える可能性がある。
■多彩なインターネットビデオサービス
現在、このインターネットを利用したビデオコンテンツ配信はさまざまな形で具体化しつつある。おおざっぱに分けると、PC向け、STBを利用したもの、TVに組み込んだものなどがあり、それぞれ多彩なサービスが展開されている。
日本国内のWindowsPCを使ったサービスとしては「GyaO」、「Yahoo動画」、「フレッツスクエア」などが代表的なサービスだろう。GyaOは768Kbps、Yahoo動画は1.5Mbpsとビットレートがあまり高くはないが、WMVで圧縮されており、SD解像度には十分なクオリティを持っている。
フレッツスクエアはNTTがフレッツユーザーに提供しているサービスだ。バリエーションとしてIPv6を使ったフレッツスクエアv6があり、3Mbpsなどより高いビットレートで美しい映像を楽しめるが、コンテンツはあまり豊富ではない。
これに対しアメリカでは先日、アップルによりiTunes Storeを使った本格的なオンデマンドビデオレンタルが開始され(関連ニュース)、多くの配給会社から豊富なコンテンツがラインアップされている。今後はHDコンテンツも増えていく予定であり、PC向けのビデオ配信としてはもっとも強力なものになる可能性がある。なお、現時点では日本ではこのサービスを利用できない。
STBを使ったものとしては、フレッツ光ユーザー向けの「オンデマンドTV」、「4thMedia」、「スカパー!光」、「OCNシアター」。そして、回線を選ばずADSLでも利用できる「GyaONext」などがある。スカパー!光はスカパーの放送をIP配信で視聴できるようにしたもので、地デジ、BSデジタルなどのTV放送も視聴できる。オンデマンドTVはHD解像度に対応し、ビデオコンテンツが豊富だ。
また、マイクロソフトのゲーム機Xbox 360も米国では、HDビデオコンテンツのダウンロードレンタルに対応している。
テレビに組み込んだタイプとしては、「アクトビラ」がある。アクトビラのビデオサービスには、アクトビラ・ビデオとアクトビラ・ビデオ・フルがあり、フルはH.264を使い、フルHD解像度に対応している。このアクトビラサービスの利用には、アクトビラに対応したTVが必要になる。
このなかで現時点でHDコンテンツも楽しめるのは、オンデマンドTVとアクトビラ・ビデオ・フルになるが、コンテンツ数ではオンデマンドTVが勝っている。しかし、アップルの努力次第で、近い将来はiTunesビデオレンタルに追い抜かれる可能性もある。もっとも、現時点で日本国内ではiTunesのビデオレンタルサービスは開始されていないが。
■インターネットビデオがスタンダードになる可能性
さて、音楽の世界では今やiPod+iTunesが一般的な存在となった。物理的なメディアではなく、オンラインで音楽を入手したり、リッピングして保存したりすることが、ごく普通の人々に受け入れられたわけだ。
それでは、オンラインビデオはどうだろう。ビデオは音楽よりもさらに人々に受け入れられる可能性があるのではないだろうか。人々は音楽コンテンツに関しては、レコードなどを物理的に所有する経験をしてきたのに対し、ビデオコンテンツを所有するのはあまり一般的ではなかったからだ。TVや映画館のように、その場で見るだけというスタイルへの抵抗が薄いのではないだろうか。
しかし、オンラインビデオの普及に問題がないわけでもない。1つにはクオリティの問題だ。現時点の国内のオンラインビデオの、HD映像のビットレートは4〜8Mbps程度であり、これはH.264圧縮を持ってしても、HD映像としては必要最低限の帯域でしかない。オーディオに関しても、よくてAACの5.1チャンネルにとどまる。ブルーレイやHD DVDの、マルチチャンネルロスレス音声やリニアPCM音声など望むべくもない。
とはいえ、デジタルオーディオプレーヤーのiPodにしても、音質の良さからここまで普及したわけではない。必要にして十分なクオリティがあれば、その利便性にユーザーがアドバンテージを見いだす可能性は十分にある。
また、ビットレートが現在のレベルにとどまるのは、ひとえにネットワークインフラの問題だ。その面が改善されれば、飛躍的にハイクオリティ化が可能で、時間の問題とも言える。
■コンテンツという壁
さらに重要な問題はコンテンツだ。現時点では、特にハリウッドの新作が流通するまでには時間がかかる。以前と比較するとかなりマシになったが、物理パッケージと比較すると、新作がバンバン流通するという状態ではない。
余談だが、初期のインターネットビデオではきわめてコンテンツが少なく、版権がゆるいのか韓流ドラマばかり流していた記憶がある。そのなかでも特に人気があったのが「ホテリアー」であり、主演はあのペ・ヨンジュン、チェ・ジウだった。韓国ドラマの人気はインターネットビデオでまず爆発したのではないかと思う。
このハリウッドの新作という面では、国内サービスよりもiTunesビデオレンタルがもっとも期待できるのではないだろうか。早く日本国内でも利用できるようになって欲しいサービスだ。
■通信と電話、マルチメディアを統合するNGN
ところで現在、フレッツ光はその帯域を生かして、データ通信だけでなく、音声通信、マルチメディア配信に力を入れており、これをトリプルサービスと呼んだりする。
フレッツ光は言うまでもなく、通信会社であるNTTのサービスだ。従来はデータ通信を基本として、それに他のサービスをのせているわけだが、現在、世界中の通信会社がはじめからこの3つのサービスを扱うネットワークシステムを規格化し、自社のシステムに組み込もうとしている。それは次世代ネットワーク「NGN」だ。
つまり、今やブロードバンド回線にビデオメディアをのせてしまおうという動きは世界的なものなのだ。NGNはよりセキュリティの高い安定した通信を実現するので、これによりオンデマンドビデオ再生はより安定したものになる。
■オンデマンドビデオSTBの導入は難しいか
一般家庭に導入しようとした場合、セットアップの容易さも問題になるだろう。日本では今やほとんどの家庭にブロードバンド回線が導入されている。そして、通常はルータで複数のPCを接続しているのが一般的だ。
フレッツ光関連のサービスはIPv6プロトコルを使うため、以前はハブで分岐して接続するなどの手間がかかったが、最近ではオンデマンドビデオを意識してIPv6に対応したルータも増えている。そのようなIPv6対応ルータなら、STBとルータをイーサネットケーブルで接続し、後はSTBをTVと通常のレコーダーのように接続するだけだ。ケーブルTVのように業者でなければ導入できないわけではない。そのため、システム導入の難しさからオンデマンドビデオのSTBシステムが普及しないということはまずないだろう。
■次世代DVD戦争の先を制するのは?
NGNに代表されるように、今や世界中の通信会社が通信回線でのビデオ配信を視野に入れている。現時点ではさまざまな課題があるとは言え、オンデマンドビデオサービスは今後、大きく発展していくことだろう。
ブルーレイが次世代DVD戦争を制したとしても、その先にはブロードバンド回線によるオンデマンドビデオという強敵が待っているわけだ。さらに、もしブルーレイが普及に時間を取られれば、気がついた時にはオンデマンドビデオが市場を制圧しているということもあり得る。
ハリウッドのメジャースタジオは、強力な著作権保護技術で保護されたメディアコンテンツの、より収益性のある流通ルートを求めているのであって、DVDや次世代DVDのような、物理的な器にこだわっているわけではないだろう。ハリウッドに対して、どちらのビジネスモデルに利があるか、アドバンテージを示せたものが、将来、世界を支配するメディアの剣を持つことになるのではないだろうか。
(一条真人)
執筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。
今年、CESを前にしたワーナーの発表に驚かされた人も多いことだろう。従来、次世代DVDに関して、ブルーレイとHD DVDの両規格でコンテンツを供給していたワーナーが、今後はHD DVDの供給をやめ、ブルーレイに一本化すると発表したのだ。
ワーナーと言えば、米国でコンボディスク(ディスク片面にHD DVDを、もう片面にDVDビデオのコンテンツを収めたもの)を発売するなど、HD DVDサプライヤーのなかでも、HD DVDの技術を生かしたコンテンツを発売しているメーカーだったので、HD DVD陣営にとってもショックは大きいだろう。
ワーナーは「ハリー・ポッター」シリーズ、「オーシャンズ」シリーズなど人気コンテンツを持ち、その質、量ともに世界的なトップメディアサプライヤーだ。ブルーレイに一本化したことによる市場のパワーバランスへの影響は計り知れない。
さらに、このワーナーの動きを受けて、昨年夏にHD DVDに一本化すると宣言したパラマウント・ピクチャーズも、ブルーレイ支持への移行を検討しているという噂がある。そうなれば、ブルーレイのコンテンツシェアは大きくHD DVDを引き離し、次世代DVD戦争の事実上の決着がそこでついてしまう可能性がある。仮にそうならない場合でも、ワーナーの転向により、ブルーレイがより魅力を増したという事実に変わりはない。次世代DVD戦争の決着はすでについてしまったのかも知れない。
■今後はブルーレイの時代になるのか?
このように、ブルーレイにとって明確に有利な状況ができあがったわけだが、今後、ユーザーは果たして、DVDからブルーレイへスムーズに移行するだろうか。
もちろんこれまでよりは移行が促進されるだろうが、AVファン以外の、より一般的な消費者について考えた場合、スムーズな移行はそれほど容易ではないと言える。
まず「有利」「不利」という状況はあっても、フォーマット戦争に完全に決着がつかず、2つの規格でタイトルがリリースされている間は、市場にあるすべての映画コンテンツを見るためには、両方の規格が再生できる環境が必要になる。
ブルーレイのシェアが大きくなっても、パラマウントやユニバーサルがHD DVD陣営である限り、ブルーレイユーザーはそれらのタイトルを見ることはできない。もちろん逆も然りで、HD DVDプレーヤーではブルーレイのコンテンツを見ることができない。
ここで意外な架け橋になっているのが、最近のDVDプレーヤーが備えるアップコンバート機能だ。SD解像度のDVDビデオをハイビジョン解像度に変換して見ることができる。次世代DVDプレーヤーは通常、このアップコンバート機能を搭載しているので、自分のプレーヤーで対応しないタイトルは、元のソースのクオリティに限界はあるものの、DVDでもある程度の画質で見ることができる。
すでにHD DVDプレーヤーを持っているユーザーなら、次世代DVD戦争の決着がつくまで、ブルーレイプレーヤーを買わずに、DVDをアップコンで見るという手もあるわけだ。さらに、決着がついた後でも、ブルーレイプレーヤーを買わずにDVDを使い続けるというユーザーもいるだろう。DVDビデオならソフトの価格も安く、豊富なタイトル数が既に存在するからだ。
そして、東芝は最近になって、米国や欧州でHD DVDプレーヤーの価格をさらに引き下げた(関連ニュース)。下位機種(当然、アップコンバート機能を持つ)で150ドルという、DVDプレーヤー並みのプライスタグを付けたのだ。これに対して、ブルーレイプレーヤーはもっと高価で、新規ユーザーの購入しやすさも大きく異なる。東芝のHD DVDプレーヤーを購入し、DVDビデオのアップコンバート再生機として使うという選択肢さえあるだろう。
このように、次世代DVD戦争は今回のワーナーの決断によりブルーレイ有利の形勢となったことで、意外に早く終わる可能性もあれば、長期的な消耗戦になる可能性も依然として残っている。さらに規格が一本化されても、DVDから次世代DVDへ、すぐに移行が進まない可能性がある。
■インターネットビデオに注目せよ
次世代DVD規格が覇権争いを続ける中、ユーザーの目の前には新たなビデオメディアの選択肢が登場している。それがブロードバンド回線を利用したビデオ配信だ。そもそもPCで始まったインターネットビデオだが、最近ではテレビで利用できるシステムも増えている。このようなインターネット経由(IP通信を利用した)のビデオ配信全体を「IPTV」と呼ぶ場合もある。
現在、ITU-Tが次世代TV規格候補としてIPTVの規格化を進めており、さらに家電メーカーによるIPTVフォーラムも設立されている。近い将来、IPTVには具体的な規格名称が付けられることになるだろう。とはいえ、現時点ではIPTVにスタンダードは存在せず、今後本格的な規格競争が展開されるはずだ。
IPTVには利点がいくつかあるが、配信のスタイル、コンテンツ視聴のスタイルが自由であることがまず第一に挙げられる。TV放送のようにリアルタイムに配信することもできれば、必要なコンテンツを好きなときに見る「ビデオ・オン・デマンド」にも対応できる。つまり、現在のビデオメディアのうち、TVのようなリアルタイム放送とDVDのようなコンテンツディストリビュートの両方をカバーできるわけだ。
ビデオ・オン・デマンドであれば、物理メディアと異なり、ユーザーは自分が見たいコンテンツを必要なときにすぐに見ることができる。また、製造コストや流通コストもかからないので、物理メディアより安価に視聴が行える可能性がある。
■多彩なインターネットビデオサービス
現在、このインターネットを利用したビデオコンテンツ配信はさまざまな形で具体化しつつある。おおざっぱに分けると、PC向け、STBを利用したもの、TVに組み込んだものなどがあり、それぞれ多彩なサービスが展開されている。
日本国内のWindowsPCを使ったサービスとしては「GyaO」、「Yahoo動画」、「フレッツスクエア」などが代表的なサービスだろう。GyaOは768Kbps、Yahoo動画は1.5Mbpsとビットレートがあまり高くはないが、WMVで圧縮されており、SD解像度には十分なクオリティを持っている。
フレッツスクエアはNTTがフレッツユーザーに提供しているサービスだ。バリエーションとしてIPv6を使ったフレッツスクエアv6があり、3Mbpsなどより高いビットレートで美しい映像を楽しめるが、コンテンツはあまり豊富ではない。
これに対しアメリカでは先日、アップルによりiTunes Storeを使った本格的なオンデマンドビデオレンタルが開始され(関連ニュース)、多くの配給会社から豊富なコンテンツがラインアップされている。今後はHDコンテンツも増えていく予定であり、PC向けのビデオ配信としてはもっとも強力なものになる可能性がある。なお、現時点では日本ではこのサービスを利用できない。
STBを使ったものとしては、フレッツ光ユーザー向けの「オンデマンドTV」、「4thMedia」、「スカパー!光」、「OCNシアター」。そして、回線を選ばずADSLでも利用できる「GyaONext」などがある。スカパー!光はスカパーの放送をIP配信で視聴できるようにしたもので、地デジ、BSデジタルなどのTV放送も視聴できる。オンデマンドTVはHD解像度に対応し、ビデオコンテンツが豊富だ。
また、マイクロソフトのゲーム機Xbox 360も米国では、HDビデオコンテンツのダウンロードレンタルに対応している。
テレビに組み込んだタイプとしては、「アクトビラ」がある。アクトビラのビデオサービスには、アクトビラ・ビデオとアクトビラ・ビデオ・フルがあり、フルはH.264を使い、フルHD解像度に対応している。このアクトビラサービスの利用には、アクトビラに対応したTVが必要になる。
このなかで現時点でHDコンテンツも楽しめるのは、オンデマンドTVとアクトビラ・ビデオ・フルになるが、コンテンツ数ではオンデマンドTVが勝っている。しかし、アップルの努力次第で、近い将来はiTunesビデオレンタルに追い抜かれる可能性もある。もっとも、現時点で日本国内ではiTunesのビデオレンタルサービスは開始されていないが。
■インターネットビデオがスタンダードになる可能性
さて、音楽の世界では今やiPod+iTunesが一般的な存在となった。物理的なメディアではなく、オンラインで音楽を入手したり、リッピングして保存したりすることが、ごく普通の人々に受け入れられたわけだ。
それでは、オンラインビデオはどうだろう。ビデオは音楽よりもさらに人々に受け入れられる可能性があるのではないだろうか。人々は音楽コンテンツに関しては、レコードなどを物理的に所有する経験をしてきたのに対し、ビデオコンテンツを所有するのはあまり一般的ではなかったからだ。TVや映画館のように、その場で見るだけというスタイルへの抵抗が薄いのではないだろうか。
しかし、オンラインビデオの普及に問題がないわけでもない。1つにはクオリティの問題だ。現時点の国内のオンラインビデオの、HD映像のビットレートは4〜8Mbps程度であり、これはH.264圧縮を持ってしても、HD映像としては必要最低限の帯域でしかない。オーディオに関しても、よくてAACの5.1チャンネルにとどまる。ブルーレイやHD DVDの、マルチチャンネルロスレス音声やリニアPCM音声など望むべくもない。
とはいえ、デジタルオーディオプレーヤーのiPodにしても、音質の良さからここまで普及したわけではない。必要にして十分なクオリティがあれば、その利便性にユーザーがアドバンテージを見いだす可能性は十分にある。
また、ビットレートが現在のレベルにとどまるのは、ひとえにネットワークインフラの問題だ。その面が改善されれば、飛躍的にハイクオリティ化が可能で、時間の問題とも言える。
■コンテンツという壁
さらに重要な問題はコンテンツだ。現時点では、特にハリウッドの新作が流通するまでには時間がかかる。以前と比較するとかなりマシになったが、物理パッケージと比較すると、新作がバンバン流通するという状態ではない。
余談だが、初期のインターネットビデオではきわめてコンテンツが少なく、版権がゆるいのか韓流ドラマばかり流していた記憶がある。そのなかでも特に人気があったのが「ホテリアー」であり、主演はあのペ・ヨンジュン、チェ・ジウだった。韓国ドラマの人気はインターネットビデオでまず爆発したのではないかと思う。
このハリウッドの新作という面では、国内サービスよりもiTunesビデオレンタルがもっとも期待できるのではないだろうか。早く日本国内でも利用できるようになって欲しいサービスだ。
■通信と電話、マルチメディアを統合するNGN
ところで現在、フレッツ光はその帯域を生かして、データ通信だけでなく、音声通信、マルチメディア配信に力を入れており、これをトリプルサービスと呼んだりする。
フレッツ光は言うまでもなく、通信会社であるNTTのサービスだ。従来はデータ通信を基本として、それに他のサービスをのせているわけだが、現在、世界中の通信会社がはじめからこの3つのサービスを扱うネットワークシステムを規格化し、自社のシステムに組み込もうとしている。それは次世代ネットワーク「NGN」だ。
つまり、今やブロードバンド回線にビデオメディアをのせてしまおうという動きは世界的なものなのだ。NGNはよりセキュリティの高い安定した通信を実現するので、これによりオンデマンドビデオ再生はより安定したものになる。
■オンデマンドビデオSTBの導入は難しいか
一般家庭に導入しようとした場合、セットアップの容易さも問題になるだろう。日本では今やほとんどの家庭にブロードバンド回線が導入されている。そして、通常はルータで複数のPCを接続しているのが一般的だ。
フレッツ光関連のサービスはIPv6プロトコルを使うため、以前はハブで分岐して接続するなどの手間がかかったが、最近ではオンデマンドビデオを意識してIPv6に対応したルータも増えている。そのようなIPv6対応ルータなら、STBとルータをイーサネットケーブルで接続し、後はSTBをTVと通常のレコーダーのように接続するだけだ。ケーブルTVのように業者でなければ導入できないわけではない。そのため、システム導入の難しさからオンデマンドビデオのSTBシステムが普及しないということはまずないだろう。
■次世代DVD戦争の先を制するのは?
NGNに代表されるように、今や世界中の通信会社が通信回線でのビデオ配信を視野に入れている。現時点ではさまざまな課題があるとは言え、オンデマンドビデオサービスは今後、大きく発展していくことだろう。
ブルーレイが次世代DVD戦争を制したとしても、その先にはブロードバンド回線によるオンデマンドビデオという強敵が待っているわけだ。さらに、もしブルーレイが普及に時間を取られれば、気がついた時にはオンデマンドビデオが市場を制圧しているということもあり得る。
ハリウッドのメジャースタジオは、強力な著作権保護技術で保護されたメディアコンテンツの、より収益性のある流通ルートを求めているのであって、DVDや次世代DVDのような、物理的な器にこだわっているわけではないだろう。ハリウッドに対して、どちらのビジネスモデルに利があるか、アドバンテージを示せたものが、将来、世界を支配するメディアの剣を持つことになるのではないだろうか。
(一条真人)
執筆者プロフィール
デジタルAV関連、コンピュータ関連などをおもに執筆するライター。PC開発を経て、パソコン雑誌「ハッカー」編集長、「PCプラスワン」編集長を経てフリーランスに。All Aboutの「DVD ・HDDレコーダー」ガイドも務める。趣味はジョギング、水泳、自転車、映画鑑賞など。