HOME > ニュース > 新モバイル放送の免許取得争い、いよいよ終盤へ − メディアフローが優位性をアピール

「ガラパゴス化を招いてはいけない」

新モバイル放送の免許取得争い、いよいよ終盤へ − メディアフローが優位性をアピール

公開日 2010/06/03 16:19 ファイル・ウェブ編集部
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
2011年7月24日に予定されている地上アナログ放送の完全停波。これによって空く周波数帯を使って、2011年秋には携帯機器向けマルチメディア放送の試験サービスが開始される。

本放送でインフラを提供する事業者は早ければ7月にも確定する見込みで、免許取得を目指す2陣営のアピールが熱を帯びてきた。

携帯向けマルチメディア放送に用いられるのはVHF帯ハイバンドで、帯域幅は14.5MHz。多チャンネルストリーミング放送を視聴するだけでなく、端末側で受信したデータを蓄積することができ、保存した動画や電子書籍、音楽などを手軽に楽しめる。3Gや3.9Gなど携帯電話回線を利用した通信では、ユーザーが増えれば増えるほどトラフィックが増大し、インフラ投資コストが嵩むが、放送であればユーザーの数に関わりなくコンテンツを安定して配信できるのもメリットだ。

受託放送事業者選定のスケジュール(メディアフローの推定)

携帯機器向けマルチメディア放送の概要と利点

ワンセグでは帯域幅の関係でこれ以上の多チャンネル化は難しいため、携帯機器向けマルチチャンネル放送は、ワンセグと併存して利用できる有料サービスとして展開される見込み。

放送サービスは、ネットワークなどインフラ部分を担当する「受託放送事業者」と、このインフラをベースにして消費者向けサービスを運営する「委託放送事業者」の2種類に分けられており、免許が交付される受託放送事業者は1社のみとなる。まず受託放送事業者1社が決まり、その後複数の委託放送事業者が決定するというスケジュールだ。

受託事業者は1社のみが選定される。実質的に方式の選択とも捉えることができる

受託放送事業者の候補は実質的に2社に絞られている。NTTドコモやニッポン放送、フジテレビ、日本テレビ、伊藤忠商事、スカパー!JSATなどが参加し、ISDB-Tmm方式を提唱している(株)マルチメディア放送と、KDDIと米クアルコムが参画し「MediaFLO」方式を採用するメディアフロージャパン企画(株)だ。

ISDB-Tmmは、ワンセグで用いられているISDB-T方式を発展させた規格。同陣営はワンセグとの技術的な共通性などをメリットとして訴えている。

一方のMediaFLOはグローバルでオープンな規格を目指した規格で、既に北米で2007年からVeizon WiressやAT&Tがサービスを提供中だ。なお、北米におけるストリーミング放送はQVGAのH.264 Main Profileで行われており、21chが放送されている。

北米におけるMediaFLOの状況

本日都内でメディアフロー陣営が記者向け説明会を開催。MediaFLO方式の利点をアピールしたほか、同方式が採用された場合に委託放送を行う新会社「メディアフロー放送サービス企画株式会社」を設立したことも明らかにした。

メディアフロージャパン企画 代表取締役社長の増田和彦氏

委託放送を行う新会社「メディアフロー放送サービス企画株式会社」の概要

メディアフロージャパン企画 代表取締役社長の増田和彦氏は、同社が沖縄ユビキタス特区を値要して行っている実証実験の成果を強調。「様々なフィールドからのデータ取得を行い、実際に機器を試用した消費者の意見やコンテンツプロバイダーからの意見をフィードバックし、ノウハウを溜めている」と述べ、インフラ整備のための実証が進んでいることを説明。

また受信端末についても、1チップでMediaFLOとワンセグに両対応できるチューナーを開発したほか、USBでPCに接続するチューナーや、受信した映像をWi-FiでiPhoneなどに転送できるチューナーなども既に開発中であると述べた。会場にはこれらの機器のほか、北米ですでに発売されているMediaFLO対応携帯電話なども展示され、実際に試用することができた。

1チップでMediaFLOとワンセグに両対応できるチューナーを開発

USB型チューナーを接続したChrome OS(左)とLinux(右)PC


Chrome OS搭載PCでのMediaFLO視聴画面。ツイッターを使用しながら番組を視聴できる

北米で既に販売されているMeidaFLOチューナー内蔵携帯電話


Wi-Fiで機器に映像やコンテンツを転送できるチューナー試作機

日本向けの携帯電話や通常のWindows PCでもMediaFLO視聴が行えることもアピール

なお米クアルコムは、自ら事業者「FLO TV」を設立し、端末開発にも参加。iPhone用ケース内にバッテリーとチューナーを備え、フル充電時で4時間の視聴が行える「Mophie juice pack TV」という端末も開発し、すでにAppleからの認定を取得。近日中に販売を開始するという。

「Mophie juice pack TV」は近日発売予定

さらにクアルコムジャパン 代表取締役会長兼社長の山田純氏は、「つい先日、MediaFLOに最適なデバイスが登場した。iPadに代表されるタブレット型機器だ」とコメント。iPadで使用できるチューナーやWi-Fi機能、さらにフラッシュメモリーを内蔵した小型デバイス「PocketFLO」試作機を披露した。iPad側でアプリを起動し、チューナーから転送された映像をストリーミング視聴したり、受信端末で蓄積したコンテンツをiPadで操作するデモなどを行った。iPadで番組表を閲覧し、見たい番組を録画予約することも可能だ。

クアルコムジャパン 代表取締役会長兼社長の山田純氏。手に持っているのが「PocketFLO」試作機

「PocketFLO」の概要


アプリ「PocketFLO」起動後のトップ画面

ストリーミング動画を見ながら各種コンテンツや情報を確認できる

またメディアフロージャパン企画の増田氏は、携帯端末向けマルチメディア放送が成功するためのキーファクターについて「受信端末がいかに普及するかが重要。端末の普及無しでは成功しない」と強調。「今後、携帯端末はAndroidなどオープンなOSを搭載したスマートフォンが拡大するトレンドにある。スマートフォンはグローバルな観点で設計されることが多く、これらの端末が、今後決定される方式をどの程度採用するか、あるいは対応させられるかが問題となる」とし、北米で商用化実績を持ち、様々なタイプの端末が既に発売されているMediaFLO方式のメリットを訴えた。

さらにISDB-Tmm方式についても、「ワンセグで使われるISDB-T方式とは周波数帯域が異なり、専用デバイスの実装が必要」と、専用デバイスの実装が必要となること、また13セグメントの一括受信となるため、ISDB-Tのメリットである低消費電力などは活かせないことなどを弱点として指摘した。

最後に増田氏は、事業者選定審査に対する意見を表明。「日本技術にこだわるあまり『ガラパゴス化』を招き、日本の利用者が不幸になることはあってはならない。あくまで技術中立の立場でフェアに評価してほしい」とISDB-Tmm方式を牽制した。

「ガラパゴス化を招いてはいけない」と強調

また同氏は「今後は多国間で足りない部分を補いながらグローバルでオープンなシステムを作る“協働”への取り組みが重要」としたほか、「クアルコムはワンセグとMediaFloを両立させるデュアルシステムやマルチバンドで動作するチップセットも開発中である」とも述べ、MediaFLOとワンセグが共存できることを改めて強調した。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE