NHK技研公開2011に展示予定
シャープ、8K4Kスーパーハイビジョン対応の85V型液晶ディスプレイを開発
シャープと日本放送協会(NHK)は、ハイビジョンの16倍に相当する横7,680×縦4,320画素(8K4K)の“スーパーハイビジョン”表示に対応した85V型液晶ディスプレイを共同開発した。これまで投写型のディスプレイは開発されていたが、直視型のスーパーハイビジョン対応ディスプレイは今回が世界初。シャープとNHKは本日、試作機の開発に関する技術説明と、スーパーハイビジョン放送への取り組みに関連する記者説明会を共同開催した。
開発したスーパーハイビジョン(以下:SHV)対応液晶ディスプレイは、画面サイズが85V型(約1.9m×1.05m)、横7,680×縦4,320画素(約3,300万画素)の画素数を実現。パネルの輝度は300cd/m²、表示階調はRGB各色10bitになる。会場では試作機によるデモンストレーションも行われ、8K4Kフル解像度の動画映像や、645判のデジタルスチルカメラで撮影した静止画による試写も披露された。試作機のフレームレートは60Hzとなるが、NHKの展示説明員によれば「大画面に映し出される8K4K動画でも、フレームレートを上げるとノイズを軽減できる効果が得られることがわかっている。今後は120Hz表示への対応を目指して開発を進めていく」という。
本日NHK放送技術研究所で開催された記者説明会には、シャープ(株)常務執行役員 研究開発本部長 兼 知的財産権本部長の水嶋繁光氏が出席し、SHV液晶ディスプレイに関連する技術、および試作機の説明を行った。
現行の1,920×1,080画素(約207万画素)のフルHDと比べて、およそ16倍の画素数となるSHVでは、1画素の大きさが16分の1となり、細密度が大幅に高まる。例えば85V型ディスプレイの場合、フルHDでは1画素が0.98mmピッチとなるが、SHVでは1画素が0.245mmピッチになる。これを実現するためのディスプレイのための技術革新が求められたと水嶋氏は振り返る。
シャープでは同社の家庭用液晶テレビで最大インチサイズとなる、70インチ級の“AQUOS クアトロン”「LC-70LE732U」を北米で発売する計画だが、今回発表したSHV試作機は、さらにその上を行く85V型で開発が進められた。その背景について「SHV映像の魅力を味わうには一定以上の大画面が必要。一方で家庭にインストールできるサイズとなると、今は85V型を一つの指標として考えている」と水嶋氏は語る。
高密度な画素を高い精度で制御しながら、ディスプレイとしての色再現やコントラスト感、輝度や階調再現性で、従来にないレベルに追い込んでいくことも課題となった。視聴者の視野を埋め尽くすような大画面で、従来のテレビを超えた豊かな「臨場感」、映像への「没入感」をもたらすことが目標に掲げられたという。完成した試作機の映像を初めて目の当たりにした際、水嶋氏は「私たち開発者にとっても、これまで経験したことのない映像世界が目の前にあった。この時にSHVの真の価値を理解できたと実感した」と振り返る。
今回のSHV試作機では、シャープの液晶テレビ開発におけるノウハウが“総動員”されたという。SHV実現ために、新たに必要になった技術も多数。まず大画面・高精細液晶パネル技術については、従来の大画面液晶ディスプレイの生産技術を活かしながら、同時に低負荷の配線技術を開発し、より大きな画面に安定して大容量の映像データを表示できるようにした。また中小型液晶技術で培った高精細パネル技術・高密度実装技術は、画素ピッチが見えないほどに緻密なSHVのパネル構造に結びついたという。コントラストや色彩・階調表現、輝度コントロールや低消費電力化などの液晶表示では、独自の「UV²A」の光配向制御技術や、高効率のLEDバックライト制御技術が活かされているという。なお、今回の試作機では豊かな色再現を実現するため、RGBのLEDバックライトが搭載された。
それぞれの技術革新について水嶋氏は「SHVディスプレイでは画面の隅々まで、高速に信号を送り届けなければならなかった。先端まで“なまり”のない信号を送るため、配線の抵抗値を小さくすることと、そこにぶら下がる容量負荷を小さくする必要があった。試作機ではここを徹底的に工夫して、現在製造しているテレビとは異なる配線技術を開発できた」とコメント。またSHV映像がもつ大容量の映像データを高精度に駆動するための技術については、AQUOSや大画面マルチディスプレイで培った映像処理が投入されたと紹介。「1枚の大画面を動かすので、信号処理もより高精度化されている」と水嶋氏は語り、「これらの新たな技術は、今のハイビジョンテレビに応用可能なもの。早晩、当社の現行ディスプレイ製品にも活かされてくる技術になると思う」と期待を述べた。
なお今回開発された試作機は、シャープが国内に構える液晶ディスプレイの量産工場に設けた製造ラインでつくられたものという。SHVパネルの製造コストについて、水嶋氏は「今回はまだ研究開発段階での発表だが、将来的にSHVパネルの価格は、現在のハイビジョンテレビと比べ、それほど高価にならない程度に落とし込めるとみている」との見解を示した。
シャープは、1953年のアナログテレビ放送のスタートに合わせて国産第1号のテレビを発売した。以後もBSデジタル/地上デジタルハイビジョン放送の開始などとタイミングをあわせ、それぞれの放送の受信に対応するテレビをいち早く商品化し、放送規格と相互進化を歩んできた。SHV放送については2020年の試験放送開始、2025年頃までの実用放送開始というロードマップが示されているが、水嶋氏は「今回、いち早く直視型のSHV対応液晶ディスプレイをNHKと一緒に開発できたことには大きな意義がある。今後もNHKとともに、次のテレビの時代を切り開いて行きたいと」意気込みを見せた。
今回試作機を完成させたことについては「2020年以降にスーパーハイビジョンを切り開いていくため、また今後のシナリオを描くためには、次の時代の製品につなげていくための技術革新が必要だ。今回のSHVパネルを開発するため、例えば大画面パネルにおける低負荷配線技術であったり、画像処理技術などに革新を得ることができた。これらの技術は、早晩当社のディスプレイ製品に活かされてくる技術になると思う。今のハイビジョンテレビに応用可能な、多くの技術を今回の開発で得ることができた」と振り返った。
日本放送協会からは専務理事 技師長の永井研二氏が登壇し、SHVの研究開発の経緯を説明した。
放送のデジタル化が進む中、NHKでは現在のデジタル放送を今後どのように成熟させていくか、10年後、20年後を見据えて研究開発を進めているという。「いまから“10年後”の実現を一つの目標として、1995年から研究開発を進めているのがSHV。ハイビジョンの16倍の画素を持った超高精細な映像に、22.2チャンネルのサウンドを組み合わせることで、あたかも映像の中の場所に自分がいるような圧倒的な臨場感を再現するシステムを研究している。現在はSHV規格の国際標準化についても注力しながら、ハイビジョン同様、世界各地で共通の高精細なSHV映像を楽しんでいただけるよう活動している」。
これまで2006年に国内で実施した紅白歌合戦のライブ中継や、IBC、NABなど海外の放送機器展示会で実現したSHVのパブリックビューイングのデモについても、各地で大きな反響が得られたという。今後の試験放送のロードマップについては、「目標としては2020年に衛生を使ったスーパーハイビジョンの試験放送をスタートさせたい。その際に、今の衛星では扱える情報量が限られてしまうため、Kaバンドの衛星も使えないか、現在検討を進めている」と永井氏は語った。
スーパーハイビジョンの機器の開発状況については、フル解像度カメラが昨年に開発されるとともに、800万画素デバイスを使ってSHV相当の解像度を得る「デュアルグリーン方式」を採用し、本体の機動性を重視した重さ20kgの第三世代カメラも開発されている。他にも記録・再生装置、符号化装置の開発も実現されている。
ディスプレイ機器については、「これまでは投写型のプロジェクターしかなかったが、今回世界最高のディスプレイ技術を持つシャープとの共同開発により、初めて直視型ディスプレイの開発に成功した。NHKではSHVの研究開発を始めたときから、高精細な映像を家庭で楽しんでいただくことが一つの大きな目標としてあったので、家庭用をターゲットとした今回の開発成果を大きな意味を持っていると考えている。今後は視聴者に、よりリアリティのある映像をお届けできるよう、開発研究さらに加速させていきたい」と意気込みを語った。
今回開発された85V型のSHV対応直視型液晶ディスプレイは、5月26日(木)から開催される「NHK技研公開2011(http://www.nhk.or.jp/strl/)」に展示される。
開発したスーパーハイビジョン(以下:SHV)対応液晶ディスプレイは、画面サイズが85V型(約1.9m×1.05m)、横7,680×縦4,320画素(約3,300万画素)の画素数を実現。パネルの輝度は300cd/m²、表示階調はRGB各色10bitになる。会場では試作機によるデモンストレーションも行われ、8K4Kフル解像度の動画映像や、645判のデジタルスチルカメラで撮影した静止画による試写も披露された。試作機のフレームレートは60Hzとなるが、NHKの展示説明員によれば「大画面に映し出される8K4K動画でも、フレームレートを上げるとノイズを軽減できる効果が得られることがわかっている。今後は120Hz表示への対応を目指して開発を進めていく」という。
本日NHK放送技術研究所で開催された記者説明会には、シャープ(株)常務執行役員 研究開発本部長 兼 知的財産権本部長の水嶋繁光氏が出席し、SHV液晶ディスプレイに関連する技術、および試作機の説明を行った。
現行の1,920×1,080画素(約207万画素)のフルHDと比べて、およそ16倍の画素数となるSHVでは、1画素の大きさが16分の1となり、細密度が大幅に高まる。例えば85V型ディスプレイの場合、フルHDでは1画素が0.98mmピッチとなるが、SHVでは1画素が0.245mmピッチになる。これを実現するためのディスプレイのための技術革新が求められたと水嶋氏は振り返る。
シャープでは同社の家庭用液晶テレビで最大インチサイズとなる、70インチ級の“AQUOS クアトロン”「LC-70LE732U」を北米で発売する計画だが、今回発表したSHV試作機は、さらにその上を行く85V型で開発が進められた。その背景について「SHV映像の魅力を味わうには一定以上の大画面が必要。一方で家庭にインストールできるサイズとなると、今は85V型を一つの指標として考えている」と水嶋氏は語る。
高密度な画素を高い精度で制御しながら、ディスプレイとしての色再現やコントラスト感、輝度や階調再現性で、従来にないレベルに追い込んでいくことも課題となった。視聴者の視野を埋め尽くすような大画面で、従来のテレビを超えた豊かな「臨場感」、映像への「没入感」をもたらすことが目標に掲げられたという。完成した試作機の映像を初めて目の当たりにした際、水嶋氏は「私たち開発者にとっても、これまで経験したことのない映像世界が目の前にあった。この時にSHVの真の価値を理解できたと実感した」と振り返る。
今回のSHV試作機では、シャープの液晶テレビ開発におけるノウハウが“総動員”されたという。SHV実現ために、新たに必要になった技術も多数。まず大画面・高精細液晶パネル技術については、従来の大画面液晶ディスプレイの生産技術を活かしながら、同時に低負荷の配線技術を開発し、より大きな画面に安定して大容量の映像データを表示できるようにした。また中小型液晶技術で培った高精細パネル技術・高密度実装技術は、画素ピッチが見えないほどに緻密なSHVのパネル構造に結びついたという。コントラストや色彩・階調表現、輝度コントロールや低消費電力化などの液晶表示では、独自の「UV²A」の光配向制御技術や、高効率のLEDバックライト制御技術が活かされているという。なお、今回の試作機では豊かな色再現を実現するため、RGBのLEDバックライトが搭載された。
それぞれの技術革新について水嶋氏は「SHVディスプレイでは画面の隅々まで、高速に信号を送り届けなければならなかった。先端まで“なまり”のない信号を送るため、配線の抵抗値を小さくすることと、そこにぶら下がる容量負荷を小さくする必要があった。試作機ではここを徹底的に工夫して、現在製造しているテレビとは異なる配線技術を開発できた」とコメント。またSHV映像がもつ大容量の映像データを高精度に駆動するための技術については、AQUOSや大画面マルチディスプレイで培った映像処理が投入されたと紹介。「1枚の大画面を動かすので、信号処理もより高精度化されている」と水嶋氏は語り、「これらの新たな技術は、今のハイビジョンテレビに応用可能なもの。早晩、当社の現行ディスプレイ製品にも活かされてくる技術になると思う」と期待を述べた。
なお今回開発された試作機は、シャープが国内に構える液晶ディスプレイの量産工場に設けた製造ラインでつくられたものという。SHVパネルの製造コストについて、水嶋氏は「今回はまだ研究開発段階での発表だが、将来的にSHVパネルの価格は、現在のハイビジョンテレビと比べ、それほど高価にならない程度に落とし込めるとみている」との見解を示した。
シャープは、1953年のアナログテレビ放送のスタートに合わせて国産第1号のテレビを発売した。以後もBSデジタル/地上デジタルハイビジョン放送の開始などとタイミングをあわせ、それぞれの放送の受信に対応するテレビをいち早く商品化し、放送規格と相互進化を歩んできた。SHV放送については2020年の試験放送開始、2025年頃までの実用放送開始というロードマップが示されているが、水嶋氏は「今回、いち早く直視型のSHV対応液晶ディスプレイをNHKと一緒に開発できたことには大きな意義がある。今後もNHKとともに、次のテレビの時代を切り開いて行きたいと」意気込みを見せた。
今回試作機を完成させたことについては「2020年以降にスーパーハイビジョンを切り開いていくため、また今後のシナリオを描くためには、次の時代の製品につなげていくための技術革新が必要だ。今回のSHVパネルを開発するため、例えば大画面パネルにおける低負荷配線技術であったり、画像処理技術などに革新を得ることができた。これらの技術は、早晩当社のディスプレイ製品に活かされてくる技術になると思う。今のハイビジョンテレビに応用可能な、多くの技術を今回の開発で得ることができた」と振り返った。
日本放送協会からは専務理事 技師長の永井研二氏が登壇し、SHVの研究開発の経緯を説明した。
放送のデジタル化が進む中、NHKでは現在のデジタル放送を今後どのように成熟させていくか、10年後、20年後を見据えて研究開発を進めているという。「いまから“10年後”の実現を一つの目標として、1995年から研究開発を進めているのがSHV。ハイビジョンの16倍の画素を持った超高精細な映像に、22.2チャンネルのサウンドを組み合わせることで、あたかも映像の中の場所に自分がいるような圧倒的な臨場感を再現するシステムを研究している。現在はSHV規格の国際標準化についても注力しながら、ハイビジョン同様、世界各地で共通の高精細なSHV映像を楽しんでいただけるよう活動している」。
これまで2006年に国内で実施した紅白歌合戦のライブ中継や、IBC、NABなど海外の放送機器展示会で実現したSHVのパブリックビューイングのデモについても、各地で大きな反響が得られたという。今後の試験放送のロードマップについては、「目標としては2020年に衛生を使ったスーパーハイビジョンの試験放送をスタートさせたい。その際に、今の衛星では扱える情報量が限られてしまうため、Kaバンドの衛星も使えないか、現在検討を進めている」と永井氏は語った。
スーパーハイビジョンの機器の開発状況については、フル解像度カメラが昨年に開発されるとともに、800万画素デバイスを使ってSHV相当の解像度を得る「デュアルグリーン方式」を採用し、本体の機動性を重視した重さ20kgの第三世代カメラも開発されている。他にも記録・再生装置、符号化装置の開発も実現されている。
ディスプレイ機器については、「これまでは投写型のプロジェクターしかなかったが、今回世界最高のディスプレイ技術を持つシャープとの共同開発により、初めて直視型ディスプレイの開発に成功した。NHKではSHVの研究開発を始めたときから、高精細な映像を家庭で楽しんでいただくことが一つの大きな目標としてあったので、家庭用をターゲットとした今回の開発成果を大きな意味を持っていると考えている。今後は視聴者に、よりリアリティのある映像をお届けできるよう、開発研究さらに加速させていきたい」と意気込みを語った。
今回開発された85V型のSHV対応直視型液晶ディスプレイは、5月26日(木)から開催される「NHK技研公開2011(http://www.nhk.or.jp/strl/)」に展示される。