「スピード感のある経営を」
パナソニック新社長の津賀氏が会見 − 大坪現社長も出席の質疑応答を全掲載
パナソニック(株)は、2月28日に発表した経営人事に関する記者会見を開催。6月27日付で同社の新社長に就任する津賀一宏氏、新会長の大坪文雄氏が出席し、同社の経営方針について説明を行った。
同社は28日に開催した取締役会にて、2012年の役員人事を内定。6月27日付で社長交代人事を実施し、現専務取締役であり、AVCネットワーク社 社長の津賀一宏氏が代表取締役社長に、現社長の大坪文雄氏が代表取締役会長にそれぞれ就任する。現会長の中村邦夫氏は相談役に、名誉会長には松下正治氏が就任する。また社長交代に合わせて、4月1日付で新たな役員人事(関連ニュース)も実施される。
新社長に就任する津賀一宏氏は昭和31年生まれの55歳。大阪府出身 大阪大学 基礎工学部 生物工学科 卒業。昭和54年に松下電器産業(株)に入社後、マルチメディア開発センター所長、パナソニック オートモーティブシステムズ社 社長、AVCネットワークス社 社長を歴任し、平成23年6月にパナソニック(株)専務取締役に就任する。
登壇した津賀氏は「初めて社長への就任人事を聞いたときには我が耳を疑ったが、時間が経つに連れて、当社が置かれている環境の厳しさに立ち向かう決意と、当社が事業体制を再編して臨んだ船出の舵を握るという大役に、心躍る気持ちが芽生えてきた」と述べた。
「今日も記者会見に多く集まっていただいた皆様を目の前にして、また世界中のお客様、ステークホルダー、そして従業員の家族を思うと、自分の責任の重さを実感している。2018年に創業100周年を迎えるパナソニックは、“環境革新企業”を掲げ成長への歩みを続けている。微力だが次の世代につなげられるよう、粉骨砕身していきたい」と決意を表明した。
また新会長に就任する大坪氏は「6月27日までは私も全力で社長としての役割を全うするつもりだ。津賀氏には温かいご指導をお願いしたい」とコメントした。
続いて壇上にて、津賀氏と大坪氏による質疑応答が執り行われた。
ー 近年、積極的に推進してきたソリューションビジネスへの展望と、今後の可能性についてどう考えるか。
大坪氏:パナソニックのあらゆる事業が“ソリューション型”のビジネスだと考えている。もちろん、従来通りの単品ビジネスもあるのだが、個々の商材を含めてあらゆるビジネスをソリューション型にもっていきたい。その一つの究極的なかたちとして“家まるごと”であったり“街まるごと”といった「まるごと事業」のコンセプトを提案している。いわば生活者の方々がお困りである事柄を解決するため、あらゆる商材とシステムをつなげて提案するのがパナソニックのソリューションビジネスであり、当社ならではの強みを集約させたかたちだ。
創業100周年となる2018年には、全体のビジネスの中で、このソリューション型のビジネスについて大きなウェイトを置きたいと考えている。他に例のないビジネスモデルではあるが、当社の衆知を集めて事業を確立したい。
「まるごと事業」については、国内外で様々な試みがかたちになりつつある。藤沢サステーナブル・スマートタウンでのカーシェアリング、太陽光などを活用した電力網、蓄電システムの共用化。また、そういう街や家の付加価値をどう高めるのかについて、5〜10年たっても陳腐化しないよう、ソリューション提案を考えている。
中国ではビルマネージメントシステムや、水や空気を浄化するための技術を提案している。シンガポールでは政府と協力して、コンドミニアム向けのエアコンを核としたデマンドコントロールシステムも実証実験を行っている。
生活者の視点に立ちながらエネルギー効率を高めていくソリューションを、パナソニックの商材を中心に提案していくことが「まるごとビジネス」だ。新しい土俵をつくるというビジョンのもと、これから少し時間はかかるかもしれないが、世界中で色んな事例を確立しながら、トップランナーとして走り続けていきたい。
ー 新興国市場に向けた戦略の手応えはどうか。2018年に海外販売比率65%を掲げて来たが、実現の可能性はどうか。
大坪氏:新興国市場の開拓については、私が社長に就任して以来、最も強く意識してきた事業のひとつだ。経済発展が著しく、人口規模の大きい新興国に、AV商品や白物家電まで、地域に密着した価値ある商品を提案していきたい。
その中で大事なのは、現地に暮らす人々の生活を深く研究することで、現地の消費ニーズにマッチした商品や、隠れたニーズを刺激する商品を供給していくことだ。消費者の実体を知り、商品そのものからアフターサービス、マーケティング・宣伝まで、ニーズにフィットしたものを提供してきたことで、その手応えを各地域から得ている。製造業として本来やるべきことを素直にやるという心構えで取り組みたい。
海外比率は直近の10年で「50%超え」を目標にしてきた。言い訳がましく聞こえてしまうかもしれないが、グローバル経済の環境に大きく影響されたこともあり、なかなか実現できなかったという反省がある。でも見方を変えれば、このことは国内市場がとても頑張っていることの裏返しでもある。「まるごと事業」は現在、国内よりも海外比率が高まりつつある。新社長のリーダーシップにより、創業100周年の節目を見据えながら、海外比率を50%から60%に近づけていけるだろうと期待している。
ー 海外でも力を入れはじめている、白物家電への取り組みについて見通しをきかせて欲しい。
大坪氏:先進国と新興国とでは、生活者の方々が家電を使う環境が大きく異なる。例えば、電力供給のインフラが絶えず不安にさらされている地域があったり、エネルギー供給そのものに上限のある地域も存在している。そんな環境の制約を受けて、白物家電に求められる基本的な性能として「省エネ」に注目が集まっていることは大いに意識するところだ。パナソニックではこれまで現地工場生産にこだわってきたが、新興国の白物家電についてはOEM/ODMをフルに活用しながら、まずは商品ラインナップを充実させて、ブランドの市場展開を一気に進めたい。幾つかの地域では成功事例も出てきており、力強く前進できていると思っている。
ー 6年後の2018年に創業100周年を迎えるが、その時にはパナソニックをどういう企業にしたいと考えているのか。昨日大阪で開催した記者会見では、「現在の8兆円という売上高では少なすぎる」という発言もあった。大坪氏は「エレクトロニクスで世界トップ」を宣言したが、津賀氏はどういう企業イメージを持っていて、どこで企業の成長を図る考えなのか。また「環境革新企業・エコ&スマート」のビジョンについては、具体的にどのようなことに取り組んでいくのか。
津賀氏:昨日はまだ自分の中で色々なことを整理できていなかったのでそのような発言をしたが、パナソニックの実力から考えると、売上高8兆円という規模に満足すべきでないと考えていることは確かだ。また、現在の売りを“守ろう”と構えてしまって守れるものではない。2018年までには、これから3年間の中期計画を2回分をつくることになるが、単純に売り上げの数字を伸ばしていくという視点だけでなく、どこに私たちの成長性と独自性が見いだせるかを、もう一度じっくりと考える必要があると思っている。「環境革新企業」を宣言したのだから、環境関連の技術だけを伸ばせば良いという考え方では難しい。全てのドメインで成長性と収益性を高める必要がある。
私が現在社長職を任されているAVCネットワークス社では、これまで「エコ&スマート」のビジョンはあまりフォーカスされることがなかった。どちらかと言えば画質や音質、性能などトラディショナルな性能にフォーカスを置いてきたことも事実。これから先進国で「豊かな生活」を提案し、実現していくためには、無駄を省いて合理的な成長を追求していくことが大事と考えている。私たちが掲げる「エコ&スマート」の価値観を、AVCの分野で実現することは可能だと思っている。例えば、明るさ性能は高いが、消費電力が大きいビジネスプロジェクターがあったとして、この製品に「エコ&スマート」を導入して、消費電力が半分にできれば、本体がコンパクトになったり、新しい価値が生まれる可能性だってある。
BtoB、BtoCのビジネスともに、お客様の価値に沿った活動をしっかりと取り組むことが、成長性と収益性を実現するために不可欠だ。それぞれにお客様の価値にフィットするところにフォーカスしていけば、成長性と収益性が得られると思う。そういう考え方ができない事業分野が仮にあるとすれば、ドメイン間の連携で補っていきたい。事業全体の関連性を高めていくことで、自ずと8兆円の売上高を超えていく企業になっていくはずだ。
ー 長らくB to Cビジネスをコアにしてきたパナソニックが、2〜3年前からB to Bビジネスへ大きく舵を切った。こういった局面ではビジネスの組み立て方から、一人ひとりの考え方まで、いわゆる“DNAの転換作業”が大事になるはず。津賀氏はDNAを変えることの難しさをどのように認識しているか、また転換はどう進めていくのか。
津賀氏:当社にもDNAがあるのは事実だが、転換が特段、難しいことだとは考えていない。例えばAVCネットワークス社には、B to BもB to Cもビジネスとして存在していて、ここしばらくの投資はB to Cに寄っていた。しかしながら、徐々に各々の融合を深めることで、互いの成功事例を持ち寄って相乗効果を上げることができた。元々が同じような技術のルーツを共有しているので、DNAの垣根を取り払うことはそれほど困難ではないはずだ。
もちろん、ビジネスの転換期には様々な問題が出てくるかもしれないが、最も大事な尺度は「お客様の価値に応えられているか」ということ。そこに最大の価値を見いだしながら、成長を追求していきたい。
お客様価値をより明確にしていくことが、B to Cのビジネスにとってはとても大事だ。「もう一度価値を見直そう」という取り組み方が一つあると思う。例えばテレビやビデオはトラディショナルな存在だったため、これまでのお客様価値は、本質を突き詰めなくてもマーケットがそこにあったので、「よい商品」と呼ばれるものを投入すれば売れた時代もあった。
でも、これからは違う。お客様価値を本質的なところから問い直して、真に価値のあるものをご提案していくことがより大事になっていくはずだ。提案型の視点を高めていくと、B to BとB to C、ハードウェアとサービスが融合したようなかたちの事業が、お客様へ「次の価値」を提案できるモデルとして確立していくはずだ。
ー 大坪氏が社長に在任された6年間は、非常に厳しい環境だったと思う。例えばテレビ事業を縮小したことに象徴されるように、日本の“ものづくり”はいま、困難な環境にさらされている。日本のものづくりや、エレクトロニクスメーカーの今後の将来をどう見ている。
大坪氏:今は新興国を含めて、国家経済戦争の時代にあると思う。個々の企業の努力を、国家が国としていかに支えて、産業発展につなげて行けるかが問われる時代だ。
ものづくりの力はここ10年、20年と徐々に弱っている。もしこのままの状況が続けば、日本のものづくりは根本的に土台を失うと懸念している。日本のものづくりの場で「付加価値をどう高めるのか」ということに対して、生産活動に関わる全ての人が知恵を出さなければならなくなった。
単にパーツを組み上げて、ものをつくったというだけでは、そこにはもう付加価値は生まれない。つくっている商品は同じでも、例えば部品そのものに新しい付加価値が乗せられないか、といった視点で突き詰めて行ければ、グローバルに魅力のある商品になり得ると思う。新しい付加価値とは何か、ものづくりに携わる全員が、徹底的に考えるべき時代になった。パナソニックも部品材料の一つ一つにこだわりながら「まるごと事業」を成功させて、新たな付加価値を実現したいと考えている。
ー パナソニックへの社名変更、三洋電機とパナソニック電工との経営統合の意義を、いまどう捉えているか。
大坪氏:テレビや半導体の事業への投資を中心に、今年度7,800億の赤字を出してしまったことについては、社長という立場で責任を痛感している。一方で社名変更や経営統合など、将来にわたってパナソニックが発展していくためのベースをどう作り込んでいくかということも重要な仕事と考えている。2012年に確実な利益回復を図るために、どれも必要な政策だったと思う。2018年を目指して、企業がどういう方向へ進んでいくべきなのかを考えた際、重要な改革が実現できたと思う。
ー 55歳の若さで社長に就任することになったが、自信や不安は。
津賀氏:昨日大阪で記者会見をして、今朝の新聞を読んだら、どの記事でも「最年少」という言葉が載っていた。私ももう55歳なので、正直なところそれほど若いと自分でも思っていないのだが。
大事なのはむしろ“スピード感のある経営”ができるかということ。スピード感がなければ55歳であっても若いとは言えない。私自身のプレッシャーは若さではなく、スピード感をもった経営ができるかどうか。不安がないといえば嘘になるが、経験を要する事柄については大坪会長にも指導を仰ぎつつ、スピード感を重視しながら経営に邁進したい。
ー 大坪氏は社長就任時に、「周知を集めた全員経営」という創業者の経営理念をモットーに掲げられたが、その成果は挙げられたと思うか。
大坪氏:社長とは、なって初めて経験できる立場。社長を任命された際、自分が経験してきたことを経営に活かしたいとは考えたが、パナソニックほどの大きな規模の企業になると、自分ひとりの経験でまかなえるはずもなく、周りの人たちと助け合うことこそが大事と考え、「周知を集めた全員経営」という言葉を掲げた。
三洋電機、パナソニック電工との経営統合を進めた際には「皆と入り交じろう」と考えた。そうすることで、互いに知恵を出し合ってシナジーとして高められると思ったからだ。
小さな事例だが、東日本大震災が起きた後、ソーラーパネルと充電式乾電池で駆動する「ソーラーランタン」を商品化した。すると、震災直後から大変なヒット商品になった。
三洋電気の商品であった“ゴパン”も大変ユニークな商品。私も当初、その発想のユニークさに驚いたが、一方で市場に出荷できる台数が少なく、国内向けの商品だったし、実際に使うと極めて騒音が大きいという課題もあった。そこでパナソニックの開発部隊と一緒になって改良を進めたところ、現在は大ヒット商品となっている。知恵の入り交じりや、周知を集めることで、チームワークから大きなシナジーが生まれた。
同様のシナジーについては、これからも推進しながらスケールメリットを実現していきたい。「周知を集めた全員経営」という言葉は、当社の従業員であれば等しく尊重すべきと思っている
ー 大坪氏は社長としての自分を自己採点するなら、100点満点で何点つけられる。
大坪氏:自己評価は難しいので、採点は皆様にお願いしたい。巨額の赤字をつくってしまったという意味では「0点」どころか「マイナス」かもしれない。しかし、企業の将来に向けた成長の布石を打てたという見方をするならば、少しは点数をいただけるのではないか。自分自身としては達成感もあり、心の中では大いに満足しているが、だからといって今年度の大きな赤字が打ち消されるとは当然ながら思っていない。
ー 創業者の言葉で、津賀氏自身が拠り所にしてきたものがあれば教えて欲しい。
津賀氏:「衆知を集める」という言葉については、経営者として基本中のキホンだと考えている。もちろん私も最も好きな言葉の一つだ。ただ、企業経営を全体として捉える前に、人をつくり、育てるという姿勢が大事だと思う。私が創業者の言葉で拠り所にしているものは、例えば「雨が降れば傘をさす」など、非常に合理的な言葉が多い。とてもわかりやすい言葉で、経営をもう一度振り返るということが大事だと思う。
ー 大坪氏は社長として様々な経営改革に取り組んでこられたが、振り返ってみて「これが最大」というものはどれか。
大坪氏:創業者は「企業が存在する意味」について問うた。今日現在の世界状況の中で、環境との共存というのは世界人類にとって、最大の課題だ。これに対して「環境革新企業」というビジョンを打ち出して、船出を実現できたことがとても大きいと考えている。
ー 津賀氏が社長に就任しても、歴代の経営理念から「これだけは変えない」というものは何か。
津賀氏:現・中村会長の時代から、経営理念は変えないという言葉は身に染みついている。当社の経営理念の中で、私が特に変えたくないと考えている2つの事柄は、一つが「人」を中核に置くこと。もう一つは「合理性」に基づいた企業体であるということだ。
同社は28日に開催した取締役会にて、2012年の役員人事を内定。6月27日付で社長交代人事を実施し、現専務取締役であり、AVCネットワーク社 社長の津賀一宏氏が代表取締役社長に、現社長の大坪文雄氏が代表取締役会長にそれぞれ就任する。現会長の中村邦夫氏は相談役に、名誉会長には松下正治氏が就任する。また社長交代に合わせて、4月1日付で新たな役員人事(関連ニュース)も実施される。
新社長に就任する津賀一宏氏は昭和31年生まれの55歳。大阪府出身 大阪大学 基礎工学部 生物工学科 卒業。昭和54年に松下電器産業(株)に入社後、マルチメディア開発センター所長、パナソニック オートモーティブシステムズ社 社長、AVCネットワークス社 社長を歴任し、平成23年6月にパナソニック(株)専務取締役に就任する。
登壇した津賀氏は「初めて社長への就任人事を聞いたときには我が耳を疑ったが、時間が経つに連れて、当社が置かれている環境の厳しさに立ち向かう決意と、当社が事業体制を再編して臨んだ船出の舵を握るという大役に、心躍る気持ちが芽生えてきた」と述べた。
「今日も記者会見に多く集まっていただいた皆様を目の前にして、また世界中のお客様、ステークホルダー、そして従業員の家族を思うと、自分の責任の重さを実感している。2018年に創業100周年を迎えるパナソニックは、“環境革新企業”を掲げ成長への歩みを続けている。微力だが次の世代につなげられるよう、粉骨砕身していきたい」と決意を表明した。
また新会長に就任する大坪氏は「6月27日までは私も全力で社長としての役割を全うするつもりだ。津賀氏には温かいご指導をお願いしたい」とコメントした。
続いて壇上にて、津賀氏と大坪氏による質疑応答が執り行われた。
ー 近年、積極的に推進してきたソリューションビジネスへの展望と、今後の可能性についてどう考えるか。
大坪氏:パナソニックのあらゆる事業が“ソリューション型”のビジネスだと考えている。もちろん、従来通りの単品ビジネスもあるのだが、個々の商材を含めてあらゆるビジネスをソリューション型にもっていきたい。その一つの究極的なかたちとして“家まるごと”であったり“街まるごと”といった「まるごと事業」のコンセプトを提案している。いわば生活者の方々がお困りである事柄を解決するため、あらゆる商材とシステムをつなげて提案するのがパナソニックのソリューションビジネスであり、当社ならではの強みを集約させたかたちだ。
創業100周年となる2018年には、全体のビジネスの中で、このソリューション型のビジネスについて大きなウェイトを置きたいと考えている。他に例のないビジネスモデルではあるが、当社の衆知を集めて事業を確立したい。
「まるごと事業」については、国内外で様々な試みがかたちになりつつある。藤沢サステーナブル・スマートタウンでのカーシェアリング、太陽光などを活用した電力網、蓄電システムの共用化。また、そういう街や家の付加価値をどう高めるのかについて、5〜10年たっても陳腐化しないよう、ソリューション提案を考えている。
中国ではビルマネージメントシステムや、水や空気を浄化するための技術を提案している。シンガポールでは政府と協力して、コンドミニアム向けのエアコンを核としたデマンドコントロールシステムも実証実験を行っている。
生活者の視点に立ちながらエネルギー効率を高めていくソリューションを、パナソニックの商材を中心に提案していくことが「まるごとビジネス」だ。新しい土俵をつくるというビジョンのもと、これから少し時間はかかるかもしれないが、世界中で色んな事例を確立しながら、トップランナーとして走り続けていきたい。
ー 新興国市場に向けた戦略の手応えはどうか。2018年に海外販売比率65%を掲げて来たが、実現の可能性はどうか。
大坪氏:新興国市場の開拓については、私が社長に就任して以来、最も強く意識してきた事業のひとつだ。経済発展が著しく、人口規模の大きい新興国に、AV商品や白物家電まで、地域に密着した価値ある商品を提案していきたい。
その中で大事なのは、現地に暮らす人々の生活を深く研究することで、現地の消費ニーズにマッチした商品や、隠れたニーズを刺激する商品を供給していくことだ。消費者の実体を知り、商品そのものからアフターサービス、マーケティング・宣伝まで、ニーズにフィットしたものを提供してきたことで、その手応えを各地域から得ている。製造業として本来やるべきことを素直にやるという心構えで取り組みたい。
海外比率は直近の10年で「50%超え」を目標にしてきた。言い訳がましく聞こえてしまうかもしれないが、グローバル経済の環境に大きく影響されたこともあり、なかなか実現できなかったという反省がある。でも見方を変えれば、このことは国内市場がとても頑張っていることの裏返しでもある。「まるごと事業」は現在、国内よりも海外比率が高まりつつある。新社長のリーダーシップにより、創業100周年の節目を見据えながら、海外比率を50%から60%に近づけていけるだろうと期待している。
ー 海外でも力を入れはじめている、白物家電への取り組みについて見通しをきかせて欲しい。
大坪氏:先進国と新興国とでは、生活者の方々が家電を使う環境が大きく異なる。例えば、電力供給のインフラが絶えず不安にさらされている地域があったり、エネルギー供給そのものに上限のある地域も存在している。そんな環境の制約を受けて、白物家電に求められる基本的な性能として「省エネ」に注目が集まっていることは大いに意識するところだ。パナソニックではこれまで現地工場生産にこだわってきたが、新興国の白物家電についてはOEM/ODMをフルに活用しながら、まずは商品ラインナップを充実させて、ブランドの市場展開を一気に進めたい。幾つかの地域では成功事例も出てきており、力強く前進できていると思っている。
ー 6年後の2018年に創業100周年を迎えるが、その時にはパナソニックをどういう企業にしたいと考えているのか。昨日大阪で開催した記者会見では、「現在の8兆円という売上高では少なすぎる」という発言もあった。大坪氏は「エレクトロニクスで世界トップ」を宣言したが、津賀氏はどういう企業イメージを持っていて、どこで企業の成長を図る考えなのか。また「環境革新企業・エコ&スマート」のビジョンについては、具体的にどのようなことに取り組んでいくのか。
津賀氏:昨日はまだ自分の中で色々なことを整理できていなかったのでそのような発言をしたが、パナソニックの実力から考えると、売上高8兆円という規模に満足すべきでないと考えていることは確かだ。また、現在の売りを“守ろう”と構えてしまって守れるものではない。2018年までには、これから3年間の中期計画を2回分をつくることになるが、単純に売り上げの数字を伸ばしていくという視点だけでなく、どこに私たちの成長性と独自性が見いだせるかを、もう一度じっくりと考える必要があると思っている。「環境革新企業」を宣言したのだから、環境関連の技術だけを伸ばせば良いという考え方では難しい。全てのドメインで成長性と収益性を高める必要がある。
私が現在社長職を任されているAVCネットワークス社では、これまで「エコ&スマート」のビジョンはあまりフォーカスされることがなかった。どちらかと言えば画質や音質、性能などトラディショナルな性能にフォーカスを置いてきたことも事実。これから先進国で「豊かな生活」を提案し、実現していくためには、無駄を省いて合理的な成長を追求していくことが大事と考えている。私たちが掲げる「エコ&スマート」の価値観を、AVCの分野で実現することは可能だと思っている。例えば、明るさ性能は高いが、消費電力が大きいビジネスプロジェクターがあったとして、この製品に「エコ&スマート」を導入して、消費電力が半分にできれば、本体がコンパクトになったり、新しい価値が生まれる可能性だってある。
BtoB、BtoCのビジネスともに、お客様の価値に沿った活動をしっかりと取り組むことが、成長性と収益性を実現するために不可欠だ。それぞれにお客様の価値にフィットするところにフォーカスしていけば、成長性と収益性が得られると思う。そういう考え方ができない事業分野が仮にあるとすれば、ドメイン間の連携で補っていきたい。事業全体の関連性を高めていくことで、自ずと8兆円の売上高を超えていく企業になっていくはずだ。
ー 長らくB to Cビジネスをコアにしてきたパナソニックが、2〜3年前からB to Bビジネスへ大きく舵を切った。こういった局面ではビジネスの組み立て方から、一人ひとりの考え方まで、いわゆる“DNAの転換作業”が大事になるはず。津賀氏はDNAを変えることの難しさをどのように認識しているか、また転換はどう進めていくのか。
津賀氏:当社にもDNAがあるのは事実だが、転換が特段、難しいことだとは考えていない。例えばAVCネットワークス社には、B to BもB to Cもビジネスとして存在していて、ここしばらくの投資はB to Cに寄っていた。しかしながら、徐々に各々の融合を深めることで、互いの成功事例を持ち寄って相乗効果を上げることができた。元々が同じような技術のルーツを共有しているので、DNAの垣根を取り払うことはそれほど困難ではないはずだ。
もちろん、ビジネスの転換期には様々な問題が出てくるかもしれないが、最も大事な尺度は「お客様の価値に応えられているか」ということ。そこに最大の価値を見いだしながら、成長を追求していきたい。
お客様価値をより明確にしていくことが、B to Cのビジネスにとってはとても大事だ。「もう一度価値を見直そう」という取り組み方が一つあると思う。例えばテレビやビデオはトラディショナルな存在だったため、これまでのお客様価値は、本質を突き詰めなくてもマーケットがそこにあったので、「よい商品」と呼ばれるものを投入すれば売れた時代もあった。
でも、これからは違う。お客様価値を本質的なところから問い直して、真に価値のあるものをご提案していくことがより大事になっていくはずだ。提案型の視点を高めていくと、B to BとB to C、ハードウェアとサービスが融合したようなかたちの事業が、お客様へ「次の価値」を提案できるモデルとして確立していくはずだ。
ー 大坪氏が社長に在任された6年間は、非常に厳しい環境だったと思う。例えばテレビ事業を縮小したことに象徴されるように、日本の“ものづくり”はいま、困難な環境にさらされている。日本のものづくりや、エレクトロニクスメーカーの今後の将来をどう見ている。
大坪氏:今は新興国を含めて、国家経済戦争の時代にあると思う。個々の企業の努力を、国家が国としていかに支えて、産業発展につなげて行けるかが問われる時代だ。
ものづくりの力はここ10年、20年と徐々に弱っている。もしこのままの状況が続けば、日本のものづくりは根本的に土台を失うと懸念している。日本のものづくりの場で「付加価値をどう高めるのか」ということに対して、生産活動に関わる全ての人が知恵を出さなければならなくなった。
単にパーツを組み上げて、ものをつくったというだけでは、そこにはもう付加価値は生まれない。つくっている商品は同じでも、例えば部品そのものに新しい付加価値が乗せられないか、といった視点で突き詰めて行ければ、グローバルに魅力のある商品になり得ると思う。新しい付加価値とは何か、ものづくりに携わる全員が、徹底的に考えるべき時代になった。パナソニックも部品材料の一つ一つにこだわりながら「まるごと事業」を成功させて、新たな付加価値を実現したいと考えている。
ー パナソニックへの社名変更、三洋電機とパナソニック電工との経営統合の意義を、いまどう捉えているか。
大坪氏:テレビや半導体の事業への投資を中心に、今年度7,800億の赤字を出してしまったことについては、社長という立場で責任を痛感している。一方で社名変更や経営統合など、将来にわたってパナソニックが発展していくためのベースをどう作り込んでいくかということも重要な仕事と考えている。2012年に確実な利益回復を図るために、どれも必要な政策だったと思う。2018年を目指して、企業がどういう方向へ進んでいくべきなのかを考えた際、重要な改革が実現できたと思う。
ー 55歳の若さで社長に就任することになったが、自信や不安は。
津賀氏:昨日大阪で記者会見をして、今朝の新聞を読んだら、どの記事でも「最年少」という言葉が載っていた。私ももう55歳なので、正直なところそれほど若いと自分でも思っていないのだが。
大事なのはむしろ“スピード感のある経営”ができるかということ。スピード感がなければ55歳であっても若いとは言えない。私自身のプレッシャーは若さではなく、スピード感をもった経営ができるかどうか。不安がないといえば嘘になるが、経験を要する事柄については大坪会長にも指導を仰ぎつつ、スピード感を重視しながら経営に邁進したい。
ー 大坪氏は社長就任時に、「周知を集めた全員経営」という創業者の経営理念をモットーに掲げられたが、その成果は挙げられたと思うか。
大坪氏:社長とは、なって初めて経験できる立場。社長を任命された際、自分が経験してきたことを経営に活かしたいとは考えたが、パナソニックほどの大きな規模の企業になると、自分ひとりの経験でまかなえるはずもなく、周りの人たちと助け合うことこそが大事と考え、「周知を集めた全員経営」という言葉を掲げた。
三洋電機、パナソニック電工との経営統合を進めた際には「皆と入り交じろう」と考えた。そうすることで、互いに知恵を出し合ってシナジーとして高められると思ったからだ。
小さな事例だが、東日本大震災が起きた後、ソーラーパネルと充電式乾電池で駆動する「ソーラーランタン」を商品化した。すると、震災直後から大変なヒット商品になった。
三洋電気の商品であった“ゴパン”も大変ユニークな商品。私も当初、その発想のユニークさに驚いたが、一方で市場に出荷できる台数が少なく、国内向けの商品だったし、実際に使うと極めて騒音が大きいという課題もあった。そこでパナソニックの開発部隊と一緒になって改良を進めたところ、現在は大ヒット商品となっている。知恵の入り交じりや、周知を集めることで、チームワークから大きなシナジーが生まれた。
同様のシナジーについては、これからも推進しながらスケールメリットを実現していきたい。「周知を集めた全員経営」という言葉は、当社の従業員であれば等しく尊重すべきと思っている
ー 大坪氏は社長としての自分を自己採点するなら、100点満点で何点つけられる。
大坪氏:自己評価は難しいので、採点は皆様にお願いしたい。巨額の赤字をつくってしまったという意味では「0点」どころか「マイナス」かもしれない。しかし、企業の将来に向けた成長の布石を打てたという見方をするならば、少しは点数をいただけるのではないか。自分自身としては達成感もあり、心の中では大いに満足しているが、だからといって今年度の大きな赤字が打ち消されるとは当然ながら思っていない。
ー 創業者の言葉で、津賀氏自身が拠り所にしてきたものがあれば教えて欲しい。
津賀氏:「衆知を集める」という言葉については、経営者として基本中のキホンだと考えている。もちろん私も最も好きな言葉の一つだ。ただ、企業経営を全体として捉える前に、人をつくり、育てるという姿勢が大事だと思う。私が創業者の言葉で拠り所にしているものは、例えば「雨が降れば傘をさす」など、非常に合理的な言葉が多い。とてもわかりやすい言葉で、経営をもう一度振り返るということが大事だと思う。
ー 大坪氏は社長として様々な経営改革に取り組んでこられたが、振り返ってみて「これが最大」というものはどれか。
大坪氏:創業者は「企業が存在する意味」について問うた。今日現在の世界状況の中で、環境との共存というのは世界人類にとって、最大の課題だ。これに対して「環境革新企業」というビジョンを打ち出して、船出を実現できたことがとても大きいと考えている。
ー 津賀氏が社長に就任しても、歴代の経営理念から「これだけは変えない」というものは何か。
津賀氏:現・中村会長の時代から、経営理念は変えないという言葉は身に染みついている。当社の経営理念の中で、私が特に変えたくないと考えている2つの事柄は、一つが「人」を中核に置くこと。もう一つは「合理性」に基づいた企業体であるということだ。