第1弾はラトル指揮「シューマン 交響曲全集」
ベルリンフィル、自主レーベルを立ち上げ − ハイレゾ/BD/CDをセット販売
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、自主レーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」を立ち上げ。第1弾タイトルとして、ラトル指揮の「シューマン 交響曲全集」を発売する。日本でのリリースは6月下旬。8月には同一音源のLPも発売を予定しているという。
販売は、CD(2枚組)、BD(5.0ch DTS-HD MA音声+1080/60i映像のBDビデオ/2.0ch 96kHz/24bitPCMのBDオーディオのハイブリッド構成)、192kHz/24bitおよび96kHz/24bit音源のダウンロードコード、デジタルコンサートホールの7日間視聴チケットがパッケージングされたかたちで行われる。「モノとしての完成度を高め、持っていて喜びを感じられるものにしたい」(マニンガー氏)ということで、布張りハードカバー型の豪華な装丁を採用。充実したブックレット(日本語版)も付属し、価格は9,000円(税抜)。
ベルリン・フィル・レコーディングスでは今後、年に数タイトルをリリースしていくとのこと。「我々にとって非常に重要な“交響曲”のツィクルスを、ここ20年ほどは十分にリリースできていなかった」(マニンガー氏)という考えから、まずは交響曲を中心に展開。アーノンクール指揮のシューベルト交響曲全集、ラトル指揮のシベリウス交響曲全集、ベートーヴェンの交響曲全集などを予定する。その後、ラトル指揮「ヨハネ受難曲」なども発表する考えとのことだ。なお、レーベルの運営はベルリンフィルのメディア子会社で、デジタルコンサートホールの運営も行っているベルリン・フィル・メディアが行う。
なお、今後はハイレゾのみのダウンロード販売も視野に入れているとのことだ。
本日、オラフ・マニンガー氏(ソロ・チェリスト兼メディア代表)、ローベルト・ツィンマーマン氏(ベルリン・フィル・メディア取締役)が来日し、都内で記者会見を行った。会見にはサー・サイモン・ラトル氏、クリストフ・フランケ氏(録音ディレクター/トーンマイスター)もビデオメッセージを寄せた。
◇ ◇ ◇
「自分たちのレーベルを立ち上げるということは、我々の『自主性』を重んじるということでもあります。ベルリンフィルはこれまでもデジタルコンサートホールなど様々な冒険的試みを行ってきましたが、今回の自主レーベル立ち上げも新たな一歩であると自負しています」と語るマニンガー氏。数を売るのではなく、自分たちの音楽にかける熱意を多くのリスナーとシェアしたいという思いが立ち上げの背景にあるという。
もっと早く設立しなかった理由は? という問いには「これまで築き上げてきたメジャーレーベルとの関係に競合するのを避けたかったことと、時間をかけて準備し、充実したものにしたかったこと」(ツィンマーマン氏)と説明。自主レーベル立ち上げ後も、他レーベルとの録音などは引き続き実施。レーベルやアーティスト、リスナー全てにとってwin-winになるようなかたちをとっていくとのことだ。
自主レーベルからリリースされる第1弾タイトルは「自分たちでつくるという可能性を手にしたので、提供するパッケージそのものも、これまでとは違うものにしたいと考えました。このパッケージは我々の理想がそのままかたちになったと言えます」とのマニンガー氏の言葉どおり、BD/CD/ハイレゾ、そしてブックレットががセットになった布張りハードカバーの豪華装丁だ。モノとしての魅力を持った“所有する喜び”を感じられるものを目指したとのことで、今後リリースされるタイトルもこういったこだわりのデザインになる予定。「演奏するのと同じくらい愛情を注いで出来上がったデザイン。アイテムが増えていくたびに喜びを感じていただければ」(マニンガー氏)。
花柄をあしらった目をひくカバーは、“シューマンの音楽性を表した”というオリジナル磁器花瓶だ。「シューマンだからドイツの森…といった安易なデザインにはしたくなかったのです。シューマンはロマン派を代表する作曲家で、晩年は精神を病んでしまったことからも分かるように、壊れやすく脆い部分を持った人。その人間性が、彼の4つの交響曲にもよく表れていると思います。こうした特徴を表すものを考えて、行きついたのが『磁器』でした」
磁器花瓶は、マイセンと並んでドイツを代表する陶器メーカー・ベルリン王立磁器製陶所(KPM Berlin)とコラボした特別デザインで、シューマンが生きた19世紀前半の図案とデザインを採用している。特徴的なのはそのフォルム。正面から見たときは美しい花柄の花瓶だが、角度を変えて見てみるとへこみやゆがみ、枯れた花が表れる。これは、シューマンの音楽の多層的な世界を表現しているのだという。なおこの花瓶は100本限定で特別販売もされる予定とのことだ。
サー・サイモン・ラトルはビデオメッセージのなかで「ここ何年かでレコード業界は変わりました。今後、どのように発展するのか、見通しがつきません。誰も、予測ができないのです」と、レコーディングビジネスの現状が不安定であることを説明。「我々自身が舵を取らなければならないと思うようになった」と続ける。
「今回我々は、自ら責任を担うことに決めました。自分たちの考え通りのやり方をするわけですが、リスクも伴います。シューマンは、ビジネス的側面から見たら、難しいかも知れない。しかし我々は『このレパートリーが我々にとって大事だ』という思いから、出すことに決めたわけです」と思いを語るラトル氏。
「今後は音楽は、デジタル・コンサートホールに見られるとおり、どんどんネット経由になると思います」「家に水道や電気があるように、人々が当然と思う必需品になるでしょう。もちろん我々は、演奏が水道や電気よりも良いものになることを、願っています」と締めくくった。
▼サー・サイモン・ラトルのビデオメッセージ
※英語。日本語字幕なし
https://www.berliner-philharmoniker-recordings.com/about-us
また、録音ディレクター/トーンマイスターであるクリストフ・フランケ氏は「我々のシューマン全集は、特別なものとなったと思います。録音と編集作業は、もう数ヶ月前になりますが、私にとってはエキサイティングなプロジェクトで、まだとても興奮しています」と語る。
今回のシューマン交響曲全集は192kHz/24bitで収録。96kHz/24bit音源やLPも、この音源をマスターに制作された/されるとのことだ。また、CDも「収録がハイレゾで行われているため、音質が底上げされています。元々のレベルが高いので、ダウンコンバートしてもそのメディアで最高の音が得られるのです」とアピールした。
同氏が考える、録音にとって重要なポイントは「音楽の『アウラ』(哲学者ベンヤミンの概念で「何ものにも代えがたい一回性の特別な雰囲気」)が伝わること」だという。「ハイレゾ音源が一般リスナーに届くことは、非常にエキサイティングで私にとっては夢が叶ったという感じ」「LPは、モノとして手に持てると同時に、デジタルデータのようにコピーすることができない。ベンヤミンの『アウラ』に通じる、特別な感覚かも知れません。LPがデジタルよりも優れているというわけではありませんが、そこにはデジタルとは違った喜びがあります」「我々は(本タイトルを)収録する際にきわめて大きな喜びを感じました。皆さんにもその喜びを感じ取っていただけること、心から祈っています」とメッセージを寄せた。
会見後、オーディオ評論家の山之内 正氏が、マニンガー氏とツィンマーマン氏に特別インタビューを敢行。こちらのようすは後ほどお伝えする。
また、山之内氏が早速「ベルリンフィル・レコーディングス」からハイレゾをダウンロードして試聴。サイトの使い勝手や音質について、以下のページでレポートした。
http://www.phileweb.com/review/article/201406/03/1218.html
販売は、CD(2枚組)、BD(5.0ch DTS-HD MA音声+1080/60i映像のBDビデオ/2.0ch 96kHz/24bitPCMのBDオーディオのハイブリッド構成)、192kHz/24bitおよび96kHz/24bit音源のダウンロードコード、デジタルコンサートホールの7日間視聴チケットがパッケージングされたかたちで行われる。「モノとしての完成度を高め、持っていて喜びを感じられるものにしたい」(マニンガー氏)ということで、布張りハードカバー型の豪華な装丁を採用。充実したブックレット(日本語版)も付属し、価格は9,000円(税抜)。
ベルリン・フィル・レコーディングスでは今後、年に数タイトルをリリースしていくとのこと。「我々にとって非常に重要な“交響曲”のツィクルスを、ここ20年ほどは十分にリリースできていなかった」(マニンガー氏)という考えから、まずは交響曲を中心に展開。アーノンクール指揮のシューベルト交響曲全集、ラトル指揮のシベリウス交響曲全集、ベートーヴェンの交響曲全集などを予定する。その後、ラトル指揮「ヨハネ受難曲」なども発表する考えとのことだ。なお、レーベルの運営はベルリンフィルのメディア子会社で、デジタルコンサートホールの運営も行っているベルリン・フィル・メディアが行う。
なお、今後はハイレゾのみのダウンロード販売も視野に入れているとのことだ。
本日、オラフ・マニンガー氏(ソロ・チェリスト兼メディア代表)、ローベルト・ツィンマーマン氏(ベルリン・フィル・メディア取締役)が来日し、都内で記者会見を行った。会見にはサー・サイモン・ラトル氏、クリストフ・フランケ氏(録音ディレクター/トーンマイスター)もビデオメッセージを寄せた。
「自分たちのレーベルを立ち上げるということは、我々の『自主性』を重んじるということでもあります。ベルリンフィルはこれまでもデジタルコンサートホールなど様々な冒険的試みを行ってきましたが、今回の自主レーベル立ち上げも新たな一歩であると自負しています」と語るマニンガー氏。数を売るのではなく、自分たちの音楽にかける熱意を多くのリスナーとシェアしたいという思いが立ち上げの背景にあるという。
もっと早く設立しなかった理由は? という問いには「これまで築き上げてきたメジャーレーベルとの関係に競合するのを避けたかったことと、時間をかけて準備し、充実したものにしたかったこと」(ツィンマーマン氏)と説明。自主レーベル立ち上げ後も、他レーベルとの録音などは引き続き実施。レーベルやアーティスト、リスナー全てにとってwin-winになるようなかたちをとっていくとのことだ。
自主レーベルからリリースされる第1弾タイトルは「自分たちでつくるという可能性を手にしたので、提供するパッケージそのものも、これまでとは違うものにしたいと考えました。このパッケージは我々の理想がそのままかたちになったと言えます」とのマニンガー氏の言葉どおり、BD/CD/ハイレゾ、そしてブックレットががセットになった布張りハードカバーの豪華装丁だ。モノとしての魅力を持った“所有する喜び”を感じられるものを目指したとのことで、今後リリースされるタイトルもこういったこだわりのデザインになる予定。「演奏するのと同じくらい愛情を注いで出来上がったデザイン。アイテムが増えていくたびに喜びを感じていただければ」(マニンガー氏)。
花柄をあしらった目をひくカバーは、“シューマンの音楽性を表した”というオリジナル磁器花瓶だ。「シューマンだからドイツの森…といった安易なデザインにはしたくなかったのです。シューマンはロマン派を代表する作曲家で、晩年は精神を病んでしまったことからも分かるように、壊れやすく脆い部分を持った人。その人間性が、彼の4つの交響曲にもよく表れていると思います。こうした特徴を表すものを考えて、行きついたのが『磁器』でした」
磁器花瓶は、マイセンと並んでドイツを代表する陶器メーカー・ベルリン王立磁器製陶所(KPM Berlin)とコラボした特別デザインで、シューマンが生きた19世紀前半の図案とデザインを採用している。特徴的なのはそのフォルム。正面から見たときは美しい花柄の花瓶だが、角度を変えて見てみるとへこみやゆがみ、枯れた花が表れる。これは、シューマンの音楽の多層的な世界を表現しているのだという。なおこの花瓶は100本限定で特別販売もされる予定とのことだ。
サー・サイモン・ラトルはビデオメッセージのなかで「ここ何年かでレコード業界は変わりました。今後、どのように発展するのか、見通しがつきません。誰も、予測ができないのです」と、レコーディングビジネスの現状が不安定であることを説明。「我々自身が舵を取らなければならないと思うようになった」と続ける。
「今回我々は、自ら責任を担うことに決めました。自分たちの考え通りのやり方をするわけですが、リスクも伴います。シューマンは、ビジネス的側面から見たら、難しいかも知れない。しかし我々は『このレパートリーが我々にとって大事だ』という思いから、出すことに決めたわけです」と思いを語るラトル氏。
「今後は音楽は、デジタル・コンサートホールに見られるとおり、どんどんネット経由になると思います」「家に水道や電気があるように、人々が当然と思う必需品になるでしょう。もちろん我々は、演奏が水道や電気よりも良いものになることを、願っています」と締めくくった。
▼サー・サイモン・ラトルのビデオメッセージ
※英語。日本語字幕なし
https://www.berliner-philharmoniker-recordings.com/about-us
また、録音ディレクター/トーンマイスターであるクリストフ・フランケ氏は「我々のシューマン全集は、特別なものとなったと思います。録音と編集作業は、もう数ヶ月前になりますが、私にとってはエキサイティングなプロジェクトで、まだとても興奮しています」と語る。
今回のシューマン交響曲全集は192kHz/24bitで収録。96kHz/24bit音源やLPも、この音源をマスターに制作された/されるとのことだ。また、CDも「収録がハイレゾで行われているため、音質が底上げされています。元々のレベルが高いので、ダウンコンバートしてもそのメディアで最高の音が得られるのです」とアピールした。
同氏が考える、録音にとって重要なポイントは「音楽の『アウラ』(哲学者ベンヤミンの概念で「何ものにも代えがたい一回性の特別な雰囲気」)が伝わること」だという。「ハイレゾ音源が一般リスナーに届くことは、非常にエキサイティングで私にとっては夢が叶ったという感じ」「LPは、モノとして手に持てると同時に、デジタルデータのようにコピーすることができない。ベンヤミンの『アウラ』に通じる、特別な感覚かも知れません。LPがデジタルよりも優れているというわけではありませんが、そこにはデジタルとは違った喜びがあります」「我々は(本タイトルを)収録する際にきわめて大きな喜びを感じました。皆さんにもその喜びを感じ取っていただけること、心から祈っています」とメッセージを寄せた。
会見後、オーディオ評論家の山之内 正氏が、マニンガー氏とツィンマーマン氏に特別インタビューを敢行。こちらのようすは後ほどお伝えする。
また、山之内氏が早速「ベルリンフィル・レコーディングス」からハイレゾをダウンロードして試聴。サイトの使い勝手や音質について、以下のページでレポートした。
http://www.phileweb.com/review/article/201406/03/1218.html