エム・データ主催「新世紀テレビ大学」
定額制動画配信サービスの次に来るのは?フジテレビ/GYAO/ゲオのキーマンが語る
三者とも、Netflixについては「競合ではあるが、参入者が増えることで市場自体を盛り上げてくれるのは有り難い」という意見は共通している。以下、会場で執り行われたセッションの主要部をお伝えする。
西田氏:「見逃し配信」がこんなに伸びた理由は? VOD自体の定着にどう役割を果たしているのか?
山口氏:「見逃し配信」の成長性は非常に高いが、今ぐらいの再生回数やアクティブユーザー数ではペイしないので、もっと増やす必要がある。
タイムシフト視聴をしているユーザーに「見逃し配信」を利用してもらうことが重要だ。違法投稿動画や録画で見ている人は、リアルタイム視聴している人と同じくらいいる。これを入れ替えれば、ビジネスになる。
そのためにキーになるのは「録画予約が要らなくなること」。放送直後からスマホで公式動画を見られる安心感をいかに出せるかだ。「地上波が食われる」と思うとブレーキがかかるが、「相乗効果が生まれる」と捉えればいい。そう考えるテレビ局幹部は続々と増えてきている。そのきっかけになったのは「TVer」。これによってひとつ「穴」が空き、これから大きくなっていくかも知れないと感じている。
西田氏:見逃し配信プラットフォームとしてはGYAOが非常に強い。VODコンテンツのなかの「見逃し配信コンテンツ」にはどのような価値があると思うか?
宮本氏:見逃し配信を視聴したユーザーに「次はどうやって見るか?」と尋ねると、テレビで見るという答えも多い。テレビへの「視聴回帰」のきっかけのひとつになっていると思う。
西田氏:Aという番組を見たユーザーが次は何を見るか?という分析が、非常に大事になってくると思う。VODにおける視聴履歴/行動データをどのように活用していくか?
宮本氏:ひとつは「プッシュ通知」、もうひとつは「レコメンド」。これはログが溜まれば溜まるほど精度が上がるので、Yahoo! IDに紐づけたかたちで管理している。それ以外にも、ネットで映像をプッシュするには「SNS上でどう展開するか」というマーケティング的要素も重要になってくると思う。
西田氏:ゲオチャンネルはリアル店舗とオンライン両方でのユーザー履歴を取得できるが、それをどのように活用していくのか?
遠藤氏:リアル店舗はオンライン画面上よりも目に入るタイトルが増えるし、そもそも明確な目的がなく来店する方も多い。「これを見たい」と思って探すユーザーだけでなく、店舗で「なんとなく」で選んだユーザーのデータも活用することで、想定を一歩超えたレコメンドができるのではと思う。
西田氏:SVOD/TVOD等といった手法は、どう住み分けられていくのか?
遠藤氏:SVODにしろTVODにしろ、いいコンテンツはお金を払って見るものという当たり前の環境を整えないと、コンテンツ自体もできなくなる。
山口氏:一方で、無料配信は視聴者の視野を広くするという意味も持つので、必要だと思う。様々なコンテンツを体験することで、お金を払うべきコンテンツというものも分かるのではないか。無料が生き残るかどうかは市場が決めること。
宮本氏:「利用者」のためにいいサービスを作り、「コンテンツホルダー」からいいコンテンツを提供いただき、「スポンサー」から提供をいただくという3点が揃わないと、プラットフォーム事業者にとっては成長しづらい市場。我々はまず多くの方に利用してもらえるいいサービスを作ることからやっていきたい。
西田氏:広告モデルとして、ネットの動画広告とテレビのCMはイコールなのか?
山口氏:両者は変わらざるを得ないと思う。それは、ユーザーの受け止め方が全く違うから。地上波テレビは「長時間・ながら視聴」だが、配信視聴は「細切れの可処分時間を“お借りする”」というイメージ。たとえば10分の移動時間のうちCMが2分あったらブーイングが起きると思う。尺は短くなっていくと思うし、表現そのものがポップアップやバナー等時系列を食わないものになっていくのではないか。しかしこれはスポンサーの考えも大きい部分なので、これから工夫が必要だろう。
西田氏:テレビ画面で視聴するような場合であれば、テレビCMとあまり変わらないように思うのだが?
山口氏:それは多元連立方程式で、変数が色々あるのですぐに解が出ない。まずテレビにおける番組配信をどうとらえるか、という問題がある。視聴のルートが違うことでCMの出方が変わることをスポンサーがどう考えるか。スマホ視聴だと「タッチポイントを増やしてテレビに戻す」というストーリーが成り立つが、テレビ視聴だと「テレビって誰のものなの?」という、テレビの本質論になってしまう。
西田氏:ゲオは広告主でもあるが、その立場的にはどのように考えるか?
遠藤氏:きちんと見られたかどうかや、好感度がどうかといった点が分かりやすくなるので、ターゲットユーザーや目的を定めた展開ができるようになり、やりやすくなると思う。
西田氏:VODがきちんと定着すれば、映像業界にどんな影響を与えるだろうか?
山口氏:30〜40年の長い目で見れば「ネット配信がテレビ局を救った」と言われると思っている。番組制作者はひとりでも多くの人に見て欲しいと思っているので、我々がそこを制限せずきちんとビジネスにできれば、多くの人に番組が届き、見る人が増えて…という好循環にできるツールが現れたと捉えている。
宮本氏:「場所(宅内/宅外)」「時間(リアルタイムか、タイムシフトか)」「デバイス(PC/スマホ/テレビ)」という3つの変数を掛け合わせることで、利用者がコンテンツに接していく機会が増えていくと思う。いちばん重要なのはやはり「コンテンツ」。GYAOは「届ける」力は持っていると思うので、いいコンテンツをいかにご提供いただけるかが大きいと考えている。
遠藤氏:ゲオも、プロが作った良いコンテンツを伝えるという立場にあると思う。リアル店舗は、デジタルが苦手な方でも取っつきやすい、いちばんハードルの低いタッチポイントとして役立てられると考えている。