記者団へのラウンドテーブル会見をレポート
<IFA>ソニーの“融合”は成功しているのか? エレキ事業のキーマン、石塚専務が戦略を語る
既報の通り、ドイツで開催されているIFA2019でウォークマンを始めとする注目の新製品群を発表したソニー。現地にて、ソニー(株)の石塚茂樹専務らが日本人記者団からの質問に答えるラウンドテーブル会見が行われた。
石塚氏は1981年にエンジニアとしてソニーへ入社。ベータマックスの担当から社歴をスタートし、ハンディカム、サイバーショット、αなどデジタルイメージング製品の設計や事業起ち上げなどを行ってきた。その後、モバイル事業領域も担当するようになり、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業を統括している(なお、これまでテレビやオーディオ製品などのホームエンタテインメント&サウンド事業を統括してきた高木一郎専務もEP&S事業の補佐に加わっている)。
このEP&S事業は、テレビなどのホームエンタテインメント&サウンド、デジタルカメラを始めとするイメージング・プロダクツ&ソリューション事業、そしてスマートフォンを始めとするモバイル・コミュニケーション事業をまとめた領域。
今年2019年4月1日付けの機構改革で編成された事業領域で、前述の通りテレビにオーディオ、デジカメ、スマホと、ふだん我々が接するほとんどのソニー製品が該当する。さらに言えばNUROやSo-netといったインターネットサービスや、映画やテレビカメラマンなど向けの業務用機器、さらには医療用カメラなどもEP&S事業の領域だ。
これまで別々で管理してきた各事業をまとめたのは、それぞれの事業の枠組みを超えたシナジーによって新たな顧客価値を創造したり、そして似たようなオペレーションでもそれぞれが違ったやり方をとっていた無駄な部分を減らしたりするため。さらには、各領域の個社を超えた人材の登用や、次世代人材の育成を目的にしている。石塚氏は、「“Sony”を冠とした製品やサービスを強化し、ソニーブランドの価値を高めていくことがEP&S事業の基軸だ。それが結果として顧客価値の向上につながると考えている」と説明した。
そんなソニーグループ内のシナジーの好例が、Xperia 1および今回の新製品であるXperia 5だ。「エレクトロニクスの技術だけでなく、ソニー・ピクチャーズの音響技術やシネマの技術も入っている。SPEにいるクリエーターの意見を取り入れ、プロでも耐えられる音質画質を目指した商品だ」と語る。
また、「パーソナル・エンターテインメント・ソリューション」をキーワードに挙げ、ソニーモバイルの通信端末機能と、ソニーのテレビやオーディオが持つ画質音質とが融合した商品がXperiaだと紹介。ウォークマンやヘッドホンも含め、個人でさまざまなエンタテインメントを楽しめる技術やソリューションを提供していくとした。
なお、カメラ事業については2018年にフルサイズカメラで初めて世界ナンバーワンシェアを獲得したことや、ミラーレスカメラでは創業以来ナンバーワンを続けていることを紹介。また、欧州主要7ヶ国でレンズのシェアナンバーワンを初めて獲得するなど、好調であることを説明した。
以下、記者団との質疑応答の模様をお届けする。
● パーソナル空間での映像と音との融合、および各事業の融合について、もう少し詳しく聞かせてほしい。
当たり前といえば当たり前だが、いままでだとオーディオ事業部は音のクオリティを高めることだけをやっていればよかった。しかし、今の若い人はスマホでほとんどのことを経験している。だから音響技術をオーディオ事業だけに閉じ込めるのではなくエクスペリアで融合しようということだ。
プレスカンファレンスでのプレゼンテーションで流したプロモーションビデオは、「ミュージックビデオをXperia 5でストリーミング再生して、その音をノイズキャンセリング対応のソニーのヘッドホンで聴く」という内容だった。そうした体験のクオリティや自由度をどうやって高めるかが直近のテーマだ。また、ウォークマンなどでも新しい融合商品をどうつくっていけるかも考えている。
● 厚木(厚木テクノロジーセンター/プロジェクターやプロ用機器の開発拠点)と大崎(ソニーシティ大崎/テレビやオーディオなどの開発拠点)の部隊の融合を考えると、今後、民生用機器でのそうした製品開発が盛んになるというイメージなのか。
民生用もやりたいが、まず大きなチャンスがあると思うのはBtoB領域だ。例えば、映画館のようにスクリーンにプロジェクターで映像を投影する形ならスクリーンの裏にスピーカーを置けるが、Crystal LEDディスプレイシステムではそうはいかない。プロジェクターの部隊にはオーディオの技術はあまりないので、(Crystal LEDディスプレイシステムでも音場を感じられるしっかりした音質を確保するために)オーディオ部隊の力を借りたほうがいい。
また、ものづくりではプロジェクターにブラビアの映像エンジンが搭載され始めている。技術系の根っこを共通化することでクオリティも上がるし、コストも下がる。
● 事業部間の融合ということでは、数年前から「One Sony」などのキーワードも使ってやってきていると思う。この数年での融合の進捗についてもう少し詳しく聞きたい。
今回、私の担当領域であるEP&Sで言えば、エレクトロニクスのものづくり、商品開発においてワンチームになってやろうということ。今後、そうした体制での商品を世に出すことで質問への答えにしたい。
ワンソニーということで言うと、エンタメのチームと我々エレキの人間が非常に密度の高い交流をするようになった。Xperiaで映画部門の人間が機能を監修したりしているのはその典型的な例だ。10年前、5年前とはまったく違う状況になっているし、それが徐々に結果に現れてきている。
● 次世代人材の育成について、ベテランエンジニアから技術を継承していくようなプロジェクトのようなものが動いているのか。
個人技術の伝承をどうするか。伝統芸能的な、匠のエンジニアがどんどん高齢化している。暗黙知を形式知にするとよく言っているが、ベテランに若手をつけるなど、地道にやっている。
(同席していたソニービデオ&サウンドプロダクツ 黒住吉郎氏/ソニーのオーディオ製品ブランディング戦略を担当)
例えばアナログオーディオからの伝承ということで言えば、ウォークマンに搭載したバイナルプロセッサー機能がある。こちらではデジタルにおいてもアナログのような感覚値をしっかり再現することに挑戦している。そして、今回の新製品であるニアフィールドスピーカー「SA-Z1」のような、エンジニアの思いを詰め込んだ商品を世の中に出していくことで、(その開発を通じて)しっかりと技術を継承していく。
● 5Gについてどう考えているか。
世界中で5Gが盛り上がっているが世の中にキラーアプリがまだない。5Gにはミリ波とサブ6GHz帯があるが、高速なミリ波を使いこなせるアプリケーションはどの企業もまだ模索中と言える。
我々が注目しているのは、スポーツ中継での5G活用だ。現在、スポーツ中継のカメラはスタジアムの中を何百メートルも有線で引っ張っている。そこが5Gになればワイヤレス化できるからだ。5Gのことが話題になるときにはほとんど下り回線の速度のことばかりだが、実は上り回線も重要。スポーツ中継で上り(撮影データの伝送)が途切れるのは致命的だからだ。厚木の業務用機器部隊はそこをミッションにずっとやっている。そこを通信と組み合わせていく。
● スマートフォンではサムスンから折りたたみ対応製品(Samusung Galaxy Fold)が登場するが、折りたたみスマホの開発計画などはあるのか。また、Xperiaを伸ばしていくにあたって欧州市場での取り組みをどうしていくのか。
折りたたみは他社製品のことになるのでコメントは控えたい。我々としてはまず21対9のシネマワイドディスプレイの魅力をアピールしていく。ただ、将来のスマホの新しいカタチは当然模索している。たんに奇をてらったようなもものではなくお客様が本当に使いやすいものをと考えている。欧州では、ソニーモバイルが今まで単独で販売活動していたところをソニーヨーロッパに統合した。ソニーヨーロッパの社長の古海(英之氏)は、元々ソニーモバイルで販売を統括していた人間だ。そうした意味で、効率化や販売力強化に期待している。
(古海氏) ソニーモバイルの販売系とエレキの販売系の統合を各地域で急速に進めている。現在、ソニーモバイルで訴求する商品の機能の軸になっているのはエレキから来ているものだ。そのため、例えば販売店スタッフへの機能説明教育や、デモコンテンツもかなり共通化でき、効率化が図れる。
もうひとつが、市場が二極化しているなかで、お客様の選択の幅が横に広がり、寡占化の度合いが以前より低くなっている。裏を返せば、お客様がいろんなものを求めていることの証左だ。そこにソニーのパーソナルエンタテインメントの付加価値を訴求することで、フラグシップのセグメントはとっていけるだろうと考えている。そこの相乗効果を狙っている。
そして販路。欧州はコンシューマー(量販店)とオペレーター(通信事業者)の販路が渾然一体となっている。そこに対して同じようなオペレーションで効率的にアプローチするために、販売の相互乗り入れを図ると、コンシューマーの販路でXperiaがもっと売れやすくなったり、オペレーターの販路でヘッドホンのようなパーソナルエンタテインメントの製品がもっと売れたりすると見ている。
● 2月に5G対応スマホの試作機を披露したが、5Gに対する今後の市場の見通しと製品戦略をどう考えているか。
5Gは韓国とアメリカが先行して欧州はそこそこというのが現状。今、5Gの話題が出るときはだいたいサブ6GHZ帯がメインだが、本当にメリットを享受できるようになるのはもう少し先だと思う。アンテナももっと設置する必要もあるし、あと何年かかかるだろう。また、ミリ波も技術が難しいこともあり、まずはビジネスからだと見ている。そこをソニーは(ミリ波とサブ6GHz帯を)両睨みで状況を見ながらやっていく。
● 日本では10月から法改正で通信と端末価格を分けなければいけなくなるが、端末メーカーとしてどう見ているか。
ビジネスモデルが変わってくるので蓋を開けてみないとわからない。ただ端末価格は上がると思うので買い替え間隔は長くなるかなと懸念している。メーカー間の競争でもユニークなものを出すのが重要になるだろう。その意味でXperiaは他社にない価値を提供できると考えている。
● 8Kテレビの欧州への導入計画はどうなっているか。また、プレミアムテレビの戦略において、他社はAIやIoT連動をアピールしているが、ソニーは画質を前面に出していくのか。
画質音質ににこだわることを戦略の軸にするのは以前から変わらっていないし、今後も続けていく。AIは表立ってアピールしてはいないがすでに内蔵している。通信との融合については、5Gプロジェクトもスマートフォンなど携帯端末だけでなく据え置き型の端末も含んだ展開もあるのかなと思っている。
8Kはブラビアマスターシリーズ「Z9G」を6月から欧州でも展開している。ただ、8Kコンテンツがまだ普及していないので、急激に広まるというよりは我々のフラグシップとしてまずは訴求していく。
(古海氏) 8K放送コンテンツがなくても、テレビが大画面化していくと細かい部分がよく見えるようになって画面の中の細かな解像度が気になるようになる。そうした部分に対して8Kアップスケーリングも有効だ。今回のIFAでも8Kアップスケーリングのデモを行っているが、明らかに4Kと8Kアップスケーリングの差がわかる。
● 日本での8Kテレビ投入は?
引き続き検討している
● レンズのシェアが高まった要因は何なのか。
ドイツを中心にαのシェアが元々高く、それにつられてレンズもシェアが上がった。商品力もあるが、ドイツはカメラ店との関係を長年重要視して地道な努力を続けてきた。そこも大きいのかなと思う。
私もカメラ店に自分で訪問するが、最初のころは「ミラーレス出たけどレンズがないじゃないか」と冷たく言われた。そこからエンジニアが足繁く店舗に通って店の意見やハイアマチュアの意見を聞き、貪欲に先進技術も入れて製品を開発していった。そこを評価してもらっている。ハイアマチュアやプロに絞ってやってきて、シャワー効果で下にも広がった。
(古海氏)ソニーはカメラはある意味で新興勢力だったので、貪欲にミラーレスなど新しい技術を入れていったのがお店にとって新しい需要喚起になった。新しいものを導入してその商品が強力であれば、それにつられてレンズも売れるので、お店にとってもベネフィットがある。お客さんにとってもワンマウント戦略で、新しいボディを買ってもレンズが無駄になるリスクがない。その相乗効果かなと思う。アタッチレートのパーセンテージも相当挙がっている。
● ブレグジットの影響と対策はどう考えているか。
(古海氏)ソニーの欧州のオペレーションはオランダのソニーヨーロッパに統合しているので、欧州全体での我々の活動へのインパクトはそこまでないと考えている。一方で、ブレグジットがどう決着するのかによって、我々のオペレーションの混乱はあるだろう。年末商戦への対応を見据えて、いま相当な時間をかけて仕込んでいる。販売店などからは一通りの評価をいただいている。
石塚氏は1981年にエンジニアとしてソニーへ入社。ベータマックスの担当から社歴をスタートし、ハンディカム、サイバーショット、αなどデジタルイメージング製品の設計や事業起ち上げなどを行ってきた。その後、モバイル事業領域も担当するようになり、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業を統括している(なお、これまでテレビやオーディオ製品などのホームエンタテインメント&サウンド事業を統括してきた高木一郎専務もEP&S事業の補佐に加わっている)。
このEP&S事業は、テレビなどのホームエンタテインメント&サウンド、デジタルカメラを始めとするイメージング・プロダクツ&ソリューション事業、そしてスマートフォンを始めとするモバイル・コミュニケーション事業をまとめた領域。
今年2019年4月1日付けの機構改革で編成された事業領域で、前述の通りテレビにオーディオ、デジカメ、スマホと、ふだん我々が接するほとんどのソニー製品が該当する。さらに言えばNUROやSo-netといったインターネットサービスや、映画やテレビカメラマンなど向けの業務用機器、さらには医療用カメラなどもEP&S事業の領域だ。
これまで別々で管理してきた各事業をまとめたのは、それぞれの事業の枠組みを超えたシナジーによって新たな顧客価値を創造したり、そして似たようなオペレーションでもそれぞれが違ったやり方をとっていた無駄な部分を減らしたりするため。さらには、各領域の個社を超えた人材の登用や、次世代人材の育成を目的にしている。石塚氏は、「“Sony”を冠とした製品やサービスを強化し、ソニーブランドの価値を高めていくことがEP&S事業の基軸だ。それが結果として顧客価値の向上につながると考えている」と説明した。
そんなソニーグループ内のシナジーの好例が、Xperia 1および今回の新製品であるXperia 5だ。「エレクトロニクスの技術だけでなく、ソニー・ピクチャーズの音響技術やシネマの技術も入っている。SPEにいるクリエーターの意見を取り入れ、プロでも耐えられる音質画質を目指した商品だ」と語る。
また、「パーソナル・エンターテインメント・ソリューション」をキーワードに挙げ、ソニーモバイルの通信端末機能と、ソニーのテレビやオーディオが持つ画質音質とが融合した商品がXperiaだと紹介。ウォークマンやヘッドホンも含め、個人でさまざまなエンタテインメントを楽しめる技術やソリューションを提供していくとした。
なお、カメラ事業については2018年にフルサイズカメラで初めて世界ナンバーワンシェアを獲得したことや、ミラーレスカメラでは創業以来ナンバーワンを続けていることを紹介。また、欧州主要7ヶ国でレンズのシェアナンバーワンを初めて獲得するなど、好調であることを説明した。
以下、記者団との質疑応答の模様をお届けする。
● パーソナル空間での映像と音との融合、および各事業の融合について、もう少し詳しく聞かせてほしい。
当たり前といえば当たり前だが、いままでだとオーディオ事業部は音のクオリティを高めることだけをやっていればよかった。しかし、今の若い人はスマホでほとんどのことを経験している。だから音響技術をオーディオ事業だけに閉じ込めるのではなくエクスペリアで融合しようということだ。
プレスカンファレンスでのプレゼンテーションで流したプロモーションビデオは、「ミュージックビデオをXperia 5でストリーミング再生して、その音をノイズキャンセリング対応のソニーのヘッドホンで聴く」という内容だった。そうした体験のクオリティや自由度をどうやって高めるかが直近のテーマだ。また、ウォークマンなどでも新しい融合商品をどうつくっていけるかも考えている。
● 厚木(厚木テクノロジーセンター/プロジェクターやプロ用機器の開発拠点)と大崎(ソニーシティ大崎/テレビやオーディオなどの開発拠点)の部隊の融合を考えると、今後、民生用機器でのそうした製品開発が盛んになるというイメージなのか。
民生用もやりたいが、まず大きなチャンスがあると思うのはBtoB領域だ。例えば、映画館のようにスクリーンにプロジェクターで映像を投影する形ならスクリーンの裏にスピーカーを置けるが、Crystal LEDディスプレイシステムではそうはいかない。プロジェクターの部隊にはオーディオの技術はあまりないので、(Crystal LEDディスプレイシステムでも音場を感じられるしっかりした音質を確保するために)オーディオ部隊の力を借りたほうがいい。
また、ものづくりではプロジェクターにブラビアの映像エンジンが搭載され始めている。技術系の根っこを共通化することでクオリティも上がるし、コストも下がる。
● 事業部間の融合ということでは、数年前から「One Sony」などのキーワードも使ってやってきていると思う。この数年での融合の進捗についてもう少し詳しく聞きたい。
今回、私の担当領域であるEP&Sで言えば、エレクトロニクスのものづくり、商品開発においてワンチームになってやろうということ。今後、そうした体制での商品を世に出すことで質問への答えにしたい。
ワンソニーということで言うと、エンタメのチームと我々エレキの人間が非常に密度の高い交流をするようになった。Xperiaで映画部門の人間が機能を監修したりしているのはその典型的な例だ。10年前、5年前とはまったく違う状況になっているし、それが徐々に結果に現れてきている。
● 次世代人材の育成について、ベテランエンジニアから技術を継承していくようなプロジェクトのようなものが動いているのか。
個人技術の伝承をどうするか。伝統芸能的な、匠のエンジニアがどんどん高齢化している。暗黙知を形式知にするとよく言っているが、ベテランに若手をつけるなど、地道にやっている。
(同席していたソニービデオ&サウンドプロダクツ 黒住吉郎氏/ソニーのオーディオ製品ブランディング戦略を担当)
例えばアナログオーディオからの伝承ということで言えば、ウォークマンに搭載したバイナルプロセッサー機能がある。こちらではデジタルにおいてもアナログのような感覚値をしっかり再現することに挑戦している。そして、今回の新製品であるニアフィールドスピーカー「SA-Z1」のような、エンジニアの思いを詰め込んだ商品を世の中に出していくことで、(その開発を通じて)しっかりと技術を継承していく。
● 5Gについてどう考えているか。
世界中で5Gが盛り上がっているが世の中にキラーアプリがまだない。5Gにはミリ波とサブ6GHz帯があるが、高速なミリ波を使いこなせるアプリケーションはどの企業もまだ模索中と言える。
我々が注目しているのは、スポーツ中継での5G活用だ。現在、スポーツ中継のカメラはスタジアムの中を何百メートルも有線で引っ張っている。そこが5Gになればワイヤレス化できるからだ。5Gのことが話題になるときにはほとんど下り回線の速度のことばかりだが、実は上り回線も重要。スポーツ中継で上り(撮影データの伝送)が途切れるのは致命的だからだ。厚木の業務用機器部隊はそこをミッションにずっとやっている。そこを通信と組み合わせていく。
● スマートフォンではサムスンから折りたたみ対応製品(Samusung Galaxy Fold)が登場するが、折りたたみスマホの開発計画などはあるのか。また、Xperiaを伸ばしていくにあたって欧州市場での取り組みをどうしていくのか。
折りたたみは他社製品のことになるのでコメントは控えたい。我々としてはまず21対9のシネマワイドディスプレイの魅力をアピールしていく。ただ、将来のスマホの新しいカタチは当然模索している。たんに奇をてらったようなもものではなくお客様が本当に使いやすいものをと考えている。欧州では、ソニーモバイルが今まで単独で販売活動していたところをソニーヨーロッパに統合した。ソニーヨーロッパの社長の古海(英之氏)は、元々ソニーモバイルで販売を統括していた人間だ。そうした意味で、効率化や販売力強化に期待している。
(古海氏) ソニーモバイルの販売系とエレキの販売系の統合を各地域で急速に進めている。現在、ソニーモバイルで訴求する商品の機能の軸になっているのはエレキから来ているものだ。そのため、例えば販売店スタッフへの機能説明教育や、デモコンテンツもかなり共通化でき、効率化が図れる。
もうひとつが、市場が二極化しているなかで、お客様の選択の幅が横に広がり、寡占化の度合いが以前より低くなっている。裏を返せば、お客様がいろんなものを求めていることの証左だ。そこにソニーのパーソナルエンタテインメントの付加価値を訴求することで、フラグシップのセグメントはとっていけるだろうと考えている。そこの相乗効果を狙っている。
そして販路。欧州はコンシューマー(量販店)とオペレーター(通信事業者)の販路が渾然一体となっている。そこに対して同じようなオペレーションで効率的にアプローチするために、販売の相互乗り入れを図ると、コンシューマーの販路でXperiaがもっと売れやすくなったり、オペレーターの販路でヘッドホンのようなパーソナルエンタテインメントの製品がもっと売れたりすると見ている。
● 2月に5G対応スマホの試作機を披露したが、5Gに対する今後の市場の見通しと製品戦略をどう考えているか。
5Gは韓国とアメリカが先行して欧州はそこそこというのが現状。今、5Gの話題が出るときはだいたいサブ6GHZ帯がメインだが、本当にメリットを享受できるようになるのはもう少し先だと思う。アンテナももっと設置する必要もあるし、あと何年かかかるだろう。また、ミリ波も技術が難しいこともあり、まずはビジネスからだと見ている。そこをソニーは(ミリ波とサブ6GHz帯を)両睨みで状況を見ながらやっていく。
● 日本では10月から法改正で通信と端末価格を分けなければいけなくなるが、端末メーカーとしてどう見ているか。
ビジネスモデルが変わってくるので蓋を開けてみないとわからない。ただ端末価格は上がると思うので買い替え間隔は長くなるかなと懸念している。メーカー間の競争でもユニークなものを出すのが重要になるだろう。その意味でXperiaは他社にない価値を提供できると考えている。
● 8Kテレビの欧州への導入計画はどうなっているか。また、プレミアムテレビの戦略において、他社はAIやIoT連動をアピールしているが、ソニーは画質を前面に出していくのか。
画質音質ににこだわることを戦略の軸にするのは以前から変わらっていないし、今後も続けていく。AIは表立ってアピールしてはいないがすでに内蔵している。通信との融合については、5Gプロジェクトもスマートフォンなど携帯端末だけでなく据え置き型の端末も含んだ展開もあるのかなと思っている。
8Kはブラビアマスターシリーズ「Z9G」を6月から欧州でも展開している。ただ、8Kコンテンツがまだ普及していないので、急激に広まるというよりは我々のフラグシップとしてまずは訴求していく。
(古海氏) 8K放送コンテンツがなくても、テレビが大画面化していくと細かい部分がよく見えるようになって画面の中の細かな解像度が気になるようになる。そうした部分に対して8Kアップスケーリングも有効だ。今回のIFAでも8Kアップスケーリングのデモを行っているが、明らかに4Kと8Kアップスケーリングの差がわかる。
● 日本での8Kテレビ投入は?
引き続き検討している
● レンズのシェアが高まった要因は何なのか。
ドイツを中心にαのシェアが元々高く、それにつられてレンズもシェアが上がった。商品力もあるが、ドイツはカメラ店との関係を長年重要視して地道な努力を続けてきた。そこも大きいのかなと思う。
私もカメラ店に自分で訪問するが、最初のころは「ミラーレス出たけどレンズがないじゃないか」と冷たく言われた。そこからエンジニアが足繁く店舗に通って店の意見やハイアマチュアの意見を聞き、貪欲に先進技術も入れて製品を開発していった。そこを評価してもらっている。ハイアマチュアやプロに絞ってやってきて、シャワー効果で下にも広がった。
(古海氏)ソニーはカメラはある意味で新興勢力だったので、貪欲にミラーレスなど新しい技術を入れていったのがお店にとって新しい需要喚起になった。新しいものを導入してその商品が強力であれば、それにつられてレンズも売れるので、お店にとってもベネフィットがある。お客さんにとってもワンマウント戦略で、新しいボディを買ってもレンズが無駄になるリスクがない。その相乗効果かなと思う。アタッチレートのパーセンテージも相当挙がっている。
● ブレグジットの影響と対策はどう考えているか。
(古海氏)ソニーの欧州のオペレーションはオランダのソニーヨーロッパに統合しているので、欧州全体での我々の活動へのインパクトはそこまでないと考えている。一方で、ブレグジットがどう決着するのかによって、我々のオペレーションの混乱はあるだろう。年末商戦への対応を見据えて、いま相当な時間をかけて仕込んでいる。販売店などからは一通りの評価をいただいている。