6/30までオンライン開催
NHK技研公開が開幕。51型超の「未来の没入型VRディスプレー」や裸眼3Dなど次世代技術が多数
NHK放送技術研究所は、最新の研究成果を一般に公開する「技研公開2021」のオンライン開催を本日6月1日よりスタートさせた。地上波テレビ番組の高画質化、VR、AR、裸眼3Dなどの展示を中心にレポートする。
■離れた人とも一緒にテレビを見ているかのような「未来のお茶の間」
例年は世田谷区砧のNHK放送技術研究所内でリアル開催している本イベント。今年は新型コロナウイルスによる社会情勢を受けてオンラインのみに開催形態を変更することが発表されていたが、実際に本日より展示がスタートした形。概要のみが先行発表されていた「空間共有コンテンツ視聴システム」「未来の没入型VRディスプレー」の詳細が明らかになった。
「空間共有コンテンツ視聴システム」は、AR(Augmented Reality)やVR(Virtual Reality)技術を活用することで、離れた場所の人とあたかも同じ空間で一緒にコンテンツを体験しているように感じられるというシステム。「未来のお茶の間」の提案として、離れた場所の人が等身大の3次元映像で隣に表示されることに加え、会話や共同作業が可能な環境を実現したという。
今回の展示では、BS8Kの番組「見たことのない文化財」の世界を出演者と同じように追体験できるコンテンツを制作。VRヘッドセットを装着することで、離れた場所の家族や友人と協力して、遮光器土偶の観察したい個所に懐中電灯の光をあてたり、土器の内部の様子を一緒に体感できる様子を動画で紹介している。なお、離れた場所にいる人と一緒に視聴する様子を360度の映像で疑似体験できるコンテンツも6月10日に公開予定だという。
■曲がる超薄型4K有機ELディスプレーを使った「未来の没入型VRディスプレー」
「未来の没入型VRディスプレー」は、折り曲げられる超薄型の4K有機ELディスプレー“フレキシブルディスプレー”を用いたもの。同ディスプレーを3枚使用して51.3インチ/6,480×3,840解像度の湾曲ディスプレーを作り、コンテンツに合わせて振動する椅子と組み合わせたシステムを構築。画素ピッチは0.173mmで、頭部のまわり約180度の視野角をカバーする。
デモ動画では、路面電車が街を走るコンテンツを参加者が体験している様子を紹介。まるで本当に電車に乗っているかのような感覚だと体験者が語る様子が紹介されている。
また、フレキシブルディスプレーは、今回のような湾曲型ディスプレーのほか、壁貼りや折りたたみなど、さまざまな視聴スタイルに適用できるとも説明。新聞のように折りたたんで持ち運び、好きな場所で映像を見るなどといったスタイルも可能だとしている。
■有害物質を使わない量子ドット技術
近年、複数のメーカーがテレビに採用している量子ドット技術。NHK技研でも研究を行っており、有害なカドミウムや鉛を含まない量子ドット材料を使用し、材料と発光素子構造の改善により色純度の高い発光を実現したという。リン化インジウムやセレン化亜鉛化合物といった、有害物質を含まない環境にやさしい材料で、鮮やかな色を実現できたとしている。
今回の研究では、赤、緑、青の量子ドット発光素子を開発。量子ドット材料とそれに適した材料を混合したインクを用いることで、発光効率を改善した。4K8Kの国際規格であるRec. ITU-R BT.2020で定められている色の範囲に対し、およそ80%が再現できるようになったとのこと。今後、より一層の色純度と発光効率向上に取り組むとしている。
量子ドット発光素子を用いることで鮮やかな色を表現できるディスプレーを作ることが可能。量子ドット材料はインクのように塗ることができるため、将来的には、持ち運びできるフレキシブルディスプレーや、壁紙のような大画面ディスプレーに用いることができるともしている。
■地デジでの4K放送実現を目指す
NHK技研では、地上デジタル放送の高度化技術も研究中。現在はBS/CSでの衛星波を使っている4K放送を、地デジでも実現することを目指している。
次世代地上波放送システムを構成する映像・音声符号化方式、多重化方式、伝送路符号化方式を開発。ひとつのチャンネル帯域幅(6MHz)で固定受信用の4K放送と移動受信用の2K放送を同時に提供する伝送路符号化方式を開発したり、高度な放送通信融合サービスを可能とするための送出システムと受信システムを試作するなどしている。
また、映像・音声符号化方式においては、さまざまな視聴形態に対応できる高品質・高機能な映像・音声サービスを実現するため、次世代映像符号化方式VVC(Versatile Video Coding)や、MPEG-H 3D Audio Baseline(BL)プロファイルに対応した符号化装置・復号装置の開発を進めている。
VVCは、これまでのSD映像に加えてHDR映像や全天周(360度)映像の符号化にも対応した、汎用性のある符号化方式。新4K8K衛星放送で用いられているHEVC(High Efficiency Video Coding)と比較すると、同程度の画質となるように符号化した場合、伝送レートを40%程度削減することができる。また、同程度の伝送レートで比較した場合は、HEVCよりも高画質な映像が得られる。
MPEG-H 3D Audioは、ナレーションの音量だけを増減したり好みの言語に切り替えたりといった、視聴者の好みに合わせたテレビ視聴を可能にする、オブジェクトベース音響に対応した音声符号化方式。地上放送高度化の検討においては、LCプロファイルより実装負荷の軽い最新のプロファイルであるBLプロファイルを採用し、22.2ch音響に対応可能なレベル4を世界で初めてリアルタイム音声符号化・復号装置に実装して実用性の検証を進めているという。
■地上波の伝送容量大容量化も
加えて、ホームゲートウェイを中心にしての放送と通信の融合についても紹介。テレビからチューナーを分離し、宅内ネットワークを使ってコンテンツを配信するホームゲートウェイを採用することで、チューナーのないモバイル端末やヘッドマウントディスプレーなどへのコンテンツ提供、通信サービスとのシームレスな遷移・連携が可能になると紹介している。
例えばスポーツ中継が延長し、放送がサブチャンネルに切り替わるような場合、現在はチャンネル変更の際にどうしても画面が一瞬ブラックアウトしてしまう。これに対し、放送と通信がよりシームレスに切り替えられるようになることで、その切り替わりを意識することなく視聴を続けられるという。
また、この地上放送高度化の一環として、電波で、より沢山の情報を送るための研究を進めてきたことも紹介。現在の地上放送の約1.7倍まで伝送容量を増やすことに成功しており、理論限界値「シャノン限界」の89%にもなる大容量化だと説明。この技術を用いることで、4K画質の映像も送信できるようになるとしている。
■裸眼3Dは視野角が従来の2倍以上に
裸眼3Dの研究では、光線再生型3次元映像システムを紹介。専用の表示光学系を開発することで、ハイビジョン解像度相当で水平視域角度を従来の2倍以上(30度以上)に拡大した3次元映像の表示を実現したという。
また、被写体の奥行き距離を撮影できるカメラの導入と多視点映像の生成処理を改良することで、高精細な多視点映像の撮影を実現。今回開発した撮影装置はカラーカメラ24台のカラーカメラアレーとカラー・デプスカメラ1台で構成しているという。
カメラ間の視点位置の映像を生成するためには、カメラアレーの映像の奥行き距離を推定する必要があるが、今回のシステムではカラー・デプスカメラで取得した奥行き距離情報を用いることで高精度に奥行き距離を推定。生成したい視点の映像の周辺のカメラのカラー映像と奥行き距離情報を使うことで、カメラ間の視点位置の映像を生成することができるという。
NHK技研公開2021のオンライン公開は6月30日まで。技術展示のほか、関係者やゲストによる講演動画も公開される。
■離れた人とも一緒にテレビを見ているかのような「未来のお茶の間」
例年は世田谷区砧のNHK放送技術研究所内でリアル開催している本イベント。今年は新型コロナウイルスによる社会情勢を受けてオンラインのみに開催形態を変更することが発表されていたが、実際に本日より展示がスタートした形。概要のみが先行発表されていた「空間共有コンテンツ視聴システム」「未来の没入型VRディスプレー」の詳細が明らかになった。
「空間共有コンテンツ視聴システム」は、AR(Augmented Reality)やVR(Virtual Reality)技術を活用することで、離れた場所の人とあたかも同じ空間で一緒にコンテンツを体験しているように感じられるというシステム。「未来のお茶の間」の提案として、離れた場所の人が等身大の3次元映像で隣に表示されることに加え、会話や共同作業が可能な環境を実現したという。
今回の展示では、BS8Kの番組「見たことのない文化財」の世界を出演者と同じように追体験できるコンテンツを制作。VRヘッドセットを装着することで、離れた場所の家族や友人と協力して、遮光器土偶の観察したい個所に懐中電灯の光をあてたり、土器の内部の様子を一緒に体感できる様子を動画で紹介している。なお、離れた場所にいる人と一緒に視聴する様子を360度の映像で疑似体験できるコンテンツも6月10日に公開予定だという。
■曲がる超薄型4K有機ELディスプレーを使った「未来の没入型VRディスプレー」
「未来の没入型VRディスプレー」は、折り曲げられる超薄型の4K有機ELディスプレー“フレキシブルディスプレー”を用いたもの。同ディスプレーを3枚使用して51.3インチ/6,480×3,840解像度の湾曲ディスプレーを作り、コンテンツに合わせて振動する椅子と組み合わせたシステムを構築。画素ピッチは0.173mmで、頭部のまわり約180度の視野角をカバーする。
デモ動画では、路面電車が街を走るコンテンツを参加者が体験している様子を紹介。まるで本当に電車に乗っているかのような感覚だと体験者が語る様子が紹介されている。
また、フレキシブルディスプレーは、今回のような湾曲型ディスプレーのほか、壁貼りや折りたたみなど、さまざまな視聴スタイルに適用できるとも説明。新聞のように折りたたんで持ち運び、好きな場所で映像を見るなどといったスタイルも可能だとしている。
■有害物質を使わない量子ドット技術
近年、複数のメーカーがテレビに採用している量子ドット技術。NHK技研でも研究を行っており、有害なカドミウムや鉛を含まない量子ドット材料を使用し、材料と発光素子構造の改善により色純度の高い発光を実現したという。リン化インジウムやセレン化亜鉛化合物といった、有害物質を含まない環境にやさしい材料で、鮮やかな色を実現できたとしている。
今回の研究では、赤、緑、青の量子ドット発光素子を開発。量子ドット材料とそれに適した材料を混合したインクを用いることで、発光効率を改善した。4K8Kの国際規格であるRec. ITU-R BT.2020で定められている色の範囲に対し、およそ80%が再現できるようになったとのこと。今後、より一層の色純度と発光効率向上に取り組むとしている。
量子ドット発光素子を用いることで鮮やかな色を表現できるディスプレーを作ることが可能。量子ドット材料はインクのように塗ることができるため、将来的には、持ち運びできるフレキシブルディスプレーや、壁紙のような大画面ディスプレーに用いることができるともしている。
■地デジでの4K放送実現を目指す
NHK技研では、地上デジタル放送の高度化技術も研究中。現在はBS/CSでの衛星波を使っている4K放送を、地デジでも実現することを目指している。
次世代地上波放送システムを構成する映像・音声符号化方式、多重化方式、伝送路符号化方式を開発。ひとつのチャンネル帯域幅(6MHz)で固定受信用の4K放送と移動受信用の2K放送を同時に提供する伝送路符号化方式を開発したり、高度な放送通信融合サービスを可能とするための送出システムと受信システムを試作するなどしている。
また、映像・音声符号化方式においては、さまざまな視聴形態に対応できる高品質・高機能な映像・音声サービスを実現するため、次世代映像符号化方式VVC(Versatile Video Coding)や、MPEG-H 3D Audio Baseline(BL)プロファイルに対応した符号化装置・復号装置の開発を進めている。
VVCは、これまでのSD映像に加えてHDR映像や全天周(360度)映像の符号化にも対応した、汎用性のある符号化方式。新4K8K衛星放送で用いられているHEVC(High Efficiency Video Coding)と比較すると、同程度の画質となるように符号化した場合、伝送レートを40%程度削減することができる。また、同程度の伝送レートで比較した場合は、HEVCよりも高画質な映像が得られる。
MPEG-H 3D Audioは、ナレーションの音量だけを増減したり好みの言語に切り替えたりといった、視聴者の好みに合わせたテレビ視聴を可能にする、オブジェクトベース音響に対応した音声符号化方式。地上放送高度化の検討においては、LCプロファイルより実装負荷の軽い最新のプロファイルであるBLプロファイルを採用し、22.2ch音響に対応可能なレベル4を世界で初めてリアルタイム音声符号化・復号装置に実装して実用性の検証を進めているという。
■地上波の伝送容量大容量化も
加えて、ホームゲートウェイを中心にしての放送と通信の融合についても紹介。テレビからチューナーを分離し、宅内ネットワークを使ってコンテンツを配信するホームゲートウェイを採用することで、チューナーのないモバイル端末やヘッドマウントディスプレーなどへのコンテンツ提供、通信サービスとのシームレスな遷移・連携が可能になると紹介している。
例えばスポーツ中継が延長し、放送がサブチャンネルに切り替わるような場合、現在はチャンネル変更の際にどうしても画面が一瞬ブラックアウトしてしまう。これに対し、放送と通信がよりシームレスに切り替えられるようになることで、その切り替わりを意識することなく視聴を続けられるという。
また、この地上放送高度化の一環として、電波で、より沢山の情報を送るための研究を進めてきたことも紹介。現在の地上放送の約1.7倍まで伝送容量を増やすことに成功しており、理論限界値「シャノン限界」の89%にもなる大容量化だと説明。この技術を用いることで、4K画質の映像も送信できるようになるとしている。
■裸眼3Dは視野角が従来の2倍以上に
裸眼3Dの研究では、光線再生型3次元映像システムを紹介。専用の表示光学系を開発することで、ハイビジョン解像度相当で水平視域角度を従来の2倍以上(30度以上)に拡大した3次元映像の表示を実現したという。
また、被写体の奥行き距離を撮影できるカメラの導入と多視点映像の生成処理を改良することで、高精細な多視点映像の撮影を実現。今回開発した撮影装置はカラーカメラ24台のカラーカメラアレーとカラー・デプスカメラ1台で構成しているという。
カメラ間の視点位置の映像を生成するためには、カメラアレーの映像の奥行き距離を推定する必要があるが、今回のシステムではカラー・デプスカメラで取得した奥行き距離情報を用いることで高精度に奥行き距離を推定。生成したい視点の映像の周辺のカメラのカラー映像と奥行き距離情報を使うことで、カメラ間の視点位置の映像を生成することができるという。
NHK技研公開2021のオンライン公開は6月30日まで。技術展示のほか、関係者やゲストによる講演動画も公開される。