バーチャルプロダクションスタジオを期間限定オープン
リアルの美術セットとバーチャル空間が融合、角川大映スタジオ×ソニーPCLが撮影の常識を変えるか
角川大映スタジオは、ソニーPCLとの共同によるLEDウォール型のバーチャルプロダクションスタジオを、3月31日までの期間限定で開設。約8Kのソニー製の大型LEDディスプレイを設置し、「In-Camera VFX」や「Screen Process」を用いた撮影に対応した。本稿では、メディア向け内覧会の模様をレポートする。
角川大映スタジオは、最大1007m2(305坪)のステージを含む全7つの大型撮影ステージを保有しており、バーチャルプロダクションスタジオは、550m2(167坪)、有効高さ8.0mの施設であるステージCに開設された。
バーチャルプロダクションスタジオに設置された大型LEDディスプレイは、ソニー製Crystal LED Bシリーズで、幅12,160mm×高さ5,472mm(解像度7,680×3,456pixel)、画素ピッチ1.58mmとなっている。
撮影用カメラはソニー製のデジタルシネマカメラ「VENICE 2」、カメラトラッキングシステムにはモーシス「StarTracker」を使用。「Unreal Engine 5.1」を用い、ソニーPCLのオリジナルメディアプレーヤー「ZOET4」を備えている。機材構成は、ソニーPCLの「清澄白河BASE」に設置されているものと基本的に一緒とのこと。
バーチャルプロダクションでは、大型LEDディスプレイ、カメラトラッキングシステム、リアルタイムエンジン、この3つを組み合わせた撮影手法が可能だ。“イメージをその空間にいる全員でリアルタイムに共有できる” ことが、バーチャルプロダクションで撮影する最大のメリットだという。
角川大映スタジオの代表取締役社長を務める堀内大示氏は、「今回の取り組みは、ソニーPCLの多大なご協力により、トライアルがスタートしました。角川大映スタジオは、今年を"バーチャルプロダクション元年"と位置づけて、さまざまなトライアルをしてまいります。組織を作り、皆様のご協力を得ながら、華やかで力強い、バーチャルプロダクションの取り組みを行っていく1年になります。今日のデモンストレーションをスタートに、これからも進めていきます」と、今後の方針を表明している。
角川大映スタジオの常務取締役である岡部俊一氏も、「角川大映スタジオでは、2023年度の新たな取り組みとして、バーチャルプロダクションを運営していきます。本年をバーチャルプロダクション元年とし、新しい時代に、新しいサービスを、新しいスタジオで、ソニーPCLとタッグを組んで制作を進めていきたいと思っています」と、バーチャルプロダクションに対しての意気込みを語る。
今回、角川大映スタジオとソニーPCLが共同でバーチャルプロダクションスタジオをオープンするにあたり、両社の得意分野が融合できると、両社の担当者が見解を示した。
角川大映スタジオの小林壯右氏は、「当社は、美術セットの製作が売りであり、年間でCM400本、ドラマや映画を15本、その全ての美術セットを当社のスタッフが作成しています。リアルの領域で高い精度のものを求めてきました。しかし、まだバーチャルの部分の知見が足りていないのが現状の課題としてあり、今後はリアルとバーチャルの境目を限りなく近付けていくことが、映像作品のクオリティを高めると考えています。ソニーPCLと組むことで、デジタルの領域の部分の知見を貯め、今後より良いサービスを提供できるように取り組んでいきたいです」という。
また、ソニーPCLの黒谷瑞樹氏も、「清澄白河BASEでは、常に最先端テクノロジーを投入した映像制作手法をいち早く実際に使用することができ、また同時に開発し続けています。バーチャルプロダクションやボリュメトリックキャプチャなど、R&Dの要素が大きい部分で挑戦的な取り組みを実践しています。今回、角川大映スタジオと共同で活動することで、リアルとバーチャルの境目をどこに持ってくるのかという課題を、連携して解答を見付けたいです」と、バーチャルプロダクションの課題についても語った。
今回のメディア向け内覧会では、「LEDウォール×In-Camera VFX」と「LEDウォール×Screen Process」のデモ撮影の現場を公開。
In-Camera VFXは、CGや実景をスキャニングして作成した3D背景データに、カメラトラッキングシステムによるカメラの情報を加えてLED WALLに表示し、その手前にオブジェクトや演者を配置して、カメラで再撮影する手法だ。
天井に貼ってある440個のトラッキングシステムによって撮影現場の空間を把握し、再撮影をしているカメラの位置や角度の情報を認識。カメラの撮影状態に合わせて、LED WALLに映し出されている背景もリアルタイムに連動する。カメラが右に向けば背景も右に動くように撮影できるため、実際のロケーションで撮影しているようなリアリティのある映像を制作できる。
In-Camera VFXのデモでは、部屋の一部を模した美術セットを作成し、LED WALLの前に設置。LED WALLに部屋の続きを映すことで、全体を通して奥行きの広い部屋を演出していた。
リアルのセットは手前3.5mまで作成、CG背景は7mの奥行きが作られており、計11m程度の奥行き感を演出。壁や床の境目がなく自然に繋がっているように見せられることが大きなポイントだという。また、CG空間内のライトを自由に調整できることも特徴のひとつのようだ。
今回のデモでは、高層マンションから見える景色の映像、朝焼け/夕焼けのシーン、雪や雨のシーンなど、場所だけでなく、時間軸や天候の変化に捉われることなく撮影できるメリットを提示した。
一方、Screen Processは、実際に撮影した動画や静止画を背景データとし、LED WALLに映し出して撮影する手法だ。
列車の車内の一部をリアルセットとして作成し、列車の窓にLED WALLで映した背景が見えるようにしている。鉄橋の上を走る列車を再現しており、背景データは実際に自動車で走行しながら撮影した動画を使用。その背景データに、レイヤー構成で空や電線を追加し、車窓から見える風景を演出していた。
従来では、背景を作るためにグリーンなどの合成膜が必要であり、また撮影後の処理では車窓の前にグラスや花などを置いた場合の複雑なレイヤー処理が難しいが、Screen Processの場合は実際に背景のあるシーンをリアルタイムで撮影できるため、後処理を回避できるメリットも持つとのこと。
また、太陽のフレア感をイメージした照明や、窓の外から風を送り込んで演者の髪を揺らすなど、同時に緻密な作り込みを施すことで、さらにリアリティの高い撮影が可能となるという。
内覧会の最後に、ソニーPCLの伊藤隆嗣氏は、「当社は清澄白河BASEで様々な映像コンテンツを制作しているが、LED WALLの手前に置くリアルの美術セットが、バーチャルプロダクションにおいては最も重要だと認識していたが、上手く着手できていませんでした。今回、角川大映スタジオのご協力により、チャレンジしたかったバーチャルとリアルの融合を強化でき、バーチャルプロダクションの可能性を広げられると確信しました。今後も清澄白河BASEで得たノウハウを外に広げ、制作力を高めていきたいです」とコメント。
また、角川大映スタジオの小田正美氏も、「今回のデモで用いた部屋の一部を想定した美術セットは、先にいただいたCG映像を基に、現実に置き換えた場合を考慮した美術セットを製作していきました。従来は、美術セットが先にあってからCG映像を制作する場合が多く、その場合はリアルとバーチャルの境目を自然に作ることが難しかったです。しかし、新しい製作工程なら、課題となっていた床の境目も違和感なく繋げることができました」と、今回の取り組みで大きなメリットを感じたという。
角川大映スタジオは、最大1007m2(305坪)のステージを含む全7つの大型撮影ステージを保有しており、バーチャルプロダクションスタジオは、550m2(167坪)、有効高さ8.0mの施設であるステージCに開設された。
バーチャルプロダクションスタジオに設置された大型LEDディスプレイは、ソニー製Crystal LED Bシリーズで、幅12,160mm×高さ5,472mm(解像度7,680×3,456pixel)、画素ピッチ1.58mmとなっている。
撮影用カメラはソニー製のデジタルシネマカメラ「VENICE 2」、カメラトラッキングシステムにはモーシス「StarTracker」を使用。「Unreal Engine 5.1」を用い、ソニーPCLのオリジナルメディアプレーヤー「ZOET4」を備えている。機材構成は、ソニーPCLの「清澄白河BASE」に設置されているものと基本的に一緒とのこと。
バーチャルプロダクションでは、大型LEDディスプレイ、カメラトラッキングシステム、リアルタイムエンジン、この3つを組み合わせた撮影手法が可能だ。“イメージをその空間にいる全員でリアルタイムに共有できる” ことが、バーチャルプロダクションで撮影する最大のメリットだという。
角川大映スタジオの代表取締役社長を務める堀内大示氏は、「今回の取り組みは、ソニーPCLの多大なご協力により、トライアルがスタートしました。角川大映スタジオは、今年を"バーチャルプロダクション元年"と位置づけて、さまざまなトライアルをしてまいります。組織を作り、皆様のご協力を得ながら、華やかで力強い、バーチャルプロダクションの取り組みを行っていく1年になります。今日のデモンストレーションをスタートに、これからも進めていきます」と、今後の方針を表明している。
角川大映スタジオの常務取締役である岡部俊一氏も、「角川大映スタジオでは、2023年度の新たな取り組みとして、バーチャルプロダクションを運営していきます。本年をバーチャルプロダクション元年とし、新しい時代に、新しいサービスを、新しいスタジオで、ソニーPCLとタッグを組んで制作を進めていきたいと思っています」と、バーチャルプロダクションに対しての意気込みを語る。
今回、角川大映スタジオとソニーPCLが共同でバーチャルプロダクションスタジオをオープンするにあたり、両社の得意分野が融合できると、両社の担当者が見解を示した。
角川大映スタジオの小林壯右氏は、「当社は、美術セットの製作が売りであり、年間でCM400本、ドラマや映画を15本、その全ての美術セットを当社のスタッフが作成しています。リアルの領域で高い精度のものを求めてきました。しかし、まだバーチャルの部分の知見が足りていないのが現状の課題としてあり、今後はリアルとバーチャルの境目を限りなく近付けていくことが、映像作品のクオリティを高めると考えています。ソニーPCLと組むことで、デジタルの領域の部分の知見を貯め、今後より良いサービスを提供できるように取り組んでいきたいです」という。
また、ソニーPCLの黒谷瑞樹氏も、「清澄白河BASEでは、常に最先端テクノロジーを投入した映像制作手法をいち早く実際に使用することができ、また同時に開発し続けています。バーチャルプロダクションやボリュメトリックキャプチャなど、R&Dの要素が大きい部分で挑戦的な取り組みを実践しています。今回、角川大映スタジオと共同で活動することで、リアルとバーチャルの境目をどこに持ってくるのかという課題を、連携して解答を見付けたいです」と、バーチャルプロダクションの課題についても語った。
今回のメディア向け内覧会では、「LEDウォール×In-Camera VFX」と「LEDウォール×Screen Process」のデモ撮影の現場を公開。
In-Camera VFXは、CGや実景をスキャニングして作成した3D背景データに、カメラトラッキングシステムによるカメラの情報を加えてLED WALLに表示し、その手前にオブジェクトや演者を配置して、カメラで再撮影する手法だ。
天井に貼ってある440個のトラッキングシステムによって撮影現場の空間を把握し、再撮影をしているカメラの位置や角度の情報を認識。カメラの撮影状態に合わせて、LED WALLに映し出されている背景もリアルタイムに連動する。カメラが右に向けば背景も右に動くように撮影できるため、実際のロケーションで撮影しているようなリアリティのある映像を制作できる。
In-Camera VFXのデモでは、部屋の一部を模した美術セットを作成し、LED WALLの前に設置。LED WALLに部屋の続きを映すことで、全体を通して奥行きの広い部屋を演出していた。
リアルのセットは手前3.5mまで作成、CG背景は7mの奥行きが作られており、計11m程度の奥行き感を演出。壁や床の境目がなく自然に繋がっているように見せられることが大きなポイントだという。また、CG空間内のライトを自由に調整できることも特徴のひとつのようだ。
今回のデモでは、高層マンションから見える景色の映像、朝焼け/夕焼けのシーン、雪や雨のシーンなど、場所だけでなく、時間軸や天候の変化に捉われることなく撮影できるメリットを提示した。
一方、Screen Processは、実際に撮影した動画や静止画を背景データとし、LED WALLに映し出して撮影する手法だ。
列車の車内の一部をリアルセットとして作成し、列車の窓にLED WALLで映した背景が見えるようにしている。鉄橋の上を走る列車を再現しており、背景データは実際に自動車で走行しながら撮影した動画を使用。その背景データに、レイヤー構成で空や電線を追加し、車窓から見える風景を演出していた。
従来では、背景を作るためにグリーンなどの合成膜が必要であり、また撮影後の処理では車窓の前にグラスや花などを置いた場合の複雑なレイヤー処理が難しいが、Screen Processの場合は実際に背景のあるシーンをリアルタイムで撮影できるため、後処理を回避できるメリットも持つとのこと。
また、太陽のフレア感をイメージした照明や、窓の外から風を送り込んで演者の髪を揺らすなど、同時に緻密な作り込みを施すことで、さらにリアリティの高い撮影が可能となるという。
内覧会の最後に、ソニーPCLの伊藤隆嗣氏は、「当社は清澄白河BASEで様々な映像コンテンツを制作しているが、LED WALLの手前に置くリアルの美術セットが、バーチャルプロダクションにおいては最も重要だと認識していたが、上手く着手できていませんでした。今回、角川大映スタジオのご協力により、チャレンジしたかったバーチャルとリアルの融合を強化でき、バーチャルプロダクションの可能性を広げられると確信しました。今後も清澄白河BASEで得たノウハウを外に広げ、制作力を高めていきたいです」とコメント。
また、角川大映スタジオの小田正美氏も、「今回のデモで用いた部屋の一部を想定した美術セットは、先にいただいたCG映像を基に、現実に置き換えた場合を考慮した美術セットを製作していきました。従来は、美術セットが先にあってからCG映像を制作する場合が多く、その場合はリアルとバーチャルの境目を自然に作ることが難しかったです。しかし、新しい製作工程なら、課題となっていた床の境目も違和感なく繋げることができました」と、今回の取り組みで大きなメリットを感じたという。