測定サービス正式開始前に先行体験
ソニーの立体音響をヘッドホンで「スピーカー同様に」再現。「360 Virtual Mixing Environment」体験レポート
ソニーが開放型モニターヘッドホン「MDR-MV1」と同時に発表した、「360 Virtual Mixing Environmentサービス」。立体音響制作に必要なスピーカー環境をヘッドホンで再現する同技術を、編集部記者が実際に体験する機会に恵まれたのでレポートする。
「360 Virtual Mixing Environment(360VME)」は、立体音響コンテンツを制作するリファレンススタジオの音場環境をヘッドホンで高精度に再現するという技術。音楽スタジオのエンジニアなどがホームスタジオなどでも同技術を利用して作業できるようにするための測定サービスが、6月末頃から開始される。
ソニーによれば、同社の立体音響技術「360 Reality Audio」を採用したコンテンツを高品位に制作するためには13個以上のスピーカーが必要だとのこと。一方で、常にそうした環境で作業できるわけでもないことから、「その状況をなんとかしたい」(ソニー 松尾伴大氏)と考え、最高のスピーカー環境を揃えたスタジオの音場をヘッドホンで再現し、場所を選ばずに高品位な立体音響制作を行えるようにしたのだという。
手順としては、リファレンスとなるスタジオでまず利用希望者個人の頭部伝達関数(HRTF/Head related transfer function)を測定し、そのHRTFに基づいて最適化された360VME用のプロファイルデータを作成。そのプロファイルデータを用いて専用アプリでヘッドホン向けにレンダリングし、スタジオの音場環境を仮想的に再現する。ソニーから提供される専用アプリや仮想ドライバーをエンジニアが自身のPCにインストールすることで、リファレンススタジオの音場をヘッドホンで再現できるようになるというわけだ。
360VMEアプリはDigital Audio WorkstationソフトウェアおよびAudio Futures社のプラグインソフトウェア「360 WalkMix Creator」と連携。360 WalkMix Creatorによって、ProToolsなど主要なDAWソフトで360 Reality Audioコンテンツの制作を行える。なお、360VMEアプリはmacOS 10.15.7以上、Windows 10以上に対応し、6月下旬にmac版から提供開始予定。Windows版は2023年秋頃の対応を予定している。
測定サービスを利用できるスタジオは、日米で計3ヶ所用意。日本ではメディア・インテグレーション社が東京で運営するMILスタジオにてサービスが導入される。
なお、測定サービスはソニーではなくメディア・インテグレーションが展開する形で、申し込みなどもメディア・インテグレーションが受け付ける。別途でヘッドホンを購入した上で同社に測定サービスを申し込む形だ。価格はまだ正式決定していないが、「7万円程度で提供できるように調整している。複数のヘッドホン用だったり複数人用などで追加の測定・プロファイル作成を行いたい場合のオプション料金も含めていろいろと検討しているところ」(メディア・インテグレーション 前田洋介氏)という。
また、ソニーでは「MDR-MV1」「MDR-M1ST」「MDR-Z1R」「MDR-Z7M2」が本サービスの対応ヘッドホン/イヤホンだと紹介。原理的にはこれら以外のヘッドホンでも360VMEを利用できなくはないが、その効果をしっかりと担保できるよう対応ヘッドホンを規定したという。こうした理由から「MDR-CD900ST」も対応ヘッドホンから外れている。開発段階から本サービスの存在も考慮されていたこともあり、「MDR-MV1」が最もおすすめのモデルだとのことだった。
測定場所となるMILスタジオは、43.2chの環境が用意されており、今回の360VME用測定サービスではこのうち16chを使用。「360 Reality Audioのスタンダードが13chとなっており、そこにウーファーなどをプラスできるよう16chにした」という。
ちなみに、MILスタジオでは床下にもスピーカーを設置。立体音響における、ユーザーの位置より下のいわゆる “南半球” の音もよりリアルに再生できるようになっている。360VMEを利用できるようになる前に、こうしたプレミアムな環境を実際に体験できるだけで記者はもう感動してしまった。
測定はまず耳に測定用マイクを装着。スピーカーからピンクノイズとスイープ音を再生してユーザーのHRTFを測定する。スタジオでスピーカーから再生された音が、ユーザーの頭内ではどう伝わっているかというデータをとるわけだ。
そして次は、マイクの上からヘッドホンを装着し、ヘッドホンからピンクノイズとスイープ音を再生。ユーザー個人のHRTF、スタジオの音場、ヘッドホンの特性をすり合わせて360VMEのプロファイルデータが作成される。
測定作業は非常に簡単で、プロファイルデータ作成まで含めて数分程度で終了。あまりのあっけなさに驚くほどだ。なお、実際にサービスでは、プロファイルデータや専用アプリのデータはメールなどでのダウンロード提供になる見込みだとのこと。
いよいよ実際に試聴してみると、その効果は驚異的。「ヘッドホンで聴いている」という感覚はまったくなく、スピーカーから再生されている音場がしっかりと再現された。ヘッドホンを着けたり外したりし、ヘッドホン再生とスピーカー再生を切り替えながら確認してみても、その音場に違いは感じられない。
360 Reality Audio楽曲での音の移動も、もちろんしっかり再現。空間を前後左右に立体的に動いていく音を、ヘッドホンでもリアルに感じられる。実際に左右や背後のスピーカーから音が鳴っているかのような感覚だ。スピーカーで大音量再生したときに体全体で感じる音圧のようなものこそないものの、それ以外の面ではヘッドホンで聴いていることを忘れそうになる。
本サービスはいわば、プレミアムなスタジオ環境を自分のものとして持って帰れるようなもの。クリエイターの利用が進めば立体音響コンテンツも増え、結果として我々エンドユーザーのメリットにもなる。また、もし叶うのならば将来的になんらかの形で一般ユーザー向けにもサービスが提供されないかとも夢見てしまう。それほどにインパクのある体験だった。
■スピーカーで再生した立体音響の音場をヘッドホンで再現
「360 Virtual Mixing Environment(360VME)」は、立体音響コンテンツを制作するリファレンススタジオの音場環境をヘッドホンで高精度に再現するという技術。音楽スタジオのエンジニアなどがホームスタジオなどでも同技術を利用して作業できるようにするための測定サービスが、6月末頃から開始される。
ソニーによれば、同社の立体音響技術「360 Reality Audio」を採用したコンテンツを高品位に制作するためには13個以上のスピーカーが必要だとのこと。一方で、常にそうした環境で作業できるわけでもないことから、「その状況をなんとかしたい」(ソニー 松尾伴大氏)と考え、最高のスピーカー環境を揃えたスタジオの音場をヘッドホンで再現し、場所を選ばずに高品位な立体音響制作を行えるようにしたのだという。
手順としては、リファレンスとなるスタジオでまず利用希望者個人の頭部伝達関数(HRTF/Head related transfer function)を測定し、そのHRTFに基づいて最適化された360VME用のプロファイルデータを作成。そのプロファイルデータを用いて専用アプリでヘッドホン向けにレンダリングし、スタジオの音場環境を仮想的に再現する。ソニーから提供される専用アプリや仮想ドライバーをエンジニアが自身のPCにインストールすることで、リファレンススタジオの音場をヘッドホンで再現できるようになるというわけだ。
360VMEアプリはDigital Audio WorkstationソフトウェアおよびAudio Futures社のプラグインソフトウェア「360 WalkMix Creator」と連携。360 WalkMix Creatorによって、ProToolsなど主要なDAWソフトで360 Reality Audioコンテンツの制作を行える。なお、360VMEアプリはmacOS 10.15.7以上、Windows 10以上に対応し、6月下旬にmac版から提供開始予定。Windows版は2023年秋頃の対応を予定している。
測定サービスを利用できるスタジオは、日米で計3ヶ所用意。日本ではメディア・インテグレーション社が東京で運営するMILスタジオにてサービスが導入される。
なお、測定サービスはソニーではなくメディア・インテグレーションが展開する形で、申し込みなどもメディア・インテグレーションが受け付ける。別途でヘッドホンを購入した上で同社に測定サービスを申し込む形だ。価格はまだ正式決定していないが、「7万円程度で提供できるように調整している。複数のヘッドホン用だったり複数人用などで追加の測定・プロファイル作成を行いたい場合のオプション料金も含めていろいろと検討しているところ」(メディア・インテグレーション 前田洋介氏)という。
また、ソニーでは「MDR-MV1」「MDR-M1ST」「MDR-Z1R」「MDR-Z7M2」が本サービスの対応ヘッドホン/イヤホンだと紹介。原理的にはこれら以外のヘッドホンでも360VMEを利用できなくはないが、その効果をしっかりと担保できるよう対応ヘッドホンを規定したという。こうした理由から「MDR-CD900ST」も対応ヘッドホンから外れている。開発段階から本サービスの存在も考慮されていたこともあり、「MDR-MV1」が最もおすすめのモデルだとのことだった。
■360VME測定サービスを実際に記者が体験
測定場所となるMILスタジオは、43.2chの環境が用意されており、今回の360VME用測定サービスではこのうち16chを使用。「360 Reality Audioのスタンダードが13chとなっており、そこにウーファーなどをプラスできるよう16chにした」という。
ちなみに、MILスタジオでは床下にもスピーカーを設置。立体音響における、ユーザーの位置より下のいわゆる “南半球” の音もよりリアルに再生できるようになっている。360VMEを利用できるようになる前に、こうしたプレミアムな環境を実際に体験できるだけで記者はもう感動してしまった。
測定はまず耳に測定用マイクを装着。スピーカーからピンクノイズとスイープ音を再生してユーザーのHRTFを測定する。スタジオでスピーカーから再生された音が、ユーザーの頭内ではどう伝わっているかというデータをとるわけだ。
そして次は、マイクの上からヘッドホンを装着し、ヘッドホンからピンクノイズとスイープ音を再生。ユーザー個人のHRTF、スタジオの音場、ヘッドホンの特性をすり合わせて360VMEのプロファイルデータが作成される。
測定作業は非常に簡単で、プロファイルデータ作成まで含めて数分程度で終了。あまりのあっけなさに驚くほどだ。なお、実際にサービスでは、プロファイルデータや専用アプリのデータはメールなどでのダウンロード提供になる見込みだとのこと。
いよいよ実際に試聴してみると、その効果は驚異的。「ヘッドホンで聴いている」という感覚はまったくなく、スピーカーから再生されている音場がしっかりと再現された。ヘッドホンを着けたり外したりし、ヘッドホン再生とスピーカー再生を切り替えながら確認してみても、その音場に違いは感じられない。
360 Reality Audio楽曲での音の移動も、もちろんしっかり再現。空間を前後左右に立体的に動いていく音を、ヘッドホンでもリアルに感じられる。実際に左右や背後のスピーカーから音が鳴っているかのような感覚だ。スピーカーで大音量再生したときに体全体で感じる音圧のようなものこそないものの、それ以外の面ではヘッドホンで聴いていることを忘れそうになる。
本サービスはいわば、プレミアムなスタジオ環境を自分のものとして持って帰れるようなもの。クリエイターの利用が進めば立体音響コンテンツも増え、結果として我々エンドユーザーのメリットにもなる。また、もし叶うのならば将来的になんらかの形で一般ユーザー向けにもサービスが提供されないかとも夢見てしまう。それほどにインパクのある体験だった。