吉田会長と十時社長が2023年度経営方針を説明
ソニー、経営は計画を大きく上回る進捗。スーパーマリオも引き合いに「我々も投資をしていきたい」
■音楽/映画分野を中心に好調、金融分野はスピンオフを検討中
吉田氏の後を受けて登壇した十時氏は、ソニーグループの第4次中期経営計画の進捗と、各主要事業の大まかな成長戦略について語った。
業績評価の指標となる3年間累計の調整後EBITDAは、当初目標の4.3兆円に対し、現時点で5兆円と大きく上回る見込みであると報告。特に音楽/映画分野が中心となっており、このまま確実な目標達成のため、リスクマネジメントに重点を置いた事業運営を進めていくとした。
各事業の成長戦略について、まずゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野では、アクティブユーザー数の増加に取り組む。PlayStation 5の生産をフルキャパシティで継続し、普及を進めていくほか、昨年買収したゲームスタジオ Bungie,Incの知見共有を促進。『Destiny 2』などのタイトルで知られる同スタジオのノウハウを活かすことで、自社ライブサービスゲームの開発/運営力、PC上でのアクティブユーザー数を強化していくという。
音楽分野においては、「ストリーミングサービスや新興メディア市場を上回る成長」を掲げ、ソニー・ミュージック所有レーベルや所属アーティストの新曲訴求、ディストリビューション・レーベルへのサービス拡大、新興アーティストとの接点の早期確保や新興市場の開拓といった取り組みを行っていく。同時に十時氏は、「音楽はどのようなエンターテイメントメディアでも必要とされる」として、ソーシャルメディアやゲーム内ライブコンサートといった新しい形体のメディアにおいても、音楽利用の収益化とアーティストへの還元を模索すると説明した。
映画分野においては、長期的なIP価値の最大化を目標に掲げる。独自の配信プラットフォームを持つことで発生する投資負担を抑え、その分をコンテンツの品質向上のための投資にまわすという、これまでの戦略を踏襲。また、配信プラットフォームよりも劇場公開を重視するという戦略も、業界から支持されるのみならず、映画部門の記録的な実績として現れたことから継続する。
G&NS/音楽/映画の3分野では、分野を横断したIP活用も進めていく。具体的には、自社制作ゲームタイトルである『The Last of Us』『グランツーリズモ』『Twisted Metal』などの映画化/テレビシリーズ化や、ソニー・ミュージック所属アーティストを題材とした映画の制作、アニメ『鬼滅の刃』を手掛けるアニプレックスとDTSサービスChunchyrollの連携によるアニメの成長加速などが予定される。
また、Columbia PicturesのIPを活用したタイのテーマパーク「Columbia Pictures Aquaverse」や、『アンチャーテッド』の世界観を投影したスペインのライドアクションといった、「ロケーションベースエンタテインメント」でのIP活用にも取り組む。
国内の事例としては、東京・歌舞伎町タワー内のTHE TOKYO MATRIXにて、屋内体験型アトラクション「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」を展開。本アトラクションは十時氏も見学したと語り、「大変面白いのですが、攻略の難易度が非常に高いので、皆さんの挑戦をお待ちしています」とアピールした。
エンタテインメント・テクノロジー&サービス分野では、幅広いクリエイターに向けてソリューションとサービス群を拡大。「Creators' Cloud」のように、フォトグラファーや放送事業者に向けたクラウド上での効率的な映像制作などを実現するサービス事業を拡大しつつ、個人クリエイター向けにも最適化して提供する。
イメージング&センシング・ソリューション分野では、“イメージセンサーNo.1ポジション”の堅持を掲げる。大黒柱と位置づけるスマートフォン用CMOSイメージセンサーでは、高い技術力と安定した品質、生産性を活かしてセンサーの大判化/高性能化を追求。その一方、安全システムなどで需要が見込まれる車載センサーや、産業・社会インフラ領域のセンサーでも事業拡大を目指す。
金融分野では、ブランディングの再強化を念頭に置きつつ、グループ内でのインフラ活用を進めていく。そして、さらなる成長のためには「いままでと違う次元の投資が必要」として、金融事業の完全子会社であるソニーフィナンシャルグループの株式上場を前提とした独立(パーシャル・スピンオフ)を検討していることを明らかにした。
実施時期は2 - 3年後を想定しており、スピンオフ後もソニーフィナンシャルグループの株式の20%弱はソニーグループが保有。社名を含むソニーブランドの活用、ソニーグループ各社との連携は継続される。十時氏は「中長期的な、サスティナブルな成長をはかるための準備」であると説明し、「金融事業はソニーグループにとって極めて重要で、グループから外すことは考慮していない」と重ねて強調した。
その後の質疑応答の場では、先日『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を劇場で見たという個人的な話題を引き合いに、吉田氏がコンテンツIPについて語る一幕も。吉田氏は同作を「素晴らしいIP、コンテンツ、エンターテインメント」と評価しつつ、「私がスーパーマリオのゲームを集中してプレイしていたのは30年前だが、愛されるキャラクター/IPは、30年、50年、100年と生きると思う。そういう領域の持続的な成長のために、我々も投資をしていきたい。『感動』は懐が広く排他的ではないという意味でも成長領域であると思うし、エンターテインメントには人と人とを結びつける力があると思う」とコメントした。